583 冒険者ギルドに来なくってもよかったの?
みんなでお買い物したり、プリンアラモードを作ったりした次の日。
僕たちは予定通り、森へ出かける事になったんだよ。
「今日はそれほど強い魔物がいるところには行かないけど、ちゃんと武器や防具の確認はしておけよ」
「は~い!」
だからそのお出かけの前に、僕たちはみんなで武器や防具の点検をしてるんだ。
「あの、胸当てはこれでいいですか?」
「そうねぇ、もうちょっとしっかりとひもを締めた方が……そう、そんな感じ」
その中でもニコラさんたちは、今回初めて弓を使った狩りをするでしょ?
だから防具もいつものと違ってるから、その着け方からお母さんに教えてもらってるんだ。
「胸当てを着け終わったら一度試しに弓を引いてみて、そこでもし違和感を感じるような事があったら教えて頂戴ね」
「えっと……、違和感はないので多分大丈夫だと思います」
「私も大丈夫です」
「あれ? 弓の弦が胸当てに当たっちゃう。何でだろう?」
初めての防具だけど、ニコラさんとユリアナさんはちゃんと着けられたみたい。
でもね、一番年下のアマリアさんだけはうまく着けられなかったみたいで、何でか知らないけど弓を引いてみたら弦が防具に当たっちゃうんだって。
「同じように着けてるはずなのに、なんで私だけ」
「あ~、それは仕方が無いよねぇ」
「うん、そうだよね」
そしたらさ、そんなアマリアさんを見て、ニコラさんたちは仕方ないよねって言うんだよ。
でもね、この防具を初めて着けるのはニコラさんたちもアマリアさんとおんなじでしょ?
それを聞いた時、僕は何でアマリアさんだけ弦が当たってもしょうがないのかなぁって思ったんだ。
「ニコラさん、何でアマリアさんだとしょうがないの?」
「ん? ああ、えっとそれは……」
「なんと言うか、サイズが……、ねぇ」
だから僕、ニコラさんたちに何で? って聞いてみたんだよ。
そしたら二人は胸に両手を当てながら下をちょっとだけ見て、その後何でか知らないけど急にしょぼんってお顔になっちゃったもんだから、それを見た僕すっごくびっくりして、なんかダメな事しちゃったの? ってお母さんに聞いてみたんだよ。
「お母さん! ニコラさんたちが急にしょぼんってなっちゃったけど、僕、なんかダメな事しちゃった?」
「いいえ、そんな事は無いわよ。この子たちはね、自分の言葉で勝手に傷付いただけなのよ」
そしたらお母さんは、だから僕が悪い訳じゃないのよって言って頭をなでた後、しょんぼりしてるニコラさんたちをほったらかしにしてアマリアさんの防具を直してあげたんだ。
「ストールさん、行ってきまーす」
「はい。道中、お気を付けて」
僕んちの門のとこまで見送りに来てくれたストールさんに行ってきますしてから、元気よく森に出発。
でもね、そのまんま森がある北門に向かうんじゃなくって、その前に冒険者ギルドへ向かったんだ。
何でかって言うと、森に行く冒険者はみんなギルドでお名前を書いて、ちっちゃなメダルをもらわないといけないからなんだけど、
「あら、カールフェルトさんたちはもう、わざわざギルドまで来て森に入る登録をしなくてもよかったのに」
受付にいたルルモアさんにお名前を書きに来たよって言ったら、こんな風に言われちゃったんだ。
でもさ、それって変だよね。
だってルルモアさんは前に、森に入る時はちゃんと冒険者ギルドに来て登録しないとダメだよって言ってたもん。
だからお父さんは何で? って聞いたんだよ。
そしたらさ、
「そう言えば説明するのを忘れていましたね。カールフェルトさんたちは居住権を持っているので、北門を出る時に森へ向かうと伝えるだけでいいんですよ」
僕たちはイーノックカウの居住権を持ってるでしょ。
そういう人は入る時にお金がいらないから帰ってきた時にちっちゃなメダルを見せなくていいし、もし帰ってこなかったら冒険者ギルドじゃなくって街の兵隊さんが探しに来てくれるんだって。
だからわざわざ冒険者ギルドに登録しに来なくっても、そのまんま北門に向かってくれればいいんだよって教えてくれたんだ。
「ああ、でも寄ってもらえたのは好都合だったかも」
でもね、ルルモアさんはそれを知らずに冒険者ギルドに来てくれてよかったって言うんだもん。
だからお父さんは、また森でなんかあったのかなぁって思ったみたい。
「また森で何か、新たな異変でも見つかったのか?」
「ああ、すみません。前回の事があったから、この言い方だと勘違いしてしまいますよね」
また前みたいに困った事ができたの? ってお父さんが聞いたんだけど、そしたらルルモアさんは違う違うって笑いながら、何で僕たちが来てくれてよかったって言ったのか、その理由を教えてくれたんだ。
「カールフェルトさんたちが森に入るって事は、奥まで進んでベニオウの実を採ってくるんですよね?」
「ああ、そのつもりだが」
「やっぱり。実は領主様から、森の奥になっているベニオウの実を少量でいいから手に入れる事ができないかと何度か問い合わせが来ていまして」
僕たちが前に来た時、ベニオウの実をいっぱい採ってきたでしょ?
その内の一個を誰かが領主様にあげたみたいで、それから何度か手に入れる事はできないかなぁって冒険者ギルドに言ってくるようになったんだってさ。
「でもいくら領主様の頼みだからっても、危険な森の奥まで行ってくれる魔法使いが居なくて、いまだに採りに行けてないんですよねぇ」
「なるほど。俺たちが採ってきたベニオウの実を、何個か分けて欲しいって言うんだな」
「いえ。マジックバッグをお貸しするので、ギルドの依頼として採ってきてほしいんです」
これにはお父さんも、すっごくびっくりしたお顔になっちゃったんだよ。
だってさ、マジックバッグって今は誰も作れないからすっごく貴重で、冒険者ギルドでも普通は絶対に貸してくれないはずなんだもん。
それをいくら採りに行く人がいないからって、ベニオウの実を採ってくるためだけに貸してくれるって言うんだからびっくりするのは当たり前だよね。
「それはいくらなんでも、おかしくないか? いくら領主様の頼みだからって、ギルドのマジックバッグを貸し出すなんて」
「ああ、違いますよ。ギルドが所有しているマジックバッグを貸し出すはずないじゃないですか」
だからお父さんはなんで冒険者ギルドがそんな大事なもんを貸してくれるの? って聞いたんだよ。
そしたらルルモアさんは、貸すのはギルドのじゃないよって。
「ギルドのじゃないって……まさか!?」
「はい。貸し出すのは領主様が所有しているマジックバッグです」
ルルモアさんはね、これは領主様からの特別な依頼なんだから当たり前でしょ? って言うんだよ。
でもそれを聞いたお父さんは、
「領主様の所有物を持ったまま森の中に入るなんて、できるはずないじゃないか!」
もし無くしちゃったら大変だから、そんな怖い依頼は受けられないよって怒っちゃったんだ。
読んで頂いてありがとうございます。
居住権を持っているという事は、それすなわちその都市の住民であり領民でもあるって事なんですよね。
そしてそれが冒険者ギルドに所属している冒険者であったとしても居住権を持っているのなら領民なのですから、その保護責任は冒険者ギルドではなく領主様にあります。
なので冒険者が森に入る時に必要な手続きをしなくても、居住権を持っているルディーン君たちは門兵に言うだけで森に出かけられると言う訳です。




