581 かき混ぜながら凍らせるのは泡立てるためなんだって
アマンダさんが、魔道具なんかなくってもアイスクリームを作れるよって言ったでしょ。
だから僕、それほんと? って聞いてみたんだ。
「アマンダさん、ほんとに魔道具が無くってもアイスクリームを作れるの?」
「あ~、冷凍庫を使うから正確に言うと魔道具は使うんだけど、ルディーン君が使ったような特別なものは無くても多分作れるんじゃないかなぁ」
アマンダさんはね、作ってみないとおんなじもんになるかどうかは解んないけど、似たようなもんは作れるんじゃないかなぁって言うんだよ。
だから僕、どうやって作るの? って聞いてみたんだけど、そしたらその前に一つ、聞きたい事があるんだよって言われたんだ。
「このアイスクリームってお菓子、ルディーン君はかき混ぜながら作らないといけないって言っていたけど、それはどうしてなのかな?」
「えっとね、かき混ぜないで凍らせちゃうと、ちょっと柔らかい氷になっちゃうんだ。だからアイスクリームにしようと思ったら、ちゃんとかき混ぜながら作らないとダメなんだよ」
何でこんな事を知ってるのかって言うとね、実は前に、作ったアイスクリームを入れたまんまで魔道具のスイッチを切っちゃった事があるんだよね。
そしたら中に入ってたのは当然全部溶けちゃったんだけど、でも元はアイスクリームだったものでしょ?
だから僕、もういっぺん魔道具のスイッチを入れたらまたアイスクリームになるよねって思ったんだ。
でも出来上がったのを食べてみたら、何でか知らないけどちょっと硬くてシャリシャリしてるのに何となくべちゃっとした、あんまりおいしくないもんができちゃったんだよね。
「なるほど、材料を混ぜて凍らせただけじゃ、やっぱりアイスクリームにはならないのね」
「うん。そのまま凍らせても、あんまりおいしくなかったよ」
その事を教えてあげたらさ、それを聞いたアマンダさんはやっぱりねって笑ったんだよ。
だけど僕、アマンダさんが何でそう思ったのかが解んなかったんだ。
だってさ、僕は失敗して溶かしちゃったから知ってるけど、アマンダさんはそんな事してないでしょ?
だから僕、何で? って聞いたんだよ。
そしたらね、アマンダさんも前に同じようなもんを作った事があるからなんだよって教えてくれたんだ。
「実は前にも牛乳を使った甘氷を作った事はあるのよ。でもその時作ったものは果実水よりは柔らかかったけど、やはり氷でしかなかったのよね」
「そうなの?」
「ええ。その時は砂糖しか入れてなかったけど、生クリームは元々牛乳の上澄みでしょ? なら入れても同じ結果になるだろうし、卵を入れたってこんな口当たりになるとは思えないもの。だからかき混ぜるという行為は絶対に必要なんだろうと思ったってわけ」
そっか、だからかき混ぜながら作らないとアイスクリームにならないってアマンダさんは知ってたのかぁ。
あれ? でもそれだったら、かき混ぜながら凍らせる魔道具が無いとアイスクリームは作れないって知ってるって事だよね?
「アマンダさん。かき混ぜながら凍らせないと作れないのに、何で普通の冷凍庫でアイスクリームが作れるって思ったの?」
「ああ、それはね、何故かき混ぜながら作らないといけないのかを考えたからなのよ」
アマンダさんはね、アイスクリームを食べながら、何でかき混ぜながら凍らせたらこんな味になるんだろうって考えたそうなんだよ。
そしたらさ、もしかしたら使ってる材料の持っている性質がその理由なんじゃないかなって思いついたんだって。
「材料? でもさっきアマンダさんも、そのまんま凍らせたってアイスクリームにならないって言ってたじゃないか!」
「ええ。そのまま凍らせてもアイスクリームにはならないと思うわよ。でもね、泡立てるという工程を加えたらどうかしら?」
生クリームって、かき混ぜるとちっちゃい空気の泡がいっぱいできてふわふわになるでしょ?
アマンダさんはそれとおんなじで、かき混ぜながら凍らせることによって材料に空気が入るから、氷みたいにならずにアイスクリームができるんじゃないかなって考えたんだってさ。
「生クリームって、泡立てるとアイスクリームに似た食感になるでしょ? それに卵だってそうだもの。だからこの二つを泡立ててから凍らせたら、アイスクリームに近いものができるんじゃないかしら」
「そっか。もしかしたらそうなのかも」
そう言えば生クリームも泡立てたらアイスクリームと一緒で、食べるとトロってするもん。
アマンダさんの言う通り、先に泡立てとけばもしかしたらかき混ぜる魔道具が無くってもアイスクリームが作れるかも?
って事で一度作ってみようって事になったんだけど、僕、そこで一つ問題がある事に気が付いたんだ。
「あっ、でも冷凍庫に入れたってすぐには凍らないよ」
「ええ、冷凍庫じゃ時間がかかりすぎるでしょうね。でも、今ここにはいいものがあるじゃないの」
アマンダさんはそう言うとね、さっきアイスクリームを作るのに使った、かき混ぜながら凍らせる泡だて器の魔道具を指さしたんだ。
でもさ、アマンダさんは泡立てなくっても作れるかどうかやってみるって言ってたでしょ。
ならこれを使っちゃダメなんじゃないかなぁ? って思った僕は、アマンダさんに聞いてみたんだよ。
「アマンダさん。かき混ぜなくても作れるかどうか、やってみるんじゃないの?」
「ああ、そっか。少し言葉が足らなかったわね。この魔道具はね、かき混ぜながら使うんじゃなく、材料の中に入れて凍らせるために使うのよ」
アマンダさんはね、僕がさっきアイスクリームを作った時に、こんなに早く凍ったの? ってすっごくびっくりしたんだって。
だから今度もこれを使えばその時とおんなじように、冷凍庫なんかよりもずっと早く凍らせる事ができるでしょって言うんだよ。
「この魔道具って、使われている4本の針金全部に氷の魔石の力が働いてるでしょ? それに素材とその針金が直接触れているから、凍らせる力はきっと冷凍庫の比じゃないと思うわよ」
「そっか。だからこれを使うんだね」
そう言えば僕んちの冷凍庫で氷を作る時だって、魔力が通ってる壁にくっつけとくと入れもんまで凍ってくっついちゃうから、ちゃんと離して置かないとダメだよってお母さんがいっつも言ってるもん。
この魔道具は冷凍庫の壁とおんなじで、泡立てる針金のとこに氷の魔石の魔力が通るようにしてあるから、材料の中に入れとけば冷凍庫なんかよりずっと早く凍るはずだよね。
「その魔道具を使う理由も解ってくれたみたいだし、それじゃあ早速作ってみましょうか」
「うん!」
今日はいろんなもんを作ってるから、もうあんまり時間が無いでしょ?
だから僕とアマンダさんは、早速かき混ぜなくってもアイスクリームができるかどうか試してみる事にしたんだ。
読んで頂いてありがとうございます。
アマンダさんが気付いた通り、アイスクリームの口当たりって空気の含有量で決まるらしいですね。
そしてこの材料を先に泡立てるという方法は、実際にネットで簡単なアイスクリームの作り方として紹介されているものだったりします。
なので本当は今回で成功させるつもりだったのですが、平日は土日ほど時間がかけられないのでこんな中途半端なところで終わる事になってしまいました。
と言う訳で、次回アイスクリーム作り完結編です。(ほんとか?)




