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573 見た目が変わってないと失敗したって思うよね


「おや、何やら坊やの様子がおかしいような?」


「あら、本当。どうしたの、ルディーン君?」


「あのね、ちょっぴり、ほんのちょっぴりだけどアマンダさんたちの事が怖いなぁって」


 ロルフさんやバーリマンさんともいろんな事するけど、こんな風にすっごい勢いでどうやったのって聞いてくる事なんてないでしょ?


 だから僕、びっくりしちゃってちょっぴり怖かったってアマンダさんに教えてあげたんだよ。


 そしたらね、


「おお、それはすまなかったね」


「ごめんなさい。つい興奮してしまって」


 それを聞いたアマンダさんとマロシュさんがごめんなさいしてくれたんだもんだから、僕は二人と仲直りする事にしたんだ。


「いいよ。今はもう、怖くないもん」


「そう、よかったわ」


 でね、みんなでにっこり笑って仲直りしたって事で、熟成スキルのお話を再開する事にしたんだよ。


 そしたらさ、アマンダさんが僕にお願いがあるのって。


「ルディーン君の熟成がどれくらいの強さだったのかにはまだちょっと興味があるけど、それとは別に、一つやって欲しい事があるのよ」


「やって欲しい事? 僕に?」


「ええ。アマショウの実をもっと熟成させていったら、透き通ってきて甘くなりすぎてしまったって言ってたでしょ? それもやってみてくれないかな?」


 アマショウの実をおいしく食べるんだったら、さっきやったくらい熟成させるのが一番でしょ?


 でもね、僕は前にもっと強く熟成させたことがあるんだ。


 そしたら甘くなりすぎちゃっておいしく無くなっちゃったんだけど、アマンダさんはそれを作って欲しいって言うんだもん。


 だから僕、何でおいしくないのを作るのかなぁ? って思ったんだよ。


「なんで? あれ、おいしくないよ」


「ええ、それは知っているわよ。でも、実物がどんなものなのか少し興味があるし、何よりそれを調べればルディーン君の熟成がどんなものなのかがもっとよく解るかもしれないでしょ?」


 そう言えばここには、僕が熟成させたのとアマンダさんが熟成させたの、それがどう違うのかを調べてもらうために来たんだっけ。


 アマンダさんに言われてそれを思い出した僕は、いいよって答えたんだ。


「ありがとう。それじゃあ、お願いね」


「うん!」


 僕は新しいアマショウの実を1本アマンダさんから貰うと、今度は魔力をいっぱい込めて熟成をかけたんだよ。


 でも僕が熟成したアマショウの実って、皮を剝く前はかける前のと全然変わってないでしょ。


 だからそれを知らないマロシュさんは、失敗しちゃったのかなぁって思ったみたいなんだ。


「はははっ、失敗する事なんて誰でもあるんだから気にする事は無いよ。もう一度落ち着いて……」


「失敗なんてしてないよ。だってほら」


 僕が手の持ってるアマショウの実を剥いてあげたらね、前に僕んちでやった時とおんなじように中から白くて透き通ってる、つるんとした実が出て来たんだよ。


 そしたらさ、それを見たマロシュさんはすっごくびっくりしたお顔になっちゃったんだ。


 でね、その実をお皿にのっけてからマロシュさんに、はいって渡してあげたら、アマンダさんがこれがそうなのねって近寄ってきてを二人で見始めたんだよね。


「皮は全く変わってなかったのに、まさか中身だけがこんなに変化しているなんて」


「ほんと、私はあらかじめ聞いていたから知っていたけど、実際に目にすると少し驚くわね」


 それからちょっとの間二人でその実を見てたんだけど、


「見ているだけじゃよく解らないから、解析して調べてみるかな」


 このまんまじゃよく解んないからって、マロシュさんが錬金術の解析を使ってそのアマショウの実を調べ始めたんだよ。


 そしたらね、ちょっぴり難しそうなお顔になって、これはすごいねって。


「熟すってのは本来、それと同時に腐っていくという事でもあるんだ。だから熟成スキルを使いすぎると最終的に食べられなくなってしまうのが普通なんだけど、これは中の栄養素や糖分は増えているのになぜか果物自体は全く傷んでいない」


「ええ、見た感じからするとそのようですね。それでマロシュさん、これを見て何か解った事はありました?」


「うん、そうだなぁ。そこから考えられるのは、これは僕が知っている熟成スキルとはまるで違ったものなのだろうという事かな」


 マロシュさんはね、普通の熟成ではこんな風になるはずないから、僕のは全然違うスキルになってるんじゃないかなぁって言うんだよ。


 でも、それっておかしいよね。


 だってステータスを見ると、そこにはちゃんと熟成スキルって書いてあるんだもん。


 だから僕が使ってるのは熟成スキルのはずなんだけどなぁ。


 僕がそんな事を考えてたらね、マロシュさんが今度はさっきちょうどいいくらいに熟成させたのも解析で調べ始めたんだよ。


「う~ん、やっぱりこっちも同じか」


「同じ? わたしには、見た目も味もかなり違っているように思えるんですけど」


「ああ、違う違う。そうじゃなくって、どちらも全く腐敗が進んでいないって事だよ」


 そう言うとマロシュさんは、最初にお皿に置いた何にもしてないアマショウの実の横に僕が熟成させたふたつを並べたんだよ。


「さっきも言った通り、熟成が進むという事は同時に腐っていかないとおかしいんだ。でも解析で調べたところ、この3つの鮮度は同じと出てるんだ」


「見た目も味もかなり違うのに、ですか?」


「うん。でも、なぜこんな事が起こっているのかまでは、これを調べただけじゃ解らないなぁ」


 錬金術の解析を使えばそれがどうなってるのは解るけど、なんでそうなったのかまでは解んないでしょ?


 だからマロシュさんは他のものでもおんなじようにやってみて、それをこのアマショウの実と見比べてみたらいいんじゃないかなぁって言うんだよ。


「なるほど。ものによっては違う結果になるものがあるかもしれないですからね」


「うん。それでそのかごには他に、どんな果物が入っているんだい?」


「えっとですね」


 だからアマンダさんに言って、買って来た果物をテーブルの上に並べてもらったんだ。


 そしたらね、そのうちの一つを見て、マロシュさんがあれ? ってお顔をしたんだよ。


「どうしたの? マロシュさん」


「いやね、この中に何故ベリーが混じっているのかなと思って」


 マロシュさんはそう言うと、ベリーのうちの一個を手に取って頭をこてんって倒したんだよ。


 そしたらそれを見たアマンダさんが、笑いながらそう思いますよねって。


「果物屋のベリーは完熟したものを摘んで来ているから、熟成をかけても変わらないと私も思いますよ。でもルディーン君が森で摘んできたベリーに熟成をかけたら甘くなったと言っていたから、念のために買って来たんです」


「摘んできたベリーに熟成をかけたら、甘くなった?」


 アマンダさんのお話を聞いたらね、何でか知らないけどマロシュさんはちょっとの間考えこんじゃったんだよ。


 でね、それが終わったなぁって思ったらテーブルの上にあったベリーがのってるお皿を手に取って僕に渡してきたんだ。


「ルディーン君。これにも熟成をかけてみてもらえる?」


「いいけど、甘くならないかもしれないよ?」


 アマンダさんは果物屋さんで、これは甘くなるまで熟したのを摘んだやつだから、熟成スキルをかけても多分変わんないと思うって言ってたでしょ?


 だから僕が熟成をかけても変わんないかもしれないよ? って言ったんだけど、マロシュさんはそれでもいいからかけてって。


「ああ、それは大丈夫。これに熟成スキルをかけても、本来なら甘くならないはずなんだから」


「そっか。うん、わかった! じゃあやってみるね」


 って事で、僕はさっそく目の前のベリーに熟成をかけてったんだよ。


 そしたらね、なんとなくこれ以上かけるとおいしく無くなっちゃうかもって思えてきたから、マロシュさんにどうする? って聞いてみる事にしたんだ。


「僕、熟成スキルはこれぐらいで終わらせるのが一番おいしいんじゃないかなぁって思うんだけど、さっきのアマショウの実みたいにもっとかけた方がいい?」


「おいしくなった? ああ、それならそこまででいいから、そのベリーをこっちに渡してもらえるかな」


「うん、いいよ」


 もう終わりでいいよって言われたもんだから、僕は熟成をそこで止めてマロシュさんにベリーをはいって渡したんだよ。


 そしたらマロシュさんは、すぐに解析をかけてみたみたいで、


「本当に熟成をかける前よりも甘くなってる……」


 そのベリーがちゃんと甘くなってるよって。


 だからそれを聞いた僕とアマンダさんは、さっそくそのベリーを食べてみたんだよ。


 そしたらほんとにすっごく甘かったもんだから、僕は思わずほっぺたに手を当てて「ん~」って。


「アマンダさん、このベリーすっごくおいしいね」


「ええ、ここまで甘いものは、私も初めて食べたわ」


 ベリーを食べた僕とアマンダさんは、こんなに甘くなるなんて農家の人が作ったベリーはホントすごいねってお話してたんだよ。


 そしたらさ、そんな僕たちにマロシュさんがびっくりする事を言ってきたんだ。


「いやいや、誰が作ったものでも、このベリーが熟成スキルでこれほど甘くなるはずは無いんだよ」


「えっ? でも、こんなに甘いよ」


「うん。でもだからこそそのおかげで、なんとなくだけどルディーン君の熟成の秘密が僕にも解った気がするんだ」


 マロシュさんはそう言うとね、熟成をかけておいしくなったベリーを一個お口に放り込んでから僕たちに向かってニッコリ笑ったんだ。



 読んで頂いてありがとうございます。


 前回の後書きで、もしかしたら用意していた引きが次回の引きになったりしてなんて書いてましたが、本当にそうなってしまいました。


 う~ん、ほんとならもうちょっと短くなるはずだったんだけどなぁ。


 でもまぁ、ここで終わらせないと次回が中途半端な長さの話になってしまうだろうから、これはこれでよかったのかもしれませんね。


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