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562 ほんとはすっごく強かったんだ


 固まった汚れを吹き飛ばす魔道具を作ろうってお話になったけど、冒険者ギルドじゃそんなの作れないでしょ?


 だから材料の揃ってる錬金術ギルドに行こうって言うお話になったんだけど、


「なぁ、ルルモア。やはりわしが同行する許可は下りぬか?」


「当り前じゃないですか。ギルドマスターの仕事があるのですから」


 お爺さんギルドマスターが、一緒に行っちゃダメ? って言い出したんだよ。


 でもね、ルルモアさんは来ちゃダメって。


 何でかって言うとね、ギルドマスターのお仕事がいっぱいあるからなんだって。


「一介の受付嬢であり替えの効く私ならともかく、ギルドマスターはあなた一人なのですからここを空けるなんて事が許されるはず無いでしょう」


 受付のお仕事は替わってもらえるけど、ギルドマスターのお仕事は他の人じゃできないでしょ?


 だからルルモアさんは来ちゃダメって言ったんだけど、そしたらそれを聞いたお爺さんギルドマスターがびっくりする事を言い出したんだ。


「何が一介の受付嬢だ。本来ならばおぬしがなるはずのギルドマスターの座を、わしに押し付けたのではないか」


「ええっ! ホントはルルモアさんがギルドマスターになるはずだったの?」


「うむ。こ奴は、わしがまだ駆け出しの冒険者だったころからここにおるからな。誰よりもイーノックカウの冒険者の事を知っておるのだから、これ以上の適任者はおるまい」


 ルルモアさんって見た目はきれいなお姉さんだけど、エルフだからすっごく長く生きてるでしょ?


 だからこのイーノックカウの冒険者ギルドに一番長い間いるんだよって、お爺さんギルドマスターが教えてくれたんだ。


「だから前任のギルドマスターは引退する際、後任にルルモアを指名したのだ。しかしこやつと来たらそのような立場にはなりたくないと言って、わしに押し付けおったのだぞ」


「へぇ、そうだったのか」


 お爺さんギルドマスターのお話で、ルルモアさんが断ったってのはわかったでしょ。


 でもね、僕、何でルルモアさんがギルドマスターになりたくなかったのかが解んなかったんだ。


 だってギルドマスターになったら、ここで一番偉い人になれるって事だもん。


 だから何で? って聞いてみたんだけど、そしたらそんなの当たり前でしょって言われちゃった。


「そんな立場になったら、気ままに食べ歩きなんて事ができなくなってしまうじゃないの」


「そっか。ルルモアさんはおいしいものを食べるのが大好きだもんね」


 前にお菓子屋さんのアマンダさんが言ってたけど、ルルモアさんはイーノックカウに新しいお店ができたら必ず食べに行くって言うほどおいしいものが大好きなんだよね。


 それを知ってるもんだから、ギルドマスターになったらそう言う食べ歩きができなくなっちゃうからやらなかったんだよって聞いて、僕はちょっと納得。


 でもね、お爺さんギルドマスターはそうじゃなかったみたいなんだよ。


「そのような理由でギルドマスターの職を断るなど、本来はできないはずなのだが?」


「流石にそれだけが理由じゃないわよ。そもそも、私よりもグスタフの方が向いていると思ったから推薦したんだし」 


 ルルモアさんはね、自分よりグスタフって人の方が向いてるから推薦したんだよって言うんだ。


 でもね、それを聞いた僕は、頭をこてんって倒したんだよ。


「グスタフさん?」


「ああ、そう言えば今まで名乗る機会が無かったな。グスタフ・フューラー。それがわしの名だ」


 そしたらさ、お爺さんギルドマスターが、それは自分の名前だよって教えてくれたんだ。


 そう言えば錬金術ギルドのギルドマスターをやってるバーリマンさんも、ちゃんとお名前があるもん。


 お爺さんギルドマスターにだって、お名前があるのは当たり前だよね。


「そっか。ギルドマスターってお名前な訳、無いもんね」


「うむ。流石にその様な名ではないな」


 お爺さんギルドマスターがそう言って笑ったのを見てから、ルルモアさんはさっきの続きをお話しし始めたんだよ。


「ギルマスの自己紹介が終わったところで話を戻すけど、そもそも私はギルドマスターには向いていないのよ」


「何故じゃ? ギルドマスターの話からすると、この冒険者ギルドに一番詳しいとの事じゃが」


 ルルモアさんのお話を聞いて、ロルフさんが何でそう思うの? って聞いたんだよ。


 そしたらさ、それはエルフだからだよって返ってきたんだ。


「エルフという種族は本来、あまり他の人の事を気にしない種族なのです。だから気に入った一部の人の事ならともかく、ギルドマスターのように多くの人の事を考えて行動するというのが苦手なんですよ」


「そうか? ルルモアを見ていると、そうは思えぬのだが」


 お爺さんギルドマスターはね、それを聞いてもそんな事無いんじゃないかなぁって言うんだよ。


 でもルルモアさんは、それはちょっと違うよって。


「それは受付嬢という職業柄、その傾向があまり前面には出づらいからですよ。ギルマスも知っている人で言うと、セラフィーナさんはその傾向が高いですよね」


「セラフィーナ? ああ、ヒュランデル書店のオーナーか。なるほど、言われてみれば確かに、彼女は興味がわいたものには執着するが、それ以外にはとんと無関心だと聞くな」


「はい。エルフと言う種族は長生きな分、他者に対する興味が薄い傾向にあるんですよ」


 エルフって、僕たち人間よりもすっごく長生きするでしょ?


 だからあんまり興味を持ちすぎちゃうといなくなった時に寂しくなっちゃうからって、他の人の事を気にしないようにする人が多いんだって。


「でもグスタフは、ギルマスは若い頃から面倒見がよく、後輩の冒険者たちの事もよく目を配っていたじゃないの。だから私なんかより、ギルドマスターという立場があっていると思って推薦したのよ」


 ルルモアさんはね、自分がやりたくなかったって言うのもそうだけど、お爺さんギルドマスターが向いてるって思ったから前のギルドマスターにこの人がいいよって教えてあげたんだって。


 それにね、見た目だって自分よりいいじゃないかって言うんだよ。


「見た目?」


「ええ。私は見ての通り、華奢な女の子でしょ? でもグスタフは筋肉だる……体が大きくて威圧感があるじゃない。それに強面だから、荒くれの冒険者を従えるギルドマスターという立場は、どう考えても私よりも向いていると思うわよ」


 お爺さんギルドマスターの方が体もおっきいし、お顔だって怖いから絶対向いてるよってルルモアさんは言うんだ。


 でもね、それを聞いたお爺さんギルドマスターは笑いながら、何を言ってるの? って。


「華奢だから向いていないって、わしよりもはるかに強いくせに何を言っておるのだ」


「ええっ! ルルモアさんってお爺さんより強いの?」


「うむ。わしより強いのは確かだし、もしかするとルディーン君の親御さんよりも強いかもしれぬぞ」


 これを聞いて、僕はすっごくびっくりしたんだ。


 だってルルモアさんはいっつも受付にいて、戦ってるとこなんて見た事無かったんだもん。


「ルルモアさん、ほんと?」


「う~ん、どうかしら? 昔ならともかく、今は実際に手合わせしてみないとはっきりとは言えないかな?」


 だからほんと? って聞いてみたんだけど、ルルモアさんは顎に人差し指を当てながら斜め上を見上げて、どうかなぁって。


 それを見た僕はほんとに強いんだねってびっくりしたんだけど、その時に一つ解んない事が出てきちゃったんだ。


「そんなに強かったのかぁ。あっでも、だったらなんでポイズンフロッグが出た時にルルモアさんがやっつけちゃわなかったの?」


 お父さんやお母さんとおんなじくらい強いんだったら、ポイズンフロッグなんて簡単にやっつけられるはずでしょ?


 だから何でルルモアさんがやっつけちゃわなかったの? って聞いたんだけど、そしたらちょっとびっくりする答えが返ってきたんだ。


「ポイズンフロッグの時? ああ、それは弓を射るのがあまり得意じゃなくて……」


「ええっ!? エルフってみんな、弓が得意なんじゃないの?」


 このお答えには、すっごくびっくりしたんだよ。


 だって僕、エルフはみんな弓が上手だって思ってたんだもん。


 でもね、そんな僕にルルモアさんは、これを聞くとみんなそう言って驚くのよねって笑うんだ。


「確かに森で生活しているエルフは弓で狩りをするけど、街に住んでいるエルフはそうでもないのよ」


「そうなの?」


「ええ。矢を買うだけでもかなりのお金がかかるからね」


 森に住んでるエルフはね、狩りに使う矢は一緒に住んでる村のみんなで自作してるんだって。


 でも街に住んでるとそんな事できないでしょ?


 だから弓より剣を使う人の方が多いんだよって、ルルモアさんは教えてくれたんだ。


「そういう所は、普通の冒険者と同じなのよね」


「そっか。ニコラさんたちとおんなじなんだね」


「ええ。だから私も、恥ずかしながら弓は使えないのよ」


 ルルモアさんはね、ほっぺをポリポリかきながらそう言って、恥ずかしそうなお顔で笑ったんだよ。



 読んで頂いてありがとうございます。


 ルルモアさん、実はとても強かったんですよね。


 ただお金がたまるとすぐに引退してしまったので、イーノックカウの冒険者ギルドの中でもその事を知っている人はほんの一握りだったりします。


 それに下手に強いって言う話が広まると、今のギルマスが引退する時にまた次こそはという話になりかねないので、これからもおいしいものが大好きで予想外の事があるとすぐにてんぱる、きれいな受付のお姉さんのままでいると言う訳です。


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