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559 クリーンを使う時は色々気を付けないとダメなんだよ


「説明をして頂けたおかげで、範囲を指定して魔法を使うという意味は解りました」


「うむ。だから次は、実際に使っているところを見せてもらえるとありがたいのだが」


 さっきロルフさんたちが教えてあげたから、それを聞いたルルモアさんやお爺さんギルドマスターさんは範囲を指定してるってのがどんなのか解ったんだって。


 だから今度は、実際に使ってるとこを見せて欲しいってロルフさんに言ったんだよ。


 でもね、何でか知らないけどロルフさんはこっちを見て、僕にやってよって言うんだ。


「僕がクリーンをかけるの?」


「わしもギルマスも、範囲を指定して魔法をかけるというやり方は確かに知っておる。じゃが、クリーンの魔法でそれを行うのはまだやった事が無いからのぉ」


「人前で使うのは、せめて数回練習をしてからにしたいのよ。だからルディーン君、お願いできないかしら?」


 使った事のない魔法って、初めての時は失敗しちゃうかもしれないでしょ?


 そしたらちょっと恥ずかしいから、ロルフさんたちは僕に魔法を使って欲しいんだってさ。


「うん、いいよ。じゃあ、どこで使えばいいの?」


「えっと、ここでは何か問題があるの?」


 だから僕、ロルフさんたちにいいよって言って、どこで使えばいいの? って聞いたんだよ。


 そしたらさ、不思議そうなお顔でルルモアさんがこのお部屋じゃダメなの? って。


「このお部屋で?」


 僕はそう言うとね、今いるお部屋の中を見渡したんだ。


「このお部屋、どっか見えないとこに絵とか何かを書いた紙とかを置いてないよね?」


「ええ、ここは冒険者ギルドに来るお客様と会談するための部屋だから、そのような物は置いてないわよ」


 このお部屋はね、お客さんとお話するためのお部屋だからそういう余分なものは何にも置いてないんだって。


 それだったら大丈夫かなって思った僕は、


「床にもなんにも敷いてないし、それだったらクリーンを使っても大丈夫だね」


 そう言って魔力を体の中に循環させ始めたんだ。


 でもね、そんな僕にロルフさんがちょっと待ってって言ったんだよ。


「どうしたの? ロルフさん」


「いや、ちと聞きたい事があるのじゃが、クリーンの魔法を使うのには何か制約があるのかな?」


 ロルフさんは今まで、クリーンの魔法を体をきれいにする時くらいにしか使ってこなかったでしょ?


 だからお部屋に使った時に、どんな問題が出てくるのか解んないんだって。


「えっとね、クリーンはお掃除の魔法だから、絵とかあるとこで使う時なんかはちゃんと、これは汚れてるんじゃないよって思いながら使わないと絵とか字とかもみんな一緒にきれいにしちゃうんだよ」


「なるほど。魔法に意思は無いからのぉ。意図して描かれたものかどうかは関係なく、そのすべてを汚れとして落としてしまうのじゃな」


 お金持ちのお家とかおっきな神殿とかに行くと、壁に絵がかかってたりするでしょ?


 もしそんなとこで何にも考えずにクリーンの魔法を使っちゃうと、その絵も他の汚れとおんなじように全部きれいにしちゃうんだよね。


 だからこの魔法を使う時は、ちゃんと絵や文字が書いてあるものが置いてないか確認しなきゃダメなんだ。


「後、ルディーン君。部屋に敷物があると何か問題があるの?」


「うん。だってこの魔法を使うと、落ちた汚れが固まって床に落ちてくるもん。だからね、ロルフさんちや僕が買ったお家にあるお客さんが泊まるお部屋に敷いてあるみたいなすっごい絨毯が敷いてあると、後でお掃除が大変なんじゃないかなぁって僕、思うんだ」


 これがウォッシュの魔法だと、すっごくいっぱいのお水で汚れを全部洗い流しちゃうでしょ?


 でもクリーンはそんな事無いから、取れた汚れが固まって床の上に落ちてくるんだよね。


 その固まった汚れはふわふわしてるほこりとかと違って柔らかい粒になって落ちてくるから、ここみたいに何にも敷いていない床だったらささって掃くだけで簡単に集める事ができるんだよ。


 だけどもしふわふわしたすっごい絨毯とかが敷いてあったら、その毛とかに絡まっちゃうかもしれないもん。


 だから僕、そういうのが敷いてあるとこでクリーンを使ったら、後でお掃除するのが大変なんじゃないかなぁって思うんだ。


「なるほど。それなら確かに、敷物があるかどうかは重要になってくるのぉ」


「ルディーン君。この魔法には他に、どんな特徴があるの?」


「えっとね、お部屋の中に物がいっぱい置いてあると魔力をいっぱい使わないとダメなんだよ」


 この魔法は、指定した範囲の中をお掃除するでしょ?


 だからいっぱい物が置いてあったら、それをきれいにするのにも魔力を使わないとダメなんだよね。


「ふむ。指定した空間そのものをきれいにするのではなく、その範囲にあるものをきれいにしておるという事か」


「それにね、すっごく広いとこで使うと、その分魔力がいっぱいいるんだ」


 僕がお部屋の広さも使う魔力に関係があるんだよって教えてあげるとね、それを聞いたロルフさんとバーリマンさんはちょっと困ったようなお顔になっちゃったんだよ。


 だから僕、何でそんなお顔をするの? って聞いてみたんだ。


「どうしたの? ロルフさん」


「いやな、クーラーを作ろうとして失敗した時の事を思い出してな」


「ええ。もしかすると、私たちの魔力では部屋をきれいにする事はできないのではないかという考えに行きついてしまったのよ」


 ロルフさんたち、最初はクールの魔法をお部屋全体にかけて冷やす魔道具を作ろうとしてたでしょ?


 でもそんな広い範囲を指定する事ができなかったもんだから、今回も同じようにお部屋全体をきれいにするなんてできるのかなぁ? って思ったんだってさ。


「大丈夫だよ。だってクリーンはかけた範囲をきれいにする魔法じゃなくって、そこにあるものをきれいにする魔法だもん」


「その違いが、わしにはちと解らぬのじゃが」


「えっとね、クールは指定した範囲を涼しくする魔法だよね? でもクリーンは、そこにあるものをきれいにする魔法だもん。全然違うじゃないか!」


 せっかく教えてあげたのに、ロルフさんは解んないって言うんだもん。


 だから僕、もういっぺん教えてあげたんだよ。


 でもね、それを聞いてもロルフさんはその違いが解んないみたいなんだよね。


「う~ん、なんで解んないかなぁ」


「えっと、間違っていたらごめんなさい」


 教えてあげても解んないから、もう僕にはどうしようもないでしょ?


 だからすっごく困っちゃったんだけど、そしたらルルモアさんがそっと手をあげてこういう事なんじゃないかなって言ってくれたんだよ。


「もしかしてルディーン君は、クリーンの魔法ではそこにあるものの表面をきれいにするだけだから、空間全部を冷やすクールの魔法とは違うと言いたいんじゃないでしょうか?」


「うん、そうだよ」


「なるほど。そう考えると確かに、効果を与える範囲はかなり違ってくるのぉ」


 ロルフさんはね、めんせきとたいせきの違いか! なんてちょっと僕には解んない難しい事を言い出したんだけど、そのおかげでバーリマンさんもその違いが解ったみたい。


 だから、それなら大丈夫かも? って安心したみたいなんだよね。


「あっ、でも広すぎる場所ではやはり使えないのではないでしょうか?」


「うむ。確かに大聖堂などは広さもそうじゃが、置いてあるものも多いからのぉ。わしらの魔力量では難しいかもしれぬな」


「あそこの天井こそ、この魔法で掃除ができればと思っていたのですけどね」


 僕たちが前にお参りしに行ったイーノックカウの大聖堂って、天井がすっごく高いでしょ?


 それに上からおっきくてすっごい明かりの魔道具が吊り下げてあるから、それをお掃除しようと思ったらとっても大変なんだって。


 だからロルフさんたちは、その天井をこのクリーンの魔法でお掃除ができたらなぁって思ってたそうなんだけど、でも大聖堂はすっごく広いからこの魔法でお掃除するのは無理だねって言うんだよ。


「何で? あそこも床には何にも敷いてなかったよ? あっ、そっか! 祭壇に固まった汚れが落ちてきちゃうから使えないんだね」


「いや、そもそも天井の掃除をする時は通常、祭壇に布をかぶせてから行うからのぉ。それ自体は何の問題もない」


 そっか、布を被しとけば上から固まった汚れが落ちてきても大丈夫だね。


 あれ? でも、だったらなんで使えないんだろう?


 そう思った僕は、頭をこてんって倒したんだよ。


 そしたらそれを見たバーリマンさんが困ったようなお顔で、僕にはできても私たちの魔力量では無理なんじゃないかなぁって。


「いくらクールよりも必要な魔力量が少ないと言っても、あれほど広大な空間すべてを指定するのは無理なのではないかしら」


「え~、何であそこ全部指定するの? きれいにしたいとこだけ指定すればいいじゃないか!」


 大聖堂ってとっても広いし天井もすっごく高いから、あそこ全部をいっぺんに指定するなんてすっごく大変でしょ?


 それに祭壇には布をかけるって言ってたもん。


 だったらそこも一緒に指定したって意味ないよね。


 だから僕、天井をきれいにしたいんだったら、そこだけを指定したらダメなの? って聞いたんだよ。


 そしたらさ、それを聞いたバーリマンさんはすっごくびっくりしたお顔になっちゃったんだ。


「言われてみたら、確かにその通りですわ」


「うむ。部屋の掃除をする魔法と聞くとウォッシュを思い浮かべるからか、わしも部屋の一部を指定して魔法をかけるという発想自体がまるで浮かんでおらなんだわ」


 ロルフさんたち、今までお部屋をきれいにする魔法はウォッシュしかないと思ってたでしょ?


 だからあれを使った時とおんなじように、お部屋全部をいっぺんにお掃除しなきゃダメって思ってたんだって。


 でもクリーンは範囲を指定して使う魔法なんだから、自分ができる広さだけ指定して使えばいいんだねって二人とも納得してくれたみたいなんだ。



「皆が部屋の外に出たから、早速かけてみてもらえるかな?」


「うん! それじゃあ、やってみるね」


 クリーンを使う時に気を付けないとダメな事のお話が終わったから、今度こそお部屋にかけてみせる事に。


 と言う訳で体に魔力を循環させてっと。


「クリーン」


 僕が魔法を唱えるとね、床の上にぼとぼとってすっごくいっぱい黒い塊が落ちてきたもんだからちょっとびっくり。


 でもね、それだけいっぱい落ちてきたからなのか、お部屋の中はピッカピカの新品みたいになってたんだよ。


「これは凄いな」


「この部屋って、新築の頃はこんなにきれいだったんですね。ちゃんと掃除はしていたのですが、こうして見るとまるで別の部屋のようです」


 このお部屋って、お客さんが来た時に使うとこなんだよってさっき言ってたよね。


 だからお掃除は冒険者ギルドの人がちゃんとしてたそうなんだけど、壁とか天井はどうしても汚れてっちゃうでしょ?


 それがクリーンの魔法で全部きれいになっちゃったもんだから、ルルモアさんもお爺さんギルドマスターさんもびっくりしたみたいなんだ。


 でもね、ロルフさんたちはちょっと違う意味でびっくりしたみたい。


「これは……流石に効果が高すぎますわね」


「うむ。これほどきれいになったのは、ルディーン君の持つ膨大な魔力量が関係しておるのじゃろうな」


 ロルフさんはそう言うとね、ちょっと怖いお顔になって僕たちの方を見たんだよ。


 知ってる、これってナイショにしなきゃダメな時のお顔だ。


 だから僕、お口に手を当ててしゃべんないよってやったんだよ。


 そしたらロルフさんは僕にうんって頷いてから、ルルモアさんたちの方を見たんだ。


「二人とも、この部屋の事は」


「はい。しばらくの間、この部屋には誰も通さないようにいたしますわ」


「普通の魔法使いが使ったクリーンと比べてみるまでは、流石にな」


「うむ、解ってもらえると助かる」


 せっかくきれいになったけど、もし他の魔法使いさんがクリーンを使ってもこんなにきれいにならなかったら、どうしてここだけこんなに? ってお話になっちゃうもん。


 そしたら僕んとこに、ここをこんなにきれいにしたのはお前かぁ! って悪もんが来るかもしれないでしょ?


 だからこのお部屋の事はみんなにナイショにしとこうねって、ロルフさんやルルモアさんたちは決めたみたいなんだ。



 読んで頂いてありがとうございます。


 使ってみるまではルディーン君も知りませんでしたが、この魔法はロルフさんたちの予想通り知力と魔力の数値により汚れの落ち方が変わります。


 なのでロルフさんやバーリマンさんがクリーンを使っても、ぼとぼとと固まった汚れが大量に落ちてくるほど部屋はきれいになりません。


 しかし何度か繰り返し魔法をかける事で、最終的にはこれくらい綺麗になるんですよね。


 後々それが解る事で、この部屋もまた来客に解放される事になります。


 クリーンの魔法実験に使われた部屋だという説明と共に。


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― 新着の感想 ―
[一言] 天井から黒い塊がボトボトって、ゴキか蜘蛛を連想しますね。ちょっとゾッとした。
[一言] ゴミ箱に直にゴミ入れたいですね
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