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555 魔法は最初に見つけた時の効果しかみんな知らないんだってさ


「急に呼び出すとは、一体何事じゃ?」


「あっ、ロルフさんだ!」


 ルルモアさんに連れられて冒険者ギルドに行くとね、二階にあるお部屋でちょっと待っててねって言われたんだよ。


 だから僕、用意してもらったお茶とお菓子を食べながら待ってたんだけど、そしたらロルフさんが入ってきたんだ。


「おや、ルディーン君ではないか。という事は、この呼び出しは君がらみなのじゃな」


 ロルフさんはそう言うとね、僕の反対側にある椅子に座ってから何があったの? って聞いてきたんだよ。


「わしとギルマスに使いが来たという事は多分魔法か魔道具がらみだろうと思っておったのじゃが、一体なにがあったのかのぉ」


「あのね、ルルモアさんにクリーンの魔法は体をきれいにするだけの魔法じゃないよって教えてあげたら、ここに連れてこられて待っててって」


 だから僕、クリーンの魔法の事をお話したらルルモアさんに連れてこられたんだよって教えてあげたんだ。


 そしたらね、それを聞いたロルフさんはあごのお髭をなでながら、なるほどのぉって。


「という事は、それ以外にも使い道があるのじゃな」


「あれ? ロルフさんも体をきれいにする魔法だと思ってたの?」


「うむ。それが広く知られておるクリーンの効果じゃからのぉ」


 クリーンの魔法はね、ずーっと前から知られてる有名な魔法なんだって。


 だからロルフさんもルルモアさんとおんなじで、体をきれいにする魔法だってずっと思ってたそうなんだよ。


「しかし今の話からすると、また別な……」


 でも僕が違う使い方があるって教えてあげたもんだから、それを聞こうと思ったみたいなんだけど、


 コンコンコン。


「お待たせして申し訳ありません」


 そこでノックの音が聞こえてきて、その後ルルモアさんが冒険者ギルドのお爺さんギルドマスターを連れて入って来たんだ。


「フランセン様、わざわざご足労頂いて申し訳ありません。ところで、錬金術ギルドのギルドマスター様は?」


「ああ、ギルマスなら何か用があるそうでな。遅れてくるとの事じゃ」


 ロルフさんたち、急に冒険者ギルドに来てって言われたでしょ?


 その時バーリマンさんは錬金術ギルドのお仕事をしてたから、ロルフさんだけが先に来たんだってさ。


「して、何があったのじゃ?」


「はい。実は先ほど、ルディーン君がクリーンの魔法には知られているのとはまた別な使い方があると言い出したもので」


 ルルモアさんはエルフだから、魔法の事を全然知らないなんて事は無いんだよ。


 でも冒険者さんの中には魔法を使える人はあんまりいないし、ルルモアさんも魔法のお勉強をしたわけじゃないからそんなに詳しくないんだって。


 それにね、ルルモアさんも冒険者ギルドのギルドマスターさんも魔法が使えないから、僕が言ってる事がほんとかどうかなんて解んないでしょ。


 だから魔法が使えるロルフさんとバーリマンさんを呼んだんだってさ。


「なるほど。賢明な判断じゃな」


「恐れ入ります」


「して、その新しい使い方とは、どんなものなのかな?」


 ロルフさんがそう聞くとね、ルルモアさんは僕の方を見ながらこう答えたんだ。


「ルディーン君が言うには、クリーンはかけた”場所”をきれいにする魔法だと」


「ふむ。ではこの魔法は指定した”物”ではなく、”空間”をきれいにする魔法だというのじゃな。ルディーン君」


 ロルフさんはそう言うとね、僕にそうなの? って聞いてきたんだよ。


 だから僕、そうだよって頷いたんだ。


「うん、そうだよ」


「なんと。それが本当ならば、確かに大変な発見という事になるな」


「そうなの?」


「はい。我々にとってクリーンの魔法の効果は、自分や他人など、かけた対象の汚れを取る魔法と考えられていたのです」


 クリーンって、クールの魔法とかとおんなじで範囲を指定して使うとその中がきれいになっちゃう魔法でしょ?


 でもね、ルルモアさんはその事を、今まではだぁれも知らなかったんだよって言うんだ。


「ですが空間にかける事ができるとなると」


「うむ。今までは困難だと思われていた場所でも、魔法での清掃が可能という事になるじゃろうな」


 今まではずっと、広い場所をお掃除するにはウォッシュの魔法を使わないとダメって思われてたんだって。


 でもあれはすっごくいっぱいのお水で汚れを一気に洗い流す魔法だから、普通のいすや机とかがあるお部屋では使えないでしょ?


 それに高いとこなんかだと、魔法でお水を出してもきれいになる前にみんな下に落ちちゃうもん。


 だからお掃除するのが大変なとこでも、今まではみんなで頑張ってお掃除してたんだよってルルモアさんが教えてくれたんだ。


「特に装飾が施された明かりの魔道具が吊り下げられているダンスホールなどは、天井が他より高くて掃除するのでさえかなりの危険を伴っておりましたからね」


「うむ。その他にも、よそからの使者を迎える部屋などはメイドたちが時間をかけて磨き上げておるからのぉ。じゃが魔法で清掃ができるとなると、それがかなり楽になるじゃろうな」


 僕んちみたいに狭いとこだったらお掃除も簡単だけど、ロルフさんちみたいにおっきなお家だと大変でしょ?


 でも今まではウォッシュしかお掃除の魔法が無いって思ってたから、急にお客さんが来るなんて事になった時はすっごく大変だったんだって。


 だけどクリーンの魔法だったら、すぐにみんなピカピカになっちゃうもん。


 そっか、だからルルモアさんはあんなにびっくりして僕をここまで連れてきたんだね。


「あれ? でもさ、クリーンの魔法はみんな知ってたんだよね? なら、なんで今まで誰もそれに気付かなかったの?」


「それはな、ルディーン君。新しい魔法というものはまず異界の言葉を研究して呪文を探し出し、それを実際に唱える事で初めて効果が解るからのぉ。このクリーンもきっと最初にきれいにするという意味の言葉であると知った者がそれを試しに呪文として自分の体、あるいは近くにあった物に使ってみた所言葉の意味通りの効果が出たので、これはそういう魔法であると認識されたのじゃろうな」


 新しい魔法の呪文を探す時って、まず最初に女神さまに教えてもらった異世界の言葉の中から意味のあるものを見つけ出すのがすっごく大変でしょ?


 それにその効果だって誰かが教えてくれるわけじゃないから、使っただけじゃほんとはどんな事ができるのかなんて誰にも解んないもん。


 ロルフさんはね、このクリーンの魔法も見つけた人が最初になんかをきれいにするっていう使い方をしたからみんなそう思ってたんじゃないかなぁって教えてくれたんだよ。


「ほれ、前にクラッシュの魔法で砂糖を細かくできると教えてくれたであろう? あれと同じじゃよ。魔法を知っておるからと言って、皆がその使い方すべてを理解しておるわけではないのじゃ」


「そっか。みんなが知ってる魔法でも、どんなふうに使ったらいいか知らないなんて事もあるんだね」


 読み方とおんなじ効果が出るって解ってたら、普通は他の使い方を探そうなんて思わないもんね。


 ロルフさんが解りやすく教えてくれたもんだから、僕はなんでみんながクリーンの使い方を知らなかったのかが解ったんだ。



 読んで頂いてありがとうございます。


 ルディーン君は前世の記憶があるし、ステータス画面で魔法を詳しく調べる事ができるから本来の使い方だけでなくその応用もできます。


 でもこの世界の魔法はというと、女神ビシュナ様がもたらしてくれた異世界の言葉を研究して見つけるから、どうしても最初に発見した人が出した効果が一般的になってしまうんですよね。


 なので本編でも出て来たクラッシュで砂糖を細かくできるなんて事は想像もしないし、ドライの魔法にいたっては生木を乾かして薪にする魔法だなどと考えられていたりします。


 コロンブスの卵ではないですけど、ちょっとした気づきですごく便利になってしまうかもしれないのがこの世界の魔法なんですよね。


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