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554 魔法で出したお水は消えちゃうのもあるんだよ


「あれ? 矢は僕が買うんじゃないの?」


 ニコラさんたちの弓はお父さんたちがイーノックカウのお家を買ったお祝いに買ってくれるって言ってたけど、矢は僕が買わなきゃダメって事になってたよね?


 なのにニコラさんたちの弓と一緒に矢が何本か入った矢筒を持って、お父さんたちがお店の人にいくらですか? って聞いたもんだから、僕、すっごくびっくりしたんだ。


「ああ、それはこの子たちが冒険者に復帰して、狩りを始めた時の話だよ」


 ニコラさんたちが冒険者に戻って森に狩りに行くと、その時獲ってきたものは全部僕のものになるって事になってるでしょ?


 だから狩りの時に使う矢は僕が買わなきゃダメなんだけど、これは練習用の矢だからお父さんたちが買ってくれるんだって。


「それにこれは狩りに使う物ではなく練習のための特殊な矢だから、お母さんたちのお祝いの中に入れさせてね」


「練習用の矢? それってなんか違うの?」


「そうよ。この矢は特別な木で作ってあるから、的に当たっても折れる事はまずないの」


 練習の時に使う矢はね、的に刺さったのを抜いて何回も使うそうなんだよ。


 でも普通の矢だと、当たった時に折れちゃうかもしれないでしょ?


 だから普通の矢に使うのとは違う、とっても折れにくい魔木で練習用の矢は作ってあるんだってさ。


「まぁ、その分値段も普通の矢に比べてかなり高いんだけどね」


「だが、普通の矢で練習するよりはかなり安くつくんだぞ」


 弓ってかなり練習しないと的に当たるようにならないから、普通の矢を使って練習してるとすっごくお金がかかっちゃうんだよってお父さんは言うんだ。


 でもね、冒険者になりたての人はこんな高い矢、買えないでしょ?


 だからこの矢を買ってくれたり貸してくれたりする先生役の人がいないとあんまり練習できないから、いつまでたってもうまくならないんだってさ。


「お母さんも貸してもらってたの?」


「ええ。私も冒険者を始めたばかりの頃は同じパーティーで弓を使ってる先輩に、この折れにくい矢を貸してもらっていっぱい練習していたのよ」


 懐かしいなぁって言いながら、ほっぺたに手を当てるお母さん。


 そっかぁ、だからお母さんたちはニコラさんたちにもこの矢を買ってあげようって思ったんだね。



 お会計が終わったから、僕たちは冒険者ギルドに戻る事にしたんだよ。


「ルルモアさん、ただいま。帰って来たよぉ!」


 でね、ギルドに着いた僕は、受付にいたルルモアさんにただいまってご挨拶したんだ。


 そしたらにっこり笑って、お帰りなさいって。


「お帰りなさい。それじゃあ、練習場を開けに行きましょうね」


 ルルモアさんはそう言うとね、カウンターの奥にある壁にかけてある何個かのカギからその内のひとつを取って、僕たちと一緒に冒険者ギルドの裏にある広場に来てくれたんだ。



 広場に行くと、そのふちっこにちょっと大きくて細長い建物があったんだよ。


 ルルモアさんはその建物に近づいて行くと、入り口の観音開きのおっきな扉についてた錠前に持ってきたカギを差し込んでガチャって開けたんだ。


 でね、その錠前を外してからおっきな扉を両手で開けて中を見たルルモアさんが、


「う~ん、しばらく使ってなかったから、やっぱり少し、いやかなりほこりっぽいわね」


 なんて事言うもんだから、僕はどんなになってるのかなぁって思ってのぞき込んでみたんだよ。


 そしたらさ、見るまでは窓を開けてないから中は暗いかなぁなんて思ってたのに、意外に明るくってびっくり。


 外から見た時は気が付かなかったけど、どうやら壁の上の方がみんな金属の網になってて、そこから光が入ってきてるから明るかったみたい。


 でもそのおかげで中にある机や椅子、それに壁についてる棚や的なんかにいっぱいほこりが積もってるのが入口から覗いてる僕にも解ったんだ。


「ほんと、ほこりがいっぱいだぁ」


「ええ、そうね。これはやっぱり、清掃用の魔道具を使用しないと使えそうにないわ」


 ルルモアさんはそう言うとね、ドアの横についてた陶器のツボみたいなのの蓋を取って、中に魔道リキッドを入れたんだよ。


「それじゃあ清掃用の魔道具を起動するから、ルディーン君はちょっと下がっててね」


 でね、僕に扉から離れてねって言うとそのツボの横についてたスイッチを入れて、ルルモアさんも入口からちょっと離れたんだ。


 この時、それを見ながら僕は練習用のお部屋をきれいにするんだったらきっと、この魔道具はクリーンの魔法でお掃除するんだろうなぁって思ってたんだよ。


 でもね、


 ザブ~ン。


 魔道具が動き出したらすぐに入口の上の方から奥に向かってすっごい量のお水が出てきて、練習するお部屋の中を全部洗い流しちゃったもんだから、僕だけじゃなくお父さんとお母さん、それにお兄ちゃんやお姉ちゃんたちもみんなすっごくびっくりしたお顔になっちゃったんだ。


「すごい、すごい! お母さん、お水がいっぱい出て来たよ」


「ええ、本当ね。でも練習場をこんなに水浸しにして、大丈夫なのかしら?」


 その中でもキャリーナ姉ちゃんは特にびっくりしたみたいで、お母さんにすごいねって大騒ぎ。


 でもそれを言われたお母さんは魔道具からお水がいっぱい出てきた事より、そのお水で練習するお部屋が水浸しになった事を心配してるみたいなんだよね。


 だから僕、そんなお母さんに大丈夫だよって教えてあげる事にしたんだ。


「大丈夫だよ。だってあれ、魔法のお水だもん」


「あら、ルディーン。魔法の水だと、濡れても大丈夫なの?」


「うん、ほら見てて」


 僕がそう言って練習するお部屋の中を指さすとね、お母さんとキャリーナ姉ちゃんはつられてそっちを見たんだよ。


 そしたら、さっきまでびしょびしょで天井からもぴちょんぴちょんお水がたれてたのに、お部屋の入口の方から順番にそれが全部すぅーって乾いてっちゃったもんだからみんなびっくり。


「ほんとだ! ルディーン、魔法のお水ってすごいね」


「うん。あんだけいっぱいあったお水が全部消えちゃうんだもん。ほんと不思議だよね」


 このウォッシュって魔法はさ、すっごくいっぱいのお水で汚れを一気に押し流しちゃう魔法なんだ。


 でももしそのお水が洗った後も残ってたら、後で拭かないとダメでしょ?


 だからそんな事しなくってもいいように、このお水は飲み水を出すドリンクウォーターの魔法と違って攻撃魔法で出てくるのみたいに洗い終わったら全部消えちゃうんだよってキャリーナ姉ちゃんに教えてあげたんだ。


 でもね、そんなお話をしてる時も、僕はずっと不思議に思ってる事があったんだよ。


「でも、何でこの魔法なんだろう?」


 この魔法、さっきも言った通りすっごくいっぱいのお水で汚れを洗い流しちゃう魔法でしょ?


 だから石で作ってある像とか神殿を洗うんだったら便利だと思うんだけど、ここは木でできた練習場なんだよね。


 それに机や椅子は固定しとかないとそのお水で流されちゃうから、こういうとこに使う魔道具ならウォッシュよりもクリーンの方がいいと思うんだよなぁ。


 そう思った僕は、ルルモアさんに何で? って聞いてみる事にしたんだ。


「ねぇ、ルルモアさん。何でこの魔法でお掃除するの?」


「えっ? それはほこりで汚れてたから……」


「そうじゃなくて、何でクリーンじゃなくってウォッシュの魔法なの?」


 僕がそう言うとね、ルルモアさんはちょっとぽかんってお顔になって聞き返してきたんだ。


「えっと、クリーンって体を綺麗にする魔法よね? あれじゃあ、部屋全体を綺麗にするなんてできないんじゃないの?」


「違うよ。クリーンの魔法は、きれいにしたいところをきれいにする魔法だもん」


 ルルモアさんの言う通り、クリーンの魔法を使えば自分の体を綺麗にすることもできるんだよ?


 でもこれは指定した範囲の中を綺麗にする魔法だから、自分の体だけじゃなくってお部屋を綺麗にする事だってできるはずなんだよね。


「ちょっと待って、ルディーン君。それって本当なの?」


「うん。あっ、でもすっごく広いとこをきれいにしようと思ったらいっぱい魔力がいるから、この魔道具をつけた人はクリーンじゃなくってウォッシュの魔法にしたのかも?」


 そう言えばクリーンの魔法って、きれいにする範囲が広いほど使うMPは増えるはずなんだ。


 この弓を練習するお部屋、すっごく広いもん。


 だから僕、ここを作った人は魔道リキッドをあんまり使わなくってもいいようにウォッシュの魔道具を使ってるんだろうなぁって、一人でうんうん頷いてたんだけど、


「ちょっと、ルディーン君。その話を詳しく聞きたいから、いっしょに来て」


 そしたらルルモアさんが、すっごいお顔で僕にいっしょに来てって。


「カールフェルトさん、ルディーン君をちょっとお借りしてもいいですか?」


「ええ、いいですけど……どうかしたんですか?」


 それにね、お父さんたちにも僕を連れてっていい? って聞いたもんだから、お母さんはびっくり。


 だからどうしたの? って聞いたんだけど、


「はい。今まで私たちが常識だと思っていたことがとんでもない間違いだった可能性が出て来たので、その検証をしなければならないのです」


 そしたらルルモアさんがこんな事言うもんだから、お母さんはさっきよりももっとびっくりしたお顔でちょっとおろおろ。


 でもね、そんなお母さんにルルモアさんはごめんなさいってペコンと頭を下げてから、


「それではルディーン君をお借りしますね」


 って言って、僕の手を引いて冒険者ギルドに帰ってったんだ。



 読んで頂いてありがとうございます。


 実を言うとこの時、ルルモアさんはかなりてんぱっていたりします。


 ルディーン君の魔法知識は、前世で遊んでいたドラゴン&マジック・オンラインのものですよね。


 なので何の検証をする必要もなく、説明文さえ読めばその効果をすべて知る事ができるんですよ。


 ではこの世界はどうかというと、魔法の呪文一つとっても女神さまから教えてもらった言語を一から調べないと解らないのですから、その正しい効果なんて相当長い間検証しなければ解りません。


 だから今まででもクラッシュやドライの魔法をルディーン君が一般的に知られているんとは違う使い方をして、それを見たロルフさんやバーリマンさんが驚くなんて事があったんですよね。


 今回はそれがルルモアさんに降りかかったと言う訳です。


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[一言] サブタイトルおかしくないですか?
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