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553 トンテンカンしない剣の作り方もあるんだって


「弓を買って帰ってきたら、私に声を掛けてくださいね」


 そう言うルルモアさんに見送られながら僕たちは冒険者ギルドを出て、ニコラさんたちの弓を買うために武器屋さんに向かう事にしたんだ。


「僕、武器屋さんに行くの初めて」


「ああ、そう言えばこの間来た時、ルディーンはシーラたちと一緒に行動していたな」 


 こないだイーノックカウに遊びに来た時って、お父さんとお兄ちゃんたちは武器屋さんや防具屋さんを見に行ったでしょ?


 でも僕はお母さんやお姉ちゃんたちとお菓子屋さんに行ったもんだから、武器屋さんには行った事が無いんだよね。


「うん。だからとっても楽しみなんだよ」


 そんなお話をお父さんとしながら歩いてたらね、あっと言う間に武器屋さんについちゃったんだ。

 

「こんにちわ!」


 初めての武器屋さんに大興奮の僕は、おっきな木の扉を開けて真っ先に中に入ってったんだよ。


 そしたら壁にいっぱい剣とか槍とかがかけてあったもんだから、僕、すっごくびっくりしちゃったんだ。


 だってさ、こんなにいっぱいの武器をいっぺんに見たの、初めてだったんだもん。


「お父さん、武器がいっぱいあるよ!」


「それはそうだろう。ここは武器屋なんだから」


 だから僕の後ろから入って来たお父さんに武器がいっぱいあるよって言ったんだけど、そしたら当たり前だろうって。


 そっか、そうだよね。


 だってここ、武器屋さんなんだもん。


 そんな当たり前の事を思いながらお店の中を見てたらね、壁だけじゃなくってお店のふちの方にあるおっきな樽の中にも武器が入ってるのに気が付いたんだ。


「お父さん、あそこ。あのおっきな樽の中に入ってる武器、なに? なんで壁に飾ってないの?」


「ん? ああ、あれか。あれは溶かした鉄を型に流し込んで作っただけの安物だからだよ」


 グランリルの村では、剣や槍は鍛冶屋さんがトンテンカントンテンカンってして作るでしょ?


 でもあそこにある武器は溶かした鉄を型に流し入れて、固まったのの余分なとこを削って作っただけの剣なんだって。


「俺たちが使っている武器はな、鍛冶屋が鍛えた鋼のインゴットから作られているんだ。でもそれを使って作る武器だとかなり値段が高くなってしまうだろ? だから冒険者になりたてでお金のない内は、ああいう鋳物の武器を使う事もあるんだよ」


 お父さんに教えてもらったんだけど、僕たちの武器を作るのに使う鋼のインゴットってのは、鉄が入ってる石と石炭を砕いたのを混ぜてから鍛冶屋さんが使う火の魔道具に入れると、そこから溶けた鉄が出てくるんだって。


 でね、それが冷えて固まってからもういっぺん真っ赤になるまであっつくしたのを、今度はおっきなトンカチで鍛冶屋さんがトンテンカントンテンカンするとインゴットができるそうなんだよ。


 それにそのインゴットから剣を作ろうと思ったら、また真っ赤になるまであっつくしてトンテンカンしないとダメだもん。


 だから剣が出来上がるまでにすっごく時間がかかっちゃうけど、でもあの樽の中に入ってる武器は最初にあっつくして溶かした鉄をそのまんま型に流し込んだだけでできちゃうでしょ?


 そりゃあ余分なとこを削ったり磨いたりしないとダメだけど、それでも僕たちが使ってるのよりも簡単にできるからすっごく安いんだってさ。

 

「ただ簡単に作れる代わりに、かなり折れやすいからな。動物を相手にするならともかく、魔物相手にあれを使うのは流石に自殺行為だ」


「そっか、魔物の皮は動物のより硬いもんね」


 僕ね、最初に聞いた時は早く作れるんだったらそっちの方がいいんじゃないかなぁって思ったんだよ。


 でもそれだと折れやすくって魔物相手だと危ないんだよって、お父さんに教えてもらったでしょ?


 だから僕たちの村の武器は、鍛冶屋さんがちゃんとトンテンカントンテンカンして作ってくれてるんだねってうんうん頷いたんだ。



「それはそうと、どうやらニコラって子の弓を選び終わったみたいだぞ」


 僕とお父さんがそんなお話をしてる間にね、お母さんがニコラさんに弓を選んであげたみたい。


 だからお母さんたちの方を見たんだけど、


「あれ?」


 そしたらニコラさんが、あんまりおっきくない弓を持ってたもんだからびっくりしたんだ。


 ニコラさんはすっごくおっきいのに、お母さんはなんであんなちっちゃな弓矢を選んだんだろう?


 そう思った僕は、ほんとにそれでいいの? って聞いてみる事にしたんだ。


「お母さん、ニコラさんが持ってるの、レーア姉ちゃんの弓とあんまり変わんない大きさだよ。あれでいいの?」


「ああ、そう言えばルディーンは使わないから、ショートボウの選び方を知らないのね」


 お母さんが言うにはね、大事なのは弓の大きさじゃなくって、それを引いた時にどれくらい弦が伸びるかなんだって。


「弓は持った方の腕をこうやって軽く伸ばして使うでしょ? だからショートボウはそこを基準にして、弦を引いた手がちょうど自分のあごの位置に来るものを選ぶといいのよ」


 このちっちゃい弓は見た目がおんなじでも、使ってる材料でしなり方とか張った弦の強さとかが全然違うんだって。


 だからおんなじ様に見えても体の小さいレーア姉ちゃんの弓はあんまりしならないけど、今ニコラさんが持ってる弓はすっごくしなるんだってさ。


「百聞は一見にしかず。ニコラさん、試しにその弓を引いてみてくれるかな?」


「はい、解りました」


 そう言われたニコラさんは、試しにお母さんが選んでくれた弓を引いてみたんだよ。


 そしたらさっき言ってた通り弓がすっごくしなって、弦がニコラさんの目のとこよりちょっと後ろまで伸びたんだ


「う~ん、構えとかは後で教えるとして。どう? 引いてみて。張りが強すぎたり弱すぎたりしない?」


「えっと、少し弱い気がします」


「そう。思ったよりも力持ちなのね」


 お母さんはそう言うとね、違う弓を壁から取ってニコラさんが持ってるのと交換したんだ。


「こっちの方が少し強い素材が使われているんだけど、どうかな? 後、弦をつまむんじゃなくって人差し指と中指を引っかけるようにして……そう、そんな感じで引いてみて」


「ほんとだ、こっちの方が引きやすいし、弓の強さもさっきのよりこちらの方がいいみたいです」


 今度の弓はさっきのよりよかったみたいで、ニコラさんは何度も弦を引っ張ったり緩めたりしてるんだよ。


 それを見たお母さんはこれなら大丈夫そうねって言った後、今度はユリアナさんとアマリアさんの弓も選んであげたんだ。



「3人とも、その弓でいいかしら?」


「はい、ありがとうございます」


 でね、二人にも弦を引いてもらってあってるかどうかを確かめたら、お母さんはお店の人にこの3本をくださいなって言ったんだよ。


「あと、今は必要ないけど、予備知識としてロングボウとその防具の事も教えておくわね」


 お母さんが村で使ってるみたいなおっきい弓の時はね、いまみんなが持ってるショートボウと違って弦を後ろの方まで引くから、女の人は胸に当たっちゃわないように専用の防具を使わないとダメなんだって。


「ショートボウは顎に当てて狙う形で撃つから要らないけど、より遠くまで飛ばすロングボウは引手の脇近くまで弦を引くから、これみたいな胸を押さえつける弓使い専用の防具が必要になってくるの」


 お母さんはそう言うと、おっきな弓の近くにあった胸当てを手に取ってニコラさんたちに見せたんだよ。


「あなたたち3人で言うと、体の大きなニコラさんは多分前衛の方がむいているだろうから使う事は無いと思うわ。でも他の二人はロングボウも使えるように練習してみて、より適性がある方が主武器にすると狩りがスムーズになると思うわよ」


「なるほど、一人は後衛にした方が狩りがやりやすくなるんですね」


「ええ。狩りの最中も離れた場所から弓を射れば魔物へのけん制にもなるし、何よりロングボウはショートボウよりも遠くの獲物を狙う事ができるからね」


 まず一人がロングボウで遠くの獲物に矢を当てたら、その後は余裕をもって狩りができるでしょってお母さんは笑うんだ。


「でもロングボウは遠くまで飛ばせる分、ショートボウより当てるのが難しいの。だから今はとりあえず、このショートボウを動きながらでも当てられるまで練習しましょうね」


「はい!」


 お母さんにいっぱい練習しようねって言われたニコラさんたちは、ビシッとまっすぐ立って、おっきな声でお返事をしたんだ。



 読んで頂いてありがとうございます。


 イメージ的に言うと、ショートボウはアーチェリーの撃ち方を、ロングボウは和弓の撃ち方を元にした説明になっています。


 これが正しいかどうか解らないですけど、昔見たファンタジー映画ではロングボウを和弓と同じような感じで撃ってたんですよ。それに女性は胸当てもつけてましたし。


 ただ今作ではこのような説明になってますけど、ロングボウと和弓は形がかなり違うので実際の撃ち方は当然違っているのでしょうけどね。


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