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551 初めはね、体に合ったのを使わなきゃダメなんだって


 ニコラさんたち、テオドル兄ちゃんに言われて弓の練習をする事になったでしょ?


 だから僕、練習するための矢を買ってこなきゃ! って考えてたんだけど、その時ふと思ったんだ。


 あれ? ニコラさんたちの弓はどうするんだろうって。


「ねぇ、テオドル兄ちゃん。練習するための矢は僕が買うって事になったけど、弓はどうするの?」


「ああ、そう言えば弓が無ければそもそも練習はできないなぁ。レーア、とりあえず今日はお前の弓、彼女たちに貸してもいいか?」


 テオドル兄ちゃんはそう言うとね、レーア姉ちゃんに弓を貸してあげてって言ったんだよ。


 そしたらそれを聞いたレーア姉ちゃんは、うん、いいよって頷いたんだけど、


「それはやめておいた方がいいんじゃないかしら」


 扉を開けて入って来たお母さんに、それはダメだよって言われちゃったんだ。


「あっ、お母さんだ。お帰りなさい」


「ただいま」


「お帰り、お母さん。ところで、何故レーアの弓を貸すのがダメなの?」


「あら、そんなのレーアとそこの3人を見比べてみれば一目瞭然じゃない」


 お母さんがちょっとあきれたお顔でそう言うとね、その後から入ってきたお父さんが何でレーア姉ちゃんの弓を貸したらダメなのかを教えてくれたんだよ。


「シーラの言う通り、13歳のレーアが使っている弓じゃ、この子たちには小さすぎるだろう」


「それはそうだけど、でも大きさの合わない弓を使う事なんて、うちの村でもよくある事じゃないか」


 お父さんはね、まだ体がそんなに大きくないレーア姉ちゃんの弓じゃ、ニコラさんたちには小さすぎるだろって。


 でもね、それを聞いたテオドル兄ちゃんは、自分に合わない大きさの弓を使う事なんてよくある事でしょ? ってお父さんに聞いたんだよ。


 そしたらさ、それは弓を使える人たちだから平気なんだよって教えてくれたんだ。


「テオドル、武器を使う時に基礎をおろそかにしてはいけないという事くらい、お前だって解っているだろう?」


「そうよ。初心者の内はちゃんと体に合ったものを使わないと、最初に変な癖がついてしまったらあとで苦労する事になるのよ」


 お父さんが剣の使い方を教えてくれた時も、ちゃんと僕用の短い剣を用意してくれて握り方や構え方から教えてくれたでしょ?


 それとおんなじで、ニコラさんたちは初めて弓の練習をするんだから、ちゃんと体の大きさに合ったものを使わないとダメなんだよってお父さんたちは言うんだ。


「なるほど。初めが肝心って事なんだね」


「そういう事だ」


 お父さんたちのお話を聞いて何で貸しちゃダメなのかが解ったから、レーア姉ちゃんの弓を借りるのは無しになったんだよ。


 でもね、そしたらニコラさんたちが練習する弓はどうしたらいいのかなぁ?


 そう思った僕は、お父さんに聞いてみる事にしたんだ。


「ねぇ、お父さん。じゃあ、ニコラさんたちの弓はどうするの? これも僕が買った方がいい?」


「う~ん、そうだなぁ。これから俺たちは冒険者ギルドに行くんだし、その時に一緒に来てもらって、帰り道に買ったらいいんじゃないか?」


「ええ、そうね。初心者用の弓ならそんなに高くないだろうから、ルディーンが家を買ったお祝いに3人の弓は私とハンスが買ってあげるわ」


「ほんと? やったぁ!」


 お父さんたちが弓を買ってくれるって言ったもんだから、僕はニコラさんたちに良かったねって言ったんだよ?


 でもニコラさんたちは、ほんとにいいのかなぁって言うんだ。


「あのぉ、言葉自体は違いますけど、私たちはルディーン君の奴隷のようなものなんですよ? そんな私たちに、新しい弓を買うだなんて」


「ええ、本当にいいんですか?」


「ん? ああ、いいぞ。さっきメイド長から聞いたが、冒険者ギルドの特例で借金奴隷ではなく給料を何年分も先払いしたルディーンの使用人のような扱いになってるんだろ?」


「ルディーンの使用人なら、親である私たちがその武器を買っても何の問題もないじゃない」


 お父さんたちはね、ストールさんと一緒にお部屋から出てった時にニコラさんたちの事も聞いたんだって。


 そしたらね、ちょっと変わったメイドさんみたいなもんだよって教えてもらったそうなんだ。


 それにお爺さん司祭様からも、僕がおっきくなったらニコラさんたちが護衛になるかもしれないって聞いてたから、武器くらい買ってあげるよって。


「と言う訳だから、あなたたちも一緒に冒険者ギルドに行きましょう。どんな弓がいいか、私が選んであげるわ」


「ありがとうございます」


 いっつも弓で狩りをしてるお母さんが選んでくれるって言ったもんだから、ニコラさんたちは大喜び。


 帰りに武器屋に寄るからって、僕たちと一緒に冒険者ギルドに行く事になったんだ。



「ストールさん、行ってくるね」


「行ってらっしゃいませ。お早いお帰りをお待ちしております」


 お見送りしてくれるストールさんに行ってきますをしてから歩いて冒険者ギルドに向かったんだけど、僕が買ったお家は商業地区ってのの端っこにあるでしょ?


 だから僕、冒険者ギルドまで行くのにすっごく時間がかかっちゃうんじゃないかなぁって思ったんだよ。


 でもね、みんなでお話しながら歩いてたら、いつの間にか冒険者ギルドに着いちゃってたんだ。


「僕、もっと時間がかかるかもって思ってたけど、あっと言う間についちゃったね」


「うん。村から森まで狩りに行くよりも早く着いた気がするね」


 僕とキャリーナ姉ちゃんは、そんなお話をしながらみんなの先頭で冒険者ギルドに入ってったんだよ。


 そしたらさ、カウンターのとこにいたルルモアさんが僕たちに気付いてこっちに来てくれたんだ。


「いらっしゃい、ルディーン君。この街についたという報告は入ってたけど、早速みんなを連れて来てくれたのね」


「うん。居住権ってのの登録しないとダメだからね」


 ルルモアさんは僕とちょっとお話をした後、みんなを受付の端っこに連れてったんだよ。


 でね、お父さんたちにギルドカードを出してって言ったんだ。


「それではギルドカードの提出をお願いします」


「はい」


 お父さんたちがギルドカードを渡すとね、何でか知らないけどルルモアさんはちょっと離れたところにいたニコラさんたちにもこっち来てって言ったんだよ。


「ニコラさん。あなたたちパーティも、ギルドカードを提出してください」


「えっ! 私たちもですか?」


 今日はお父さんたちが居住権ってのの登録をするために来たよね?


 だからニコラさんたちは関係ないからって離れてたのに、ルルモアさんからギルドカードを出してって言われてびっくり。


「何か、問題でもあったんですか?」


「ああ、そうじゃなくて。今のあなたたちはルディーン君が所有しているという形になっているでしょ? だからギルドマスターと話し合って、使用人扱いでの仮居住権を発行しようという話になったのよ」


 どっかのお家に雇われてる人がなんかのご用事でイーノックカウの外に出た時に、もし居住権ってのが無かったら入るのにお金がかかったり長い行列に並ばなきゃいけなかったりするでしょ?


 だからそんな事にならないようにって、メイドさんや執事さんは仮の居住権ってのがもらえるんだって。


 でね、ニコラさんたちは僕の預かりって事になってるから、これと同じような扱いにできるんじゃない? ってお爺さんギルドマスターとお話しした事をルルモアさんは教えてくれたんだ。


「ただ、これはあくまで仮の居住権だから、もしルディーン君にお金を返し終わって今の状況が解除されたら、取り消されちゃうけどね」


 ルルモアさんはそう言うと、ニコラさんたちが出したギルドカードを受け取ったんだよ。


 でね、カウンターの奥にある魔道具を使ってお父さんたちのカードと一緒に登録をしながら、


「まぁ借金の金額を考えると、返し終わるには本物の居住権を得られるくらい長くかかりそうだと思うけどね」


 なんて言ってルルモアさんは笑ったんだ。



 読んで頂いてありがとうございます。


 居住権ですが、実を言うと買わなくてもどこかの家に仕えて仮登録をし、その状態のまま20年くらい経つともらえるんですよ。


 これはその家に仕えている人が、ぞの子供に今の立場を継がせやすくするための制度なんですよね。


 そもそも居住権取得というのは、身元不明なものが勝手に出入りできないようにするための制度なんですよ。


 だから素行不良で首になる事無く、一つの家に20年以上勤めあげた人なら信用できるでしょうからもらえると言う訳です。


 因みに、ルディーン君預かりの状況でも結婚などは一応できます。


 本編でも書かれている通り今の立場は前払いで雇われた使用人のようなものなので、イーノックカウの中でなら何の問題ありませんからね。


 さて今週なのですが、泊まりの出張のため書く時間が取れません。


 なのですみませんが金曜日の更新はお休みさせて頂き、次回更新は来週の月曜日となります。


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