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544 何でそんなの持ってくの?


 次の日の朝、僕たちはみんなでイーノックカウに行くのに乗ってくお尻の痛くならない馬車に荷物を積んでたんだ。


「あれ? お父さん、なんでいつも狩りに行く時の武器を馬車にのせてるの?」


「あっ、キャリーナ姉ちゃん。お母さんのおっきい方の弓ものっけてあるよ」


 僕たちがイーノックカウに行くのって、僕が買った居住権ってのの登録するためだよね?


 そりゃあベニオウの実を採りに行きたいから、一応森にはいく事になってるんだよ。


 でも、イーノックカウの森には弱っちい魔物しかいないでしょ?


 だから持ってくのは持ち運びしやすいおっきめの解体用ナイフだけでいいはずなのに、お父さんたちがいつも狩りに行く時に使ってる武器を馬車にのっけてたもんだから、僕とキャリーナ姉ちゃんは何でそんなのを持ってくの? って聞いたんだ。


 そしたらね、お父さんはもしもの時の為なんだよって。


「前回家族でイーノックカウに行った時、行きの道中で野盗に出会っただろ? 今まではそんな事は一度もなかったが、もし今回も同じような事が、それもこの間襲って来たやつらよりも規模の大きい野盗が現れたりしたら、予備の武器じゃあ少々心許ないからな」


「それにイーノックカウでも、ポイズンフロッグの発生なんて事件があったでしょ? あの時、もし私がいつも狩りに持って行く弓を持って行っていたらギルドにわざわざ用意してもらう必要もなかったもの。そのことを考えると、念のためにね」


 僕が買った居住権ってのの登録は、ギルドだったら冒険者ギルドでも錬金術ギルドでもできるらしいんだよね。


 でも僕もそうだけど、お父さんたちのギルドカードは冒険者ギルドのでしょ?


 だからお家で話した時に、どうせするならいつも行ってる冒険者ギルドでやってもらう方がいいよねって事になったんだけど、ギルドに行くって事はまたもしなんか困った事が起こってたら助けてって言われちゃうかもしれないって事だもん。


 お父さんとお母さんはね、もしそうなっても大丈夫なようにって、いっつも使ってる武器を持ってく事にしたんだってさ。


「それにだ、いつもみたいな森で獲れた魔物の素材を売りに行く時と違って、今回は荷台にはほとんど何も積んでいかないだろ? それに余分な武器や防具を載せると馬に負担がかかるから普段なら避ける行為なのだが、ルディーンのおかげでその心配もなくなったから、俺もシーラも自分の武器を持って行く事にしたんだよ」


「だったらさ、なんでお父さんたちのだけ持ってくの?」


「そうだよ。私たちのは持ってかなくてもいいの?」


 僕は魔法で魔物をやっつけるから要らないけど、キャリーナ姉ちゃんは武器が無いと狩りができないでしょ?


 だから何で私たちのは持ってかないの? ってキャリーナ姉ちゃんが聞いたんだけど、そしたらそれを聞いたお父さんたちは笑いながらそこまでは必要ないからだよって。


「ああ、それは大丈夫だ。いくら問題が起こったとしても、そこはイーノックカウの森での事だからな」


「そっか。こないだ出たポイズンフロッグだって、魔法で全部寝ちゃうくらい弱っちかったもんね」


 イーノックカウの森にいる魔物は、グランリルの森の魔物よりもすっごく弱っちいでしょ?


 だから家族全員で狩りに行かないといけないくらい大変な事なんて、あの森では起こるはずないよってお父さんは言うんだ。


「ただ、前に出た幻獣がまた出現したというのなら、ルディーンだけは一緒に行ってもらわないとダメだろうがな」


「うん、いいよ! 僕、幻獣が出たらすっごい魔法でやっつけちゃうもんね」


 いつもの狩りだと、すっごい魔法は威力が強すぎて素材がダメになっちゃうから使えないでしょ?


 でも幻獣には魔法しか効かないし、素材も何でか知らないけどやっつけた後にそれだけ残るから、いつもは使えないすっごい魔法を使う事ができるんだよね。


「こないだは土の魔法でやっつけたけど、僕、今度出てきたら違う魔法でやっつけてやろうって思ってるんだよ!」


 だから次に幻獣が出てきたら今度は違う魔法でやっつけてやるんだって、おててをぎゅって握ってふんす! と気合を入れたんだよ。


 でもね、


「あ~、俺が言い出したせいで期待しているところ悪いんだが、多分そんな事にはならないと思うぞ」


そんな僕にお父さんは、多分こないだみたいに幻獣をやっつけに行くなんて事はないよって言うんだよ。


「え~、なんで?」


「そもそもこの周辺の土地に幻獣が出たのなんて、俺が知る限り初めてだからなぁ。その事から考えても、そんなに頻繁に出るもんじゃない事は解るだろう?」


 そっか、いっつも出てくるんだったら、幻獣をやっつけられる武器は冒険者ギルドに置いてあるはずだもん。


 でも、イーノックカウに置いてある魔法の武器は領主様のとこにあるから、こないだは貸してくださいってわざわざ言いに行かないとダメだったんだよね。


 って事はさ、領主様も冒険者ギルドも、その武器を使う事なんて起きないって思ってたって事だもん。


 だからお父さんの言う通り、幻獣がまた出てくるなんて事、多分ないんだろうなぁ。


「そっかぁ、出ないのかぁ」


「落ち込まなくても、活躍の場ならあるだろ? なにせルディーンの魔法が無いと、ベニオウの実を採る事ができないんだから」


 そう思ってしょぼんとしてたらお父さんが、僕の魔法が無いとベニオウの実が採れないじゃないかって笑ったんだよ。


「そういえばそっか。うん! 僕、頑張ってベニオウの木に登るとこ、作るね」


「おお、頼むぞ」


 お父さんに頑張るよって言って笑ったらね、お父さんはニカッて笑いながら僕の頭に手を置いて、ちょっと乱暴にガシガシって撫でてくれたんだ。



「わぁ、すっごくおっきい生ハムだね」


 僕は目の前に置かれたすっごくおっきな生ハムを見て、びっくりしてたんだよ。


 だってさ、豚の足の形そのまんまの生ハムだったらイーノックカウの宿屋さんで出てきてその場で切り分けてもらった事が何度かあるから、その大きさは僕でも知ってたんだよ?


 でもお父さんが持ってきた生ハムはそんなのなんかよりもすっごくおっきかったもんだから、それを見た僕はすっごくびっくりしたんだ。


「なにせブラウンボアの後ろ脚で作った生ハムの原木だからな。これ一本で重さ80キロ近くあるんだぞ」


「そう言えばうちの村の食糧庫、手前にブラックボアの腿で作った生ハムが何本も吊るしてあるもの。ブラウンボアの生ハムはその一番奥に吊るしてあるから、ルディーンは見た事が無かったのね。なら、この大きさを見て驚くのも無理ないわ」


 お母さんの言う通り、グランリルの村の食糧庫にはブラックボアの生ハムがいっぱい吊るしてあるんだよ。


 だから入り口からじゃ奥の方は見えないんだけど、そっか、あの奥にはこんなおっきいのが吊るしてあるんだね。


「ブラックボアの生ハムだって、後ろ脚を使ったものなら30キロ以上あるからなぁ。そんなのがいっぱい釣ってあるんだから、食糧庫の入口から見ても、奥にあるこいつは見えないかもな」


「うん。僕、こんなにおっきいの、初めて見た」


 ブラウンボアは前に一度お父さんたちと一緒にやっつけたから、すっごくおっきいってのは解ってるんだよ。


 でもさ、目の前にある生ハムは腿んとこだけなのに僕の体よりおっきいんだもん。


 僕、いままでそんなおっきいお肉の塊を見た事無かったもんだから、あれを見てすっごくびっくりしたんだよね。


「でも、これだってブラウンボアの後ろ脚の中では小さい方ないんだぞ」


「そうなの?」


「ああ。こいつは平均よりも少し小さめのブラウンボアの足で作ったやつだからな。本当の大物になると、あまりに大きすぎて生ハムにできないんだ」


 お父さんたちのパーティはね、前に一度普通のよりもすっごくおっきいブラウンボアをやっつけた事があるんだって。


 だからその記念にその足を使って生ハムを作ろうとしたらしいんだけど、すっごくおっきくて重かったもんだから、乾燥小屋に吊るす事ができなかったそうなんだよ。


「塩漬けなどの作業は、軽くする魔道具を使えばできない事も無かったんだ。だけどな、流石に乾燥させる間もずっと魔道具を使い続けるなんて事、できないからな」


「それにブラウンボアが大きかった分、生ハムに使う腿の大きさも相当なものだったから、乾燥小屋の梁から吊るしたらその重さに耐えられる耐えられない以前に、肉の先端が地面についてしまっていたでしょうね」


 ブラウンボアはすっごく強いから、うちの村でもそんなにいっぱい獲れないでしょ?


 だからそれ用の乾燥小屋なんて建てられないからって、村の乾燥小屋に吊るせるのよりおっきなブラウンボアが獲れた時はあきらめてお肉にしちゃうんだってさ。


「そんな訳で、こいつはうちの村で作れる最も大きい生ハムって訳だ」


「でも他のブラウンボアが獲れる森近くの村であっても流石に専用の乾燥小屋なんて作っているなんて所は無いでしょうから、多分いくら小さめのブラウンボアの足で作ったと言っても、これを超える大きさのものはそうはないはずよ」


 お父さんとお母さんはね、荷台に並んだ2本の生ハムの原木を手のひらでポンポンって叩きながら、これならきっとお金持ちのロルフさんやバーリマンさんでも喜んでくれるはずだよって笑ったんだ。



 読んで頂いてありがとうございます。


 ブラックボアとブラウンボアの足で作った生ハムの重さですが、正直言って本当ならもっと重いはずです。


 というのも、豚って100キロくらいまで育てたら出荷するそうなのですが、その足を使って作る生ハムは大体7キロから10キロくらいらしいんですよね。


 でもボア系の魔物って、当然豚よりも足の筋肉が発達しているはずですよね? だって突進して相手を攻撃するのですから。


 ならばボア系の魔物の方が、体の重さに対する腿の太さや重さの比率が豚より大きいはずなんですよ。


 だからブラウンボアの生ハムは普通、100キロを大幅に超えていないとおかしいんですよね。(ブラウンボアの重さは1トンを超えるという設定です)


 となると流石に力持ちのハンスお父さんでも持ち運べなさそうだったので、しかたなく小さめの個体の肉を使ったという事にしました。


 それでもまぁ、普通の豚の生ハムの原木の8倍以上という、とんでもない大きさなんですけどねw


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