538 馬車置き場はね、冒険者さんたちが練習するとこでもあるんだって
ストールさんに会って、僕たちが来週みんなでこのお家に来る事を教えてあげたでしょ?
だからお父さんから頼まれたご用事はこれでおしまい。
って事で、僕はこのお家にいるみんなが何してたのか聞く事にしたんだ。
「ストールさん、ニコラさんたちは今何してるの? 作法ってののお勉強?」
「いえ。今の時間なら、冒険者ギルドで鍛錬をしていると思いますわ」
冒険者ギルドって狩った魔物の素材を近くの村の人たちが売りに来たり、それを買うお店の人たちが来たりするから、裏っ側にその人たちが乗ってきた馬車をとめるための広場があるんだよね。
僕、ストールさんに教えてもらって初めて知ったんだけど、そういうの人たちのほとんどは朝のうちに来ちゃうから、その人たちが帰っちゃった後は広場の空いてるとこが冒険者さんたちの練習する場所になるんだってさ。
「ルディーン様が前回この街を訪れた際、正しい剣の扱い方を彼女たちに教えてくださったそうですわね。お帰りになられた後、彼女たちからその技術を習得するための練習がしたいとわたくしに申し出がありましたので、許可を出したのですわ」
「そっか。ニコラさんたち、頑張ってるんだね」
ニコラさんたちは冒険者だもん。
ちゃんと武器が振れるようになった方が絶対いいから、練習するのは大事だよね。
「でも、それじゃあ今日は会えないのか」
「と言うと、今日は早めにお帰りになるご予定ですか?」
「うん。暗くなる前に帰らないとダメなんだよ」
今日は来週来るよって教えに来ただけでしょ?
だからお母さんから、あんまり遅くまで居ちゃダメって言われてるんだよね。
「そうですか。ですが彼女たちも暗くなるまで鍛錬を続けるとは思えませんから、それならば帰る前に顔ぐらいは見る事ができるかもしれませんよ」
「そっか。じゃあそれまでに、これをカテリナさんに見せに行こっかな」
僕はそう言うとね、腰にぶら下げてた皮袋をストールさんに見せてあげたんだよ。
「カテリナに、ですか?」
「うん。あのね、お醤油って言うのを作ったから、カテリナさんとノートンさんに見せてあげようって思って持ってきたんだ」
ほんとはノートンさんにも見せてあげたいんだけど、ロルフさんちの料理長さんだからこのお家にはいないでしょ。
でもカテリナさんは僕んちの料理長さんだから、お料理するとこに行けば絶対いるはずだもん。
だから持ってきたお醤油を渡して、ノートンさんにも後で見せてあげてねって言うつもりだったんだ。
でもね、
「なるほど。それならばクラークにこの館まで来るよう、使いを出しますわ」
そしたらストールさんがノートンさんを呼んでくるって言うんだもん。
だから僕、びっくりしていいの? って聞いたんだよ。
「ノートンさん、ロルフさんちの料理長さんでしょ? 忙しくないの?」
「大丈夫ですわ。予定では本日、旦那様は錬金術ギルドを出た後、本宅にお帰りになる事になっておりますから」
そう言えばノートンさんって、東門の外にある方のお家の料理長さんだっけ。
ロルフさんは今日イーノックカウの中にある方のお家に帰るから、今から呼んでも大丈夫なんだよってストールさんは言うんだ。
「それにルディーン様から新しい食材を頂いたのに、その場で声を掛けてもらえなかったと知ればクラークもきっと残念がると思いますよ」
「そっか。ノートンさんもきっと、おいしいもんだったら早く食べてみたいって思うもんね」
そんな訳で、カテリナさんのとこに行く前にちょっと寄り道。
ストールさんと一緒に執事さんやメイドさんが練習してるお部屋によって、ノートンさんを呼んで来てもらう事にしたんだ。
「初めて見る調味料ですが……これはまた面白い物を作りましたね」
ノートンさんが来るのを待って、お醤油をお披露目。
ノートンさんはさ、教える前からマヨネーズの事を知ってたでしょ?
だから僕、もしかするとお醤油の事も知ってるかも? なんて思ってたんだけど、どうやらこれは知らなかったみたいだね。
「黒くて塩辛いですが、とてもいい香りのするソースなのです」
「ああ。これだけを使って料理を作るのには少々味が強すぎる気がするが、これに砂糖やバターを溶かして使えばかなり美味いものが作れるんじゃないか?」
それにカテリナさんも初めて舐めたお醤油にびっくりしたみたいなんだけど、そこは料理長をするくらいすごい料理人さんだもん。
すぐにノートンさんと二人で、どんなお料理に合うかなぁってお話を始めちゃったんだよ。
それにね、考えるだけじゃなくってお醤油を持ってきた僕にも、これはいっつもどうやって使ってるの? って聞いてきたんだ。
「ルディーン君。君の家では、これをどのように使っているんだい?」
「僕んち? えっとね、お肉をぐちゃぐちゃにしたのを焼いて、それにお砂糖を混ぜたお醤油を塗って食べたよ。あとね、お母さんがこれでお魚を煮てくれたらすっごくおいしかったんだ」
このお醤油、作ったばっかりだから、まだいろんなもんに使ってないんだよね。
だからとりあえずぐちゃぐちゃお肉サンドと、お母さんが作ってくれたお魚を煮たやつが美味しかったよって教えてあげたんだけど、そしたらそれを聞いたノートンさんとカテリナさんがまた二人でお話を始めちゃったんだ。
「肉をぐちゃぐちゃに? なるほど、肉のパテのソースとして、砂糖でまろやかにしたしょうゆを使ったのか」
「パテと違うと思うですよ。パテだとお砂糖を混ぜても、上から塗ったら味が強すぎるではないですか?」
「なるほど。確かにルディーン君はこのソースを味付けに使ったのではなく、焼いた後に塗ったと言っていたな」
ノートンさんはそう言うとね、冷蔵庫のとこに行っておっきなお肉の塊を取り出してきたんだ。
「ルディーン君。この肉を刻むから、どれくらいの粗さのものを焼いたのか教えてもらえるかな?」
「うん、いいよ! あっ、でもせっかく作るんだったら、お野菜も細かく切って入れた方がおいしいんじゃないかなぁって、僕、思うんだ」
ノートンさんはね、考えててもしょうがないから作ってみる気になったんだって。
でもここは僕んちと違って、いろんなお野菜が置いてあるでしょ?
だからどうせ作るんだったら僕んちで作ったそのまんまのじゃなくって、お野菜が入ったのを作ろうよって言ったんだ。
そしたらそれを聞いたノートンさんは、確かにそうだねって。
「肉だけより、野菜の甘さが入った方がこの強い味には合うか。よし、カテリナ。肉は俺が担当するから、いくつかの野菜を細かく刻んでくれ」
「解りましたです」
と言う訳でぐちゃぐちゃお肉の醤油焼きを作る事になったんだけど……。
「こんなに荒くて、本当にいいのか? これだと焼いた時バラバラになりそうなんだが」
「うん、大丈夫だよ。あっ、そうだ! このお肉に、これよりもうちょっとおっきく切ったお肉を混ぜて焼いたらもっとおいしくなるかも?」
ノートンさんはね、僕がこれくらいだよって言ったお肉を見て、これじゃあ焼く事ができないんじゃないの? って言うんだよ。
なのに僕が、これにもっとおっきく切ったの肉を混ぜたらもっとおいしくなるかも? なんて言ったもんだから、すっごくびっくりしたお顔になっちゃったんだよね。
「いやいや、そんなのを混ぜたら、間違いなくバラバラになるだろ。それに野菜まで混ぜるんだろ?」
「うん。だからね、お肉とお野菜がくっつくように、卵の黄身も入れてぐちゃぐちゃすればいいんじゃないかなぁって僕、思うんだ」
「卵を? ふむ、確かにそれなら纏まるか」
卵は焼くと固まるから、それを入れとけばお肉とお野菜がくっつくでしょ?
その事を教えてあげると、ノートンさんはそれなら大丈夫だねって。
「カテリナ、野菜は切れたか?」
「はい、できてるなのですよ」
でね、ノートンさんはカテリナさんから切ったお野菜を受け取ると、それとお肉を一個のおっきなボウルの中に入れて、その中に卵の黄身も何個か入れたんだよ。
「下味の塩は入れた方がいいんだよな?」
「うん。その方が絶対おいしいよ」
そしてその中にお塩を入れて、
「ほんとなら胡椒も入れたいところだが、ルディーン君も食べるからなぁ」
何て言いながらぐちゃぐちゃってかき回したんだ。
でね、まぁこんなもんかなって言うと、
「とりあえずしょうゆでの味付けは後にして、試しにこれだけで焼いてみるか」
フライパンに油をひいて、その中に適当な量のお肉を入れて焼き始めたんだよ。
「ノートンさん。そのまんま焼いちゃうとお肉の汁が全部出ちゃうから、片面が固まるまで焼けたらひっくり返して。そしたらそこにちょびっとだけお水を入れてから蓋をして、焦げちゃわないように火を遠くにして焼いてね」
「おう、解った」
でもそのまんま普通のお肉みたいに焼くと、ぐちゃぐちゃにしたからお汁が全部出ちゃっておいしく無くなっちゃうんだよね。
だからお水を入れた後に蓋をして蒸し焼きにしてもらったんだけど……。
「おお、これはなかなか」
「お野菜とお肉がいい味を出しているのです」
ノートンさんとカテリナさんがおいしいおいしいって食べてたのに、僕だけはちょっと困ったお顔になっちゃったんだ。
いや、これはこれでとっても美味しいんだよ?
でもさ、
「これ、お肉のぐちゃぐちゃ焼きじゃなくって……なんて言ったっけなぁ。お野菜がいっぱい入ったミートロ何とかって言うお料理になっちゃった」
いろんなお野菜をいっぱい入れすぎたからなのか、出来上がったお料理は前の世界で見た事のある別のお料理になっちゃってたんだ。
読んで頂いてありがとうございます。
ルディーン君の言う通り、おいしいミートローフもどきが完成しましたw
一般的にミートローフは真ん中に茹で卵が入っているものが多いですが、多くの野菜が入っただけのものもあるんですよ。
それと本来ミートローフはオーブンで作りますが、蒸し焼きにしたことによりフライパンがスチームオーブンのような役割をしてこのようなものが出来上がったと言う訳です。




