537 イーノックカウに行く日が決まったんだよ
その日、僕はいつもとおんなじようにみんなで朝ご飯を食べてたんだよ?
そしたらさ、お父さんが急にこんなこと言い出したんだ。
「来週の頭から、家族みんなで3日ほどイーノックカウに行くぞ」
「ルディーンが居住権を取ったでしょ? その登録をしに行くのよ」
僕が取った居住権って、誰かが取れば家族みんながもらえるんだって。
でね、それを持ってるとイーノックカウに入る時にお金を払わなくっても良くなるから、近いうちに家族みんなで来てねってルルモアさんに言われてたんだ。
でもこないだ家族でイーノックカウまで遊びに行ったばっかりだったもんだから、みんな村のご用事やお仕事があったでしょ?
だからなかなか行けなかったんだけど、やっとそれが終わったから行く事にしたんだよってお父さんは言うんだ。
「わぁ、また家族みんなでお出かけするんだね。またお菓子屋さんに行けるかなぁ?」
「私は雑貨屋さんに行きたいかな。いいでしょ? お母さん」
それを聞いたレーア姉ちゃんとキャリーナ姉ちゃんは大喜び。
雑貨屋さんやお菓子屋さんに行きたいねって、にこにこしながらお話してるんだよ。
「そうねぇ、今回は登録をするのが目的だから特にする事もないし、お店を周る時間はあると思うわよ」
「やったぁ!」
雑貨屋さんはどっちでもいいけど、お菓子屋さんには行きたいなぁ。
僕がお母さんとお姉ちゃんたちのお話を聞きながらそんな事考えてたらね、
「ああ、そうだ。ルディーン。後でイーノックカウまで行って、来週の頭に私たちが行く事を知らせてもらえないかしら?」
お母さんが、来週行くよってイーノックカウのお家に言いに行ってって。
「みんなで行くよって言いに行くの?」
「ええ。今回は居住権の登録をするために行くというのもあるけど、ルディーンが買ったお家を見ておきたいという目的もあるのよ」
「ああ、それに折角家を買ったんだ。そこに泊まってみたいからな」
今までだったら、イーノックカウに行く時はいっつも宿屋さんに泊まってたでしょ?
でも僕がお家を買ったから、今回はみんなでそこに泊まりたいんだって。
「ただ、いきなり行ったら管理をしてくれているという錬金術ギルドのギルドマスターさんやロルフさんのご迷惑になるかもしれないでしょ? だからルディーンに、前もって連絡をしてもらいたいのよ」
「そっか。うん、いいよ。僕、みんなで遊びに来るよって、ストールさんに言ってくるね」
僕だけだったらいいけど、家族みんなで急に行ったらストールさんがびっくりしちゃうかもしれないもんね。
それにみんなが泊まるんだったら、お部屋の準備もしなきゃダメでしょ?
だから僕は、ジャンプの魔法を使ってイーノックカウのお家に行ってくる事になったんだ。
せっかくイーノックカウのお家まで行くのに、ただみんなで行くよって言いに行くだけだとつまんないよね?
だから僕、お土産を持ってく事にしたんだ。
「お母さん、お醤油を持ってくから、お水を入れる皮袋に入れて」
「あら、あんなものを持っていくの?」
「うん。こんなのができたよって、ノートンさんとカテリナさんに見せてあげるんだ」
お醤油はロルフさんちになかったから、もしかしたらノートンさんも知らないかもしれないでしょ?
だから僕、せっかく作ったんだから見せてあげようって思ったんだよ。
でもね、それを聞いたお母さんは不思議そうなお顔をして僕に聞いてきたんだ。
「ノートンさんとカテリナさん? 聞いた事無い名前だけど、誰の事を言っているの?」
「あのね、二人ともロルフさんちの料理人さんなんだよ。ノートンさんは魔道泡だて器が無くってもマヨネーズが作れるくらい、凄い料理人さんなんだ」
僕がノートンさんたちの事を教えてあげるとね、お母さんはああなるほどってうんうん頷いたんだ。
「確かに料理人なら、しょうゆに興味を持つでしょうね」
「でしょ? だから、持ってってあげるんだ」
お醤油はいろんなお料理に使えるでしょ?
僕だとお肉を焼いたりお魚を煮たりするくらいしか思いつかないけど、ノートンさんくらいすごい料理人さんだったらもっと美味しいもんを作ってくれるかもしれないもん。
だから僕、お土産に持ってこうって思ったんだ。
「解ったわ。ちょっと待ってね」
お母さんはそう言うとね、ちっちゃめのお水を入れる皮袋を出して来て、かめの中に入ってるお醤油をその中に入れてくれたんだよ。
「あまり多く持っていくとうちの分が無くなってしまうから、これくらいでいい?」
「うん! ありがとう、お母さん。それじゃあ、行ってくるね」
「気を付けて行ってくるのよ」
僕は皮袋に入ったお醤油を受け取ると、お母さんにありがとうって言ってからジャンプの魔法でイーノックカウのお家に飛んでったんだ。
「あれ? あっ、そっか。ここが僕のお部屋だったっけ」
ジャンプで飛んでったらね、そこがすっごいお部屋の中だったもんだから、ちょっとびっくりしちゃった。
でもそう言えばこのお家は僕んちだからって、ロルフさんとストールさんがここを僕のお部屋にしたんだっけ。
それを思い出した僕は、そのすっごいお部屋のドアを開けてお外に出たんだ。
「ストールさん、どこにいるかなぁ?」
もっと朝早かったり、逆にもっと遅かったりしたらお部屋にいると思うんだよ。
でも朝ご飯を食べてからかなり時間がたってるからストールさん、今はもうお仕事をしてると思うんだよね。
そう思った僕は、階段を下りてメイドさんや執事さんがお勉強をするお部屋に行く事にしたんだ。
何でかって言うとね、前にストールさんがそういう人たちに教えるお仕事もしてるんだよって言ってたから。
「あら、ルディーン様。いらっしゃっていたのですか?」
でもね、そのお部屋に着く前に廊下でストールさんに会う事ができたんだ。
「ストールさん、こんにちわ!」
「はい、こんにちは。今日は何か旦那様にご用事ですか?」
「ううん。あのね、お母さんが来週みんなでイーノックカウに行くよってストールさんに教えてきてねって」
僕はストールさんに、何で来たのかを教えてあげたんだよ?
そしたらストールさんは、ああなるほどって言って、
「ルディーン様は、先触れの使者なのですね」
にっこり笑いながらよく解んない事を僕に言ったんだ。
「さきぶれ? それなに?」
「ああ、えっとですね。どこかの家を訪ねる時に、前もって送り出す者の事を先触れの使者っていうのですわ」
そっか、さきぶれって今から行くよって言いに行く人の事だったのか。
そう言えば前にもロルフさんやストールさんが、お家の人にそんなこと言ってた気がする。
あの時はよく解ってなかったけど、ロルフさんたちはどっか行く時にいっつもそのさきぶれって人を先に行かせてたんだね。
「そっか。じゃあ、僕はそのさきぶれって人だ。ストールさん。来週になったら、イーノックカウの僕んちにみんなで来るって教えに来たよ」
「はい。承りました」
僕がさきぶれってののお仕事をしたらさ、ストールさんはお辞儀をしながら解ったよってお返事をしてくれたんだ。
でもね、
「ただ、その家の主人が帰宅する事をご自分で知らせた場合、はたしてそれを先触れの使者と言ってもいいものなのかしら?」
その後ストールさんはこんな事を言いながら、あごに人差し指を当てて頭を少しだけこてんって倒したんだ。
読んで頂いてありがとうございます。
ストールさんが疑問に感じている通り、ここはルディーン君の家ですからねぇ。
言ってみればこれは魔法を使っての帰るコールですから、確かに先触れとは少し違うような?
でもまぁ。やっている事は同じなんですけどね。




