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536 お醤油と言ったらやっぱりお魚だよね


 お父さんが頑張ってくれたもんだから、お醤油搾り器の入れもんにつけるドアは思ったよりも早く完成したんだよね。


「今はお昼を少し過ぎたくらいだし、本当は食べる予定じゃなかったけど、早く終わったからご飯を食べる?」


「うん、食べる!」


 石の壁にドアをつける時は、木枠に固まる泥を塗ったりしないとダメだから、ほんとだったらすっごく時間がかかるんだって。


 だから朝ご飯の時にお母さんから、今日のお昼ご飯は無しねって言われてたんだよね。


 でも僕が開けた穴がきれいだったもんだから、木枠を嵌めて固定するだけですんじゃったでしょ?


 そのおかげで早く終わっちゃったから、やっぱりお昼ご飯を食べようねって事になったんだ。


「おお、そうか。シーラ、それならこの前話していた、ぐちゃぐちゃ肉ってのを焼いて、そのしょうゆってので味付けをしたものを作ってくれよ」


「あら、ダメよ」


 そしたらさ、お父さんがこないだ僕たちが食べたぐちゃぐちゃ肉をパンで挟んだお料理を作ってって言ったんだよ。


 でもね、そんなお父さんにお母さんはダメだよって。


「何故だ? しょうゆってのはできたんだろ? それにブラックボアの肉だって、まだ冷蔵庫の中にあるはずだし」


「ええ、まだあるけど、今晩のおかずはそれにして欲しいってディックたちに頼まれているもの」


 ディック兄ちゃんたち、僕たちがぐちゃぐちゃ肉の事をすっごく美味しいって言ってたもんだから、お醤油ができた絶対作ってねってお母さんに頼んでたんだよね。


 だから今晩のおかずはそれにするから、今はダメだよって言うんだ。


「なるほど。確かに昼も夜も同じおかずってのは、俺も嫌だな」


「そうでしょ。だから夜まで待ってね」


 夜ご飯の時に作ってくれるって聞いたお父さんは、それならお昼は別のものにした方がいいねって。


 でもね、それならお昼ご飯は何にしよう? っていうお話になったんだよ。


「お昼だし、燻製肉を軽くあぶってパンにのせて食べるくらいでいいんじゃないかしら?」


「う~ん。一度しっかりしたものを食べたいと思ってしまったからなぁ」


 僕んちのお昼ご飯はさ、いつもすぐに作れる簡単なものを食べる事が多いんだよね。


 だからお母さんはよく作ってる燻製してあるお肉に串を刺して、それをかまどの火で軽くあぶってからパンの上に切ってのっけるだけのやつでいいじゃないって言ったんだけど、お父さんはもっとちゃんとしたのを食べたいって言うんだ。


「私も! せっかくおしょうゆができたんだから、それを使ったなんかが食べたい!」


「あら、キャリーナまでそんな事を言うの?」


 それにね、キャリーナ姉ちゃんまでこんな事を言い出したもんだから、お母さんはちょっと困ったお顔になっちゃったんだよね。


「そうはいっても、私もしょうゆを使った料理はこの間初めて作ったから、どんなふうに使ったらいいのか解らないのよねぇ」


 お醤油のお料理が食べたいって言われても、お母さんもこないだ初めて食べたもんだからぐちゃぐちゃお肉サンドしか作り方を知らないんだよね。


 だから僕に、どんなのを作ったらいいの? って聞いてきたんだよ。


「ルディーン。しょうゆってどんな料理に合うの?」


「お醤油を使ったお料理?」


 お母さんに聞かれた僕は、どんなのがあったっけって頭をこてんって倒したんだ。


「お砂糖を混ぜてお肉を焼くのは今日の夜ご飯で食べるんだよね? だったらなんかを煮るお料理がいいかなぁ」


「煮る? って事はお野菜を使うの?」


「それでもいいし、お魚を煮るのでもいいよ」


 イーノックカウの近くに流れてるおっきな川と違って、グランリルの村の中を流れてる川のお水はとってもきれいなんだよね。


 だからそこで獲れるお魚は、川のお魚なのに泥臭くないんだ。


 それにね、森の中を流れてきてるからなのか、他の川のお魚よりもおっきいからお醤油で煮たらおいしいんじゃないかなぁって、僕、思うんだよね。


「魚か。このところ肉ばかり食べていたから、たまにはいいかな」


「でもハンス。今から釣りに行ってたら、かなり時間がかかってしまうんじゃないかしら?」


 おっきな街のイーノックカウと違って、グランリルの村にはお魚屋さんなんてないでしょ?


 だから釣ったりしないとダメなんだけど、お母さんはそれじゃあお昼が遅くなっちゃうじゃないのって言うんだよね。


「ああ、そう言えばそうか」


「え~、お魚、食べられないの?」


 それを聞いたお父さんが流石に今からじゃ無理かなって言ったんだけど、お話を聞いてて食べたくなってたのか、キャリーナ姉ちゃんがすっごく悲しそうなお顔をして僕に聞いて来たんだ。


「ねぇ、ルディーン。何とかならない?」


「う~ん。なんかいい方法、無いかなぁ?」


 実は僕も、もうすっかりお魚を食べる気でいたんだよね。


 だから頭をこてんって倒して、一生懸命考えたんだよ?


 でも何にも浮かばなかったもんだから、あきらめようかって思ったんだけど、


「ああ、そう言えばルディーンの魔法があったか」


 そしたらお父さんがこんなこと言うんだもん。


 びっくりして、何の事? って聞いてみたんだよね。


「お父さん。僕、お魚を釣る魔法なんて持ってないよ?」


「いやいや、別に釣る必要はないだろう。魚が獲れさえすればいいんだから」


 お父さんはそう言うとね、僕にお魚の獲り方を教えてくれたんだ。


「イーノックカウの森でブレードスワローを魔法で狩ってただろ? 魚もあれで狩れるんじゃないか?」


「う~んどうだろう? お水の中に入ったら魔法が曲がっちゃうかも?」


 お水の中に石を投げると、勢いがなくなってすぐに沈んじゃうでしょ?


 僕、お水の中に魔法を撃ったことが無いから、もしかするとおんなじようにまっすぐ飛んでかないかも? ってお父さんに言ったんだ。


 そしたらさ、お父さんはちょっとあきれたようなお顔になってこう言ったんだよ。


「ルディーン。ブレードスワローの時も、羽が傷つかないようにって魔法を撃つ場所を変えていただろ? なら今回も、魚の真上から撃てばいいじゃないか」


「そっか! そしたらお水に入ってもそのまんま沈んでってくれるもんね」


 横から撃ったら下に曲がっちゃうかもしれないけど、上から撃ったら曲がんないもんね。


 お父さん、頭いい!


 って事で僕とお父さんは、二人で村のお外へ。


 村の中で魔法撃ってたら、みんなびっくりしちゃうもんね。


「よし。この辺りなら魚を撃ち抜いても大丈夫だろう」


「じゃあ、お父さん。いっしょにお魚、探そ」


 あんまり村に近いとこで狩ると魔法でお魚を撃った時にその血が村まで流れてっちゃうかもしれないから、ちょっと離れたとこまで行ってから狩りを開始。


 僕とお父さんは、どっかにお魚いないかなぁって川の中を覗き込んだんだよ。


 そしたらさ、おっきなお魚が何匹か泳いでたんだ。


「お父さん、すっごくおっきなお魚がいるよ!」


「ああ、あれなら1匹でも全員で食べられそうだな」


 お父さんの言う通り、川の中で泳いでるお魚は僕が両手を広げたくらいおっきかったんだよね。


 だから今日は、あの一匹だけを獲って帰る事にしたんだ。


「それじゃあ、魔法を撃つね」


 僕はお父さんにそう言うと体に魔力を循環させて、


「マジックミサイル!」


 って力のある言葉を唱えてから、狙ったお魚の真上になるように射出場所を移動させて魔法を撃ったんだよ。


 そしたら思った通り、魔法はお水の中に入ってもそのまんままっすぐ進んでお魚に命中。


 そのせいで近くにいたお魚はみんなびっくりしてどっか行っちゃったけど、魔法が当たったお魚はその場でぷかぁって浮いてきたんだ。


「やったな、ルディーン」


 それを見てたお父さんは川の中に入ってお魚を取ってくると、解体用のナイフを使って内臓を取ってから川のお水でじゃぶじゃぶ洗ったんだよ。


「魔法が頭に当たってるおかげで、身にもまったく傷が無くてとっても美味そうだな」


「うん!」


 お父さんと僕はね、にこにこしながらそのお魚を持ってお家へ帰ってったんだ。



 お母さん、お醤油を使うのは初めてだけどお魚を煮るお料理は作った事あるでしょ?


 だから僕は味のつけ方だけを教えて、後はお母さんに全部任せちゃったんだ。


「おお、確かに香草と塩だけで煮るより、このしょうゆってので煮た方が魚は美味いな」


「お砂糖を入れると聞いて少しびっくりしたけど、確かにこの方が甘みもあっておいしいわね」


 そしたらすっごくおいしくできたもんだから、お父さんは大喜び。


 作ったお母さんも、お醤油にはお砂糖を入れた方がおいしくなるんだねって。


「私、このお料理も好き!」


「そう。なら肉料理ばかりじゃなくって、このお魚を煮る料理もたまに作る事にしましょうね」


 それにね、キャリーナ姉ちゃんもすっごくニコニコしながらおいしいって言ったもんだから、このお魚を醤油で煮るお料理が僕んちのメニューに加わる事になったんだ。



 読んで頂いてありがとうございます。


 照り焼きもいいですが、やはり醤油と言えば魚の煮つけですよね。


 今回の料理は、まったく泥臭くない鯉を使った煮つけと言った感じかな?


 ただ、グランリルの村に流れている川で泳いでいる魚なので、当然現実のものよりおいしいんじゃないかなぁなどと私は思ってっていますがw


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