535 お父さん、まだあきらめてなかったみたいなんだよ
お母さんが残りのお醤油の事は任せてって言ってくれたもんだから、僕とキャリーナ姉ちゃんはお庭にある石の入れもんの所へ。
そしたらお父さんがトンテンカンしてたもんだから、僕は来たよーって声をかけたんだ。
「お父さん、なんかお手伝いする事ある?」
「おっ、いい所に来たな。あるぞ」
そしたらお父さんが手伝ってって、僕たちにおいでおいでしたんだよ。
だから僕とキャリーナ姉ちゃんは、お父さんとこに走ってったんだ。
「お父さん、どんなお手伝いをしたらいいの?」
「ちょうどついさっき、ドアをつける木枠が出来上がってな。それを取りつける作業に入るから、木枠が動かないように押さえていて欲しいんだ」
僕たちがお醤油の火入れをしてるうちにね、お父さんはドアをつける木枠を完成させてたんだって。
だから今はそれにつけるドアを作ってたそうなんだけど、僕たちが来たでしょ。
それなら先に木枠をつけちゃった方がいいんじゃないかなぁって、お父さんは思ったんだってさ。
「それじゃあ俺がはめ込んでいくから、二人は外れないように支えていてくれよ」
「うん、いいけど……お父さん、この木枠、なんか変じゃない?」
「あっ、ほんとだ、これ、ちゃんとくっついてないよ」
お父さんはさっき、木枠がもうできてるって言ってたでしょ?
なのにさ、3本の角材で作ってあった木枠は何でか知らないけどしっかりくっついてなくって、なんかぐらぐらしてたんだよね。
だから僕とキャリーナ姉ちゃんは、まだできてないんじゃないの? って思ったんだ。
でもね、お父さんはこれでいいんだよって。
「これでいいの?」
「ああ。普通の石壁と違って、こいつはルディーンが魔法で作った壁だろ? だから表面に凹凸が無いし、薄いから継ぎ目を塗り固めるのではなく、壁に木枠を差し込むようにして固定しようと思っているんだ」
この醤油搾り器の入れもんってさ、僕がクリエイト魔法で作ったから薄い石の壁でできてるでしょ?
だからお父さんは木の柱を壁にはめ込んでく事で、木枠を固定した方がいいって考えたそうなんだよね。
「ほんとだ。柱に溝が掘ってある!」
「それに見て、ルディーン。これ、くぎじゃなくって長い方の棒に穴を空けて、そこに短い方を差し込んでるだけだよ」
「おっキャリーナ、よく気が付いたな。今少しぐらついているのは、その穴を少しだけ大きく作ってあるからなんだぞ」
差し込んでる穴がおっきいから、木枠はちょっとだけ斜めになるように動かす事ができるでしょ?
だからまず片方の柱を壁に差し込んでから上の枠ともう片方の柱を木槌でとんとんしてく事で、全部の木を壁に差し込む事ができるんだってさ。
「それじゃあ片方の柱を差し込むから、ずれないように押さえておいてくれよ」
「うん。いいよ!」
お父さんが嵌めてくれた柱をね、僕とキャリーナ姉ちゃんが二人で動かないように壁に向かってぎゅって押したんだよ。
そしたらそれを見たお父さんは、上っ側の木ともう一個の柱がつながってるとこを、反対側の溝に差し込んでから木槌でとんとん叩いってったんだ。
「よし、もういいぞ」
「もうできたの?」
「これでドア、つけられる?」
でね、お父さんがもういいよって言ったもんだから、僕とキャリーナ姉ちゃんは手を離したんだ。
そしたら木枠が全部石の壁にはまってたもんだから、僕とキャリーナ姉ちゃんはこれで完成? って聞いたんだよ。
でもお父さんは、
「いや、これからが最後の仕上げた」
って言いながら横に置いてあった一枚の板を手に取って、僕たちに見せてくれたんだ。
「ほら、ここに何個か穴が開いているだろ? この板を木枠の下にはめてからこの穴にこの鉄の平杭を打ち込んで固定したら木枠は完成だ」
見せてもらった板にはね、お父さんの言う通り長方形の穴が3つ開いてたんだ。
この木は嵌め込んだ木枠がずれないようにつっかえ棒として嵌めるそうなんだけど、ドアの下っ側につけるよね。
だからドアを通る時に間違って蹴っ飛ばしてもずれないようにって、この板と平行に平ぺったい鉄の杭を打っておくんだよってお父さんは僕たちに教えてくれたんだ。
木枠が出来上がったという事で、お父さんはドア作りを再開。
「よし、それじゃあドアを取り付けるぞ」
「は~い」
そしてそれが完成したって事で、また僕とキャリーナ姉ちゃんの出番だ。
「ルディーン。蝶番はできてるんだよな?」
「うん。これだよ」
ドアにつける蝶番は昨日のうちにクリエイト魔法で作っておいたんだよね。
だから僕は、それをポシェットから出してお父さんに渡したんだ。
「よし、まずはこれをドアに取り付けてと」
お父さんはね、曲がっちゃわないようにって慎重に蝶番を作ったばっかりのドアに取り付けると、さっき木枠の下っかわに入れた木の板よりもちょびっとだけ厚い、短めの板を2枚取り出したんだ。
でね、その板を木枠の前に置くと、
「二人とも、この上に今からドアを乗せるから、柱に固定し終わるまで動かないように支えておいてくれ」
そう言って、その板の上にドアを乗っけたんだ。
「これでいい?」
「ああ。二人とも、釘を打ち終わるまでの間、しっかりと支えてるんだぞ」
お父さんはそう言うとね、お口に釘をくわえて、上の蝶番から順番にとんとんって打ち付けてったんよ。
でね、それが全部終わると、
「よし、もういいぞ」
僕たちにそう言ってから、下に敷いてた板を外してちゃんと動くかどうかの確認。
「うん。ちゃんと閉まるようだな。後は勝手に開かないようにする閂をつけるだけだが」
「お父さん。それならもう作ってあるよ」
僕ね、昨日蝶番を作る時に、閂も一緒に作っておいたんだよね。
だからそれをお父さんに渡すと、偉いねって頭をなでてくれたんだ。
「木で作るのは意外と面倒だからな、助かったぞ」
「えへへっ」
それを取りつけたところで、醤油搾り器の入れもんのドアが完成!
「やったぁ!」
「ルディーン、これでいっぱいおしょうゆをつくれるね」
「うん!」
それを見た僕とキャリーナ姉ちゃんが、これでいっぱいおいしいものが食べられるようになるねって二人で喜んでたんだけど、
「ああ、その事なんだが」
そしたらお父さんが何でか知らないけど、すっごくちっちゃな声で僕に話しかけてきたんだ。
「ルディーン、お父さんは頑張ってドアを作ったよな?」
「うん。ありがとう、お父さん」
「それでだ、頑張った分だけご褒美をもらってもばちは当たらないと思うんだ」
お父さんはそう言うとね、この醤油搾り器を使ってお酒も造ってくれないかなぁって。
「僕はいいけど……お母さんに怒られない?」
「ああ、だからシーラには秘密にで、だ」
お父さん、この前おんなじ事を僕に言ってお母さんに怒られてたよね?
でもこんなに頑張ったんだから、作ってくれたっていいじゃないかな? って言うんだよ。
「これだけ働いたんだから、それくらいのご褒美はあっていいとお父さんは思うんだが」
「そっか。お父さんは一生懸命ドアを作ってくれたもんね。うん、いいよ。僕、お酒作ってあげる」
お父さんは僕のお願いを聞いてドアを作ってくれたもん。
だったらお父さんのお願いを聞かないとダメだよね。
そう思った僕は、お父さんにお酒を造ってあげるお約束をしたんだ。
「おお! よし、それじゃあ明日にでも森で材料になるものを採ってくるとするか」
そしたらお父さんはすっごく嬉しかったのか、さっきまではちっちゃな声でお話してたのにおっきな声でこんな事を言ったんだよ。
でもさ、僕たちお庭にいるでしょ?
そんなおっきな声出したら……。
「あら、ハンス。森へ行って、何の材料を採ってくるというのかしら?」
「しっ、シーラ」
お台所はお家の中にあるけど、おっきな声を出したらそりゃあ全部聞こえちゃうよね。
せっかくさっきまではちっちゃな声でないしょのお話をしてたのに、おっきな声を出したもんだから全部お母さんにばれちゃったんだ。
「ハンス! ルディーンに、小さな子供にお酒を造らせようだなんて、何を考えているの!」
「いや、そうは言うが……少しくらいはいいじゃないか」
「あら、確かに初めは少量かもしれないけど、一度許可を出したらどんどんエスカレートするんじゃないかしら?」
お母さんもね、絶対作っちゃダメって言ってる訳じゃないんだって。
「例えばイーノックカウに行って、ベニオウの実のような特別なものが手に入れた時はいいわよ? でも村の森に入ったらすぐに手に入る物でお酒を造り始めたら、際限なく作る未来しか私には思い浮かばないのだけど」
「いや、流石にそんな事は……」
「私は忘れていないわよ。芋からでもお酒が作れると聞いて喜んでいたことを」
お母さんがそう言うとね、それを聞いたお父さんはすっごくしょんぼりしちゃったんだ。
でもそんなお父さんにお母さんは、そんなにしょんぼりしなくってもいいでしょって。
「ハンス。私たちはルディーンの取った居住権の登録のために、家族全員で近いうちにイーノックカウに行く事が決まっているでしょ? その時に買って来た果物でならルディーンにお酒を造ってもらってもいいから、それまでは我慢してね」
「そうか。そう言えばそうだな」
そう言えば僕たち、またみんなでイーノックカウに行くんだっけ、
お父さんはね、さっきまであんなにしょんぼりしてたのに、お母さんにそう言われたらすぐにすっごく元気になっちゃったんだよ。
「よし! キャリーナ、ルディーン、イーノックカウに行ったらまた森に行くぞ! ベニオウの実を採りに行くんだ」
「またあのベニオウの実が食べられるの? やったぁ!」
でね、イーノックカウに行ったらまたみんなでベニオウの実を採りに行こうねって、僕とキャリーナ姉ちゃんに約束したんだ。
読んで頂いてありがとうございます。
ハンスお父さんは、ルディーン君にお酒を造ってもらうのをあきらめてはいませんでした。
まぁ気持ちは解らない事もないですよね。
なにせグランリルではお酒を造っていないので、いつも家では残量を気にしながらお酒を飲んでいるのですから。
それがいつでも手に入るようになるかもしれないというのですから、酒飲みからしたら夢のような話です。
でもまぁ、だからと言って8歳の息子に作ってもらうというのもどうかとは思いますけどねw




