532 このまんまじゃダメじゃないか!
ぐちゃぐちゃお肉サンドを食べ終わった僕たちはね、またお庭に出てお醤油を搾ってるとこを見に来てるんだ。
「あっ、ちょろちょろとしか出なくなってる」
搾り初めはいっぱい出てたお醤油だけど、今は出てくる量が減ってきててちょろちょろとしか出てこなくなっちゃってたんだよね。
だからなのか、それを見たキャリーナ姉ちゃんがこんなこと言ったんだ。
「ルディーン。もうすぐ全部出てきちゃうかなぁ?」
「ううん。多分まだすっごく時間がかかると思うよ」
雑巾だって、最初に絞った時はいっぱいお水が出てくるけど、その後はギュッてしぼってもちょっとしかお水が出てこないでしょ?
それとおんなじで、最初のうちはもろみの中にお醤油がいっぱい入ってるから上に重しをのっけてやればいっぱい出て来たけど、これからは残ってるのがちょっとずつ出てくるだけだもん。
だから全部出てくるまでにはすっごく時間がかかると思うよって、僕はキャリーナ姉ちゃんに教えてあげたんだ。
「そうなんだ。でもさ、それならこのまんまじゃダメなんじゃない?」
「なんで? このまんまでもお醤油、ちゃんと出てくると思うよ」
「うん。でもさ、ここお外だもん。すっごく時間がかかっちゃうなら、雨とか降ってくるかもしれないでしょ?」
「あっ、そっか!」
キャリーナ姉ちゃんの言う通り、お外で搾ってるんだから雨とか降ってきたら大変だよね。
それにさ、今日はお父さんやお兄ちゃんたち、それにレーア姉ちゃんも森に行ってるもん。
今日はお母さんがお家にいるからお父さんがブラウンボアみたいなおっきな魔物を狩ってくる事は無いけど、もしかしたらちっちゃな獲物をいっぱい持って帰ってくるかもしれないでしょ?
そしたらお庭で解体しなきゃダメだから、そしたらほこりがたってお醤油に入っちゃうかも。
「お母さん、どうしよう? このまんまだと、お醤油にいろんなもんが入っちゃうかも!」
「言われてみれば、確かにそうよねぇ」
だから僕、お母さんにどうしようって聞いてみたんだよ?
そしたらお母さんはちょっとの間う~んって考えてから、僕にこう言ったんだ。
「ねぇ、ルディーン。この醤油を搾る入れ物はルディーンが魔法で作ったのよね? ならこれを囲う物は作れないの?」
この醤油搾り器って、僕がお庭の土を材料にしてクリエイト魔法で作ったでしょ?
だからお母さんは、これの周りにもおんなじように石で囲いを作れないの? って聞いてきたんだよ。
でもね、それがダメなんだ。
「ダメだよ。僕、石で囲むのは作れるけど入口が作れないもん」
「入口が作れないって、囲いは作れるけど、どこか一カ所に穴をあける事はできないって事? でも、この醤油を搾る入れ物、上が開いていたり下に醤油が出てくるとこが作ってあったりするわよね。それは作れるのに入口は作れないの?」
「そうだよ。そっちの方が作るの難しそうなのに、何で作れないの?」
僕が入口が作れないからダメって教えてあげたらね、お母さんだけじゃなくってキャリーナ姉ちゃんまで何で? って聞いてきたんだよね。
だから僕、なんでダメなのかも教えてあげる事にしたんだ。
「だってさ、石じゃ入口のドア、作れないもん。ドアが無かったら、入口からほこりが入っちゃうからダメじゃないか!」
「ああ、なるほど。ドアをつけようと思ったら蝶番とかがいるものね」
お母さんが言う通り、ドアを作ろうと思ったら開けるための道具がいるでしょ?
僕、鋼の玉を何個かポシェットに入れてるからそれをクリエイト魔法で作る事はできるけど、でもそれを石で作った壁やドアにつける事はできないんだよね。
「石には釘が刺さんないでしょ? だから入り口は作れないんだ」
僕が石で作ったらドアが作れないよって言ったらね、それを聞いたキャリーナ姉ちゃんが頭をこてんって倒したんだ。
「あれ? でもさ、イーノックカウにあった石のお家、ちゃんとドアがついてたよ。なんで?」
「あっ、そう言えば本屋さんや宿屋さんは石でできたお家だったのに、ちゃんとドアがついてたっけ」
キャリーナ姉ちゃんのお話を聞いて、僕もなんでだろう? って思ったんだよ?
そしたらそんな僕たちに、お母さんがどうやってドアをつけてるのかを教えてくれたんだ。
「ああそれはね、石を使って壁を作った後に扉よりも一回り大きな穴を空けて、そこに木枠をはめ込んでいるからよ」
「そっか。それなら釘が刺さるから、ドアが付けられるんだね」
石のお家を作る時はね、まず壁を作っちゃってから後で石を割って入り口や窓の穴をあけるんだって。
でね、その穴に合わせて職人さんが木枠をはめ込んでからドアや窓を作るそうなんだ。
だってもし最初に木枠やドアを作っといたら、石を割る時に失敗して穴がおっきくなった時に作り直さなきゃいけなくなっちゃうからね。
「だったらさ、ルディーンも木枠を作ってドアをつければいいんじゃないの?」
「ダメだよ。だって僕のクリエイト魔法、木は石や鉄みたいにうまく形を変えられないもん」
僕ね、銅や鉄だったらどんな形も魔法で作る事ができるんだよ。
でも木はあんまり使った事無いから、形を変える事はできても大きさとかが思ってたのよりちょっとずつ違っちゃうんだよね。
だから木枠だけ作ってそれに石壁の入口の穴を合わせる事はできても、それにつけるドアをその木枠にちょうど入る大きさにする事ができないんだ。
「だったらさ、ドアはお父さんに作ってもらったらいいんじゃないの?」
「ダメだよ。だってお父さん、森から帰ってきたらすぐに獲ってきた獲物の解体をしなきゃダメだもん」
やっつけたばっかりの獲物って、まだあったかいでしょ?
だから獲ってきたらすぐに解体しないと、お肉がどんどん悪くなってちゃうんだよね。
「じゃあさ、じゃあさ、解体が終わった後は? それならお父さんもドア、きっと作ってくれるよ?」
「その後だったら手伝ってくれると思うけど、お庭で解体してると魔物の毛とかお庭の土とかがばぁって舞っちゃうもん。そしたらそれがお醤油に入っちゃうから、それまでにドアをつけちゃわないとダメじゃないか」
「あっ、そっか。そういうのが入んないように、周りを囲むんだもんね」
これには僕もキャリーナ姉ちゃんも、ほんとに困っちゃったんだ。
でもね、そんな僕たちにお母さんが、フフフって笑いながらとってもいい事を教えてくれたんだよ。
「大丈夫よ、二人とも。頼めばちゃんとハンスが入口のドアを作ってくれるから」
「ええっ! でもお父さん、帰ってきたらすぐに解体始めちゃうってルディーンが言ってるよ?」
、
「そうだよ。だってドアなんか作ってたら、お肉がダメになっちゃうもん」
「ええ、そうね。でも、ルディーン。あなた、壁を作った後でも魔法で穴を開ける事ができるんじゃないかしら?」
これを聞いた僕は、すっごくびっくりしちゃったんだ。
だってさ、そんな事全然思いつかなかったんだもん。
「あっ、そっか! クリエイト魔法で作った壁だったら僕、後からでも入口の穴、あけられるよ」
「やっぱり。それならとりあえず今はすべてを囲ってしまって、それからハンスが作った木枠とドアがはまる穴を空ければいいんじゃないかって、お母さんは思うわよ」
そっか。
それだったら僕の魔法ですぐに作っちゃえるもんね。
「わかったよ! 僕、魔法でこのお醤油搾り器の周りに壁と屋根を作っちゃうね」
「ねぇ、ルディーン。おしょうゆはどうするの? このまま置いといて、あふれちゃわない?」
「大丈夫だよ、キャリーナ姉ちゃん。だってあのかめ、さっきまでもろみが入ってたのとおんなじ大きさの奴だもん」
お醤油はもろみを搾ったもんだから、大豆や小麦の搾りかすが残る分できる量は少なくなるんだよね。
だから一緒に囲っちゃっても、出てきたお醤油がかめからあふれちゃう事は無いんだ。
「それじゃあ、お父さんたちが帰ってくる前に囲い、急いで作っちゃうね」
「うん。頼んだわよ」
僕はお母さんにそう言うと、体に魔力を循環させてクリエイト魔法を発動!
あっという間に、お醤油搾り器の周りを薄い石の壁で囲っちゃったんだ。
読んで頂いてありがとうございます。
これ、後で気が付いたのですが、もろみから醤油を搾るのってすぐにできる物じゃないですよね?
なのに醤油搾り器を庭に設置してしまったので、ルディーン君以上に私が慌てました(苦笑
そんな訳で、本来なら沈殿した搾りかすや浮いた油を除いた醤油の火入れをする前に、こんな話が急遽差し込まれたという訳です。
う~ん、物事はちゃんと考えてやらないと後であわてる事になるという苦い経験のお話になってしまったなぁ。
さて、ずっと続いている出張ですが、今週も当然あります。
ですが先週の時点では、真ん中に祭日があるので今週は金曜日も更新できるのでは? なんて考えていたんですよ。
……祭日も出張になりましたorz
これに関しては金曜日が代休になるようなのでよかったのですが、書く時間が無いのは変わりません。
と言う訳ですみませんが今週も金曜日の更新はお休みして、次回の更新は来週の月曜日になります。
追記
今回、壁に穴を”あける”という所を空けると表現した事で開けるではないかと誤字脱字修正でのご指摘をいくつか頂きました。
これに関しては私も迷ったので調べたところ、文科省ではドアなどの開閉機構があるものは開けるという漢字を使い、穴を穿つ場合は空けると表現するようなのです。
今回は確かにドアを作るための穴ではあるのですが、それそのものに開閉機構はありませんよね?。
なので開けるではなく空けるという漢字を当てる事にした次第です。




