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530 おんなじような魔法だけど、使うとこが違うんだよ


 もろみの熟成が終わって、あとちょっとで醤油が完成するってことまで来たんだけど、


「あっ!」


 僕、すっごく大事な事を忘れてたのに気が付いたんだ。


「どうしたの、ルディーン?」


「あのね、お母さん。僕、イーノックカウでおっきな布を買ってくるのを忘れちゃったんだ」


 僕が前の世界で見てたオヒルナンデスヨではね、こっからは下っ側に醤油が出てくるとこがついてる入れもんの中におっきな布を入れて、その上から熟成が終わったもろみを入れてたんだよ。


 でね、その布の上がもろみでいっぱいになったら布の余ったとこを折りたたんで、その上にまた別の布をかぶせておんなじ様にまたもろみを入れてたんだ。


 何でそんなことしてるのかって言うとね、もろみが入ってる布の包みがいっぱい重なって、その重みで醤油が搾れるからなんだって。


 だから醤油を搾るには、絶対おっきな布がいるのに、僕、それを買ってくるのを忘れちゃったんだ。


「大きな布? そんなものをどうするの?」


「あのね、おっきな布が無いと、醤油が搾れないんだ」


 僕はお母さんに、これからどうやって醤油を搾るのかを教えてあげたんだよ。


 そしたらお母さんは、そう言えばそうねって。


「僕、イーノックカウまで魔法で飛んでって布買ってくる!」


「ちょっと待って、ルディーン。しょうゆを搾るのって、ワインを搾るのと同じようにするのよね?」


「うん。下に穴の空いてる入れもんの中にもろみを包んだ布を入れてから、その上に重しをのっけてしぼるんだよ」


「なら、わざわざイーノックカウまで布を買いに行かなくてもいいじゃないの?」


 僕が急いで買って来なきゃって言ったらね、それを聞いたお母さんは、わざわざそんなとこまで行かなくってもいいよって言うんだ。


「なんで? 僕たちの村、布屋さんなんてないよ?」


「ええ、布屋は無いわね。でも、収穫した麦なんかを入れる荒い麻で作った袋なら売っているところがあるじゃない」


 僕たちが着てる服はイーノックカウで買ってくるから、グランリルの村には服屋さんや布屋さんは無いんだよ?


 でも服にできないくらい荒い麻で作った袋だったら、畑で作ってるいろんな作物を入れるために村でも売ってるんだ。


 お母さんはね、わざわざイーノックカウまで行って布を買ってこなくても、醤油を搾るのならそれを使ったらいいよって僕に教えてくれたんだ。 


「高級なワインは知らないけど、安いワインはどこの村でも麻袋で搾っているって話だから、これも搾れるんじゃないかしら?」


「そっか! 別にたっかい布を使わなくったって、搾れればいいんだもんね」


 麻の袋だって一応布でできてるんだから、それに入れたら醤油だって搾れるはずだよね?


 ならそれでもきっと大丈夫って思った僕は、急いで麻袋を買ってこなきゃってお家を出てこうとしたんだよ?


 でもお母さんはそんな僕に、ちょっと待ってって。


「ルディーン。この、もろみっていうの? それを入れるのは麻袋でいいとして、さっき言っていた下から醤油が出てくる入れ物はどうするの? そんなもの、うちには無いけど」


「ああ、それならクリエイト魔法で、石の入れもんをお庭に作るつもりだよ」


 お醤油を作るためにもろみは作ったけど、オヒルナンデスヨでやってたとこみたいに、すっごくいっぱい搾る訳じゃないでしょ?


 だから僕、出来上がったもろみを入れた麻の袋が入るくらいの入れもんを、後でお庭に作るつもりなんだよってお母さんに教えてあげたんだ。


「そう。なら麻袋は私が買ってくるから、その間にキャリーナと二人でその搾るための準備を終わらせておいてくれると嬉しいかな。その方が早く出来上がるし」


「麻の袋、お母さんが買ってきてくれるの? うん、解った。それじゃあ僕、お庭で入れもん作って待ってるね。キャリーナ姉ちゃん、行こ」


 って事で僕とキャリーナ姉ちゃんはお庭へ。


「ルディーン。あんまり真ん中に作っちゃうと、後でお父さんやお兄ちゃんたちに怒られちゃうよ」


「そっか。じゃあ、なるべくすみっこに作った方がいいね」


 僕とキャリーナ姉ちゃんは、どこに作ったらいいのかお話しながらお庭の中をうろうろしたんだよ。


 でね、ここだったらあんまりじゃまにならないねってとこに、お醤油を搾る入れもんを作る事にしたんだ。


「キャリーナ姉ちゃん。それじゃあ、作っちゃうね」


「うん!」


 僕はまず、頭ん中にお醤油を搾る入れもんの形を思い浮かべたんだ。


「えっと、搾ったお醤油が出てくる穴のとこにかめやツボを置かないとダメだから、ちょっと高いとこに入れもんが無いとダメだよね? あっ、そうだ! 入れもんの底も、搾ったお醤油がちゃんと穴から出てくるような形にしなきゃ」


 でね、形が決まったら、早速体の中に魔力を循環させてクリエイト魔法発動!


 そしたら下に4本のちょっと長めの足がついてる、思った通りの石でできた入れもんが目の前に出来上がったんだ。


「ルディーン。これにさっきのを入れて、おしょうゆってのをしぼるの?」


「うん。お母さんが麻の袋を買ってきてくれたらこの上のとこから入れて、そこの中にさっきのもろみを入れてから上からギュ~ってしてお醤油を搾るんだよ」


「でも、ルディーン。こんなに高いとこにあると、入れにくくない?」


 キャリーナ姉ちゃんはそう言うとね、入れるとこがこんなとこにあるよって出来上がったばっかりの入れもんの横に並んで自分と比べたんだ。


 そしたらお姉ちゃんの胸のとこにあったもんだから、僕もちょっと高すぎるかも? って思えてきたんだよね。


「ルディーン。もうちょっと低い方がいいんじゃない?」


「でもこれより低くしちゃうと、下の穴から出てくるお醤油を入れるツボとかが置けなくなっちゃうじゃないか」


「そっか。じゃあ、あんまり低くできないね」


 キャリーナ姉ちゃんはそう言って納得してくれたんだけど、でも確かにあんまり高いとこに入れるとこがあると、大人のお母さんでももろみを入れるのがちょっと大変かも?


 そう思った僕はね、なんかいい方法ないかなぁって胸の前で腕を組みながらう~んって考えたんだよ?


 そしたらそれを見たキャリーナ姉ちゃんも、僕とおんなじように腕を組んてう~んって。


「あら、二人ともどうしたの? そんな難しい顔して」


 そしたらね、そこに麻の袋を持ったお母さんが帰ってきたんだ。


「あっ、お母さん。お帰りなさい」


「あのね、ルディーンが作った入れ物、入れるとこが高すぎるからどうしたらいいのかなぁって二人で考えてたの」


「入れるところが高すぎるの?」


 だから僕とキャリーナ姉ちゃんは、作った入れもんが高すぎるからどうしようかって考えてたんだよって教えてあげたんだ。


 でもね、それを聞いたお母さんは入れもんを見て、頭をこてんって倒したんだよ。


「そう? それほど高い位置にあるとは思わないけど」


 でね、そう言うと、とことこって入れもんのとこへ。


 そしたらキャリーナ姉ちゃんの胸のとこにあった入れるとこが、お母さんのおへそがあるとこよりちょっと下のとこにあったんだよね。


「うん。確かにちょっと高いかなぁとは思うけど、これなら作業ができないって程でもないわよ。作ったもろみってのも、そんなに多くないから持ち上げられないほどでもないしね」


「そっか。じゃあこれでも大丈夫なんだね」


 お母さんのお話を聞いて、僕とキャリーナ姉ちゃんはほっと一安心。


「それじゃあ、ルディーン。早速しょうゆってのを搾りましょう」


 でもお母さんが持ってた麻袋をお醤油を搾る入れもんに入れようとしたもんだから、僕は大慌てで止めたんだ。


「ちょっと待って。この入れもん、作ったばっかりだし、それに麻の袋も先にきれいにしとかないと」


「ああ、そうね。口に入るものを作るのだから、その道具もきれいに洗ってからじゃないと」


 お母さんはそう言うとね、それなら道具を持って来なきゃねってお台所に行こうとしたんだよ?


 でも僕がそんなの無くっても大丈夫だよって言ったもんだから、お母さんは不思議そうなお顔になって何で? って聞いてきたんだ。


「あら、道具も無しに、どうやって洗おうっていうの?」


「あのね、僕、魔法で洗う事ができるんだ」


 僕はそう言うとね、お醤油を搾る入れもんにウォッシュって言う魔法をかけたんだよ。


 そしたら何にもないとこからお水がどばって出てきて、お醤油を搾る入れもんはあっと言う間に中までピカピカになっちゃった。


「あら、便利な魔法があるのね」


「うん。この魔法、一度に一個しか洗えないからお洗濯には使えないけど、こういうもんを洗う時は便利なんだ」


 僕はそう言うとね、お母さんから麻の袋をもらって、今度はクリーンていう魔法を使ったんだ。


「あら、さっきとは違う魔法なの?」


「うん。さっきのは綺麗になるお水を出して洗う魔法だったでしょ? でも、そんなので自分をきれいにしようと思ったら、体中がびしょびしょになっちゃうもん。だからそんな時はこっちの魔法を使うんだ」


 このウォッシュとクリーンって、両方ともなんかを綺麗にする魔法なんだよ?


 でも使うとこが違って、ウォッシュはおっきな像とか石造りのお部屋とかをいっぺんにきれいにするための魔法なんだ。


 だから洗うものや場所の大きさによって使う魔力が変わってくるし、お水が出てくるから洗った後はびしょびしょになっちゃうんだよね。


 それに対してクリーンって言うのは指定したものの汚れだけを無くしちゃう魔法で、普通は着ている服ごと体を洗ったりする時に使うと便利なんだよ。


 でも、こっちはウォッシュと違ってお水が出ないからびしょびしょになっちゃうなんて事は無いんだけど、その分あんまりおっきなものを綺麗にする事ができないんだよね。


 それに使うMPもこっちの方がちょっとだけ多いもんだから、びしょびしょになってもいい物なんかはウォッシュを使って、手に持ってるものを綺麗にする時なんかはクリーンを使うって感じに使い分けるんだよ。


「なるほど。手に持った麻袋を洗うから、さっきとは違う魔法を使ったのね?」


「あれ? ルディーン。そう言えばお家にある水がめのお水を綺麗にする魔法、違うお名前じゃなかった?」


「うん。あれはね、ピュリファイって言う魔法で、お水や食べ物が悪くならないようにする魔法なんだ」


 キャリーナ姉ちゃんが言ってるピュリファイもきれいにする魔法ではあるんだけど、前の二つとはちょっと違うんだよね。


 どこが違うのかって言うと、一番違ってるのが前の二つが魔法使いさんが使う魔法なのに、ピュリファイは神官さんが使う魔法だって事。


 だから魔法使いさんや神官さんは普通、サブ職に神官や魔法使いをつけないとこの両方を使う事はできないんだよ。


 でも、ドラゴン&マジック・オンラインだと魔法職の人はサブ職に別の魔法職をつけた方がステータスやMPが増えるから、殆どの人がその組み合わせだったもん。


 そのせいでこの違い、ゲームの時はあんまり関係なかったんだよね。


 でもこっちの世界だと魔法系のジョブにつく事自体が大変だから、両方使える人は多分殆どいないんじゃないかなぁ?


 僕はジョブが賢者だから、その両方が使えるんだけどね。


「そっか。だから違う魔法を使ったんだね」


「うん。ピュリファイは、じょうか? っていうのをする魔法だから、使える人もお掃除にはあんまり使わないみたいだよ」


 でも、じょうかっていうの、きれいにするのと何が違うんだろう?


 キャリーナ姉ちゃんにはそう言ったけど、僕も実はちょっとよく解んなくって、心の中でこっそり頭をこてんって倒したんだ。




 読んで頂いてありがとうございます。


 醤油を作る話のはずなのに、なぜかお掃除魔法の話になってしまった。


 その上、今回もまた完成しないという……。


 まぁ、展開的に仕方ないですけどね。醤油を作る道具はどうしても必要でしたし。



 さて、誠に申し訳ありませんが、この後の1週間はまたその殆どが出張なので続きを書く事ができません。


 一応このような状況は来週までのようなので2回連続で休載という事は無くなると思うのですが、それでも12月末くらいまでは週1くらいで泊まりの出張は続くようでして。


 本当なら早く醤油を完成させて新しい料理を作りたいところなのですが、このような状況なのでなにとぞご容赦ください。


 そんな訳で申し訳ありませんが、次回の更新は14日の月曜日になります。


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