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527 大豆と小麦は入ってるもんが違うんだよ


 大豆はそのまんま火にかけて蒸しとけば、勝手に出来上がるでしょ?


 だから今度は小麦の番。


「お母さん。この小麦、こないだの大豆みたいに炒って」


「ええ、解ったわ」


 お母さんはそう言うとね、フライパンの中に粒のまんまの小麦をどばって入れてから火にかけて、木のへらでかき混ぜながら炒り始めたんだよ。


 だから僕、それを隣で見てたんだけど、


「そう言えば、小麦は何故大豆と一緒に蒸さないの? 火を入れるという意味ではどっちもあまり変わらないと思うんだけど」


 そしたらお母さんが不思議そうなお顔をして、僕にそう聞いてきたんだよね。


「あのね、小麦にはわらび餅を作る時に使う粉とおんなじでんぷんってのが入ってるんだって。でね、そのでんぷんてのを発酵させやすくするには炒った方がいいそうなんだよ」


「そうなの? っていう事は、大豆にはそのでんぷんていうものが入っていないから、蒸した方がいいっていうのね?」


「うん。大豆はね、タンパク質って言うのが入ってて、蒸すと発酵しやすくなるんだってさ」


 これはおんなじ事をオヒルナンデスヨに出てる人が聞いてたから、僕も知ってたんだ。


 だからその理由を教えてあげたんだけど、


「たんぱく質? 大豆にはたんぱく質っての言うものが入ってるの?」


 これを聞いたお母さんは、ちょっとびっくりしたお顔になったんだよね。


 だから僕、何でそんなにびっくりしてるの? って聞いたんだよ。


 そしたらお母さんは、大豆に入っているタンパク質っていうのはお肉にも入ってるんだよって教えてくれたんだ。


「そうなの?」


「ええ。私もよく解らないんだけど、まだイーノックカウにいたころにルルモアさんが、そう言っていたから間違いないはずよ」


 お母さんはね、まだ冒険者だったころにルルモアさんから、強くなるためには筋肉をいっぱい付けないとダメだからお肉を食べなさいって言われたんだって。


 タンパク質のお話はね、ルルモアさんがその時一緒に教えてくれたんだってさ。


「当時は話の内容はちょっと難しくってよく解らなかったんだけど、ルルモアさんが言うには力強い体を作るのにはそのたんぱく質ってのが大事らしいのよ。だからうちの食事も、なるべく毎日お肉を入れるようにしてるでしょ?」


「そっか。じゃあこの大豆を使ったお菓子を食べてたら、僕も筋肉モリモリになるかなぁ?」


「大豆にそのたんぱく質っていうのが入っているのなら、そうかもしれないわね」


 お母さんは小麦の粒をフライパンで炒りながら、お菓子だけじゃなくってお料理にも使ったらいいかもしれないわねって笑ったんだ。



 そうしてるうちに小麦から香ばしいにおいがしてきたもんだから、焦げちゃう前に炒るのは終わり。


「それで、ルディーン。これはどうしたらいいの? 大豆の時みたいに粉にする?」


「ううん。ちょっとは細かくしないとダメだけど、粉になるまで細かくしなくってもいいみたい」


 小麦はね、中に入ってるでんぷんが発酵しやすくなるように細かく砕かなきゃダメなんだって。


 でも別に粉になるほど細かくしなくっても大丈夫だから、僕はお母さんのお手伝いをしながら炒り終わった小麦を突いて砕いてったんだ。


「うん。確かこれくらい細かくなれば、小麦は大丈夫だったと思うよ」


「そう。それでこの次は何をすればいいのかしら?」


「えっとね、大豆が蒸しあがったらそれと混ぜて、それに僕がスキルを使って発酵させればいいんだけど……」


 そう言って大豆の入った蒸し器を見たんだけど、流石にまだ蒸しあがってないよなぁ。


「あら、ルディーン。まだ大豆の準備は出来上がらないの?」


「うん。なんとなくだけど、もうちょっとかかる気がするんだ」


 僕、料理人のスキルがあるでしょ?


 だから蓋を開けてみなくったって、なんとなくまだできてないって解っちゃうんだよね。


 って事で、作業は一度中断。


 大豆が蒸しあがるまでの間、僕とお母さんはお茶を飲みながらちょっとお休みする事にしたんだ。



「ところで、ルディーン。そろそろ、何を作っているのか教えてくれない?」


「あれ? 僕、言ってなかったっけ」


「おしょうゆって言う名前は聞いてるけど、それがどんな物なのかまでは教えてもらってないわよ」


 あっ、そう言えば僕、お母さんにお醤油作るから手伝ってって言ったけど、それが何なのか言ってなかったっけ。


 そう思った僕は、お母さんにお醤油が何なのか教えてあげる事にしたんだ。


「あのね、お醤油ってのはお塩やお砂糖みたいに、お料理やお菓子を作る時の味付けに使うもんなんだ」


「へぇ、そうなの。なら最後はさっきから調理してる大豆や小麦を発酵させて、それを粉にしたら完成なのね」


 僕がお砂糖やお塩とおんなじって言ったもんだから、お母さんはお醤油も粉になってるって思ったみたい。


 でもね、そのせいでお母さんは大豆を蒸してる鍋の方を見ながら、あれだけの量を粉にしようと思ったらかなり大変そうねなんて言ってるんだもん。


 だから僕、慌てて違うよって教えてあげたんだ。


「粉にするんじゃないよ。出来上がったお醤油はね、お水やお酒みたいになるんだ」


「お水みたいって事は、液体って事よね? でも、今蒸してる大豆もさっき炒った小麦も、それほど水分を含んでいないような気がするんだけど」


「うん。だから後で、お塩を溶かしたお水を入れて作るんだ」


 僕が塩水を入れるんだよって教えてあげるとね、お母さんはそれで液体になるのねってその時は納得したみたいなんだよ?


 でもすぐに、あれ? ってお顔をしてこう聞いてきたんだ。


「ねぇ、ルディーン。大豆や小麦は水に溶けないわよね? なら塩水を入れても、液体にはならないと思うんだけど」


 確かにお母さんの言う通り、大豆や小麦はたとえ粉にしたってお水に溶ける事は無いんだよね。


 だからお母さんが何で? って思うのは解るんだけど、でもそれってワインとかを作る時もおんなじだと思うんだけどなぁ。


「あのね、お酒を造る時だって最後に搾るでしょ? それとおんなじだよ」


「ああ、なるほど。おしょうゆっていうのはお酒の一種なのね」


「違うよ! お塩やお砂糖とおんなじ、お料理に使うもんだって言ってるじゃないか」


「あら、でもお酒と同じように発酵させてから搾って作るんでしょ? それにお酒だって、お料理に使うじゃない」


 あれ? そういえばお酒もお醤油も発酵させて作るよね?


 それにお醤油を作る時ってほんとは発酵じゃなくって、お酒とおんなじように醸造するって言うんだよってオヒルナンデスヨでも言ってた気がするし……。


 って事は、お醤油はお母さんの言ってる通り、お酒とおんなじなのかなぁ?


 僕はそんな事を思いながら頭をこてんって倒したんだけど、


「お酒と同じような物なら、ハンスが飲んでしまわないように気を付けないといけないわね」


 お母さんがこんな事を言ったもんだから、僕はやっぱり違うもんだって解ったんだ。


「大丈夫だよ、お母さん。だってお醤油はお塩とおんなじくらいしょっぱいし、それに飲んでも酔っぱらわないもん」


「あら、そうなの? という事は、アルコールは入ってないのね?」


「うん。だってお醤油って、そのまんまお料理にかけて食べる事もあるもん。もし酔っぱらっちゃうなら僕、食べられないじゃないか」


 お母さんが作ってくれるお料理にはかけないだろうけど、お肉を焼いただけのやつとかならきっとおいしいはずだもん。


 だからお母さんにはちゃんと、お醤油はお酒じゃないんだよって解ってもらわないと困っちゃうんだよね。


「なるほど。確かにお酒ならルディーンが食べる物にかけるなんて事、させられないわね」


「うん。だからね、やっぱりお酒とお醤油は違うもんだって僕、思うんだ」


 僕がそう言うと、お母さんはお醤油がお酒じゃないって解ってくれたみたい。


 でもね、僕、お醤油の本物を見た事無いでしょ?


 だからもしかしたらお母さんの言う通り、実はお酒とおんなじもんなのかも? って思っちゃったんだよね。


「出来上がったら一度、鑑定解析で見てみないとダメだね」


 僕もそうだけど、スティナちゃんが食べてもしそれがお酒とおんなじもんだったら大変だもん。


 そんな事が無いように、出来上がったら鑑定解析するぞ! って、僕は一人でこっそりふんすと気合を入れたんだ。



 読んで頂いてありがとうございます。


 ルディーン君はすっかり忘れていますが、醤油は最後に火入れをするのでたとえその前にアルコール分があったとしても飛んでしまいます。


 なので最後の気合はあまり意味は無いのですが、これもスティナちゃんの為です。


 お兄ちゃんを自称しているルディーン君ですから、スティナちゃんにはきちんと安全を確かめてから食べてもらう事でしょうね。


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