525 村のみんなは甘いお菓子が大好きなんだよ
僕はね、今日もお母さんと一緒にパンケーキとかのお菓子を作ってたんだよ。
だってもうすぐみんなでイーノックカウに行かないとダメだからって、お兄ちゃんやお姉ちゃんたちが自分のパーティーと一緒に森に行っちゃってるんだもん。
僕ね、森へは一人じゃ行っちゃダメって言われてるから、お兄ちゃんたちがいないと狩りに出かけられないんだ。
「もう! つまんない!」
「仕方がないじゃないの、また家を空ける事になるんだから」
だからつまんないって言ったら、お母さんが私がいるじゃないのって。
そう言えばお母さんも、ほんとだったら狩りに行かないとダメなんだっけ。
だってお父さん、今日もパーティーのみんなと森に狩りに出かけてるもん。
って事はさ、おんなじパーティーに入ってるお母さんも、ほんとだったら狩りに行ってないとおかしいんだよね。
「お母さんは、お父さんたちと一緒に行かなくっても良かったの?」
「ええ。うちのパーティーはグランリルの中でも強い方だから、少し獲物のランクを落とせば私一人いなくったって十分狩りはできるのよ」
そう言えばお母さんは弓を使ってるから、いないと強いのを相手にするのは大変になっちゃうはずだよね。
だってお母さん、狩りの時は遠くから弓で獲物の目とかを狙うでしょ?
って事はさ、それが当たったらそっちのおめめが見えなくなっちゃうって事だもん。
そしたらそっち側に回るようにするだけで相手の攻撃がよけやすくなるし、こっちの攻撃も当たりやすくなるからすっごく楽に狩れるようになるんだよね。
だから強いのを狩る時はお母さんがいないと困っちゃうんだけど、お父さんたちはすっごく強いでしょ?
ブラウンボアとかだったら無理かもしれないけど、それより弱いブラックボアくらいだったらお母さんがいなくったって簡単に倒しちゃうんだ。
今日はね、そういうお父さんたちからしたら弱っちい獲物ばっかり狙うから、お母さんがいなくったって大丈夫なんだてさ。
「それに私まで居なくなったら、ルディーンは一人になってしまうもの。だから今日は、ルディーンと一緒にお菓子作りよ」
「うん。みんな食べに来てくれるから、いっぱい作んないとね」
僕たちの村って、殆どの人が森に入って狩りをするでしょ?
でも狩りってとっても疲れるから、毎日行く事はできないんだよね。
だって疲れたまんま森に入ってって、もし自分より強い魔物が近くにいるのに気付かなかったら大変だもん。
だからお休みしてる人は結構いるんだけど、甘いものを食べると疲れが取れるって言うでしょ?
だから誰かが作ってくれるとみんなが助かるからって、お菓子作りは僕んちの村のお仕事って事になってるんだ。
だって僕やお母さんが作るお菓子は他に作れる人がいないから、食べた事ある人はみんな、また作ってねって言うんだもん。
みんなが食べたいって言うんだから、僕たちが作んないとダメだよね。
でもさ、そのおかげで僕たちが今作ってるお菓子の材料や作る時に使う薪とか、魔道具を動かす魔道リキッドは村が全部出してくれることになってるんだ。
「そろそろ、誰かが食べに来る頃ね」
お母さんがそんなこと言ってたらね、ほんとにお客さんが来たんだよ。
「こんにちは。もうお菓子、食べられるかしら?」
「いらっしゃい。ええ、大丈夫よ」
来たのは近所に住んでるおばさん。
このおばさんはね、甘いものがすっごく好きなんだよ。
だから前は自分ちでもたまにお菓子を作ってたそうなんだけど、でも狩りに行ったりして疲れてたらご飯を作るだけでも大変だもん。
それに一緒に住んでるのが旦那さんや息子さんばっかりだから、お家ではあんまり甘いものが食べられなかったんだって。
だから自分ちにいるみんなが森に行った時は、必ず僕んちに甘いものを食べに来るんだ。
「今日は何を食べる?」
「そうねぇ。ここで食べるお菓子はみんな自分で作るものよりもおいしいから、悩んじゃうわ」
僕、クリエイト魔法で魔石からお砂糖が作れるようになったでしょ?
でも初めのうちはお爺さん司祭様から、作るのは家で使う分だけねって言われてたんだ。
だからちょっとの間そうしてたんだけど、僕んちで甘いお菓子を作るのが村のお仕事になったもんだから、今はそこで出す分だけはお砂糖を作ってもいいよって事になったんだよね。
でもそのおかげで他のお家で作るお菓子よりもいっぱいお砂糖を使えるようになったもんだから、余計みんなが僕んちにお菓子を食べに来るようになっちゃったんだ。
「そうだ、今日はあれある? この間出してくれたぷりんてやつ」
「プリン? それならさっきルディーンが何個か作ってたはずよ」
お母さんはそう言うとね、冷蔵庫のとこに行って扉を開けたんだ。
そしたらそこには僕が作ったプリンが何個か入ってたもんだから、そのうちの一個を取り出して、木のさじと一緒におばさんに出してあげたんだよ。
「これ、この間食べたら本当に美味しかったのよね。ルディーン君のおかげでとっても美味しいお菓子が食べられて、おばさん幸せだわ」
「ほんと、ルディーンはいろんなお菓子を思いつくのよねぇ」
お母さんとおばさんがこんなお話をしてるけど、そう言えば僕んちで出してるお菓子、ちょっとずつ増えてってるんだよね。
流石にアイスクリームは作るのにいっぱい魔道リキッドがいるから出してないけど、冷たい物だったらかき氷があるでしょ?
あとね、氷だとつべたすぎてやだって人には、お母さんも作れるようになったわらび餅があるもん。
それにこのプリンはこないだ森で卵がいっぱい取れたからって持ってきてくれた人がいたもんだから、せっかくだからってよく来てくれる人に作って出してあげたんだよ?
そしたらみんなおいしいおいしいって食べてくれたもんだから、お母さんとお話して卵がある時は作ってあげようねって事になったんだ。
「でも、いろいろなものを出すようになったせいで、大きな魔道冷蔵庫をルディーンに作ってもらわないといけなくなったのよねぇ」
「あら、いいじゃない。別に自腹で買ったわけじゃないんでしょ? それに、ここで出すお菓子に必要な魔道リキッドは村のお金で買えるんだから」
「確かに、それはそうなんだけどね」
実はね、お母さんが言ってる通り、こないだおっきな魔道冷蔵庫を作ったんだよ?
それも前に僕が作った簡易魔道冷蔵庫じゃなくって、イーノックカウの僕んちに入れてもらったみたいなホントの奴。
何でかって言うとね、みんながつべたいお菓子をもっと食べたいって言ったからなんだ。
例えばさ、プリンを作ろうと思ったら卵と牛乳がいるでしょ?
それにパンケーキにのっける生クリームだって、あったかいとこに置いとくとすぐに悪くなっちゃうもん。
でも僕んちにある冷蔵庫だけだったらそんなにいっぱい入れられないから、今までは早く来た人しか食べられないものもあったんだよね。
だけどさ、狩りがお仕事の人はお休みがあるから早く来れるかもしれないけど、図書室の司書のおじさんみたいに村のお仕事をしてる人は早く来れないもん。
それに簡易神殿にいるシスターさんだって甘いもの大好きなのに、ケガをする人がいたら大変だからって夕方にならないとうちに来られないから、前はあんまり食べられなかったんだ。
でも、そんなの可哀そうでしょ?
だから何とかしてよって村長さんに言ったら、村のお金でおっきな魔道冷蔵庫を作ってもいいよって言ってくれたんだ。
それにね、前は村の人がわざわざ買いに行ってくれてた牛乳や生クリームなんだけど、グランリルの村で使う分がすっごく増えちゃったでしょ?
そのおかげでこの頃は牛を飼ってる近くの村の人が、うちの村まで売りに来てくれるようになったんだよね。
だから今は、後で食べに来るねって言ってくれたら作って置いとく事までできるようになったんだ。
「そう言えば話が変わるけど、カールフェルトさん。家族全員でまたイーノックカウに行くんですって?」
「ええ、この子が居住権を取ったらしくて、その手続きのために家族そろってきてほしいと冒険者ギルドから手紙をもらってしまって」
「そうなの? それじゃあまたしばらくの間、このプリンが食べられなくなっちゃうのね」
僕たちがやってるお菓子を作る村のお仕事、忙しい時は近所のおばさんたちも手伝いに来てくれるんだよ?
だから僕たちがいなくったって全部のお菓子が食べられなくなるって訳じゃないんだけど、お砂糖を使える量はどうしても減っちゃうよね?
それにわらび餅は僕がねばねばした草からでんぷんの粉を取り出さないと作れないし、プリンなんかは料理人の一般職を持ってる僕が作んないと美味しくできないみたいなんだよね。
そんな訳で、おばさんは僕たちが村にいないと、またちょっとの間美味しいお菓子が食べられなくなっちゃうねって、ちょっとしょんぼりしちゃったんだ。
「でもすぐに行くと言う訳じゃないですよ? ついこないだ行ったばかりだから、いろいろとやらなければならない事もあるし」
「あら、そうなの?」
「ええ。ほんとは早く行った方がいいのかもしれないんだけど」
僕たち、ついこないだイーノックカウに行ったばっかりでしょ?
なのにまたすぐに行こうと思ったら、みんな困っちゃうんだって。
だからいろんな事をやった後じゃないとダメだからって、イーノックカウにみんなでお出かけするのはもうちょっとだけ先になるよってお母さんはおばさんに教えてあげたんだ。
「あっ、そうだ! イーノックカウに行く前に、あれ作んなきゃ」
僕、そんなお母さんとおばさんのお話を横で聞いてたんだけど、そしたらお母さんが言ったやんなきゃいけない事が終わんないといけないんだよってのを聞いて、僕にもそんなやんなきゃダメな事がある事を思い出したんだ。
「あら、ルディーン君。また何か作るの? 新しいお菓子だと、おばさん嬉しいんだけど」
「ううん、お菓子じゃないよ。でも、それを作ったらいっぱいおいしい物が作れるんだ」
「美味しい物じゃなく、それを作るための物を作るの?」
「うん! 次にイーノックカウに行く時にはね、絶対それを持ってかないとダメなんだ」
僕はそう言いながら、ふんすと気合を入れたんだ。
だってせっかくイーノックカウに行ったら、やっぱりタレにつけて焼いたクレイイールを食べてみたいもん。
だから僕、それまでには絶対お醤油を作んないとダメだよねって強く思ったんだ。
読んで頂いてありがとうございます。
甘味処カールフェルトのお話、いつかは書きたいなぁと思ってたんですよ。
でもなかなかチャンスが無かったのですが、醤油を作るきっかけをどうしようかと考えていた時にそう言えばここでこの話を持って来れるじゃないかと気が付いたんですよね。
と言う訳で、お披露目する事となりました。
そしていよいよ次回、醤油を作る事になります。
ただまぁ、これが完成してもお米が無いグランリルではあまり使い道が無いかもしれませんけどねw




