523 ほっといたら壊れちゃうよね
毎日やってる朝のお手伝いが終わった僕は、お母さんと一緒にお部屋の中でお茶を飲んでたんだよ。
そしたらさ、お家の入口の方からトテトテって足音が近づいてきたんだ。
「おばあちゃん。ルディーンにいちゃ、かえってきた?」
その足音の主はスティナちゃん。
スティナちゃんはね、何か僕にご用事があるみたいで、お部屋に入ってくるとすぐに僕が帰ってきてるか聞いたんだよ。
「あら。いらっしゃい、スティナちゃん。ルディーンならそこにいるわよ」
「あっ! ルディーンにいちゃ、いた!」
お母さんに言われて周りをきょろきょろと見渡したスティナちゃんは、僕を見つけるとにっこり笑いながらこっちにトテトテと駆け寄ってきてこう言ったんだ。
「ルディーンにいちゃ。ちっちゃいちゃんりんちゃ、うごかなくなっちゃった」
「小っちゃい三輪車? ああ、乗れるのを作る前に作ったおもちゃの三輪車か」
そう言えばあれ、スティナちゃんにあげたんだっけ。
あれに使った魔石は一角ウサギのちっちゃなやつだから、動かなくなったって事は魔力が切れちゃったのかなぁ?
「スティナちゃん。その小っちゃい三輪車は、今どこにあるの?」
「あのね、おかあさんがもってうよ」
あのおもちゃの三輪車、そんなに大きくは無いんだけどまだ2歳のスティナちゃんが持って歩くにはちょっと大きいんだよね。
だからお出かけする時はいつも、ヒルダ姉ちゃんが肩から掛けてるカバンに入れてもらってるんだってさ。
「そっか。じゃあ、ヒルダ姉ちゃんのとこに……」
「もう! スティナ、走っていったら危ないと何時も言ってるでしょ」
僕ね、それだったらヒルダ姉ちゃんのとこに行かなきゃって思ったんだよ?
でもそこにヒルダ姉ちゃんが入ってきたもんだから、びっくりしたんだ。
「わっ! ヒルダ姉ちゃんも来たんだ」
「それはそうよ。スティナ一人で来させるわけにはいかないもの」
ヒルダ姉ちゃんはね、どうしてもって言うご用事がある時以外はず~っとスティナちゃんと一緒にいるんだって。
だから僕が来たんだって言ったら、当たり前じゃないってあきれられちゃったんだ。
「でもちょうどいいや。ヒルダ姉ちゃん、スティナちゃんからおもちゃの三輪車、預かってるでしょ? 出して」
「おかあさん、ちっちゃいちゃんりんちゃ!」
「ああ、そう言えばルディーンが帰ってきたら直してもらうって言ってたわね」
ヒルダ姉ちゃんは肩からかばんを外すと、蓋を開けて中からおもちゃの三輪車を取り出して僕に渡してくれたんだよ。
だから早速魔石に魔力を注ごうと思ったんだけど、
「あっ、ダメだ。魔石が崩れちゃってる」
僕が帰ってくるのが遅かったからなのか、おもちゃの三輪車につけてあった米粒くらいの魔石が壊れちゃってたんだ。
魔石はね、中の魔力が無くなってもすぐにだったら魔力を注ぐことで元に戻るんだよ?
でも魔力が空っぽのまんまだと、その形を保てずに崩れちゃうんだよね。
そうなったらもう魔力を中に貯めとく事ができなくなっちゃうから、交換しないとダメなんだ。
「ルディーンにいちゃ、おもちゃのちゃんりんちゃ、なおう?」
「う~ん。直るのは直るんだけど、魔石を交換しないとダメみたい」
でもなぁ。
この三輪車は僕が作ったでしょ?
だから魔石を付け替えるのは簡単なんだけど、でも前と同じようにしといたら、僕がまたどっか行った時に魔石が崩れちゃいそうなんだよね。
「どうしたの、ルディーン? もしかして、魔石を持ってないとか?」
「違うよ、ヒルダ姉ちゃん。あのね、前と同じように直しちゃうと、魔力が無くなった時にまた魔石が壊れちゃうんじゃないかなぁって思ったんだ」
「なるほど。ならさ、他の魔道具と同じように魔道リキッドで動くようにすればいいじゃないの?」
ヒルダ姉ちゃんも、魔道具に付いてる魔石は魔力が無くなったら壊れちゃうのを知ってるでしょ?
だから僕がおんなじように直したらまた壊れちゃうかもって言ったのを聞いて、だったら魔道リキッドで動くようにすればいいじゃないかって言うんだよ。
でも、それはできないんだよね。
「ダメだよ。だってこのおもちゃの三輪車、ピューって走ってくから、どっかにぶつかったり、こてんって転んじゃう事があるもん」
「ああ、なるほど。それだと確かに魔道リキッドは使えないわね」
魔道リキッドって、魔石を溶解液で溶かした物を使って作るでしょ?
そのせいで銅や鉄みたいな金属の入れもんに長い間入れとくと、その入れもんに穴が開いちゃうんだよね。
だから普通は陶器の入れもんを使う事が多いんだけど、そうするとぶつかったり転んじゃったりした時に割れちゃうかもしれないもん。
そしたら魔道リキッドが全部こぼれちゃうから、こういうおもちゃには付ける事ができないんだ。
「なら、あれは? この家の水がめについてる魔道かんでんちってやつ。あれなら大丈夫なんでしょ?」
「ダメよ、ヒルダ。あれはけして外に出してはいけないと司祭様から強く言われているもの」
おかあさんが言う通り、魔道乾電池は僕んちの中だけで使うんだったらいいけど、お外に出しちゃダメだよってお爺さん司祭様から言われてるんだよね。
このおもちゃの三輪車、スティナちゃんはお外に持ってって遊ぶことがあるもん。
だからこれに魔道乾電池をつける事はできないんだ。
「そうか。それなら魔道かんでんちってのは使えないわね」
いい考えだと思ったのになぁって言いながら、ちょっぴりしょぼんってしちゃうヒルダ姉ちゃん。
そしたらそれを見たスティナちゃんが、不安になっちゃったのか泣きそうなお顔でこう聞いてきたんだよ。
「ルディーンにいちゃ、おもちゃのちゃんりんちゃ、なおんないの?」
「ううん。さっきも言ったでしょ? 大丈夫だよ。直すのは簡単だもん」
う~ん、まぁ、いいか。
魔石自体はホントにちっちゃなものを使うだけだし、もしまた崩れちゃったら僕が直せばいいだけだもんね。
そう思った僕は、変に変えちゃわないで元の通り直しちゃおって思ったんだ。
でもね、そこでヒルダ姉ちゃんがとんでもない事を言い出したんだよ。
「そうだ! ねぇ、ルディーン。このおもちゃに使ってる魔石って、魔力が無くなると崩れるのよね?」
「うん、そうだよ。だから無くなっちゃう前に魔力を注がないとダメなんだ」
「なら、私がその魔力を注げるようになればいいだけじゃない!」
これには僕も、隣で聞いてたお母さんもびっくり。
だってさ、魔法はちっちゃいころから練習しないと使えるようにならないでしょ?
でもヒルダ姉ちゃんはもう大人だもん。
だからそんな事できるはずないじゃないか! って思ったんだよ?
でもね、
「そんな顔しないの、ルディーン。私は別に魔法が使えるようになろうとしている訳じゃないの。小さな魔石に魔力を注げるようになる、ただそれだけの事をできるようになろうというだけなのよ」
ヒルダ姉ちゃんは自信満々なお顔で、僕にそう言ったんだ。
読んで頂いてありがとうございます。
あれ? 初めは乗るための三輪車を作る話にするつもりだったのに、なぜこんな事に?
でもまぁ、いずれ書こうと思っていた話ではあるんですけどね。ヒルダ姉ちゃんの魔法修業は。
ステータス的には主人公であるルディーン君より上ですからね、ヒルダ姉ちゃん。
ただ、すでに子持ちの主婦で、おまけにルディーン君が何かを作るとすぐに嗅ぎ付けてきてスティナちゃんをダシに作ってもらおうとするちょっと困ったお姉ちゃんですがw




