516 あっ、買ったの忘れてた!
僕がロルフさんとこの荷馬車にのっけてイーノックカウから貰ってきたもの、すっごくいっぱいあったでしょ?
だから何が入ってるかを簡単に見ただけでうちの裏の倉庫に入れちゃったもんだから、今日はお母さんやお姉ちゃんたちとそれをもういっぺんゆっくりと調べる事にしたんだ。
「改めて見ると、本当に多いわね」
お家に帰ってきた時はお父さんとお兄ちゃんたちが倉庫にしまってくれたもんだから、僕たちはおっきな馬車にのっかってるとこだけしか見てないよね。
だからお母さんはその時、いっぱいもらって来たねってくらいにしか考えてなかったんだって。
でも僕んちの倉庫に積み上げてあるのを見てみたら、本当にすっごく多かったもんだからちょっとびっくりしちゃったみたいなんだ。
「あの荷馬車、こ~んなにおっきかったもんね」
「ええ。そうね。でもこんなにもあるとなると、早目に仕分けしておかないとダメね」
僕が両手を使っておっきな円を描くように広げながらロルフさんちの荷馬はすっごくおっきかったもんねって言うと、お母さんはそうねって笑ってくれたんだよ?
でもその後すぐにほっぺたに手を当てながら、早く仕分けないとダメねっておっきなため息をついたんだ。
でもさ、僕が貰ってきたお土産はみんな、ちゃんと僕んちの倉庫の中に入ってるでしょ?
これが入りきらなくってお庭にまでおいてあったら、僕だってこのまんまじゃダメって解るんだよ。
でもお父さんやお兄ちゃんたちは、ちゃんと全部のお土産をきちんと倉庫に入れてくれたんだもん。
だから僕、なんでお母さんがそんな倉庫を見て早く仕分けしないとダメって思ったのか、全然解んなかったんだ。
「なんで? お父さんたち、きれいに入れてくれたよ」
「確かにハンスたちはよくやってくれたと思うわよ? でもこの荷物だけでこの倉庫を占領されてしまったら、森で狩ってきた獲物の素材を入れる場所が無くなってしまうじゃないの」
そう言えばこの倉庫って、お父さんやお母さん、それにお兄ちゃんやお姉ちゃんたちが森に入って狩って来た獲物の素材を入れとくとこだっけ。
そう思ってもういっぺん見てみると、おっきなブラウンボアの素材を全部入れても大丈夫なくらいおっきいはずの倉庫の中が、僕のお土産でいっぱいになっちゃってるんだもん。
これだと確かにお兄ちゃんたちがちょっと獲物を狩って来ただけでも、入れるとこが無くて困っちゃうかも?
「この間見た時は日持ちのするものばかりだったから、とりあえず手前にあるものから量を調べていきましょう」
でもさ、一度に全部を調べるなんて事できないでしょ?
だからお母さんは、とりあえず手前っ側に置いてあるのから調べてって、それを順番にご近所さんに配っていこうねって言ったんだよ。
それからみんなで倉庫の手前からお土産の中身を調べてったんだけど、
「ねぇ、ルディーン。この袋に入っている豆は何なの?」
そしたらお母さんがそこでなんか見つけたみたいで、僕に声を掛けてきたんだよね。
「まめ?」
「ええ。袋にうちの村の印を書いた布が縫い付けてあるって事は、これってロルフさんって人から貰ったものじゃなく、ルディーンが買ったものなんでしょ?」
お母さんがそう言うもんだから、僕とお姉ちゃんは何の事だろうって見に行ったんだよ?
そしたらそこに置いてある袋には、クリーム色のまぁるいおまめさんがすっごくいっぱい入ってたんだ。
「何これ? こんなにいっぱいあるって事は種じゃないよね?」
「お母さん。ルディーンがわざわざイーノックカウから買って来たんだから、きっとこれはお菓子になる豆なんだよ。そうだよね? ルディーン」
レーア姉ちゃんとキャリーナ姉ちゃんは、どうやらそのおまめさんの事を知らないみたい。
でもキャリーナ姉ちゃんは僕がわざわざ買って来たくらいなんだから、これもきっとお菓子になるんだよって僕に聞いてきたんだよね。
「そっか。僕、大豆を買って来たの、すっかり忘れてた」
「だいず? これ、だいずっていうの? それでこれは、どんなお菓子になるの?」
「お菓子じゃないよ。あっ違った、一応お菓子にもなるんだけど、これは味噌とかお醤油ってのになるおまめさんなんだよ」
僕ね、イーノックカウのお豆屋さんで大豆が売ってるのを見つけたんだ。
だからそれを帰りに持って帰るからってお店の人に頼んどいたんだけど、ギルドカードでお金を払っておいたからなのかちゃんと帰りの荷馬車に乗っけてくれてたみたいなんだよね。
「やっぱりルディーンが買って来たものなのね? でも、なんで忘れていたの?」
「あのね、見つけた時にお金払っといたんだけど、帰るのが急に決まったもんだから取りに行くのを忘れてたんだ」
「なるほど。でもこれがここにあるって事はきっと、ロルフさんや錬金術ギルドのギルドマスターさんがお土産を用意する時に気が付いて一緒にのせてくれたんでしょうね」
そっか、お店のおじさんじゃなくって、ロルフさんたちがのっけてくれたんだね。
「ルディーン。近いうちに家族みんなでイーノックカウに行く事になるんだから、その時は忘れずにお礼を言うのよ?」
「うん! 僕、ちゃんとロルフさんやバーリマンさんにありがとうって言うよ」
なんかして貰ったら、ちゃんとありがとうって言わないとダメだもん。
僕、大豆の事は忘れてたけど、ロルフさんたちにありがとうっていう事だけは絶対忘れないぞ! ってふんすと気合を入れてたんだ。
でもね、
「ねぇ、ルディーン。そのまめ、お菓子にもなるんでしょ? どんなのになるの? 作って、作って!」
さっき大豆はお菓子にもなるんだよって教えちゃったもんだから、キャリーナ姉ちゃんが作ってよって言いながらそんな僕の手をぶんぶん振ってくるんだよね。
でも、今はみんなでお土産がどれくらいあるのかを見てる途中でしょ?
だからすぐには作れないよね。
「ダメだよ。だって今はお土産がどんだけあるか見てるとこだもん」
「え~、お母さん。いいでしょ? 新しいお菓子、私食べたい」
だから僕、キャリーナ姉ちゃんに今はダメだよって言ったんだ。
そしたらお姉ちゃんはお母さんに、お菓子食べたいからいいでしょ? って。
でもきっとお母さんはダメって……、
「そうねぇ。お土産は日持ちするものばかりだし、狩りも今日明日にでも行くって訳じゃないから休憩がてらお菓子を作るのもいいかもしれないわね」
「いいの? やったぁ!」
ええっ、いいの!?
これには僕、すっごくびっくりしたんだよね。
だってお母さんはさっき、早くご近所さんたちに配んないとダメって言ってたもん。
だから僕、ほんとにいいの? って聞いてみたんだよ?
「柔らかい豆をスライスしたものをクッキーの上に乗せて焼いたお菓子なら私も知っているし食べた事もあるけど、こんな硬い豆を使ったお菓子なんて見た事も聞いた事も無いもの。どんなお菓子ができるのか、お母さんもちょっと興味があるのよね」
「そうだよね。お母さんも食べたいよね」
そしたらお母さんも大豆がお菓子になるって聞いて、どんなものができるのか食べてみたくなったんだって。
それを聞いたキャリーナ姉ちゃんは大喜び。
「そうだよね。お母さんもこのまめで作ったお菓子、食べたいよね」
「えっと、私も食べてみたいかな。こんな硬い豆、どんなふうになるのか気になるもの」
その上レーア姉ちゃんまで一緒になって、大豆で作ったお菓子を食べてみたいだなんて言い出すんだもん。
もうダメなんて言えないよね。
「うん。お母さんがいいって言うんだったらいいよ」
「お菓子作ってくれるの? やったぁ!」
ホントはこの大豆でお醤油を一番最初に作ろうって思ってたけど、みんながこんなに食べたいって言うんだからお菓子を作んないとね。
そう思った僕は横で嬉しそうにぴょんぴょんはねてるキャリーナ姉ちゃんを見ながら、どんなお菓子を作ろっかなぁって考えてたんだ。
読んで頂いてあるがとうございます。
大豆、お店でお金まで払って来たのに、ルディーン君だけでなく私もその回を読み直すまですっかり忘れていました。
いやぁ、長いお休みをもらって読み直しておいて本当によかったです。
危うく次にイーノックカウに行った時、ウナギの存在を思い出して大慌てするところでしたから。
流石にイーノックカウの館で醤油を作るなんて事できるはずがないですから、今はちょっとだけほっとしていますw




