５１３　ロルフさんから言っといてねって頼まれてたっけ

　お母さんに叱られて、ちょっぴりしょんぼりしてたお父さん。

　でもそれじゃダメって思ったのか、お母さんとこんなお話をしだしたんだ。

「酒の事はともかくとして、ルディーンが預かったっていう子たちとは流石に一度会っておかないといけないだろうな」

「そうね。ルディーンの親として責任があるもの。それに、そこの子たちのこれからの事もあるしね」

　僕、まだ子供でしょ？

　ニコラさんたちの事を聞いたお父さんとお母さんは、そんなちっちゃな僕の代わりに親である自分たちが何とかしないとダメって思ったみたい。

　だから一度会って、お話しないとなぁって言うんだよね。

「それに、ルディーンが買ったという家の事もあるし」

「そうね。流石に錬金術ギルドのマスターや、あのお爺さんに任せっぱなしと言う訳にもいかないものね」

　それに僕が買ったお家も、ロルフさんたちにずっと任せっぱなしじゃダメだから一度見に行かないとってお話してたんだ。

　そんなロルフさんの事を話してるお父さんたちのお話を聞いてたら、僕、そう言えば帰ったらお話ししといてねって頼まれてた事があるのを思い出したんだ。

「あっ、そうだ！　ロルフさんから帰ったらお父さんたちに言っといてねって頼まれてたんだった」

「ん？　どうしたんだ、ルディーン」

「ロルフさんというと、あのお金持ちのお爺さんの事よね？　買ったお家の事で、何か頼まれてたの？」

　僕が忘れてたって言ったら、それを聞いたお母さんは僕が買ったお家の事だって思ったみたい。

　でもね、僕が忘れてたのはお家の事じゃないんだ。

「ううん、違うよ。だってお家の事はみんなストールさんがやってくれるって言ってたもん」

「ストールさん？　えっと、その人がルディーンの家のちゃんと管理をしてくれているのね」

「なら家の話じゃないとして、あの爺さんから何を頼まれたんだ？」

「あのね、今度みんなでイーノックカウの錬金術ギルドに来て欲しいんだって」

　ホントは冒険者ギルドでもいいみたいなんだけど、来てねって言ったのはロルフさんだもん。

　ロルフさんは冒険者ギルドに行かないから、錬金術ギルドに来てねって言ってたってお父さんに教えてあげたんだよ。

　でもそれを聞いたお父さんは、何の事か解んなかったみたいで不思議そうなお顔をしたんだ。

「えっと、ルディーンの買った家じゃなく、錬金術ギルドに来てくれって言ったのか？」

「うん。みんなで来てねって言ってた」

「錬金術ギルドにわざわざ来て欲しいって事は、そこでも何かあるって事か」

　お父さんはね、僕のお話を聞いてムムムってお顔になっちゃったんだよ。

　でも、なんでそんなお顔になっちゃったんだろう？

　だって僕、錬金術ギルドにみんなで来てねってロルフさんが言ってたのを教えてあげただけなんだもん。

　だから頭をこてんって倒しながら、お父さんのお顔を見てたんだよ？

　そしたらさ、僕たちのお話を聞いてたお爺さん司祭様が、急にほっほっほって笑い出したんだ。

「どうしたの、司祭様？　なんか面白い事、あった？」

「いや、すまんすまん。親子のやり取りが、あまりに微笑ましくてのぉ」

　お爺さん司祭様はそう言うとね、なんで錬金術ギルドに行かないとダメなのかをお父さんに教えてくれたんだ。

「そう心配せずともよい。錬金術ギルドに来て欲しいというのはな、せねばならぬ手続きがあるというだけの話だ」

「手続きですか？」

「うむ。ルディーン君が取得した、イーノックカウの居住権の手続きをだ」

　僕が取ったイーノックカウの居住権って、一人が取ったらその人の家族みんなも取った事になるんだって。

　お爺さん司祭様はね、その事をお父さんたちに教えてくれたんだ。

「ルディーンが取ったから、俺たちにも居住権が与えられたって事ですか？」

「与えられたというか、そもそも居住権というものは個人ではなく家族単位で取得するものでな。取得が完了したとの連絡を受けた時点で家族そろってどこかのギルドに出向き、そこでギルドカードに登録するのが普通なのだ」

　今回はニコラさんたちが借金奴隷ってのにならなくてもいいようにって、すぐに僕のギルドカードに取ったよって書いてもらったでしょ？

　だから普通と違って、お父さんたちやお兄ちゃんたち、それにお姉ちゃんたちは後でどっかのギルドに行って書いてもらわないとダメなんだよね。

「今回はルディーン君だけが、先に登録を済ませてしまったからのぉ。だから一度家族全員でイーノックカウを訪れ、ギルドカードに居住権取得の登録手続きをして欲しいというだけの話なのだ」

「なるほど、そういう事だったんですね」

　お爺さん司祭様のお話を聞いて、なんでイーノックカウに行かないとダメなのかやっと解ったみたい。

　それなら今度みんなで行かないとねって、お父さんとお母さんはお話を始めちゃったんだ。

「おお、そう言えばもう一つ教えておかねばならぬ事があったな」

「他にも何かあるのですか、司祭様？」

「うむ。その際、街の入口では必ずルディーン君のギルドカードを渡して、居住権の登録をしに来た事を伝えるのだぞ。でなければ、むだに入街料を払う事になってしまうからな」

　これを聞いたお父さんとお母さんは、すっごくびっくりしたんだよね。

　何でかって言うと僕とおんなじで、どうやらお父さんたちも居住権を取ると街に入る時にお金を払わなくっても良くなることを知らなかったみたい。

　だから絶対忘れないようにしなきゃって、二人して頷いてたんだ。

「ふむ。話しておかねばならぬ事はこれくらいだろうか。して、いつ頃イーノックカウを訪れるつもりかな？」

「すぐにでもと言いたいところですが、家族全員でとなると流石にそうはいきませんからねぇ」

「先日も家族全員で行ったばかりですし、そうでなくてもパーティーメンバーの事もありますから」

　僕はまだ小さいから組んで無いけど、お父さんたちやお兄ちゃんたち、それにお姉ちゃんたちも村の人とパーティーを組んでるでしょ？

　だからみんな、パーティーを組んでる人たちとお話をしないといつ行けるのか決められないんだって。

「それにルディーンも本来の予定より帰宅が遅れたから、すぐにまたイーノックカウに行く事はできないんですよ」

「何で？　僕、誰ともパーティー組んで無いよ？」

「ルディーンは、お薬を作る仕事があるでしょ」

「あっ、そっか！」

　お母さんに言われて、そう言えばそろそろお肌つるつるポーションと髪の毛つやつやポーションを作んなきゃダメな事を思い出したんだよね。

「ルディーンが帰ってくる予定の日に合わせてセリアナの実は仕入れてあったけど、あれって穴を開けたら中の実がすぐに腐ってしまうでしょ？　だからそのまま村の倉庫に入れっぱなしになってるのよ」

「倉庫は森で獲って来た魔物の素材とかも入れないといけないからな。それを放っておいて、またイーノックカウに行くわけには流石にいかないだろう」

　村のみんなが使うお薬だから、作る時は材料のセリアナの実をいっぱい使うんだよね。

　それがずーっと村の倉庫の中に入ったまんまだと、やっぱりちょっと邪魔かも？

　それにね、僕が作んなきゃダメなのは二つのお薬だけじゃないんだって。

「それにおトイレの紙、あれもそろそろ切れそうだって村長さんが言っていたわよ」

「そっか。じゃあ作んないと、みんな困っちゃうね」

　おしりを拭く柔らかい紙は一個のセリアナの実から取れる繊維だけでもすっごくいっぱい作れちゃうから、お薬を作る時に毎回作ってる訳じゃないんだよね。

　でもいくら一度にいっぱい作れるからっていっても、使ってればいつかはなくなっちゃうでしょ？

　それにあの紙はおトイレで使うだけじゃなくって、赤ちゃんやちっちゃい子のお口やお顔を拭いたりする時にも使うんだよね。

　だから前に作ったのがもう残り少なくなってきたからって、村長さんから次にお薬を作る時は一緒に作ってねって言われてたんだって。

「そんな訳ですので司祭様、すぐにイーノックカウに向かう訳には……」

「よいよい。別に急がなければならない事でもないからのぉ」

　僕たちが無事に村に着いたのは、送ってくれた御者さんたちから聞いてロルフさんたちも知ってるはずでしょ？

　だからすぐに行かなくっても、きっとなんかご用事があるんだろうなぁって思ってくれるから大丈夫だよってお爺さん司祭様は笑ったんだ。