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512 お父さんが喜んだり、しょぼんってしちゃったりしたんだよ


「それでね、地面の下にまでお部屋があったんだよ。すごいでしょ」


 お金のお話が終わったみたいだから、僕、今度はお父さんたちに買ったお家のお話をしてあげてたんだよ。


 でね、イーノックカウのお家には地面の下にもお部屋がある事を教えてあげたら、お父さんが急にうれしそうなお顔になってこんな事を聞いてきたんだ。


「ほう。という事はもしかして、イーノックカウの家には酒が置いてあるのか?」


「うん、あるよ。でもお父さん、何で知ってるの?」


「そりゃあ、お貴族様の家にある地下室といったらワイン貯蔵庫だからさ」


 さっきのお話の中で僕が買ったお家はバーリマンさんが、事業ってのに失敗した準男爵って言う貴族様からお金が無くなっちゃったから買ってって頼まれたとこなんだよってお爺さん司祭様が教えてくれたでしょ?


 だからお父さんは、貴族様のお家にある地面の下のお部屋だったら、もしかしてお酒が置いてあるんじゃないかな? って思ったんだって。


 それを聞いた僕は、だからわかったのかぁって思ってたんだけど、そしたら僕たちのお話を横で聞いてたお母さんが、それはちょっとおかしくない? って言ったんだよね。


「何がおかしいんだ?」


「だって元は準男爵の館だったとしても、借金の返済のために錬金術ギルドのギルドマスターが買い取ったんでしょ? ならそこに住んでいたわけじゃないだろうから、地下貯蔵庫にお酒があるのはおかしくないかしら?」


 お貴族様のお家のまんまだったら、地面の下のお部屋にお酒があっても変じゃないよね?


 でも僕が買うまではバーリマンさんが持ってて誰も住んで無かったんだから、そこにお酒があるのは変じゃないの? ってお母さんが言うんだよ。


「そう言えばそうだな。ルディーン、その酒は、ずっとその地下貯蔵庫にあったのか?」


「ううん、違うよ。ロルフさんちの人が持ってきて、地面の下のお部屋に入れたんだって」


 地面の下にあるお部屋は僕んちにあるんだけど、そこにあるものを使うのはロルフさんちから来てるメイドさんたちや執事さんたち、それとニコラさんたちでしょ?


 だから当たり前だけど、そこにあるのはみんなロルフさんちのもんなんだよね。


 僕がそれを教えてあげたらお父さんはそうかぁって言って、ちょっぴりしょぼんってしちゃったんだ。


「ルディーンはまだ子供なんだから、例え地下に酒が残っていたとしてもその料金を上乗せして請求するなんて事、あのギルドマスターがするはずないか」


「あの人もロルフさんって言うお爺さんと同じで、ルディーンの事をとても可愛がってくれているようだったものね」


 お父さんはね、もしかしたら地面の下のお部屋にお酒があるのは重たくて出すのが大変だから、バーリマンさんがそのまんまお家と一緒に売ってくれたんじゃないかなぁって思ったんだって。


 でもそうじゃなくって、あそこにあるお酒はみんなロルフさんちのもんだってわかったでしょ?


 だからお父さんはしょぼんってしちゃったそうなんだけど、


「そういえばお父さんたちが来た時は地面の下にしまってあるお酒、飲んでもいいよって言ってたよ」


 僕があそこのお酒、ストールさんが飲んでいいって言ってたよって教えてあげたら、お父さんはすっごくびっくりしたお顔になっちゃったんだよ。


「なに! それは本当か? ルディーン」


「うん。ストールさんがいいよって言ってたもん。それにね、ニコラさんたちもいい? って聞いたらいいよって言ってた!」


 ストールさんはね、あそこに置いてある中にはすっごく高いお酒は一個も無いからって、お父さんたちが来た時は飲んでもいよって僕に言ってくれたんだよね。


 それにニコラさんたちも飲んでいい? って聞いたら、ストールさんはいいよって言ってくれたもん。


 だから僕、その事をお父さんに教えてあげたんだ。


 そしたらお父さんは大喜び!


 ニコニコしながら、どれくらい置いてあるの? って聞くんだよ。


「それで、その酒はどれくらい置いてあるんだ? 小さな樽が2~3個か? まさか大樽が一個置いてあったりなんかするのか?」


「ううん、違うよ」


 お父さんはちっちゃな樽が何個かか、おっきな樽が一個だけ置いてあるの? って聞いてきたんだよ。


 でもあそこにはもっと、おっきな樽がすっごくいっぱい置いてあったでしょ?


 だから僕、違うよって教えてあげたんだけど、そしたら何でか知らないけどお父さんはまたしょんぼり。


「違うって、もしかしてかめに入ったのが数個くらいしかないのか?」


「ううん。お酒がいっぱい入ったおっきな樽がね、すっごくいっぱい並んでたんだよ。それにね、奥のお部屋には冷たく冷やしたビンに入ったお酒も入れといたって言ってた」


 でも僕がすっごくいっぱいお酒の入ったおっきな樽があるんだよって教えてあげると、お父さんはすぐに元気になって、


「そうか! それならいくら飲んでも大丈夫だな」


 なんて言いながら、にこにこになっちゃった。


 でもね、それを見たお母さんはすっごく怖いお顔になって、お父さんにコラー! って。


「何を言っているの、ハンス! そこに置いてあるのはロルフさんというお金持ちのお爺さんのものだと、さっきルディーンが言っていたじゃないの!」


 いくら飲んでもいいと言われたからといって、好きなだけ飲んでもいいって事じゃないんだよってお母さんが怒ったんだ。


 でね、お母さんに叱られたお父さんはまたしょぼんってしちゃったんだけど、


「まぁまぁ、そう頭ごなしに怒らなくてもよいではないか」


 お爺さん司祭様がお母さんに、あんまり怒らないであげてって言ってくれたんだよね。


「ですが、司祭様。ハンスがあんな事を言うものですから」


「確かに少々はめを外しすぎな気もするが、実際にその場に行けばメイドたちの目もあるからのぉ。流石に先ほどの言葉通りにふるまう事など、できるはずがないとわしは思うのだが?」


「言われてみれば、確かに司祭様の言う通りですわね」


 イーノックカウの僕んちにはストールさんや、お勉強に来てるメイドさんたちがいっぱいいるでしょ?


 だからお爺さん司祭様とお母さんは、それだったらいくらお父さんでも好きなだけお酒を飲むなんて事できるはずないよねって笑ったんだ。



 読んで頂いてありがとうございます。


 イーノックカウにあるルディーン君の館に置いてあるお酒ですが、実を言うとハンスお父さんの言う通り好きなだけ飲んでもらってもいいとロルフさんもストールさんも考えています。


 なにせあそこにお酒が置いてあるのはあくまでメイドたちが貯蔵庫管理の勉強をするためであって、ロルフさんたちが飲んだり来客にふるまったりするための物ではないのですから。


 なのであの大量の酒はある意味死蔵してあるものだし、いくら大酒吞みがいたとしても大樽を一人で飲み干せるはずもなく、またひと家族が飲める量なんてたかが知れているので好きなだけ飲んでもらっても問題は無いのです。


 ただシーラお母さんがそれを許すはずもないので、ハンスお父さんが好き放題吞むなんて事、できるはずもありませんがw


 さて、今週末なのですが、また出張になってしまいました。なのですみませんが月曜日の更新はお休みさせて頂き、次回は来週の金曜日更新予定となります。

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