510 本当はすっごく時間がかかるんだって
お爺さん司祭様はお父さんにきた冒険者ギルドからのお手紙を、声を出して読んでくれたんだよ。
でもそれを聞いてたお父さんたちはよく解んなかったみたいで、頭をこてんって倒してるんだ。
「えっと、とりあえずルディーンの口座からお金を使ったという事は解りました。ただ、数字を羅列されても俺には何が何やらサッパリで」
「私はとりあえずルディーンがかなりのお金をもらったり使ったりしたのだけは解ったのですが、何故そんな大金が必要だったのでしょう? 今のお話を聞いただけでは、私にはちょっと解らなくって」
「わしかルディーン君が説明すると思って、重要な事を何も書いておらぬとは。あの受付嬢、手を抜きおったな」
そりゃそうだよね。
だってこのお手紙には、僕がイーノックカウに行ってからギルド預金にどれだけお金が入ったとか、お金を何にどれだけ使ったんだよって事がずらずらぁって並べて書いてあっただけなんだもん。
それにね、お父さんから僕が使えるお金はどれくらいまでねって言われてたでしょ?
だからちゃんと書かないとダメって思ったのか、使った方は特にすっごく細かく書いてあるもんだからその数もすっごく多くって、そのせいで途中からはお父さんもお母さんもよく解んなくなっちゃったみたい。
でもそのお手紙の最後には入ったお金の合計と出てったお金の合計が書いてあって、その下には人助けのために僕がこんだけ使ったけど許してねってちょっと難しい言い方で書いてあったんだよね。
お母さんはそれが書いてあったおかげで、僕がいっぱいお金を使ったんだなぁって事だけは解ったんだってさ。
「ふむ。いくら細かく書いたとて、これだけを聞いて村のものがその内容を理解するのは無理だという事くらい解りそうなものなのだが……しかし、収支を書き連ねるだけでこれだけの数になっておるからのぉ。これの内容を詳しく書こうと思ったら、羊皮紙がいくらあっても足らぬか」
「そっか。羊皮紙ってとっても高いもんね」
お爺さん司祭様は最初、ルルモアさんがめんどくさいから何に使ったのかだけを書いたのかもって言ってたでしょ?
でも、こんだけいっぱいあるのをもし全部書いてたら、お手紙が本みたいになっちゃうねって納得したみたいなんだ。
「まぁ、説明せねばならぬ内容は収支と違って、それほど多くは無いからのぉ。話して聞かせた方が確かに早いか」
「うん。それだったら僕にだってできるもんね」
僕はね、まだちょっとぽかんってしてるお父さんたちに、イーノックカウで何があったのかを教えてあげる事にしたんだ。
「あのね、おとうさん。僕、ほんとはお金をいっぱい使うつもりはなかったんだよ」
「まぁ、そうだろうな」
「でも、それじゃあなんで、そんなにお金を使う事になったの?」
「それはね、ロルフさんたちに頼まれて、ベニオウの実を採りに行ったからなんだ」
僕はお父さんとお母さんに、森に行ったらニコラさんたちがゴブリンにやられてたんだよって教えてあげたんだ。
「僕ね、わざとゴブリンから見えるとこで魔法を撃ったんだよ。だってさ、僕が魔法を撃ったって解ったらきっと、それを見たゴブリンがこっちの方に走ってくるよねって思ったからなんだ。でね、そしたらすっごい魔法でやっつけるんだって思ってたのに、何でか知らないけどゴブリンはこっちに来ないで、みんなビューって森の奥の方に逃げちゃったんだもん。だから僕、すっごい魔法を使えなくってつまんなかったんだよね」
「あー、すまん。イーノックカウでの冒険の話はまた今度聞かせてくれ」
「ええ。とっても興味がある話だったけど、それを聞いていると今日中にすべてのお話を聞き終わらないみたいだからね」
でもね、僕が体全体を使ってその時の事を一生懸命教えてあげてたのに、お父さんとお母さんはもういいよって言うんだよ。
も~、これからがいいとこだったのに!
お父さんたちが言うもんだから、ここからの話はお爺さん司祭様にバトンタッチ。
「それではまず、先ほどまでルディーン君が話しておった事を説明するかのぉ」
司祭様はそう言うとね、ニコラさんたちがゴブリンにやられてて、その時にユリアナさんとアマリアさんの足首が取れちゃってた事をお父さんたちにお話したんだ。
「そこでこの子がその二人の足を、治癒魔法で治してしまったのがすべての始まりなのだよ」
「ルディーンが魔法で、その足をくっつけたって言うんですか?」
「そんな事ができるようになっていたなんて、私も知りませんでしたわ」
「うむ。確かにこの歳でその魔法を使って見せたのは驚くべきことだ。しかしな、今回に限ってはその事自体はそれほど重大ではない。わしもいずれは使えるようになるであろうと思っておったからのぉ。今回問題になったのは、魔法そのものではなく、その時に発生した治療費なのだ」
あの時ルルモアさんは、僕が魔石を使って足をくっつけちゃったもんだから、ニコラさんたちはすっごくいっぱい僕にお金を払わないとダメなんだよって言ったんだよね。
でもそんなお金、ニコラさんたちが払える訳ないからって、もうちょっとで借金奴隷ってのになりそうだったんだ。
「この子はそれを不憫に思ってな、冒険者ギルドの特例条項を使ってその者たちをルディーン君預かりにしようと考えたのだ」
「なるほど。その特例ってやつにお金が必要だったんですね?」
「いや、そうとも言えない事もないが、正確にはちと違っておってのぉ」
お爺さん司祭様はね、ニコラさんたちを助けるのには僕が居住権ってのを取ってイーノックカウにお家を買わないとダメだった事をお父さんたちに教えてくれたんだよ。
でもね、それを聞いたお父さんとお母さんはびっくり。
「ええっ!? ルディーン! お前、イーノックカウの居住権を取ったって言うのか?」
「それに、家まで買っていたなんて」
お父さんたちはそう言いながら、僕の方を見たんだよ?
でもね、それを見た僕はなんでだろうって頭をこてんって倒したんだ。
だってさ、居住権ってのにいるお金なんて、お父さんたちだったら持ってるはずだもん。
だから僕、何でそんなにびっくりしてるの? って聞いてみたんだよね。
そしたらさ、居住権てのは買える事自体がとっても凄い事なんだよって教えてくれたんだ。
「イーノックカウのような都市はな、不審者が住み着く事が無いように居住権を取るための審査がかなり厳しいんだ」
「ええ。だから普通は取得申請が通るまでに、とても長い時間が必要なのよ」
イーノックカウの居住権を欲しい人はね、まず最初にお役所に欲しいって言いに行かないとダメなんだって。
でね、そしたらお役所の人がその人が悪もんじゃないか、いろんな人に聞いたりしてすっごくいっぱい調べるそうなんだよ?
だから時間がすっごくかかるし、調べるのに使ったお金もあとで全部払わないとダメだからそう簡単に取れるもんじゃないんだよってお父さんたちが教えてくれたんだ。
「ええっ! でも僕、すぐに買えたよ」
「それに関しては、ヴァルトがその理由を話しておったではないか。あやつが保証人になったからこそ、簡単に承認されたのだ」
ロルフさんは、すっごいお金持ちでしょ?
そんなロルフさんが大丈夫だよって言ったら、ほんとだったら僕の事をすっごく調べなきゃダメなはずなのに、それだけで居住権ってのが買えちゃったんだってさ。
「なるほど、あの爺さんが保証してくれたから、ルディーンがすんなりと居住権を取る事ができたって訳か」
「でもそんな力を持っているなんて……もしかしてあのお爺さん、ただのお金持ちじゃなくって本当は凄く偉い人なのかも?」
「うむ。昔はあやつも、あの街ではそれなりの地位についておったからのぉ。しかし、今は錬金術ギルドの受付で本を読んでおるただの隠居だと本人は言っておるがな」
ロルフさんってお爺さん司祭様のお友達だし、錬金術ギルドのマスターをやってるバーリマンさんとも仲いいもんね。
司祭様もバーリマンさんもとても偉い人だから、このお話を聞いたお父さんたちはなるほどねぇって納得したみたい。
「付き合っている顔ぶれを見れば、その人の実力が解るというからなぁ」
「そんな人たちに可愛がってもらえるなんて、ルディーンは本当に幸せものね」
そしてそんなロルフさんが、僕と仲良くしてくれてるでしょ?
だからお父さんとお母さんはにっこり笑いながら、僕にロルフさんたちと知り合えて良かったねって言ってくれたんだ。
読んで頂いてありがとうございます。
お爺さん司祭様ですが、自分たちが貴族だという事をロルフさんやバーリマンさんがルディーン君に隠している事を知っています。
なので今回のようにもしかして偉い人なの? と聞かれても、はぐらかすようにしているんですよ。
ロルフさんたちはルディーン君をとても可愛がっているので、もし貴族とばれてよそよそしい態度を取られでもしたら大変ですからね。
ですから当然ニコラさんたちもすでにそれを知らされたうえで、ストールさんから厳重に口止めされています。
?イーノックカウで活動しているニコラさんたちは、いつロルフさんたちが貴族だと気付いてもおかしくはないですからね。




