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509 大人なのにお手紙が読めないんだって


 みんなでフィートチーネを食べた次の日の朝、僕とお爺さん司祭様が乗ってきたロルフさんちのすっごい馬車の御者さんと、荷馬車の御者さんがイーノックカウに帰るよってご挨拶をしに来てくれたんだ。


 でね、その時すっごい馬車の方の御者さんが、薄い革のひもで縛られてる丸まった羊皮紙をお父さんに渡したんだよ。


「カールフェルト様に直接手渡すよう、冒険者ギルドから頼まれた書状です」


「しょっ、書状?」


 お父さんはね、御者さんからその羊皮紙をもらうと、ちょっと不安そうな変なお顔になっちゃったんだ。


 だから僕、ちっちゃな声でお母さんにどうしたんだろうね? って聞いたんだよ。


 そしたらお母さんは、こんなものをもらった事が無いから、どうしたらいいのか困ってるのよって教えてくれたんだ。



 お父さんとお母さんはとっても強いでしょ?


 だからイーノックカウの森に強い魔物が出たりした時は、やっつけてって冒険者ギルドから頼まれる事が意外とあるそうなんだよ。


 でもね、それはお父さんたちがイーノックカウに行った時だけで、こんな風にお手紙をもらった事は今まで一度も無いんだって。


 なのに今回はこんなお手紙をもらったもんだから、お父さんはちょっと困ってるみたいなんだ。


「それにね、実はハンス、あまり字が読めないからこんなものを渡されてもって困っているというのもあるでしょうね」


「ええっ! お父さん、お手紙読めないの!?」


 お父さんは大人でしょ?


 だから僕、お手紙をもらっても読めないなんて全然思ってなかったもんだから、びっくりしてついおっきな声を出しちゃったんだ。


 そしたらさ、それを聞いたお父さんと御者さんたちはみんなちょっと困ったようなお顔になっちゃって、


「それでは確かに、お渡ししました」


「はい。ご苦労様でした」


 頭をぺこぺこ下げあいながら、急になんか変な笑顔でこんなご挨拶をしはじめちゃったんだ。



 その後僕はお父さんたちと3人で村の入口まで御者さんたちについてって、帰ってく馬車のお見送り。


「紋章の入った旗付きの馬車を襲う奴なんかいないとは思うけど、道中お気をつけて」


「ありがとう。それでは失礼いたします」


「村まで送ってくれてありがとう! バイバイ」


 御者さんたちにさようならして出発するのを見てから、僕はお家の方へ……行かずに、全然別の方に向かってお母さんに手を引かれてったんだ。


「あれ? お母さん。お家はこっちじゃないよ?」


「家に帰る前に、簡易神殿に寄るのよ」


 だから僕、お家はこっちじゃないよ? って言ったんだけど、そしたらお母さんが、帰る前に神殿に寄るんだよって教えてくれたんだ。


「何で? 司祭様に、なんかご用事?」


「ご用事というか……私もハンスもあの手紙を読めそうにないから、司祭様に読んでもらおうと思ってるのよ」


 これを聞いた僕は、すっごくびっくりしちゃったんだよ。


 だってさ、まさかお母さんまでお手紙を読めないなんて思わなかったんだもん。


「お母さん、大人なのにお手紙読めないの?」


「いや、簡単なものなら読めるのよ? 私も一時期はイーノックカウで冒険者をやっていたから依頼書くらいは読んでいたし。でもねぇ」


 お父さんもお母さんも、文字が全然読めない訳じゃないんだって。


 でもこれは冒険者ギルドがわざわざロルフさんちの御者さんに頼んでお父さんたちに持ってきたものだから、自分で読んでみてもし中に書いてある事が解んなかったら困っちゃうでしょ?


 だからそんな事が無いようにちゃんとお手紙を読めるお爺さん司祭様に読んでもらって、中に何が書いてあるのかを教えてもらうんだってさ。



 村の簡易神殿に行くとね、入口から入ってすぐのとこにシスターのおばさんが座ってたんだ。


「こんにちは、シスター。司祭様はいらっしゃいますか?」


「これは、ご家族おそろいで。ええ、中にいらっしゃいますよ」


 だからお母さんはそのシスターさんに、お爺さん司祭様はいる? って聞いたんだよ。


 そしたらしシスターさんはにっこり笑って、僕たちをお爺さん司祭様のいるお部屋まで案内してくれたんだ。



 コンコンコン。


「どうぞ」


「失礼します、ハンバー司祭様。カールフェルト夫妻とルディーン君をお連れしました」


 ドアをノックすると中からお返事が返って来たから、シスターさんはドアを開けて僕たちが来たよって。


 だから僕、シスターさんの横からお部屋の中をのぞいたんだよ?


 そしたらさ、お部屋の奥にある羊皮紙がいっぱい載ったおっきなテーブルの向こうで、お爺さん司祭様が優しそうなお顔でにっこり微笑んでたんだ。


「いらっしゃい。昨日顔を合わせたばかりだというのにわざわざ皆でここまで足を運ぶとは、何があったのかな?」


「お邪魔します、司祭様。実は先ほどイーノックカウに帰られた御者さんが、冒険者ギルドからの書状だと言ってこんなものを置いて行ったので」


 お父さんはそう言うとね、肩掛けカバンからさっき貰った羊皮紙のお手紙を出してお爺さん司祭様に見せたんだよ。


 そしたらそれを見たお爺さん司祭様はあちゃーってお顔をして、自分のひたいをパチンって叩いたんだ。


「おお、そうであった。すまぬ。頼まれておったのに、ついうっかり忘れておったわ」


「という事は、司祭様もこの書状の事は知っていたのですか?」


「うむ。その中にはな、イーノックカウに滞在していた間にルディーン君の身に起きた出来事や、おぬしたちに了承を受けなければならない事が書いてあるのだよ」


 お爺さん司祭様がそう言うとね、それを聞いたお父さんとお母さんはどんな大変な事があったんだろうって、心配そうなお顔で僕の方を見たんだよ?


 でもそんなお父さんたちに司祭様は、ニッコリ笑顔で大丈夫だよって。


「わしも一緒におったのだから、ご両親が心配するような事など何も起こっておらぬよ」


「そっ、そうですわね。司祭様がついていてくれたのですから、大変な事態になんてなるはずがありませんものね」


「ああ、それにルディーンもかすり傷一つ、負ってないからなぁ。ちょっと心配しすぎたか」


 そしたらそれを聞いたお父さんたちは、ほっとしたお顔で笑ったんだよ?


 でもね、そんなお父さんたちにお爺さん司祭様は急にまじめなお顔をして、


「まぁ、確かに心配するような事は無かったが……ただな、ある意味かなりの大事にはなっておるのだ」


 あごのお髭をなでながらこう言ったんだ。



 読んで頂いてありがとうございます。


 ルディーン君だけでなくロルフさんたちも本を読んでいるので勘違いしそうになりますが、この世界の識字率はかなり低いんですよ。


 本編でルディーン君はお父さんたちは大人なのにお手紙が読めないの? って驚いていますが、そんなお父さんやお母さんでも一般レベルで言えばかなり文字が読める方です。


 中には自分の名前さえ読めないような人もいるくらいなので、村に図書室がある事を考えるとグランリルの識字率はかなり高い方だと言えるでしょうね。


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