506 普通の蓋だと開いちゃうかもしれないからダメなんだって
お父さんは、とっても嬉しそうにお酒の入った樽をお家の中に運んでるでしょ?
でもお兄ちゃんたちはそんなにお酒を飲まないから、あんまり興味がないみたいなんだよね。
だからお母さんはそんなお兄ちゃんたちに、僕たちと一緒にどんなお土産があるのか見る? って聞いたんだよ?
でもね、
「う~ん、土産って言っても、中身は食べ物ばっかりなんだろ?」
「あまり興味はないかな」
あんまりおもしろそうじゃないから、お兄ちゃんたちは見ないっていうんだ。
「あらそう。なら私たちが見て回っているうちに、確認したものを裏の倉庫まで運んでおいてね」
そしたらさ、それを聞いたお母さんは、だったら見終わった箱をしまっといてねって。
「ええっ、なんで俺たちが?」
「だって仕方がないじゃない。この荷馬車、明日の朝には空にして返さないといけないのだから」
この荷馬車の御者さん、明日帰っちゃうでしょ?
だからその時にこの荷馬車も帰っちゃうから、今日中に載ってるもんは全部下ろさないとダメなんだよね。
お母さんはもしお兄ちゃんたちも一緒にお土産を見たいって言ったら、全部見た後にみんなで下ろそうと思ってたんだって。
でもお兄ちゃんたちが見ないって言ったもんだから、僕たちが見終わったやつからしまってねって頼んだみたいなんだ。
「今か後かの違いなんだし、私たちが調べていないものは下ろさないからゆっくりと作業できるもの。今やった方が楽だと思うわよ」
「そう言えばそうか。流石にキャリーナやルディーンにはこの荷物、とても運べないだろうしな」
「全部調べた後なら母さんとレーアが加わるけど、遅くなれば休まずに運ばないといけなくなるから、今やった方が確かに楽そうだね」
お母さんの言う通り、後でいっぺんやろうと思ったらすっごく大変だよね。
だからディック兄ちゃんとテオドル兄ちゃんは、僕たちが見た箱を順番にしまってくれることになったんだ。
まずはお兄ちゃんたちが運びやすいように、もう見ちゃったやつを馬車の後ろの方に持ってってから他のお土産を見ていく事に。
とりあえず近くにある箱の蓋から順番に開けてったんだけど、そしたらさっきまではよく見るのばっかりだったのにその奥にあった箱の中にはチーズが入ってたり、粒胡椒や唐辛子みたいな辛い奴、それにはちみつが入ってる銅製のツボが入ってるやつまであったもんだから、僕、すっごくびっくりしたんだ。
「お母さん。おいしい物が作れそうなのが、すっごくいっぱいあるね」
「これほどの量を用意するのは大変だったでしょうから、次に会った時はちゃんとお礼を言わないとね」
荷馬車の中には珍しい物や村では取れないからあんまり食べられないものがいっぱい詰まってて、僕たちは大興奮で積んであるものを見てったんだよ。
そしたらさ、荷馬車の奥の方でキャリーナ姉ちゃんがある箱を見つけたんだ。
「あっ、私この絵知ってる。お菓子屋さんのだ」
「ほんとだ。この箱のふた、アマンダさんのいるお菓子屋さんの看板とおんなじのが描いてある」
その箱はね、そんなにおっきくないんだけど他のと違ってつるつるしてて、蓋の真ん中にはアマンダさんのいるお菓子屋さんの看板とおんなじ絵が描いてあったんだ。
「お母さん。この箱、開けていい?」
「ええ、いいわよ」
その箱を見つけたキャリーナ姉ちゃんはね、近くで別の箱のふたを開けてたお母さんにこれ開けていい? って聞いたんだよ。
そしたらいいよって答えが返ってきたもんだから、僕とキャリーナ姉ちゃんはわくわくしながらその箱を開け……ようとしたんだけど、蓋だと思ったとこを持ち上げたら箱も一緒に持ち上がっちゃったんだよね。
「あれ? 開かないよ」
だから二人して頭をこてんって倒したんだけど、よ~く見たら僕、蓋の横んとこに指を引っかけるようなくぼみがあるのを見つけたんだ。
「キャリーナ姉ちゃん、これパカッて開けるやつじゃなくって、横にすーって開けるやつなんじゃない?」
「横にすーってやるの? ホントだ、開いた!」
こんな開け方する箱、僕もキャリーナ姉ちゃんも初めて見たでしょ?
だから蓋が開いただけでうれしくなっちゃって、二人で両手を上げて喜んでたんだ。
そしたらさ、お母さんがなになに? って僕たちの方に寄ってきて、今開けたばっかりの箱を覗き込んだんだよ。
「あら、引き蓋の箱なんて、めずらしいわね」
「お母さん、このふた、知ってるの?」
「ええ。これはね、普通はビンに入った高いお酒とかを入れる箱についてる蓋なのよ」
高いお酒が入ってるのに、もしビンが落っこちて割れちゃったら大変でしょ?
だからそういうのを入れる箱は、蓋がそう簡単に開いちゃわないように、こういう箱を使うんだって。
でもさ、これはお菓子屋さんの箱だよね。
なのに何でこんな蓋の箱を使ってるんだろう?
そう思った僕は箱の中を見たんだけど、入ってたのはクッキーとかの焼いたお菓子だったんだよね。
「お母さん。この箱の中、お菓子ばっかりだよ」
「うん、ビンに入ったお酒なんて入ってないよ? なのに何でこの箱に入ってるんだろうね?」
どうやらキャリーナ姉ちゃんもおんなじことを思ってたみたいで、僕がお菓子しか入ってないよって言うと、その後からビンなんか入ってないよって。
そしたらね、それを聞いたお母さんはうふふって笑いながら、何でお菓子を入れるのにこの箱を使ってるのかを教えてくれたんだ。
「確かにお菓子は、一枚や二枚落として割れてしまっても食べる事はできるわよ? でもそれがもし馬車で運んでいる時だとしたら?」
「そっか! 馬車が走ってる時に蓋が開いちゃったら、中のもの、全部落っこちてばらばらになっちゃうね」
お家の中で落っことすのと違って、がたがた揺れる馬車の中で蓋が開いたら中のものが全部落っこちちゃうかもしれないもん。
もしそうなったらさ、お家に着くまでにみんなバラバラになって、食べられなくなっちゃうかも?
「それに他のものと違って焼き菓子はとても軽いから、荷馬車で運んでいるうちに箱がひっくり返ったり、落ちてしまったりするかもしれないもの。だからこんな箱を使っているのでしょうね」
「でもでも、この箱、横に引いたらすーって開いたよ? これだとすぐに開いちゃうんじゃないかなぁ?」
「そう? 最初に引っかかりはなかった?」
お母さんはそう言うとね、一度ふたを閉めてからもういっぺん開けてみたんだ。
「ほら、やっぱり。蓋を開ける時、最初に少しだけきつくなってるところがあるわ。だからちゃんと閉めておけば、こうしても蓋は開かないのよ」
でね、その蓋をもういっぺん閉めると、箱を持ち上げて蓋を開ける方が下になるように傾けてったんだよ。
「そっか。だから馬車の中に置いといても大丈夫なんだね」
僕はそう言うと、お母さんの持ってる箱の蓋を開けさせてもらったんだ。
そしたら最初にちょっとだけきついとこがあったんだけど……でもさ、そのきついとこがちょっとあるだけで蓋が開かなくなるなんて、不思議だね。
「こんなちょびっとでも、蓋が開かないんだね」
「あら、きつくなっているのはそんなに少しだけじゃないわよ? 試しにゆっくりと開けてみて」
「あっ、ほんとだ!」
普通に開ける時はちょびっとしかないって思たけど、ゆっくり開けてみると2センチくらいきついとこがあったんだよね。
そっか、こんだけあったら馬車がガタゴト揺れても、そう簡単に開いちゃったりしないよね。
そう思った僕は、他にもこんな変わった蓋の箱、無いかなぁ? って周りを見渡したんだよ。
そしたらね、お菓子の箱が置いてあるとこの近くにおんなじような蓋がついた、でもお菓子屋さんの印のついてない箱が何個か置いてあったんだ。
「あれ? おんなじ蓋なのに、アマンダさんのお菓子屋さんの絵が描いてないのがある」
「えっ、どこ?」
「ほら、あそこ」
僕はお母さんと一緒に、その絵の描いてない箱のとこに行ってみたんだよ?
そしたらさ、見た目はお菓子の箱と同じようにつるつるしてたんだけど、近づいてみたら厚い木が使ってあるすっごい箱だったもんだから、ちょっとびっくり。
「これ、お菓子の箱よりすっごい箱だね」
「確かにかなりしっかりした箱ね。何が入っているのかしら?」
それはね、横幅は広いけど平ぺったい箱だったんだよ。
だから中身はお酒の入ったビンなんて事は無いだろうから、お母さんと僕は何が入ってるんだろうって思いながらその中の一つの蓋を開けてみたんだ。
「平ぺったい……棒?」
そしたら箱の中には何個かの仕切りがしてあって、そこには薄黄色の平ぺったい、棒みたいなのがいっぱい入ってたんだ。
読んで頂いてありがとうございます。
荷馬車の中身はお土産ですが、馬車そのものは借り物です。
なので中のものは今日中に、全部下ろさないといけないんですよね。
前回はそれを忘れていたので悠長に中を調べ始めてしまい、今回慌てて軌道修正しました。
そうだよなぁ。いっぱいもらったんだから、下ろすのにも時間がかかるのは当たり前じゃないか。
本来なら下ろしてしまってから中身を調べなきゃいけなかったのに、失敗失敗。




