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505 ちっちゃい樽だったから何が入ってるのか解ったんだって


 簡易神殿に帰ってったお爺さん司祭様が見えなくなるとね、すぐにキャリーナ姉ちゃんが僕に聞いてきたんだ。


「ねぇ、ルディーン。なにもらって来たの?」


「うんとね、わかんない!」


「え~、なんでわかんないの? これ、ルディーンのお土産でしょ?」


「だってこれ、僕と司祭様が帰る時にロルフさんが、お土産だよってくれたやつだもん」


 この荷馬車に載ってる荷物はさ、ロルフさんがフロートボードの魔石を作ってくれたお礼だよって帰る時にくれたお土産でしょ?


 だから僕も、この中に何があるのかなんて知らないんだ。


「そっか。じゃあルディーン、いっしょに見ようよ」


「うん、いいよ!」


 と言う訳で、僕とキャリーナ姉ちゃんはロルフさんが何をくれたのかを見ようと思ったんだよ?


 でもね、そこでお母さんからストップがかかったんだ。


「ちょっと待って、二人とも」


「え~、なんで?」


「僕が貰って来たのに、見ちゃダメなの?」


「ダメっていう訳じゃないけど、この中には多分食べ物とかも入っているだろうから、蓋を開ける前に手を洗わないと」


 そう言えばキャリーナ姉ちゃんはさっきまでお外でなんかやってたし、僕もずっと馬車に乗ってたからおててを洗ってないもん。


 お母さんの言う通り、先におててを洗ってから開けた方が絶対いいよね。


「それに私やレーアも何をもらって来たのか気になるから、みんなで手を洗ってから中を調べましょう」


「「は~い」」



 みんなそろっておててを洗ってきれいになったところで、今度こそ何が入ってるのかを見て回る事に。


「あ~! お母さんの言う通り、食べる物がいっぱい入ってるよ」


「そうね。それも私たちがイーノックカウに行った時に、いつも買って帰ってくるものを中心にそろえられてるみたいね」


 まだ後ろから入ったとこの近くにある箱とかを開けてみただけなんだけど、それを見たお母さんはお土産の中身がいつもグランリルの人たちがイーノックカウで買ってくものばっかりだって気が付いたんだって。


「そうなの?」


「ええ。イーノックカウに魔物の素材を売りに行く時はいつも、帰りにこの村では手に入らないものを買って帰ってくるでしょ? 多分それを調べてお土産の中に入れてくれたんじゃないかしら」


 そう言えば僕も初めてお父さんと一緒に行った時は、お店でいろんなものを買って帰ってきたもんね。


 お父さんもグランリルの人たちはいっつもおんなじお店で買ってきてるって言ってたから、ロルフさんはそこで聞いてこのお土産を買ってくれたのかも。


「あっ! って事はさ、あそこにいっぱいあるちっちゃい樽って」


「多分お酒でしょうね」


 お父さん、お店でいっぱいいろんなお酒を飲んで、その中からおいしいって思ったお酒を買ってたでしょ?


 お母さんはね、あのいっぱい積んであるちっちゃな樽の中身は、あの時買って来たお酒が入ってるんじゃないかなぁって言うんだ。


「でもちょっと多すぎるわね。流石にこれを全部うちに置いておくと、ハンスが飲みすぎてしまうんじゃないかしら?」


 お酒は村で作ってないから、いつもは次に買ってくるまでもつように、あるものを分けてちょっとずつ飲んでるでしょ?


 だからお父さんは、ほんとはいっぱい飲みたいのにいつもはガマンしてるんだってさ。


「僕、せっかくお酒を作れるようになったのに、お母さん、作っちゃダメって言ってるもんね」


「それはそうよ。いくらでも飲めるとなったら体を壊しかねないもの」


 お母さんはね、目の前にいっぱいあるお酒の入った樽を見て、ちょっと心配ねって言うんだよ。


 だから僕やお姉ちゃんたちも、そうだよねってうんうん頷いてたんだけど、


「ん、何だ。何が心配なんだ?」


 その時急に、後ろからこんな風に声を掛けられたもんだから、僕たちはすっごくびっくりしてみんなで振り返ったんだよね。


 そしたらそこには、不思議そうなお顔で荷馬車の中を覗き込んでるお父さんとお兄ちゃんたちが立ってたんだ。



「なるほど。これはルディーンがロルフって言う金持ちの爺さんから貰ったお土産なのか」


「うん。僕ね、ロルフさんのお孫さんがお尻の痛くならない馬車を欲しいって言ってるって聞いたから、フロートボードの魔石を作ってあげたんだよね。そしたらそのお礼にって、これをくれたんだよ」


「なるほど。魔道具を作った礼というのなら、この量も頷けるな」


 そう言いながらゆっくりと荷馬車の中を見渡すお父さん。


 でね、そのお父さんの目が、ある場所で急にピタって止まったんだよね。


「あれは、もしかして」


「まだ中を確かめていないけど、多分中身はお酒でしょうね」


「ああ。あの大きさの樽なら、まず間違いないだろうな」


 お父さんが見てたのは、さっき僕たちも見てたいっぱいあるちっちゃな樽。


 樽はね、お酒だけじゃなくって小麦だとか塩だとかを入れる事もあるんだけど、そういうのを入れる時はもっとおっきなのを使う事が多いんだって。


 でもお酒は重たいでしょ?


 だからこの小っちゃい樽を使うのが普通だから、お父さんもお母さんも、樽を見ただけであれの中身はお酒だろうなぁって思ったみたいなんだ。


 でもね、ほんとにお酒かどうかなんて外からじゃ解んないからって、お父さんは荷馬車に乗り込んでくると、そのちっちゃな樽に近づいてったんだよ?


 でね、お顔を近づけてクンクンってしたと思ったら、こっちを見てニカッて笑ったんだ。


「うん、間違いない。ルディーン、でかした! これで当分の間、呑む酒には困らないぞ」


 匂いを嗅いだだけで、お父さんには中身がお酒がって解ったみたい。


 だから大喜びで僕をほめてくれたんだけど、そんなお父さんにお母さんがダメよって。


「ハンス。いくらなんでもこれだけのお酒を一人で飲むのは許さないわよ」


「えっ? いや、でも、これはルディーンが貰って来たものだから……」


「ええ、きっと親御さんへのお土産にってくれたものだと思うわよ。でも、流石にこの量はダメ。ある程度はうちに残すとしても、後はご近所に配ります」


「そんなぁ」


 さっきまではあんなに大喜びしてたのに、お母さんに叱られたお父さんはしょんぼり。


 でもね、そんなお父さんを見て、お母さんも流石にかわいそうって思ったみたいなんだよね。


「でも、一応すべての樽を開いて試飲をするくらいはいいわよ。どの樽を残すのかくらいは、自分で選びたいでしょうからね」


「いいのか?」


「これだけあるのだから中身が全部同じって事は無いだろうし、そして何よりルディーンが貰ってきたものですもの。味をみておかないと、次にロルフさんと会った時にお礼を言う事ができないものね」


 お母さんは、だから私も一応全種類飲むわよって。


 そしたらね、さっきまであんなにしょんぼりしてたのに、それを聞いたお父さんはニコニコ。


「なら今晩から、少しずつ全種類を呑み比べるとするか」


 そう言いながらいっぱい積んであるちっちゃな樽を、嬉しそうにお家の中に運んでったんだ。



 読んで頂いてありがとうございます。


 ルディーン君へのお礼ですが、これはお父さんたちへのお土産でもあるので当然お酒も入っています。


 でもその量がちょっと多すぎますよね? 実はこれ、ロルフさんの勘違いから来ているんですよ。


 ロルフさん、前に買って帰ったものはすべてルディーン君の家で消費する分だと思ってるんですよね。


 ルディーン君の館のワイン倉庫を見ても解る通り、ロルフさんは貴族ですから館で使う物を仕入れる時は一度にかなりの量を買い込みます。


 それと比べるとハンスお父さんがグランリルの村に買っていった量なんて微々たるものですから、まさか村全体で分けるなんて想像もしなかったと言う訳です。


 あっ、因みにですが、お酒の樽が小さいのは馬車で移動させる時のみですよ。


 館のワイン倉庫などで寝かせる時なんかは、穀物を入れるような普通の樽よりも大きな、硬い木で作られた樽を使っています。この辺りは現実世界と同じと思ってもらえば間違いないですかな?

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