498 お部屋は使わないと早く悪くなっちゃうんだって
「中に吹き込む風の温度を上げるのならば、もう少し大きな魔石を使うのがよいじゃろうな」
魔道乾燥機は一応作れたけど、もうちょっと何とかしたいなぁってとこがあったから、ちょっとだけお話合い。
「何で? 魔石の数を増やせば、風をあっつくする事、できるのに」
「うむ。確かにその方が安く作る事ができるであろうな。じゃがな、ルディーン君。それによって小さな魔石を多く使用する事になるのはちと問題があるのじゃよ」
おっきな魔石を一個使うより、ちっちゃな魔石を二個使った方が使うお金は少なくなるんだよ。
だから僕、その方がいいんじゃないかなぁって思ったんだけど、ロルフさんはそしたらまた別の問題が出てくるよって言うんだ。
「問題?」
「うむ。ルディーン君がこの乾燥機に使った米粒大の魔石はこれまで魔道具にこそ使われてはおらなんだが、これにはまた別の、ある重要な役割があるのじゃよ」
僕ね、ロルフさんにそう言われてもそれが何かすぐには解んなくって頭をこてんって倒したんだよ?
でも次のお話を聞いて、僕は何の事を言ってるのかが解ったんだ。
「ほれ、君が初めて錬金術ギルドに来た時も作ったであろう? 魔道具を動かすのに必要な、あれの事じゃよ」
「あっ、そっか! このちっちゃな魔石、魔道リキッドを作るのに使うんだっけ」
僕が魔道乾燥機を作るのに使った米粒くらいの魔石はね、ちっちゃすぎて魔力がとっても弱いんだよ。
だから魔道具を動かしたりするのには使えないんだけど、特別なやり方で魔力を注いでから溶解液で溶かす事で魔道リキッドの原液にする事ができるんだ。
「うむ。その魔石を需要の多い魔道具作成に使うようになると、その魔道リキッドの供給が間に合わなくなる可能性があるのじゃよ」
「そっか。だからおっきい魔石を使った方がいいんだね」
もし魔道リキッドを作る魔石が足んなくなっちゃったら、すっごくいっぱいの人がこまっちゃうでしょ?
それにグランリルの村の森には、一角ウサギよりもちょっとだけおっきな魔石を持ってるビックピジョンとかがいっぱいいるし、イーノックカウの森にだっておっきなベニオウの実が採れるとこくらいまで行けばおんなじくらいの魔石が獲れる魔物がいっぱいいるもん。
だからちょっとくらい高くなっても、この魔道乾燥機に使う火の魔石はそれよりもちょっと大きめの魔石を使う事にしたんだ。
それからもね、おっきな乾燥機を作ったら湿った空気がいっぱい出てくるから、それをお部屋の外に出せるように上んとこに開けた穴のとこに煙突を付けた方がいいねとか、このお部屋は窓が上の方にしかないから、そこに煙突をつなぐより下に輪っかを付けてドアのとこまで動かせるようにした方がいいねとか、ロルフさんといろんな事をお話してたんだよ?
でもね、そしたらストールさんがこんなこと言ってきたんだ。
「旦那様、ルディーン様。お気持ちはわかりますが、まだ館の視察が残っておりますので、そろそろ」
「ん? おお、そうであったな」
「そう言えば僕たち、出来上がったお家を見に来たんだっけ」
ストールさんの言う通り、今日は乾燥機を作りに来たんじゃなくって新しくなったお家を見に来たんだよね。
だからこのお話は一度ここでおしまいにして、僕たちはお家の探検の続きをする事にしたんだ。
「ここら辺って、ちっちゃなお部屋があったとこだよね」
「はい。ここは使用人用の部屋がある区画ですわ」
僕たちがさっきまで居たお洗濯をするとこの近くにはね、ちっちゃなお部屋がいっぱいあるんだよ。
そこはね、ここで働く人たちのお部屋にするつもりで作ってあったお部屋なんだって。
だからここに住むことになるニコラさんたちのお部屋にするのがいいだろうって、いろんな家具がもう入れてあるんだよってストールさんは言うんだ。
「今の所一番奥にある3部屋をいつでも使えるように整えてありますが、ご覧になりますか?」
「うん! 見てみたい」
どんな風になってるか、興味あるもん。
と言う訳で、早速出来上がってるお部屋を見せてもらう事にしたんだ。
「わぁ。さっきのメイドさんたちがお勉強するお部屋より小っちゃいけど、結構おっきなお部屋だね」
「はい。本来は一部屋を複数人で使う様にと、考えて作られているようでしたから」
お部屋の中にはひとり用のベッドとおっきめなクローゼット、それに机といすが置いてあったんだよ。
それなのに空いてるとこがまだいっぱいあったもんだから、僕、おっきなお部屋だなぁって思ったんだ。
そしてそれはニコラさんたちもおんなじだったみたい。
「こんな広い部屋を、一人で使ってもいいんですか?」
「私たちが3人で使ってた宿の部屋、ここより狭かったわよね」
「それに寝るとこだって、あそこはただ板の上に薄い布が敷いてあるだけのベッドだったのに」
何人かで使うようなおっきなお部屋を一人で使っても、ほんとにいいのかなぁ? なんて言ってるんだよね。
でもそれを聞いたストールさんは、部屋が足りない訳じゃないからいいよって。
「部屋は使わないと、風が通らないために床や壁が痛む場合がありますもの。不都合が無いのであればそれぞれが一部屋ずつ使用した方がよいのです」
「なるほど。それなら遠慮なく使わせてもらいますね」
ニコラさんたちはそう言うとね、早速お部屋の中を見て回りだしたんだ。
「置いてある家具は、どの部屋もおんなじなんだよね?」
「はい。部屋自体が同じ規格で作られておりましたから、配置も含めて同様な作りになっております」
そっか、それだったらここを見れば全部のお部屋を見なくってもいいもんね。
僕がそう思いながらニコラさんたちの方を見ると、3人はクローゼットを開いてみたり、ベッドを触ったりして大騒ぎ。
「すごい。このクローゼットの中、服がかけられるだけじゃなくって下に何カ所か引き出し収納がある!」
「このベッドも、今泊まってる宿と同じくらいふかふかなマットが敷いてあるわ」
「それにかかっている毛布も、私たちが使っていたようなペラペラなものじゃない!」
でもね、その内容がストールさんには気に入らなかったみたい。
「三人とも、何を言っているのですか。ここはルディーン様のお屋敷なのですよ? 粗末な家具など置くはずがないではありませんか!」
「「「すみません」」」
ここに置いてある家具はストールさんが用意したんだもん。
変なのが置いてあるはずないよね。
「それにですね、ここに置いてある家具はあくまで使用人が使う物であり、高級なものは何一つおいてはありません。それなのにその家具を見て今のような態度をとるとは、後程話をせねばならぬようですわね」
「うむ。つい先ほども、これからはこの館に住む事になるのじゃから慣れて行かねばならぬと言われたばかりじゃからのぉ。気持ちはわかるが、ちとはしゃぎすぎじゃったな」
それにストールさんだけじゃなくってロルフさんにまでこんな風に言われちゃったもんだから、ニコラさんたち3人はまたしょんぼりしちゃったんだ。
読んで頂いてありがとうございます。
ニコラさんたちの部屋ですが、使用人用とはいえ貴族の館という事で長方形の京間で7畳半位の部屋を想定しています。
因みに一般的なマンションは団地間で畳のサイズが1.7×0.85に対して京間は1.9×0.95ですから、その大きさで7畳半となるとかなり広いですよね。
そこにシングルベッドとクローゼット、それに一人用のテーブルと椅子しかないのですから、実際に目にしたらかなりがらんとした印象を受けるのではないでしょうか。
これが畳の間だったらそうでもないですが、板の間ですべての家具が壁際に寄せられているのですから、空いてるスペースが広すぎて私だったらちょっと戸惑うかも?w




