497 そっか、干さなくっても乾けばいいのか
おっきなドライヤーを作ってもダメ、ドライの魔法でもダメなら雨の日はやっぱりここに干しとくしかないのかなぁ?
思いついた事がどっちもだめだったもんだから、僕、もうあきらめよっかなぁって思ったんだよ。
でもね、
「魔道具で洗濯物を乾かそうだなんて、ルディーン君は凄い事を考えるのね」
「でもさ、確かに中に入れるだけで洗濯物が乾く魔道具なんかあったら、本当に便利だと思うわよ」
ニコラさんたちがこんな事を言ったもんだから、それを聞いた僕はあるものを思い出したんだ。
「そっか、中に入れたら乾くのを作ればいいんだ」
僕ね、どうやったら干したものを早く乾かせるんだろうってずっと考えてたんだよ。
でもさ、ニコラさんたちが言ってたみたいに、中に入れたものを乾かす道具なら前の世界にもあったもん。
あれとおんなじようなのを魔道具で作れば、干さなくったって洗濯物は乾いちゃうはずなんだ。
「あれ? ルディーン君。何か思いついたのかしら?」
「うん。あのね、干してあるのじゃなくって、入れたのを乾かす魔道具なら作れそうだなぁって思ったんだよ」
僕がやるぞ~! ってふんすと気合を入れてたらね、それを見たバーリマンさんがどうしたの? って聞いてきたんだよね。
だから箱の中にあっつい風を入れて、それで洗濯物を乾かす魔道具なら作れるって思いついた事を教えてあげたんだ。
でもね、それを聞いたバーリマンさんは、それも難しいんじゃないかなぁ? って言うんだよ。
「え~、なんで?」
「大きな箱の中を熱風で満たすというのはいい発想だと思うわよ。でもそれだと、熱風が出るところの近くにある洗濯物が痛むのではないかしら?」
あっつい風を箱ん中に入れて乾かすとさ、その風が入ってくるとこのが一番早く乾くでしょ?
でもね、その魔道具は中に入れた洗濯物が全部乾くまで動き続けるもん。
だったら、そこにある洗濯物は他のが乾くまでず~っとあっつい風がかかったまんまになっちゃうから、その服がダメになっちゃうんじゃないかなぁってバーリマンさんは思ったんだってさ。
「それに熱風を入れ続ければ魔道具の内側の壁も当然温度が上がるでしょ? その壁についている生地も心配だわ。種類によっては硬くなったり変色をしてしまうかもしれないもの」
「大丈夫だよ。だって一つにだけ風が当たるのを作る訳じゃないもん」
「それは、全部の方向から風を当てるって事?」
僕が何を言ってるのかよく解んないみたいで、バーリマンさんは頭をこてんって倒したんだよ。
だから僕、この魔道具がどんなのかを教えてあげる事にしたんだ。
「あのね、お洗濯した物を入れるとこ、ぐるんぐるん回しちゃうんだ。そしたらあっつい風が全部に当たるでしょ?」
「えっと……くるくる回すの?」
でもね、せっかく教えてあげたのにバーリマンさん、お話を聞いても解んないみたいなんだよね。
もー、大人なのになんで解んないかなぁ!
「だからね、こうやってぐるんぐるん回るんだよ。そしたら洗濯ものもぐるんぐるん回るでしょ?」
「えっと、そうね。確かに回るわね」
そう思った僕は両手をぐるんぐるん回しながら体全体を使って教えてあげたんだけど、バーリマンさんはやっぱり解ってないみたい。
だって回るねって言ってはいるんだけど、ぽかんてお顔をしたまんまなんだもん。
だから僕、作って見せてあげる事にしたんだ。
「ねぇ、ストールさん。余ってる鉄とか銅。それに木切れとかない?」
「えっ、金属に木材ですか? 工事用の資材がまだ残っておりますが、何に使われるのでしょうか?」
「あのね、お洗濯した物を乾かす魔道具の小っちゃいのを作ろうって思ってるんだ」
何を作るの? って聞かれたもんだから教えてあげたんだけど、そしたらストールさんだけじゃなくってそれを聞いてた他のみんなも全員びっくりしたお顔になっちゃったんだ。
雨の日にお洗濯するお部屋には、井戸からお水を汲んでくるためにお外に出られるドアがついてるでしょ?
だからそこから出たとこに材料を持ってきてもらって、ちっちゃい洗濯物を乾かす魔道具を作る事にしたんだ。
「ルディーン様、資材はこれで足りるでしょうか?」
「うん。ためしにちっちゃいのを作ってみるだけだから大丈夫だよ」
ストールさんが僕んちにいたロルフさんちの人に頼んでいっぱい持ってきてくれたもんだから、こんだけあればもしかしたらおっきいのでも作れちゃうかも? ってくらい材料が集まったんだよ。
でもさ、もし失敗しちゃったらやだから、さっき思った通りちっちゃいのを作ってみる事にしたんだ。
「まずはお洗濯した物を入れるとこからだね」
外っ側から作って、後で中のバケツが入んなかったら嫌でしょ?
だから最初に洗濯物を入れるとこから作成。
鉄だと錆びちゃうかもしれないからって、僕はクリエイト魔法を使って穴がいっぱい開いてる、寸胴鍋みたいにまっすぐな銅製のバケツを作ったんだ。
「これはまた、変わったものを作り出したのぉ」
「うむ。思うに、あの穴から熱風を中に入れるのであろうな」
そしたらそれを見たロルフさんとお爺さん司祭様が、こんな事を言ったんだよね。
だから僕、見ただけで解るなんて、お爺さん司祭様はやっぱり凄いなぁって思ったんだよ?
でもね、どうやらお爺さん司祭様も、ほんとに解ってたわけじゃないみたいなんだ。
「しかし、物を入れる口の所が内側にすぼんだ形状をしておるのは何故じゃ? あれでは洗濯物が入れずらいではないか」
「それはね、こうしとかないとね、こんな風にぐるぐる回した時に洗濯物が飛び出ちゃうかもしれないからだよ」
「なんと!」
だってさ、僕がバケツを横倒しにしてゴロゴロ転がしたら、お爺さん司祭様、すっごくびっくりしてたんだもん。
「なんでびっくりしてるの?」
「いや、まさか横倒しにして使うとは思っておらなんだのでな」
「うむ。じゃがそのように使うのであれば、確かに入口が内側にせり出しておらねば、中のものが外に飛び出してしまうかもしれぬな」
何かね、バケツの形をしてるもんだから、二人とも入れるとこを上にして使うんだって思ってたんだって。
でもこうやって横にして使うんだよって教えてあげると、この形があってるねってうんうん頷いてたんだ。
中に入れるバケツができたって事で、今度はそのバケツをくるくる回すところだ。
「バケツの上と下、4つのとこに回る筒を付けないとダメだよねぇ」
回転の魔道具はバケツの底のとこにくっつけるつもりだけど、それだけだと濡れたもんを入れた時にがたがた揺れて壊れちゃうかもしれないでしょ?
だからそうならないようにって、鉄の棒でバケツを囲むように枠を作ってその角っこに4つ、くるくる回る筒をつける事にしたんだ。
「これはホントに使うやつじゃないから、木でいっか」
これ、本物を作る時は熱に強い魔物の皮を巻いて作んないとダメなんだけど、今は試しに作ってるだけだから木材をクリエイト魔法で加工。
それと回転の魔道具はそのまんまだと風車とか雲のお菓子を作る魔道具みたいにすっごく早く回っちゃうから、抵抗の魔道回路図でゆっくり回るようにしてっと。
「あっ、そうだ! 洗濯物を入れると重くて回んないかもしれないから、ほんとに作る時は筒じゃなくってベアリングがついた輪っかを何個かつける形にしないとダメかも」
僕は忘れたらやだからどっかに書いといてねってストールさんにお願いすると、次の作業へ移ったんだ。
でもね、ここからはそんなに苦労するもんは何にもないんだよね。
だってさ、後は僕んちで作ったオーブンとほとんどおんなじなんだもん。
違うのはオーブンほど風があっつくならないようにしたくらいかなぁ?
だから使った一角ウサギの魔石の数はオーブンの時より少なめ。
それを使ったあっつい風が出る魔道具をバケツの周りに付けた鉄の棒の枠を囲むように作った炉の下っ側につなげてから、上の方に乾かす時に出た湿った風が出る穴を開けてっと。
「これ、本番じゃないから魔道リキッドを入れるとこは作んなくてもいいよね」
ホントだったらつけなくちゃダメなんだけど、今は試しに作ってるだけだからこのまんまで。
そして最後にスイッチなんかを動かすための簡単な魔道回路図をくっつけたり、周りに前開きの蓋がついた木箱を作ったりしたら出来上がり。
「ルディーン君。これで完成したのじゃな?」
「うん。あっでも、ほんとは何回か回ったら反対側に回るようにしたかったんだよ? でも、そのやり方が解んないからずっとおんなじ方にしか回んないんだけどね」
「回転する方向を変えるじゃと?」
ロルフさんは僕のお話を聞いてちょっと考えると、あっ、そっか! って頷いたんだ。
「なるほど。確かに回転方向が一定じゃと、風が当たる場所も偏ってしまうかもしれぬのぅ」
ロルフさんはね、なんで反対方向に回すのか解ったみたい。
でもね、それが解った後でも、おんなじ方向にしか回んなくったって大丈夫なんじゃないかなぁって言うんだよ。
「ルディーン君の言う通り、回転方向を変える事によって確かに乾くまでの時間は短縮できるであろうな。じゃが、それによる時間の短縮は微々たるものであると、わしは思うのじゃ」
「そうなの?」
「うむ。時間が延びる事によって魔道リキッドの使用量は増えるかもしれぬが、わざわざ定期的に回転方向を変える仕組みを組み込む手間を考えれば、総合的に見て安く済むのではないかな」
ロルフさんが言うにはね、回転方向を変えたって乾く時間はそんなには違わないんだって。
だからもしわざわざ回転方向を変える魔道具を考え出してそれをくっつけちゃったら、つけた事で減る魔道リキッドの値段よりず~っと高くなっちゃうんだってさ。
「そっか。じゃあこれで魔道乾燥機、完成だよ」
とは言っても、ほんとに乾くかどうかはやってみないと解んないよね?
って事で、ストールさんにハンカチくらいの布を井戸の水で濡らしてもらって、それをぎゅって搾ってから魔道乾燥機の中へ。
「ほんとはふたを閉めないとダメなんだけど、動いてるとこ見たいから開けたまんまで動かすね」
僕はそう言うと、魔道乾燥機のスイッチを入れたんだ。
そしたら中のバケツがくるくる回りだして、中からあったかい風がふわぁって出て来たんだよ。
「ほう、回ったバケツによって持ち上げられた布が、上に行くと下に落ちる訳か」
「確かに、この方法だとすべての洗濯物に風が当たりますね」
「でもでも、風が思ったよりあっつくなってないよ? 火の魔石、もっといっぱい付けた方がよかったかなぁ?」
「それに関しては、これから何度か試作する事で解決せねばならぬじゃろうな」
こんな風にみんなしておしゃべりしてたらさ、中に入れた布はあっという間に乾いちゃったんだ。
それにね、この乾燥機で乾かしてみたら僕が思ってなかったいい事がもう一個あったんだよ。
「この布、凄く柔らかくなってますわ」
「どれ。ふむ、確かに、普通に干した物より柔らかく感じるのぉ」
バーリマンさんとロルフさんがいう通り、魔道乾燥機で乾かした布は、ただ干した物よりも柔らかい感じになってたんだよね。
「これは多分、回転している時や落ちる時に熱い風を当てる事によって、もまれるような効果があったのであろうな」
「はい。すべての布が柔らかくなるわけではないでしょうけど、ものによってはこの魔道具で乾かした方が、日に干すよりもよい結果になるかもしれませんね」
ストールさんが言うにはね、布の中にはお日様に干す事でちょっと硬くなっちゃうものもあるんだって。
でもそういう布も、この魔道乾燥機を使えばふわふわのやわやわになるんだってさ。
「それならば、是非とも完成させねばならぬのぉ」
「伯爵、それよりも先に」
「うむ。商業ギルドへの連絡が必要じゃな」
ホントの特許登録はちゃんと作り方を書いたものがいるから完成してからじゃないとできないけど、こういう便利な魔道具はとりあえず使えるのができたら連絡だけは先にしてって商業ギルドの人に言われてるんだって。
何でかって言うとね、登録する時までに使う魔石が何か解ってないと、簡易魔道冷蔵庫やクーラーの時みたいに魔石が無いから作れないなんて事になっちゃうから。
だから僕がどうやって作ったのかをストールさんに書いてもらって、その作り方が書いてある羊皮紙をロルフさんちの人に急いで商業ギルドに持ってってもらったんだ。
読んで頂いてありがとうございます。
皆さんのご想像通り? 魔道乾燥機が完成しました。
ただ、この乾燥機がこの世界で真価を発揮するのは魔物の毛皮を乾かした時なんですよね。
これが動物の皮なら乾燥機によって痛む可能性がありますが、魔物の皮はとても丈夫なのでそんな事はありません。
そしてこの乾燥機を使うと毛がふわふわに仕上がるので、それにより一角ウサギなどのような比較的手に入りやすくてきれいな一部の魔物の毛皮を使った商品が大流行する事に。
まぁそうはいっても毛皮のコートとか帽子なんてルディーン君には縁が無いものですから、本編では出てこないと思いますけどねw




