496 このお部屋、そのまんま残ってたんだね
メイドさんたちがお勉強するののお手伝いをする事になって、ニコラさんたちはちょっぴりしょぼんってしちゃったんだよ。
でもまだお家の見学は終わって無いでしょ?
だから、そのまんま次のお部屋に向かう事に。
「次のお部屋って、確か冒険者さんたちがお風呂の代わりに使ってるのとおんなじお部屋だってニコラさんたちが言ってたとこだよね?」
「うむ。じゃが、この館の風呂場をいつでも使えるよう整えた以上、必要のない施設になってしまったからのぉ。かなりの広さがあったから、普通の部屋のように改装したのではないか?」
次のお部屋はね、ニコラさんたちが前に泊まってた宿屋さんにもあった、冒険者さんたちがお風呂代わりにするとこだったんだ。
でもね、このお家にはちゃんとしたお風呂があるでしょ?
だからそんなお部屋はいらないだろうからって、ロルフさんは無くしちゃったんじゃないかなぁって言うんだよね。
「そっか。じゃあ全然違うお部屋になってるのかも?」
そう言いながら、僕はそのお部屋のドアを開けたんだけど……。
「あれ? いろんなのが増えてるけど、何にも変わってないよ」
手前っ側の板の間のとこに新しいおっきなテーブルが置いてあったり、ふちっこの方にお風呂場で使うようなちっちゃな腰掛とか木でできたおっきなタライみたいなのが何個か置いてあるけど、お部屋自体は前と何にも変わってなかったんだよね。
だから僕とロルフさんは、なんで? って顔でストールさんを見たんだよ。
そしたらストールさんは、せっかく作ってあるのだから、壊さずにそのまま利用しようと考えたんだよって教えてくれたんだ。
「この部屋ですが、わざわざ石畳に傾斜をつけ、その上溝や排水の設備まで整えてあったので、これほどのものを壊すのはどうかと思い、雨の日や冬場の寒い時期に使う洗濯の場として残す事に致しました」
お金持ちやお貴族様のお家でも、わざわざお家の中にお洗濯をするためのお部屋なんて作る事、普通は無いんだって。
そりゃそうだよね、だってこんだけの大きさだったら普通のお部屋を一個作れるんだもん。
でもこのお家、すっごくおっきいのにあんまり人が住んでないでしょ?
だからお部屋はいっぱい余ってるし、ここみたいにお水を使っても大丈夫なように作ってあるお部屋なんて作ろうと思ったらすっごくお金と時間がかかっちゃうからって、ストールさんは壊さずに使おうって思ったんだってさ。
「そっか。ここだったら、雨が降っても濡れずにお洗濯ができるもんね」
「はい。今のように暑い季節ですと洗濯物の量も多くなるので、このような施設があると私どもメイドからすると、とてもありがたいのです」
このお家って、ロルフさんちからメイドさんや執事さんたちがいっぱいお勉強しに来ることになってるよね。
それにニコラさんたちも住むことになるから、普通のお家なんかよりもすっごくいっぱいお洗濯ものが出るんだって。
そんな時にもし何日か雨の日が続いちゃうと、そのお洗濯ものがいっぱいたまっちゃうもん。
でもこのお部屋さえあればどんだけ雨の日が続いたってちゃんとお洗濯をする事ができるから、メイドさんたちはとっても助かるんだってさ。
「なるほどのぉ。じゃが、雨の日に洗濯をしても、乾かすのが大変なのではないか?」
「はい。ですからシーツなどの大物の洗濯は天気の良い日だけにして、雨の日は服などの小物だけを洗った後、この部屋に干そうと思っております」
ストールさんはそう言うとね、壁の近くにトコトコって歩いてったんだよ。
そして壁の上の方を指さすと、そこには何かを引っかけるようなとこがあったんだ。
「なるほど。そこに干すためのひもを通すのじゃな」
「はい。ここは本来、使用人たちが体を洗う場でしたので、外と面している壁の上の方には湿気を逃がすための小さな窓が作ってありますもの。あまり多くのものを干す事はできませんが、長雨の時などは重宝すると思いますわ」
ストールさんはそう言ってるけど、メイドさんや執事さんたちのお勉強が始まったら、このお家って人がいっぱい来るようになるでしょ?
だったらさ、服しか洗わないって言っても、こんな狭いお部屋の中に干したらすぐに洗濯物でいっぱいになっちゃうんじゃないかな?
そう思った僕は、何とかできないかなぁって頭をこてんって倒したんだよ。
そしたらさ、とってもいい事を思いついたんだ。
「あっ、そっか! あれとおんなじようなののでっかいのがあればいいんだ」
僕、前に魔道オーブンを作ったでしょ?
その時に試しで、筒の中からあったかい風が出てくるものを作ったんだ。
そしたらさ、それを見たお母さんが、これは髪の毛を乾かす魔道具なんだねって勘違いしたんだよね。
それを聞いた僕は、その筒に持つとこを付けてあっつい風と冷たい風の両方が出るようにした魔道ドライヤーってのを作ったんだ。
「あの魔道ドライヤーってのをもっとおっきくすれば、洗濯物を乾かす魔道具もできるかも!」
僕ね、あれのすっごくおっきなのを作ればいいじゃないかって思いついて、すっごく嬉しくなったんだよ。
そしたらさ、それに気が付いたロルフさんがどうしたの? って聞いてきたんだ。
「ルディーン君、何やらとても機嫌がとても良さそうじゃが、何かあったのかな?」
「あのね、前に作った髪の毛を乾かす魔道具の事を思い出してたんだ」
僕はね、ロルフさんに魔道ドライヤーの事を話したんだよ。
そしたらロルフさんがそのお返事をする前に、横で聞いてたバーリマンさんがそのお話に入ってきたんだ。
「ああ、魔道オーブンを作っている最中に思いついたという、温風で髪を乾かす魔道具の事ですわね」
「うん。あのね、あれってあっつい風で髪の毛をあっと言う間に乾かしちゃうでしょ? だから僕、洗濯物もあっつい風を使えばすぐに乾いちゃうんじゃないかなぁって思ったんだ」
濡れてるのを乾かすっていうのはどっちもおんなじだし、だったら洗濯物だってあっつい風で乾くはずだよね。
だから僕、洗濯物用のおっきな魔道ドライヤーを作ればいいんじゃないかなぁってバーリマンさんに言ったんだよ。
「なるほど。確かに温風を使えば乾くのは早くなるでしょうね」
「じゃがな、あの魔道具では、洗濯物を乾かすのはちと難しいと思うぞ」
でもね、バーリマンさんたちから、そんなんじゃダメなんじゃないかなぁって言われちゃったんだ。
「え~、なんで? 髪の毛が乾くんなら洗濯物だって乾くはずでしょ?」
「確かに風が当たっておるところは乾くじゃろうな」
「ええ。でも干してあるすべての洗濯物に温風を当てるのは無理でしょ? だから大きな魔道具を作ったとしても、魔力を多く消費するだけであまり効率は良くないと思うわよ」
あっ、そっか。
1枚や2枚だけだったらおっきなドライヤーで乾かせるだろうけど、お部屋の中にいっぱい干してあったらその全部風を当てる事なんてできるはずないもん。
それじゃあ、おっきなドライヤーを作ってもダメかも。
「う~ん、いい考えだと思ったんだけどなぁ」
「確かに、乾かすための魔道具というのはあったら便利でしょうからね」
僕がダメかぁってしょんぼりしたら、バーリマンさんが頭をなでながらいい考えだったのにねって慰めてくれたんだよ。
でもね、それを聞いた僕は、もう一個、いい方法があるじゃないかって思い出したんだ。
「そうだ! ドライの魔法があるじゃないか」
ドライっていうのはね、濡れてるものを乾かしちゃう魔法なんだ。
だから僕、この魔法が使える魔法陣を描いて魔道具を作れば、洗濯物を乾かすのなんて簡単だって考えたんだよね。
ところが、
「ドライというと、水分を抜く魔法じゃな。しかし、あれは洗濯物を乾かすのには向かぬぞ」
僕が言ったのが聞こえたのか、ロルフさんがドライはダメだよって。
「なんで? 前に煮た魔物の皮にかけたら、ベタベタだったのがいっぺんに乾いちゃったよ?」
「うむ。確かにドライをかければ洗濯した物もすぐに乾くじゃろう。しかしな、ルディーン君。あれは単体にかける魔法なのじゃ」
あっ、そっか!
そう言えば前にお母さんから洗濯物を干すのに使えるねって言われて、僕も無理だよって言ったっけ。
だってさ、ドライを使うのにいる魔力はそんなに多くないけど、何度も使ったらいっぱい使わなくっちゃ駄目だもん。
「ドライの魔法陣で作った魔道具で乾かそうと思ったら、すっごくいっぱい魔道リキッドがいるね」
「うむ。実用的ではないじゃろうな」
お金がいっぱいかかるんだったら、そんなのだれも使うはずないもん。
って事で、ドライの魔法陣を使って魔道具を作るのはやっぱりやめる事にしたんだ。
読んで頂いてありがとうございます。
この先の展開、書かなくても解りそうな話ですが試作品を作るところまでやろうと思うとまず間違いなく1本分の分量になるので今回はここまで。




