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494 このお部屋じゃできないお勉強もあるんだって


「さて、このメイドや執事の見習いを指導する部屋を見て、見事その違和感に気が付いたルディーン君への質問じゃ」


 冒険者ギルドや他のご飯屋さんだと、背もたれが無い椅子を使ってるとこの方が多いのかぁって僕が感心してたらね、急にロルフさんが問題を出してきたんだ。


「質問?」


「うむ。実を言うとメイドや執事の仕事を覚えるにあたって、絶対に必要なものがここには欠けておるのじゃ。それが何か、解るかな?」


 絶対いるのに、ここにないもの?


 そう聞かれた僕は、もういっぺんお部屋の中をよ~く見渡してみたんだよ?


 でもね、お部屋の中を見ながら一生懸命考えたんだけど、僕、それが何なのかぜんぜん解んなかったんだよね。


 だから頭をこてんって倒しながら、う~んって唸ってたんだけど、


「伯爵、それは少々意地悪な質問ではないですか?」


 そしたらそれを見たバーリマンさんが、そう言いながらロルフさんを叱ってくれたんだよね。


 これにはロルフさんも、大弱り。


 すまなかったのぉって僕に謝りながら、足りないもののヒントをくれたんだ。


「見ての通り、ここには来客をもてなすための椅子とテーブルがあり、近くには厨房があるからお茶や食事などを出す場合の練習も当然できる。すなわち、接待に必要なものは皆、一通りそろっておるな」


「う~ん。なら入ってきた後の事はお勉強できるから……あっ、そうだ! お客さんがこのお家に来た時のお勉強をする場所がいるの?」


 お客さんだって、いきなりこのお部屋に来るわけじゃないもん。


 だから僕、来たお客さんにいらっしゃいをするお勉強の場所がいるのかなぁ? って思ったんだよ。


 でもね、それを聞いたロルフさんは違うよって。


「来客を迎えるのはその館の主人か、もしそれが不在ならば家令やメイド長のような立場がするものでな、ここで指導を受ける新人が覚えるような事ではないのじゃ」


「ええ。それにこの館とロルフさんの館とでは造りが違いますもの。もし勉強する必要がある場合は、やはりここではなくロルフさんの館でするべきでしょうね」


 そっか、そう言えばここでお勉強するメイドさんや執事さんたちはロルフさんちの人たちだもん。


 お出迎えの練習を僕んちでしたって、あんまり意味ないか。


 そう思った僕は、もういっぺん他に何かないかなぁって考え直したんだよ。


 でもね、いくら考えても何にも思いつかないもんだから、それを見たバーリマンさんがじゃあもうひとつねって新しいヒントをくれたんだ。


「もう一度ここでできる事を考えてみてはどうかしら? そしたら、足らないものが見えてくるかもしれないわよ」


「ここでできる事って、お茶を出したり、ご飯を出したりする事だよね?」


 そう言ってもういっぺんお部屋の中を見てみると、広いお部屋の中にはお客さんとお話するためのテーブルや、みんなでご飯を食べるようなおっきなテーブルとかがあったんだ。


 って事は食べたり飲んだりするだけじゃなく、お話をするためだけに来たお客さんの相手をするお勉強もみんなここでできちゃうって事で……あっ、そっか!


「寝るとこだ! ここだと、このお家に住んでる人やお客さんが泊まるお部屋の中でする事のお勉強ができないんだね」


 まだジャンプでロルフさんちに行ってた時はね、僕はいつもいないのに飛んでくお部屋をきちんとしてくれる人が決まってたんだよね。


 ストールさんが前に、その人は新人のメイドさんなんだよって僕に教えてくれたことがあるんだ。


 って事はさ、そういう所の練習も、メイドさんはやらないとダメって事なんじゃないかなぁ。


 そう思った僕は、お客さんが泊まるお部屋のお勉強でしょって答えたんだよ。


「うむ、正解じゃ」


 そしたらその答えがあってたみたいで、ロルフさんはにっこり笑いながらよく解ったねって僕の頭をなでてくれたんだ。


「メイドにとっては、日々の生活の中での仕事の方が来客を迎える事よりも重要なのじゃ。じゃから当初はその勉強をする部屋もこの区画に用意しようと思っておったのじゃが、ライラがそれでは不十分だと申してのぉ」


「ストールさんが?」


 これを聞いた僕は、ストールさんの方を見てなんでダメなの? って聞いてみたんだよ。


 そしたらさ、そういうお勉強はこんな所じゃできないのよって教えてくれたんだ。


「先ほどルディーン様がお気付きになられた通り、この部屋は来客時の作法を覚える最低限の造りになっております。ですが日常的な仕事となると、流石に最高級とは言わないまでも、ある一定以上の設備が整っていなければ指導自体ができないのです」


 例えばさ、中にいる人に何かご用事がある時は、いきなり中に入ってく訳にはいかないから、まず最初にノックをしてお部屋の外から声を掛けるとこから始めなきゃダメでしょ?


 でも、もしそれもここでやろうと思ったら、このお部屋のドアから変えないとダメなんだって。


 それにね、誰かが寝たらそのベッドのシーツを変えたりしなきゃダメだし、偉い人だとお着替えの時もメイドさんが手伝ってあげないとダメな時まであるらしいんだ。


「せめてベッドとクローゼット、それにある程度の精度を持った姿見は必要ですわ」


「このようにライラに言われたのじゃが、流石に指導部屋のためだけにそこまで時間と手間をかける訳にもいかなくてのぉ」


 鏡ってさ、ちっちゃい奴でもすっごく高いんだよって、前にお母さんが教えてくれたことがあるんだよね。


 それにベッドだって、前に僕が使ってたロルフさんちのお部屋にあったのはすっごいのだったもん。


 あれをお勉強のためにここに入れようと思ったら、やっぱりすっごくお金がかかると思うんだ。


「ですから、わたくしは旦那様に申し上げたのです。そのような部屋を新たに整えるより、ルディーン様に空いている客室を使わせて頂けないか相談してみた方がよいのではと」


「僕んちの空いてるお部屋を?」


「はい。この館の客室の設備は、旦那様の館のそれと比べても見劣りしないほど素晴らしい物ですから」


 このお家って、入口近くの2階にはお金持ちの人が泊まるようなお部屋が何個かあるんだよね。


 ストールさんはね、そのお部屋をメイドさんや執事さんのお勉強に使わせてくれないか僕に聞いてみたら? ってロルフさんに言ったんだってさ。


「あのお部屋って、普段でもストールさんたちがお掃除してくれてるんだよね?」


「はい。空気の入れ替えだけでなく、日々の手入れを怠ればどんなよい家具でもすぐに傷んでしまいますから」


 すっごい家具ってね、使ってなくってもお掃除しないとだんだん悪くなってくんだって。


 だからそうならないようにってストールさんたちは毎日、あのすっごい家具やお部屋をお掃除をしてくれてるんだもん。


 せっかくお掃除するんだったらその前に、そのお部屋や家具をメイドさんたちがお勉強に使った方がいんじゃないかなぁ? って僕も思うんだ。


「ねぇ、ロルフさん。僕、あのお部屋使わないから、メイドさんたちのお勉強に使ってもいいよ」


「おお、そうか。それはありがたい」


 だからお勉強に使ってもいいよって言ったら、ロルフさんはにっこり笑いながら僕にありがとうって。


 でも、そんなロルフさんにストールさんは、もう一個言わなきゃダメな事があるでしょって言うんだよね。


「旦那様、どうせならあの話もお伝えした方がよろしいのでは?」


「ん? ああ、そうであったな」


 だから僕、他にもどっか貸してほしいとこがあるのかなぁ? って思ったんだ。


 でもね、


「ルディーン君。客室をメイドや執事の指導部屋として貸してもらえるのならば、その相手としてニコラ嬢たちを貸してはもらえぬかな?」


 それはどっかのお部屋じゃなくって、なんとニコラさんたちを貸してほしいって言うお話だったんだ。



 読んで頂いてありがとうございます。


 1話に収まるかな? と思ったけどことのほか長くなり、この時点でいつもの1話分に到達してしまったので今日はここまでで。


 さて、メイドや執事たちの指導部屋、簡易に作ってあるとは言っても実を言うと結構なお金と時間がかかっているんですよ。


 それはそうですよね、自動織機なんてない時代に床一面の布や各テーブルにかける布などを用意しているのですから。


 しかし、それを軽々と用意できるロルフさんでも、流石に客室用の家具となるとそうはいきません。


 特に大きな鏡となるとそれを磨く事ができる職人は殆どいないので、お金があったとしてもすぐに手に入れられるようなものではないんですよ。


 ですから、急いで手に入れようと思うと大金を摘んで誰かから譲り受けるしかない訳で。


 流石に元伯爵といえど、そうやすやすと揃えるのは難しいという訳です。


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― 新着の感想 ―
[一言] すいません、記憶違いしてました。 ニコラさん達がメイド服を着てたのは、 予備の着替えが無いから、一時的な着用でしたね。 淑女『教育』+『メイド服』で、メイド教育と脳内で誤変換されてました…
[一言] そもそもこの布を敷いてる勉強するお部屋は、 ニコラさん達用のメイド訓練部屋だったと記憶しているが、 それなのにニコラさん達を貸してくれって、わざわざ主人公にことわる必要があるんだろうか? …
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