再開のための幕間その2 お母さんの日
幕間をもう一話増やしたくなかったので、今回はちょっと長めです。
実はね、僕がゼラチンを抽出した事で一個いい事があったんだよ。
「こんな風に洗い忘れると、いつもなら鍋の中がかなり熱くならないと溶けないから毎回苦労するんだよなぁ。でもこれなら、少し温かくなった程度でも簡単に汚れが落ちそうだ」
お鍋の中から僕がゼラチンを抽出しちゃったもんだから、固まってたお水がサラサラになっちゃったんだよね。
そのおかげでいつもだったら長い間火にかけとかないと洗えなかったのに、今日はちょっとあっためただけで脂が溶けてくれたもんだから、温い内にごしごし洗うだけであっという間にお鍋がきれいになっちゃったんだ。
「下手をすると午前中いっぱいかかるかも? なんて思っていたが、ほんと助かったよ」
「じゃあさ、僕、お姉ちゃんたちのとこに行ってもいい?」
僕ね、お父さんのお手伝いで一緒にお庭に来たんだけど、お鍋をもう洗い終わっちゃったでしょ?
だからもう他んとこに行ってもいいか、お父さんに聞いてみたんだよね。
「それはいいが、何かやる事があるのか?」」
「もぉ、さっきも言ったでしょ! これでお菓子を作るんだよ」
そしたら何しに行くの? って聞いてきたもんだから、僕は手に持ってるゼラチンの塊を見せて、お菓子を作りに行くんだよって教えてあげたんだ。
でもね、それを聞いたお父さんはちょっと変なお顔になって、僕に聞いてきたんだよ。
「そういえば、そんな事を言っていたな。でもそんな塊で、本当に菓子なんか作れるのか?」
僕が持ってるゼラチンは抽出で取り出したまんまだから、ちっちゃなボールみたいでしょ?
それにね、それを取り出したブラックボアの皮を煮てたお水は変なにおいがしてたもん。
だからお父さんは、それで本当にお菓子が作れるのかなぁ? って思ったみたいなんだ。
「大丈夫だよ。これだけだとダメだけどお砂糖とかベニオウの実とかがあれば、おいしいお菓子が作れるんだ」
「そうか。ルディーンがそう言うんだったら、きっとうまいものができるんだろうな」
「うん。お父さんにも後で食べさせてあげるね」
僕はそう言うと、ゼラチンを持った方の手をお父さんに向かってぶんぶん振りながらお家ん中に走ってったんだ。
お家の中に入るとね、僕はレーア姉ちゃんをさがしたんだよ。
だって僕一人だと、まだ火を使っちゃダメって言われてるもん。
そしたらさ、ご飯を食べるお部屋で椅子に座ってお水を飲んでるレーア姉ちゃんを見つけたんだ。
「レーア姉ちゃん。手伝って」
「あら、ルディーン。何か用事?」
「うん! あのね、今日はお母さんにお休みしてもらう日でしょ? だから僕、お母さんにお菓子を作ってあげようって思うんだ」
僕がレーア姉ちゃんにお菓子を作るんだよって教えてあげたらね、その声が聞こえたのか、他のお部屋からどたどたって走ってくる音が聞こえたんだ。
「ルディーン! お菓子作るってホント?」
「あっ、キャリーナ姉ちゃんだ。うん、ほんとだよ」
その足音はキャリーナ姉ちゃんだったみたい。
キャリーナ姉ちゃんは別のお部屋で遊んでたんだけど、お菓子って聞こえたもんだからすぐに走ってきたんだって。
でね、レーア姉ちゃんはそんなキャリーナ姉ちゃんを見てニッコリした後、僕の方を見てこう聞いてきたんだよ。
「それで、ルディーン。何を作るつもりなの?」
「あのね、これを使った新しいお菓子を作るんだ」
僕が手に持ったゼラチンを見せてあげると、レーア姉ちゃんとキャリーナ姉ちゃんは二人して頭をこてんって倒したんだ。
「透明なボール?」
「なにこれ? これがお菓子になるの?」
二人ともゼラチンを見るの初めてだから、これだけを見せられてもよく解ってないみたい。
だから僕、これをどうやって使うのか、お姉ちゃんたちに教えてあげる事にしたんだ。
「あのね、これはそのまんま使うんじゃなくって、粉にしてから使うんだよ」
僕はお姉ちゃんたちを連れて台所に移動すると、手に持ってたゼラチンのボールをそこに置いてあったちっちゃなツボの中へ。
それからクリエイト魔法を使って、そのゼラチンのボールをキラキラした透明な粉にしちゃったんだ。
「ほら、こうしたのをお湯とかに入れて溶かして使うんだよ」
「なるほど、塩や砂糖と同じように使うんだね」
粉になったゼラチンは見た目がお塩みたいにさらさらだったもんだから、二人ともこれをお菓子に使っても大丈夫って思ってくれたみたい。
だから安心して、僕と一緒にお菓子を作ってくれることになったんだ。
このお菓子はね、前の世界で見てたオヒルナンデスヨでやってたお母さんの日特集ってので、お父さんと子供たちだけで仲良くお母さんのために作ってあげましょうってやってたお菓子なんだよ。
だから作り方はとっても簡単だったもんだから、よ~く覚えてるんだ。
ただ、使ってた果物は当然違うんだけどね。
「レーア姉ちゃん。ベニオウの実から種を取って、ぐちゃぐちゃに潰しちゃって」
僕はかごから出したベニオウの実をレーア姉ちゃんに渡してそう頼むと、やってもらってる間にお砂糖を出してきてクラッシュの魔法で細かくしてったんだ。
だってこうしないと、なかなか溶けないからね。
「ルディーン。つぶれたわよ」
「もうできたの? じゃあさ、それをお鍋の中に粉振り器で裏ごししながら入れてって」
「解ったわ」
なんと、僕がお砂糖を細かくし終わる前にレーア姉ちゃんはベニオウの実をつぶしちゃったみたい。
だからそれをさらに裏ごししながらお鍋に入れてってもらって、それが終わるまでに大急ぎで細かくしたお砂糖を僕はその中にどばって入れたんだ。
「ベニオウの実はそれだけでもかなり甘いのに、かなりたくさんお砂糖を入れるのね」
「うん。これくらい入れた方がおいしいんだよ」
どれくらいお砂糖を入れたらいいのかは、料理スキルで解るでしょ?
だからこれくらい入れないとダメなんだって教えてあげてから、レーア姉ちゃんにお鍋を火にかけてってお願いしたんだ。
「焦げ付かないように、木べらでよくかき混ぜてね」
いっつもお料理してるレーア姉ちゃんならそう頼んどけば大丈夫だからって、僕はまた別の作業へ。
ちょっと深めの小さな木皿にお水を入れて、その中にさっき粉にしたゼラチンをツボからこれくらいかなぁって量を入れて、ちっちゃな木のおさじでくるくる。
「あっ、キャリーナ姉ちゃん。魔道泡だて器、取って」
「いいよ~」
出し忘れてた魔道泡だて器をキャリーナ姉ちゃんに出してもらってる間に、粉になってるゼラチンをかき混ぜながらお水に溶かしてったんだ。
「ルディーン。これ、いつまで煮ればいいの?」
「えっとね、とろっとしてくるまで」
「それなら、もうそろそろいいんじゃないかな?」
レーア姉ちゃんがもうトロっとしてきてるよって言ったもんだから、僕は大慌てでゼラチンの入った小皿を持ってったんだよ。
でね、木のおさじを使ってゼラチンを溶かしたお水をお鍋の中に全部入れたんだ。
「これでお鍋がもういっぺんぐつぐついうまで木べらでしっかり混ぜながら煮たら、火からおろして泡立てるんだよ」
「煮上がるまで混ぜるのね、解ったわ」
ホントはここで酸っぱい果物の汁を入れるといいそうなんだけど、今は無いからパス。
お水を入れてちょっと冷えちゃったお鍋がもういっぺんぐつぐつ言い出したところで、レーア姉ちゃんはそのお鍋を火からおろしたんだ。
「熱いのが飛ぶと危ないから、泡立てるのも私がやるわね」
火からおろしたって言っても、中に入ってるベニオウの実はすっごくあっついでしょ?
だから泡立てる時に飛ぶと危ないからって、レーア姉ちゃんはやりたそうにしてるキャリーナ姉ちゃんから魔道泡だて器を取り上げてスイッチオン。
そしたら皮が入って赤っぽかったベニオウの実が、段々薄いピンク色になっていったんだよね。
「ねぇ、ルディーン。パンケーキにのせる生クリームくらいになったけど、もうこれくらいでいいかな?」
「う~ん、もうちょっとかなぁ」
いっつも作ってる生クリームはふわぁって感じだけど、これはもっともったりって感じになった方がいい気がするんだよね。
だからもうちょっとの間かき混ぜてもらってると、
「あっ、これくらいでいいかも」
料理スキルが働いたのか、なんとなくこれくらいだなぁって気がしたから泡立てはこれで終了。
「これで完成なの?」
「ううん。これはいっぺん冷やさないとダメなんだ」
僕はそう言うと、銅製のパットを出してきて出来上がったものをその中へ。
泡立てたら増えちゃったもんでパット3つ分になったけど、いっぱい食べられていいかって思いながら僕はそれを持ちあげて、テーブルの上へ何度かとんとんって落としたんだ。
「スポンジケーキってのを作る時と、同じような事をするのね」
「うん。こうやって空気を抜いとかないとダメなんだって」
でね、そのパットを冷蔵庫の中へ……って思ったけど、僕の作った簡易の魔道冷蔵庫にこんなの入れたら中があったかくなっちゃうかもしれないでしょ?
だから一旦それをテーブルの上に置いたまんまにして、僕はいっつも作業してるお部屋へ。
ちっちゃな魔石を取り出して氷の魔石に属性変換させると、お部屋の中に置いてあった蓋付きの木箱を持ってきて、その氷の魔石を蓋の中に取り付けたんだ。
「一角ウサギの魔石だけど、たしかこれでも5時間くらいなら活性化させられたはずだよね」
魔石は中の魔力が無くなると壊れちゃうけど、パットの中身は1時間もすればつべたくなっちゃうはずだもん。
壊れる前に活性化を止めちゃえるから、こんな簡単なのでも多分大丈夫。
って事でその箱を持って台所に行くと、その中にパットを入れて氷の魔石を活性化させたんだ。
「後はつべたくなったらパットから出して、それをちっちゃく切ってから、くっつかないようにとうもろこしの粉を振りかけたら完成だよ」
「そしたら食べられるの? そっか、早く冷たくならないかなぁ」
あとはほっとくだけなのに、キャリーナ姉ちゃんは待ち遠しいのかパットの中身が冷えるまで木箱の前でニコニコしながら待ってたんだ。
一時間ほど待ってから箱から取り出すと、泡立てたゼラチン入りのベニオウの実はすっごくつべたくなって固まってたからパットから出して一口大に四角くカット。
それにとうもろこしの粉を振っていき、全体にその粉がついてピンク色の白い雪の塊みたいになったらこのお菓子、ギモーヴの完成だ。
「それじゃあ、お母さん呼んでくるから、待っててね」
「え~、すぐに食べちゃダメなの?」
「当り前じゃないか! だってこれ、お母さんのために作ったお菓子だもん」
キャリーナ姉ちゃんがブーブー言ってたけど、それを無視して僕はお母さんの所へ。
その手を引っ張って台所へ連れてったんだよ。
そしたらさ、それを見たキャリーナ姉ちゃんがすぐに僕からお母さんを取って、ギモーブが置いてあるお皿の前の席に座らせちゃったんだ。
「お母さん、早く食べて食べて」
「えっ? ええ、頂くわね」
自分が早く食べたいからって、お母さんに早く食べてってせかすキャリーナ姉ちゃん。
それを見たお母さんは、目の前にあるよく解らないピンクの四角いものをつまむと、口の中にポイって放り込んだんだよ。
「んっ? これはなんて言うか……ふわふわして、もちもちして、とっても変わった食感ね。それにベニオウの実の甘さと香りが口の中に広がってものすごくおいしいわ」
「おいしいでしょ? ギモーヴって言うお菓子なんだよ」
お母さんがにっこりしながらお口をもぐもぐしてるのを見て、うれしくなった僕はこのお菓子の事を教えてあげようとしたんだ。
でもね、
「ルディーン。お母さんが食べたから、もう食べてもいいでしょ?」
キャリーナ姉ちゃんがすっごい勢いでこう言って来たもんだから、僕たちも食べる事に。
「おいしいぃ!」
「なにこれ、ふわふわしてるけどスポンジケーキとも全然違うわ!」
そしたらね。その初めての食感にお姉ちゃんたちは大興奮。
あっという間に最初のパットの分を食べちゃったんだ。
「レーア姉ちゃん。早く次のも切って」
「ええ、すぐに切るわ」
その上、残りの分まで食べちゃおうとしたもんだから、僕は慌てて止めたんだよ。
「ダメだよ。お父さんにできたら食べさせてあげるねって約束したもん」
「そうね。それにディックやテオドルに残しておかないと、後で怒られるわよ」
こんなに美味しいんだもん。
お母さんの言うとおり、お兄ちゃんたちもきっと食べたいって言うよね。
「そっかぁ。それじゃあしょうがないね」
それを聞いたお姉ちゃんたちは、ちゃんと残しとかなきゃダメだよねって一度はなってくれたんだけど、
「あっ、でもあと2個あるんだから、1個残しとけばいいでしょ?」
キャリーナ姉ちゃんがこんなこと言い出したもんだから、結局パットを1個だけ残して食べちゃう事に。
「お母さんのために作ったお菓子なんだもん。残ったのも、晩ご飯の後に家族全員で食べるべきよね」
それにレーア姉ちゃんまでこんな事を言い出したもんだから、結局お父さんやお兄ちゃんたちは、せっかく作ったギモーヴをちょびっとしか食べる事ができなかったんだ。
読んで頂いてありがとうございます。
セーラー服を着た女の子が日本刀で化け物を切り殺すアニメwで有名なギモーヴですが、前々からマシュマロと何が違うんだろう? って思ってたんですよね。
なにせ食べた感じではあまり違いが解らないし、マシュマロにだってフルーツ味のものがあるので、もしかしたら形が違うだけなんだろうか? なんて考えていたんですよ。
でも実際は大きく違うらしく、マシュマロはメレンゲに砂糖とゼラチンを混ぜて作る料理なのに対して、ギモーヴはフルーツのピューレにゼラチンを混ぜたものを泡立てて作るそうです。
なので、フルーツの入っていないギモーヴは存在しないみたいなんですよね。
なるほど、だからプレーンのギモーヴはどこにも売っていなかったのか。
因みになぜこんなマイナーなお菓子を突然持ってきたのかというと、あるお店で見かけて今度の母の誕生日に買って来ようかなぁなんて考えていたお菓子だからなんですよね。
実は私の母、誕生日と命日が同じ日なんですよ。
あと1日長く生きてたら、ギモーヴを食べてたんだろうなぁなんて思いながらこの話を書きました。
母にはもう食べさせてあげる事はできませんから、せめてシーラお母さんに食べてもらおうかとw
さて、次回からは元の話の続きを書こうかと思っています。
流石に2か月以上開いてしまったので、皆さんも話の内容を覚えていないかもしれませんね。
私もそうなので、とりあえず書く前に一度、5話くらい前から読み返さないといけないなぁ。




