393 そっか、だから名前が違うんだね
イーノックカウに入った後も馬車は街の中を走り続けたんだ。
僕ね、その馬車の中からお外を見てたんだけど、その景色がだんだん知ってるとこばっかりになってきたもんだから窓から顔を出して前の方を覗き込んでみたんだよ?
「あっ、司祭様! 錬金術ギルドのお屋根が見えてきたよ」
「そうか。ではあと少しで着くのだな」
そしたら遠くの方にオレンジ色の三角屋根が見えてきたもんだから、僕はお爺さん司祭様にその事を教えてあげたんだ。
でね、それを聞いた司祭様が教えてくれてありがとうって言いながら頭をなでてくれたもんだから僕はちょっと恥ずかしくって下向きながらニコニコしてたんだけど、その間に馬車はだんだんゆっくりになっていって、見慣れた赤いドアの建物の前で止まったんだ。
「司祭様、到着しました。今扉を開けますので、もうしばらくお待ちください」
御者さんは馬車の前にあるちっちゃな窓を開けてそう言うと、先におりて扉を開けてくれたんだよ。
だから僕はそこからぴょんって飛び降りようとしたんだけど、
「失礼します」
その前に御者さんに抱えられて下ろしてもらっちゃった。
う~ん、ストールさんと一緒に馬車で来る時はいっつも飛んで降りてるから、なんか変な感じ。
でも、お爺さん司祭様が何にも言わないって事は、こんな風におろしてもらうのがほんとなのかもね。
カランカラン。
「こんにちは!」
「いらっしゃいませ。って、子供の声だから誰かと思ったらルディーン君か」
いつもの赤いドアをうんしょって開けると、僕はいつもみたいにこんにちはの挨拶をしたんだよ。
そしたらカウンターのとこにいたペソラさんが、僕の顔を見て笑いながら挨拶してくれたんだけど、
「邪魔をするぞ」
その後ろからお爺さん司祭様が入ってきたもんだから、びっくりしたお顔になっちゃったんだ。
あれ? 僕たち、呼ばれてきたんだよね。
ペソラさん、お爺さん司祭様が来ること、知らなかったのかなぁ?
だから僕がそう思って頭をこてんって倒してると、ペソラさんはそれに気付かずに大慌てでギルドの奥に行っちゃったんだ。
でね、それからちょっとしたら、バーリマンさんがペソラさんと一緒に奥から出てきたんだよね。
「これはこれは、ハンバー大司教様。お待ちしておりました」
「うむ、久しいの。それと前にも申したが、今のわしは司教ではなく、グランリルの司祭だ。間違えるでない」
「おお、そうでしたわね。申し訳ありません、ハンバー司祭様」
こんな風にバーリマンさんはお爺さん司祭様とこんにちはのご挨拶をすると、今度は僕の方を見てニッコリ笑ったんだ。
「ルディーン君もよく来てくれたわね」
「うん! ねぇ、バーリマンさん。僕になんかご用事があるの?」
「ええ、そうよ。でもその話はロルフさんが来てからね」
僕たち、朝村を出てイーノックカウに来たもんだから、今はちょうどお昼くらいの時間なんだよね。
だからロルフさんはお昼を食べるために、一度お家に帰っちゃったんだってさ。
「ペソラ。すまないけど、いつもの所にロルフさんの使用人がいるはずだから、ハンバー司祭様がいらっしゃったと伝えて来てくれる?」
「はい、わかりました!」
「それでは司祭様。ロルフさんもじきに来ることでしょうし、それまでの間にお食事でもどうでしょう?」
「うむ。ではごちそうになるとするかな」
僕たちが来たよってペソラさんが言いに行っても、ご飯を食べに行ったんだからロルフさんがすぐに来るなんて事ないでしょ?
じゃあ待ってる間にお昼ご飯を食べようよってバーリマンさんが言ってくれたもんだから、僕たちは錬金術ギルドの奥へ一緒に入ってったんだよ。
そしたらさ、そこにモーガンさんがいたもんだから、僕、びっくりしちゃった。
バーリマンさんはね、僕たちがこれくらいに着いても大丈夫なようにって自分ちのコックさんであるモーガンさんを呼んでおいてくれたんだって。
そのおかげで僕やお爺さん司祭様は、モーガンさんが作った出来立てのおいしいお昼ご飯を食べる事ができたんだ。
「待たせてすまなかったな、ルディーン君。それにラファエルも遠くからすまなかったな」
ちょっとして帰ってきたペソラさんとも一緒にモーガンさんのおいしいお昼ご飯を食べた後、僕たちはお茶を飲みながらゆっくりしてたんだよ。
そしたらさ、そこにロルフさんが入ってきたんだ。
「あっ! ロルフさん。こんにちは!」
「おお、ヴァルトよ。邪魔しておるぞ」
だからこんにちはって挨拶したんだけど、そしたらお爺さん司祭様がロルフさんの事を違う名前で呼んだもんだから僕はあれ? って思ったんだ。
「司祭様。ヴァルトさんじゃなくってロルフさんだよ?」
「ああ、気にするでない。この者とは古い友人でな、ヴァルトと言うのはその頃に呼んでいたあだ名のようなものだ」
「そうじゃよ、ルディーン君。わしもこの爺の事をラファエルと呼んでるじゃろ」
ロルフさんとお爺さん司祭様はね、昔からの仲のいいお友達なんだって。
そう言えばさっきバーリマンさんは司祭様の事をハンバーさんって呼んでたのに、ロルフさんはラファエルさんって呼んでたっけ。
仲のいいお友達だから、他の人とは違う名前で呼び合ってるんだね。
「それでヴァルトよ。なぜここに我々を招いたのかな? 使いの者はルディーン君の作ったポーションの事とは申しておったが、詳しい事は知らぬようで聞けずじまいだったのだが」
僕がだから違う名前なのかぁって思ってると、そのお話はもう終わったって事で早速お爺さん司祭様はロルフさんに何で呼んだの? って聞いたんだよ。
そしたらロルフさんは、ちょっと真面目なお顔になってこう言ったんだ。
「うむ。実はある新発見があってな、そのおかげでわしやギルマスでも肌用ポーションを作る事ができるやもしれぬのじゃよ」
「ええ。それどころか、もしかすると劣化版でよければ髪の毛用のポーションまで作れるかもしれないのです」
なんか新しい素材が見つかったらしくて、それを使えばロルフさんたちでもお肌つるつるポーションが作れるようになるかもしれないんだって。
それにね、バーリマンさんが髪の毛つやつやポーションも作れるかも? なんて言ったもんだから、お爺さん司祭様はびっくりしちゃったんだ。
「それは誠か!? して、新発見の素材と言うのは?」
だからお爺さん司祭様はそれは何なの? って聞いたんだよ?
そしたらさ、何でか知らないけどロルフさんとバーリマンさんは僕の方を見たんだよね。
そんな二人を見て、僕はなんでこっち見てるのかなぁ? って頭をこてんって倒したんだけど、
「それがじゃな、その新素材と言うのがイーノックカウ近くの森の奥地で見つかったベニオウと言う果実の皮でのぉ」
「そしてその実は先日このルディーン君から頂いたもので、実を言うとまだこのイーノックカウではだれも採取に成功していないものなのです」
そしたらそんな僕を見た二人は、ちょっと困ったような顔してそう教えてくれたんだ。
読んで頂いてありがとうございます。
無事錬金術ギルドにはたどり着きましたが、今回も話は進みませんでした(汗
まぁ、一応ルディーン君たちが呼ばれた理由まではたどりつけたんですけど、この先まで書こうとすると後1話分くらいかかってしまうので今回はここまでという事で。
でも司祭様が来たらバーリマンさんもしっかり挨拶をしないといけないし、ルディーン君もお爺さん司祭たちがいきなり知らない名前で呼び合ったりしたらびっくりするでしょうから、やはりこの説明も必要ですよね?
などと文才がない事を自分に言い訳する、今日この頃ですw




