390 お爺さん司祭様と一緒にお出かけするんだって
村の子たちに大人気の手押し式の三輪車、僕はしばらくの間こればっかり作ってたんだ。
でもね、その話を聞いた村長さんが、僕ばっかりそんなにいっぱいお仕事を作っちゃダメって言ってくれたんだって。
そのおかげで鍛冶屋のおじさんと木工職人のおじさんが僕んとこに来て、三輪車の作り方を見せてって言ってきたんだよ。
でね、これだったら作れそうだって事で、それからはおじさんたちが三輪車を作ってくれることになったんだ。
って事で、僕はもう三輪車を作らなくってもよくなったでしょ?
だから今度こそ、お兄ちゃんやお姉ちゃんたちに森に連れてってもらおうと思ってたんだ。
でもね、それとは別のご用事ができて僕はもうちょっとの間、森への狩りに行けなくなっちゃったんだ。
「お邪魔するぞ。ルディーン君はご在宅かな?」
「あっ、司祭様だ」
「おお、ルディーン君。そこにいたか」
僕たちがお昼ご飯を食べ終わってみんなでのんびりしてたら、そこにお爺さん司祭様が来たんだよ。
でね、どうやら司祭様は僕にご用事があったみたいで、僕を見つけるとにっこりと笑ったんだ。
「どうしたの、司祭様。僕に何かご用事?」
「うむ。実は先ほど、イーノックカウから使いの者が来てのぉ。何やら用事があるから、ルディーン君を連れて来てほしいとヴァルト……いや、ここではロルフと言った方が通じるな。あやつがそう言って来たのだ」
「ロルフさんが?」
お爺さん司祭様が言うにはね、僕が前に作ってロルフさんたちんとこに持ってった魔法のお薬の事でなんか新しく解った事があるらしいんだよ。
だからその事でご用事があるからって、僕に錬金術ギルドまで来て欲しいんだってさ。
「使いの者が申すには、ルディーン君一人でもよいが、できたらわしも一緒に来て欲しいとの事でな。特に不都合が無ければ明日の朝、使いの者が乗ってきた馬車でイーノックカウに向かいたいのだが」
「ねぇ、お母さん。僕、司祭様と一緒に行ってもいい?」
「そうねぇ、特に何かをやってもらわないといけないって用事もないし、私はいいと思うけど……ハンスはどう? 何かある?」
「いや、別に何の問題もないぞ。それに司祭様と一緒に行くと言うのであれば安心だしな」
お父さんもお母さんも行ってもいいって言ったでしょ?
だから僕、司祭様にいいよ! って元気よくご返事したんだ。
「おお、それは助かる。ではまた明日の朝呼びに来るから、出かける準備をしておいてくれ」
「うん!」
こうして僕はまた、お爺さん司祭様と一緒にイーノックカウに行く事になったんだ。
「こんな凄いので行くの?」
僕ね、次の日の朝、迎えに来たお爺さん司祭様と一緒に村の入口まで行ったんだよ。
そしたらね、そこには見た事ないくらいすっごい馬車があったもんだから、僕、びっくりしちゃった。
だってさ、お貴族様が乗るような横に扉がついてる箱型の馬車がこの村に来たってだけでもびっくりなのに、この馬車っていろんなところに飾り彫りまでしてあるんだよ?
それにね、馬車に付いてる輪っかもうちの村で使ってるのよりおっきい上に、真っ赤に塗ってあるんだもん。
僕ね、ロルフさんのお家から錬金術ギルドまで送ってもらう馬車もすごいなぁっていっつも思ってたんだけど、この馬車はそれよりも、もっとず~っとすごい馬車なんだ。
「ほっほっほっほ。この馬車を見た時には、わしも少々面をくらったわ。ヴァルトの奴め、随分と張り込んだようだな」
「司祭様。張り込むって何?」
「おお、ルディーン君には少々難しかったかな? 張り込むと言うのはな、張り切ってお金を多く使ったという事だ。これほど見事な馬車は、イーノックカウとてそうはない。ヴァ……ロルフの奴、ルディーン君を初めて招くという事で、領主にでも頼んでこの馬車を借り受けたのではないかな」
今まで何度もイーノックカウに行ったことあるけど、ロルフさんに来てって馬車を出してもらった事なかったでしょ?
だからお爺さん司祭様は、初めてだからってロルフさんがお金をいっぱい出して、領主様から馬車を貸してもらったんじゃないかなぁ? って言うんだ。
そっか、だからこんなにすごい馬車が来ちゃったんだね。
「領主様の馬車だから、こんなにすごいんだね。でも司祭様。こんな馬車に、僕が乗ってもいいのかなぁ?」
でもね、僕、ほんとに乗ってもいいの? って思ったんだよ。
だって司祭様が言ってるのがほんとだったら、これの馬車って領主様のものって事だもん。
そんなのに乗って、怒られちゃったりしないかなぁ? って心配になっちゃって、僕はホントに大丈夫って司祭様に聞いてみたんだけど、
「うむ、それは何の問題もあるまい。ロルフがルディーン君を連れて行くのに使えと寄こしたのだからな」
そしたらロルフさんがこれに乗って来てって言ったんだから、僕が乗っても大丈夫だよって。
「そっか。じゃあ、安心だね」
「さて、イーノックカウでは皆が君の到着を待っておるだろうし、そろそろ乗り込むとするかのぉ」
「うん!」
お爺さん司祭様がそう言うと、御者をしてくれるって人が馬車に乗るための踏み台を置いて扉を開けてくれたんだ。
でもね、僕がちっちゃいからそれを使っても乗るのが大変なんじゃないかって思ったのかな?
その御者さんは、
「失礼いたします」
って言うと、僕をひょいって持ち上げてそのまんま馬車に乗っけてくれたもんだからびっくりしちゃった。
「司祭様! 僕、乗っけてもらっちゃった!」
「うむ、よかったのぉ」
だから続けて乗ってきた司祭様にそう言ったんだけど、そしたら笑いながら頭をなでてくれて、その後椅子に座ると自分の横をポンポンって叩いたんだ。
「ほれ、君が座らねばこの者も扉を閉める事が出来ぬし、出発もできぬ。はよう、わしの横に座るがよい」
「うん!」
でね、僕がお爺さん司祭様に言われた通り隣に座ると、御者さんはぺこって頭を下げた後に扉を閉めたんだよ。
でね、お外からかちゃんって鍵をかけると、そのまんま御者台の上へ。
「それでは出発します」
そして御者台の後ろについてる小さな窓を開けてそう言うと、僕たちを乗っけた馬車はゆっくりと走り出したんだ。
読んで頂いてありがとうございます。
このまま魔道三輪車を完成させてしまおうかな? とも思ったのですが、あまりその話ばかりだと何だなぁと思ったのでこのような展開にしました。
同じ話題ばかりだと書く方もですが、読む方はもっと飽きてしまいますからね。
と言う訳でルディーン君はまたもイーノックカウに向かいます。
さてさて、今度は何をやらかすのやらw




