388 楽しそうだもんね
ガラガラガラガラ。
「きゃはははははははっ! はやいはやい!」
僕が後ろから三輪車を押してあげると、スティナちゃんは大喜び。
そりゃそうだよね。
こんな乗り物、他にないもん。
例えば馬車だと、スティナちゃんみたいなちっちゃい子は荷台にしか乗っけてもらえないでしょ?
だからお外を見ても横に流れてく景色しか見れないけど、これは運転席に乗ってるから景色が後ろに流れてくんだよね。
それにこの三輪車って、ちっちゃな輪っかのすぐ上に載っかってる背もたれ付きの椅子に乗るようにできてるもんだから、馬車の荷台なんかよりすごく低い位置に座る事になるんだ。
僕が後ろから押してるだけだから当然馬車より遅いんだけど、でもそのおかげでスティナちゃんはもっとずっと早く感じてるんじゃないかな?
それとさ、スティナちゃんが大喜びしてるのにはもう一個理由があるんだよね。
「スティナちゃん。危ないから、あんまりハンドルを大きく動かしちゃダメだよ」
「あい!」
この三輪車って、ハンドルを動かすと左右に曲がるようになってるでしょ?
だからそれを面白がってスティナちゃんが運転する三輪車は右へ行ったり左へ行ったりしてるんだけど、でも僕が押してるもんだからそのせいで倒れちゃうなんて事もないでしょ?
だからスティナちゃんは、さっきから大きくハンドルを右や左に動かして大はしゃぎしてるんだもん。
こんな風に自分の思った方に乗り物を動かせることなんて事、普通は無いよね?
だったらさ、そんなの面白いに決まってるじゃないかって僕も思うんだ。
スティナちゃんがそんな風に喜んでくれるもんだから、僕はずっと三輪車を押しながらお庭の中を行ったり来たりしてたのだけど、
「ねぇ、おかあさん。あれなに?」
「さぁ、何かしら? 見た事が無い乗り物ねぇ」
「たのしそう! ぼくものりたい!」
そしたらさ、うちの近くを通りかかった男の子がスティナちゃんがすっごく楽しそうにしてるのを見て、僕もあれに乗ってみたい! って一緒に歩いてたおばさんに言ったんだよね。
僕ね、その声が聞こえたもんだから、つい立ち止まっちゃったんだけど、
「ルディーンにいちゃ、なんでとまっちゃっうの? スティナ、もっとのりたい!」
「あっ、うん。ごめんね」
でもスティナちゃんは三輪車が楽しくってその男の子に気が付いてないのか、止まっちゃった僕にもっと押してって。
だからまた三輪車を押し始めたんだけど、そしたらさっき男の子に僕も乗りたいって言われてたおばさんが僕に話しかけてきたんだ。
「カールフェルトさんとこの……えっと、ルディーン君だったかな? ちょっといいかしら」
「うん。なあに?」
「この間まで家族でイーノックカウに行っていたわよね? その乗り物のおもちゃは、その時に買って来たものなのかしら? もしそうなら、何処で買ったのかを教えて欲しいのだけど」
僕たち、ついこないだまでイーノックカウに遊びに行ってたでしょ?
だからおばさんは、スティナちゃんが乗ってる三輪車を見てイーノックカウで買って来たおもちゃだって思ったみたいなんだ。
「ううん、違うよ。これはね、僕がさっき作ったんだよ」
「作ったの? これを坊やが?」
「うん! ほら、だから石でできてるでしょ?」
おばさんは僕が作ったって聞いてびっくりしてたんだけど、ご近所のおばさんたちはみんな僕が魔法を使えることを知ってるよね。
それに僕が魔法で石のかまどを作った事もみんな知ってたもんだから、石でできてるって事を教えてあげると、
「へぇ、こんな形のものまで作れるのね」
って言って感心したように笑ったんだよ。
「おかあさん。ぼくものりたい!」
でもね、その時となりにいた男の子がおばさんにもういっぺんこう言ったもんだから、今度はとっても困ったお顔になっちゃったんだ。
多分だけど、おばさんは僕たちがこの三輪車をイーノックカウで買って来たのなら、男の子に今度買ってきてあげるからって言ってあげるつもりだったんじゃないかな?
でもこれ、僕が作ったもんでしょ。
だからどこでも買えないって解って、おばさんは困っちゃったんじゃないかなぁ。
くいくいっ。
僕がおばさんを見ながらそう思ってると、誰かが袖を引っ張ったんだよね。
だから何だろうって思ってそっちを見てみると、
「ルディーンにいちゃ。あのこ、これのうの?」
スティナちゃんが振り返って、僕の方を不思議そうな顔して見てたんだ。
「何か乗りたいみたいだね」
「でもでも、このちゃんりんちゃ、ルディーンにいちゃのだよ?」
あれ? スティナちゃんは何を言いたいんだろう?
スティナちゃんはこの三輪車は僕のだよって言った後も、ずっと不思議そうな顔して僕の事見てるんだよね。
って事は、あの男の子がこの三輪車に乗るのを嫌がってるわけじゃないみたいなんだ。
だってそれだったらさ、今は自分がこれに乗って遊んでるからダメって言うはずだもん。
でもスティナちゃんは、この三輪車は僕のだって言ったでしょ?
だから僕、スティナちゃんが何を言ってるのか解んなくって、頭をこてんって倒したんだ。
「あのね。これ、ルディーンにいちゃのなんだよ。だから、ルディーンにいちゃがのるの」
そしたらそれを見たスティナちゃんが、こう言って教えてくれたんだよね。
だからその意味を考えたんだけど……。
「スティナちゃん。もしかしてこの三輪車は僕のだから、この男の子が欲しいって言ってもダメって事?」
「うん! ルディーンにいちゃね、スティナにのれるちゃんりんちゃつくうっていってたでしょ? でねでね、つくったからこれはルディーンにいちゃのなの」
う~ん、やっぱりスティナちゃんは、この男の子が三輪車を欲しがってるって思ってるみたいなんだよね。
これは多分、さっきおばさんがどこで買って来たの? って聞いたからなんじゃないかな?
でね、その後に男の子が乗りたいって言ったもんだから、スティナちゃんはダメって言ったんだと思うんだ。
「大丈夫だよ、スティナちゃん。この子が三輪車を欲しいって言ってるわけじゃないみたいだから」
「そ~なの?」
「おばさん。そうだよね?」
「えっ? ええ。もしどこかで買えるのならって思ったんだけどね」
だから僕、そうじゃなくって乗りたいだけだよね? っておばさんに聞いたんだ。
そしたらやっぱり買いたいなって思ったのはおばさんだけで、男の子の方はただ乗りたいってだけだったみたい。
だったらさ、ちょっとの間代わってあげればいいだけだよねって僕は思ったんだよ?
「えっ! おかあさん、これかってくれるの!?」
でもね、僕とスティナちゃん、それにおばさんのお話を横で聞いてた男の子が、この三輪車とおんなじ物を買ってもらえるって思ったみたいなんだ。
だからおばさんは大慌てで違うよって言おうとしたんだけど、男の子は大喜びでぴょんぴょん飛び跳ねてるんだもん。
そんな男の子に、おばさんは買えないんだよって言えなくなっちゃったんだ。
読んで頂いてありがとうございます。
中途半端なところですが、実は親せきに不幸がありましてそのお通夜や葬式のために続きを書く時間が取れませんでした。
また、本当なら最後まで書いてアップしたいところですが、お酒を飲んでしまったために続きを書けそうにありません。
なので最初はラストを少し書き直して男の子を乗せてあげましたで終わらそうかとも思ったのですが、やはり考えていたことを書ききりたいんですよね。
と言う訳ですみませんが、二話に分けさせていただきます。




