387 おっきな三輪車を作ろう
ブレーキが無いと危ないってのが解ったでしょ?
でも僕、ブレーキってのがどういうものなのかよく解んないんだよね。
だってそのブレーキってやつ、見た事ないんだもん。
前の世界の僕は自転車ってのに乗れたみたいで、それにブレーキってのが付いてたんだ。
でね、その自転車ってのはハンドルについてるのを握るとブレーキがかかって止まったんだけど、でも前の僕は何でそれを握るとブレーキがかかるのかをよく解ってなかったみたい。
何でかって言うとね、そのブレーキってのは輪っかの真ん中にあってその周りにカバーがかかってたもんだから、止まる時にそれを使えばいいって事は知ってても前の僕はどうやって止まってるのかは見た事が無かったみたいなんだ。
「でも止まればいいんだから、おんなじのを作らなくってもいいよね」
それに僕、隠してたくらいなんだから前の世界の自転車ってのについてたブレーキは、きっととっても難しいやり方で作ってあったんじゃないかなって思うんだよね。
でもそんなの、僕に作れるはずないでしょ?
だからおんなじのを作るんじゃなくって、ただ止まるためのもんを作ればいいんじゃないかって僕は思ったんだ。
「ルディーンにいちゃ、ちゃんりんちゃもってきたよ!」
でもね、スティナちゃんがそう言って僕に渡してくれた三輪車のおもちゃを見て、僕は気が付いたんだよ。
「あっ、でもこれじゃブレーキの実験、できないや」
どんなのにするにしても、こんなちっちゃなので実験なんかできるはずないよねって。
「ねぇ、ルディーンにいちゃ。もうちゃんりんちゃであそばないの?」
「ううん、違うよ。今度は乗れる三輪車を作ろうって思ってるんだ」
まだ完成品を作るって訳じゃないけど、とりあえず乗れるくらいおっきなのが無いと実験できないでしょ?
だから僕は、スティナちゃんと一緒に作業部屋に来たんだ。
でもね、
「ちゃんりんちゃにのるの? でもスティナ、こんなちっちゃなのに、のれるかなぁ?」
スティナちゃんは、手に持ってるおもちゃの三輪車を見ながら、どうやって乗るんだろうね? って頭をこてんって倒してるんだもん。
だから僕、それを乗れるようにするんじゃないよって教えてあげたんだ。
「違うよ、スティナちゃん。それのおっきなのを作るんだ」
「おっきなのつくうの? そっか、だったらのれるね」
そしたらスティナちゃんは、胸に手を当ててホッとした顔したんだよ。
でね、その後にっこり笑って、
「スティナも、ちゃんりんちゃのりたい!」
僕に早く作ってだってさ。
と言う訳で、早速作業開始。
とは言ってもおっきくなるだけで、やる事はおもちゃの時とほとんどおんなじでしょ?
それに実験用だから、本番みたいに持てるくらいに軽くしようとか、カッコよく作ろうなんて考えてないもん。
だから最初は、木材を長細い三角形の形に組んだだけみたいな車体を作ったんだよね。
「ルディーンにいちゃ。これ、ちゃんりんちゃじゃないよ?」
でもね、それを見たスティナちゃんが、おもちゃの三輪車を僕に見せて形が違うよって。
確かにおもちゃの三輪車は、本物はこんな形にしようって思って作ったから、結構カッコいいんだよね。
スティナちゃんはその三輪車とおんなじのに乗れるって思ってたから、今僕が作ったのじゃダメって言うんだ。
「ちゃんりんちゃはこれでしょ? まちがえちゃ、めっ!」
「うん。今度はもうちょっと、ちゃんとしたのを作るよ」
だからその三角形の木枠は横に置いといて、今度はちゃんとした車体を作る事にしたんだ。
ちゃんとしたのを作るのはいいけど、木で作ろうと思ったらお家にある分だけじゃ無理なんだよね。
だから僕は、さっきの木枠にくっつけるつもりだったベアリング付きの3つの輪っかを持ってお庭に戻ってきたんだ。
何でかって言うと、お庭の土で薄い石でできた車体をクリエイト魔法で作ろうって思ったからなんだよ。
それだったらおもちゃの三輪車とおんなじようなのが簡単に作れるし、薄い石でも僕やスティナちゃんだったら乗って壊れるなんて事無いもんね。
「この形になるように、しっかりと頭に浮かべてっと」
今までお庭にかまどを作ったり、ベニオウの実を採るのに階段を作ったりとかしてきたでしょ?
だから最初にクリエイト魔法で土から石を作った時に比べて、今の僕はかなり思った通りの形に作れるようになってるんだよね。
「うん、うまくできた!」
「やった! おっきなちゃんりんちゃだ!」
それにね、今回はちっちゃいけど目の前に見本になる三輪車のおもちゃがあるでしょ?
そのおかげでクリエイト魔法で作った石の三輪車は、僕が手に持ってるおもちゃそっくりに出来上がってたんだ。
でもね、
「あっ、これ重すぎて輪っかが付けられないや」
薄く作ったって言っても、石で作ったもんだから結構重たいんだよね。
だから僕じゃ片手で持ち上げて、その間に輪っかを取り付けるなんて事、できそうにないみたいなんだ。
「ルディーンにいちゃ、おっきなちゃんりんちゃ、できないの?」
そしたらさ、それを見たスティナちゃんがとっても悲しそうな顔でそんな事言ったもんだから、僕は大慌て。
「大丈夫だよ、スティナちゃん。もういっぺん魔法で作り直せばいいだけだから」
そう言うと今作った石の三輪車を土に戻して、今度は三本の棒で持ち上げられた三輪車の車体を作ったんだ。
この新しく作った方なんだけど、どうせならもっと軽い方がいいよねって事で、前のを壊す前に削っても大丈夫そうなところ見といたんだよね。
それで、その部分を削った形に新しく作り直したもんだから、実はこれ、かなり軽くなってるんだよ。
そして軽くなったおかげで両手なら簡単に持ち上がるもんだから、輪っかを取り付けた後で下に出てる棒をクリエイト魔法で取る時も、とっても楽ちんだったんだ。
あとね、この三輪車はおっきいだけじゃなくって、もう一つおもちゃの三輪車とは違うとこがあるんだよ。
それはハンドルを動かすと、前の輪っかが動く所。
だってこれ、おもちゃのと違ってこんなにおっきいでしょ?
もしそうしとかなかったら、お庭の端っこまで行くたんびに前を持ち上げて方向を変えないとダメだもん。
いくら軽くなったって言ってもそんなの大変だから、僕、がんばって作ったんだ。
「ルディーンにいちゃ、ちゃんりんちゃ、できた?」
「うん。おもちゃのみたいに動かすための魔道具は付けてないけど、スティナちゃんが乗るんだったら僕が後ろから押してあげるよ」
「ほんと? やったぁ!」
この石の三輪車、一応ブレーキの実験のために作ったんだけど、そんなのスティナちゃんと一緒にできないでしょ?
それに乗って遊ぶことを考えたら、回転の魔道具もつけない方がいいって思うんだよね。
だって魔道具を止めても、ブレーキが無かったら三輪車自体はすぐに止まんないんだもん。
そんなのにスティナちゃんを乗せられないでしょ?
だから僕、今日はこのまんま二人で遊ぶことにしたんだ。
読んで頂いてありがとうございます。
流石にブレーキは作れませんでしたが、とりあえず乗れる三輪車は完成しました。
まぁ回転の魔道具もついてないし本物の三輪車のようにペダルもついてないから、もし一人で乗ろうと思ったら足で漕がないとダメなんですけどね。
それでもスティナちゃんと遊ぶだけなら十分だし、一度失敗して作り直したおかげで軽量化にも成功しましたから、本物を作る時にはこの経験がきっと役に立つことでしょう。
と言うかこれ、ジャンプの魔法で運ぶことを考えなければ、回転の魔道具とブレーキをつけるだけで完成品になる気が?w




