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381 ケーキができたぁ!


 お母さんと一緒にお片付けとかをしてると、段々いいにおいがしてきたんだよね。


 だからそろそろ焼けるかなぁと思ってたんだけど……。


 バン! とてとてとて。


「おばあちゃん、スティナきたよ!」


 そんな時、玄関のドアを開ける音が聞こえたと思ったら、スティナちゃんが僕たちのいる台所に元気よく飛び込んできたんだ。


「あら、スティナちゃん。いらっしゃい。今日はお母さんと一緒じゃないの?」


「おかあさんはね、あっちでおばさんとおはなししてうの」


 でもね、いつもだったら一緒に来るはずのヒルダ姉ちゃんがいなかったんだ。


 だから何で? ってお母さんが聞いたんだけど、どうやらうちに来る途中で近所のおばさんと会ったみたい。


 でね、そのまんま話し込んじゃったから、スティナちゃん一人で先にうちに来たんだってさ。


「あれ?」


 そんなお話をしてたらさ、スティナちゃんが急にすんすんって匂いを嗅ぐような仕草をして、その後

周りをきょろきょろと見渡してから頭をこてんって倒したんだ。


「どうしたの? スティナちゃん」


「あのね、おばあちゃん。とってもいいにおいがするの。でもね、あっちもあっちも、どっちもおりょうりしてないんだよ。ふしぎねぇ」


 だからどうしたの? ってお母さんが聞いたんだけど、そしたらかまどとパンケーキを焼く魔道ホットプレートの方を指さして、いいにおいがしてるのにお料理をしてないのが不思議なんだって。


 そう言えばうちの村には共同でパンを焼く石窯はあるけど、お家の中にオーブンがある家なんてないもん。


 だからスティナちゃんは、ケーキの焼ける甘いにおいが、目の前にある箱からしてる事に気付いてないみたいなんだよね。


 でね、そんな不思議そうな顔をしてるスティナちゃんを見たお母さんはクスクスと笑ってから、


「あのね、スティナちゃん。実はルディーンがオーブンていうものを作ってくれてね、今そのオーブンでお菓子を焼いてくれてるのよ」


 そこにある箱でお菓子を作ってるんだよって教えてあげたんだ。


 そしたらスティナちゃんびっくり! 今度は僕に向かってこう聞いてきたんだ。


「おかし? あまいの!?」


「うん。今焼いてるのだけでも甘いけど、全部出来上がったらとっても甘くておいしいのができるんだよ」


「おいしいの? やったぁ!」


 おいしいお菓子ができるって聞いて、スティナちゃんは大喜び。


 両手を振り上げながら、ぴょんぴょんって飛び周り始めちゃった。


 でもね、台所で飛び跳ねてたら危ないでしょ?


 だからお母さんはそんなスティナちゃんを抱え上げると、台所にあるテーブルの椅子に座らせてあげたんだ。

 

「ところで、ルディーン。そろそろ焼けたころなんじゃないかしら?」


「うん。ちょっと見てみるね」


 僕もそろそろかなぁと思ってたから、どんな状態か見るために魔道オーブンのスイッチを切ってからふたを開けてみたんだよ。


 そしたらさ、さっきまでよりはるかに強い甘い香りがぱぁ~って台所中に広がったんだ。


「わぁ! おばあちゃん、いいにおいだよ」


「ええ、そうね」


 その香りのせいで、スティナちゃんの視線はオーブンに釘付け。


 そして僕が中からケーキの型がのっかった鉄板を取り出すと、早く早くってテーブルをたたき出したんだ。


「ちょっと待ってね。ちゃんと焼けてるか調べるから」


 でも、まだほんとに焼けてるか解んないでしょ?


 だから僕は木の串を、焼きあがったスポンジケーキに刺してみたんだよね。


 何でかって言うと、この串を抜いても生地がついてこなかったら、ちゃんと中まで焼けてるって証拠だから。


「うん、ちゃんと焼けてるみたい」


「ルディーンにいちゃ、できたの?」


「スポンジケーキは焼けたよ。でもね、これで完成じゃないんだ」


 だって今日作るのはケーキなんだもん。


 これだけだったらただの土台なんだから、当然これで完成って訳じゃないよね。


 だからまだだよって教えてあげたんだけど、


「まだなのかぁ」


 そしたら焼きあがったものをすぐに食べられると思ってたスティナちゃんは、それを聞いてしょんぼりしちゃった。


 それを見た僕は、さっきまでニコニコだったのにこれじゃダメだって思って、 


「あっでも、ちゃんとおいしく焼けてるか調べなきゃいけないから、ちょっとだけ味見しよ」


 何個か作った内の一個を切って、みんなで味見する事にしたんだよね。


「食べれうの? やったぁ!」


 それを聞いたスティナちゃんは、さっきまでしょぼんとしてたのがウソのようににっこり。


 僕が型から外したスポンジケーキを見つめながら、まだかな、まだかな、だって。


「おかあさん。僕、全部型から抜いて冷やさないとダメだから、先にこれを切ってスティナちゃんと一緒に食べてて」


「あら、ルディーンは食べないの?」


「ううん。ちゃんと味見しないとダメだから、僕の分もちょこっとだけ残してね」


 だからすぐに食べられるようにってお母さんに一個渡すと、僕は残りのスポンジケーキを型から外してって、それを半分に切っていったんだ。


 だってこうしとけば早く冷えるし、後で生クリームとかを挟むのもすぐにできるからね。


「おばあちゃん。これ、おいちい!」


「ええ、おいしいわね」


 そしてスティナちゃんとお母さんがスポンジケーキの感想を言い合っているのを聞きながら、僕は次の作業へ。


 魔道冷蔵庫に入ってる生クリームを取り出して、そこにクラッシュの魔法で細かくしたお砂糖を入れると魔道泡だて器で混ぜ混ぜ。


 今日はケーキを作るもんだから、いつものパンケーキにのっけるのよりもちょっと硬めになるまで念入りに泡立てたんだよね。


 でね、それが終わると、


「スティナちゃん。生クリームの味見する?」


「うん、すう!」


 僕は泡立てたばっかりの生クリームをちょこっとだけ木のおさじで掬って、スティナちゃんが食べてるスポンジケーキにのっけてあげたんだ。



「さて、次はのっける果物だけど……」


 何のっけようかなぁ?


 ケーキと言ったらやっぱりイチゴなんだけど、そんなものは無いんだよね。


 じゃあ何があるかって言うと、イーノックカウから持って帰って来たベニオウの実とアマショウの実、後は森で採れるベリー系の果物かな。


 でもなぁ、ベニオウの実はお汁が多すぎてケーキにのっけるのにはあんまり向かないし、アマショウの実は生クリームと一緒に食べるのはおいしいんだけどケーキにするには甘みがちょっと足んない。


「後は森で採れたベリーかぁ」


 うちの村の森ではね、何種類かのベリーが採れるんだ。


 その中には木イチゴもあるんだけど、でもあれってすっぱいから砂糖漬けにしたのじゃないとやっぱりケーキには合わないんだよね。


「そうだ! あのベリーにしよ」


 その他に何種類かあるベリーの中で、僕はちょっと大粒で青紫のベリーをケーキに使う事にしたんだ。


 何でかって言うとね、こないだ摘んだばっかりのいろんなベリーに熟成をかけてみたら、これが一番甘くなったからなんだ。


「あっでも、ケーキに挟むのはダメだよね?」


 ケーキにのっけるんだったら丸のまんまでいいけど、挟むとなると切らないとダメでしょ?


 でもベリーはベニオウの実と一緒でお汁がいっぱいあるもん。


 だから切って入れたりしたら、生クリームがべちょべちょになっちゃう。


「う~ん、挟むのはアマショウの実でいいかな」


 ジャムだけでもいいんだけど、せっかく初めて作るケーキなんだから、やっぱり生クリームと果物は挟みたいもんね。


 となると、今ある中ではアマショウの実が一番だって僕、思うんだ。


 と言う訳で、ケーキに使う果物は青紫のベリーとアマショウの実に決定!


 僕は台所に置いてある果物の箱の中から青紫のベリーとアマショウの実を取り出すと、まずはベリーを水でじゃぶじゃぶ。


 きれいに洗った後で布を使って水分を取ったら、アマショウの実と一緒に熟成をかけてったんだ。


「ルディーンにいちゃ、なにしてんの?」


 そしたらさ、その光景が珍しかったのか、スティナちゃんが椅子からえいって降りて僕んとこにきたんだよね。


 だから果物を甘くしてるんだよって教えてあげたんだ。


「あまくなうの?」


「そうだよ。一つ食べてみる?」


「うん!」


 スティナちゃんはそう言うとその場でお口を大きく開けたもんだから、僕は熟成させたベリーを一個そのお口に放り込んであげた。


「ほんとだ!」


「もうすぐこれを使ったお菓子ができるから、もうちょっと待っててね」


「わかった! スティナ、まってう!」


 スティナちゃんがお母さんのとこに戻ってったから、僕はその間に最後の仕上げ。


 まだ完全には冷えてないけど、もうちょっとあったかいかなって感じるくらいまでにはなってたから、今から食べる分だけケーキを作る事にしたんだ。



「生クリームはたっぷりの方がおいしいよね」


 まずは半分に切ったスポンジケーキの下っ側に生クリームを塗って、それからスライスしたアマショウの実を並べていく。


 でね、その上にもういっぺんたっぷりと生クリームをのっけると、上っ側のスポンジケーキをさかさまにしてのっけたんだ。


 何でかって言うと、そのまんまのっけると膨らんでるからケーキの上が丸くなっちゃうんだよね。


 でも、生クリームを塗ったり果物をのっけるんだったら平らの方がいいでしょ?


 だからこうやってひっくり返しておかないとダメなんだ。



 この後は、スポンジケーキの上や横んとこに生クリームをペタペタ。


 これ、オヒルナンデスヨではくるくる回る台を使ってやってたけど、そんなのないからちょっと変になっちゃった。


 でも食べたらおいしいんだから、これでもいいよね。


 でね、塗ったクリームの上からさらにぼてっと生クリームを何カ所か木のおさじでのっけて、そこに青紫のベリーをのっけたらベリーとアマショウのケーキが完成だ。


「お母さん、スティナちゃん、ケーキできたよ」


「もうたべれうの? やったぁ!」


「あら、パンケーキとはかなり違うのね。でもおいしそうにできてるわ」


 これは試作のつもりで作ったやつだからちっちゃいけど、一応ホールのケーキって事でナイフで切り分ける事に。


 でもね、ちゃんと3等分なんて切れるわけないでしょ?


 だから大きい小さいになっちゃったんだ。


「スティナ、これがいい!」


「ええ、いいわよ」


 一番おっきいのは当然スティナちゃんの分。


「後ルディーンのお皿には、さっき切り分けた試食分のものっけておかないとね」


 でね、お母さんは2番目におっきいのを僕にくれたんだよ。


 おまけにさっきスティナちゃんとお母さんの二人で食べてたスポンジケーキの試食分も一緒にのっけてくれたもんだから、僕のお皿の上はパンパンだ。


「それじゃあ、食べましょうか」


「「は~い」」


 スポンジケーキ自体はアマンダさんのとこで食べたけど、ちゃんとしたケーキを食べるのはこれが初めてなんだよね。


 だから僕はちょっとドキドキしながら木のフォークで切り分けると、そのままパクリ。


「わぁ! これ、すっごくおいしい」


「うん。おいちい!」


「ほんとね。特に上にのっている甘酸っぱいベリーがいいアクセントになっているわね」


 初めて食べたケーキは、甘くて柔らかくてちょっとだけ甘酸っぱい、僕が今まで食べた中で一番おいしいお菓子だったんだ。


 読んで頂いてありがとうございます。


 ルディーン君、やっと念願のケーキを食べる事が出来ました!


 ケーキって数あるお菓子の中でも、やっぱり特別なものですよね。


 それに今回はベリーとアマショウの生クリームケーキでしたが、すでにキャラメルは発見しているし、もう少し季節が進めば栗のような果実も出てくるでしょう。


 その他にもプリンを使ったものや、甘いお酒を使ったドライフルーツのケーキなんてものもあるし、甘味処カールフェルトのメニューはこれから先、このケーキの登場でどこまで増えていくか想像もできませんねw 

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― 新着の感想 ―
[良い点] ほのぼのケーキ作り。 念願のケーキを食べることができてよかった!!! これからのレパートリーにも期待ができますね! [一言] ケーキ特別、わかります。 誕生日とかお祝い事の時でないと食べれ…
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