378 ご飯の前にお菓子を食べると怒られちゃうんだよ
作った魔道オーブンを台所に持ってくと、そこには森から帰ってきたキャリーナ姉ちゃんがいたんだ。
でね、お姉ちゃんは僕を見つけると、不思議そうな顔して聞いてきたんだよね。
「ルディーン、それ何?」
「これ? 魔法で動くオーブンだよ。さっき、僕が作ったんだ」
僕がそう教えてあげるとキャリーナ姉ちゃんは新しい魔道具が珍しいのか、僕がテーブルの上に置いた魔道オーブンをペタペタ触ったり、扉を開けて中をのぞき込んだりと大忙し。
そして一通り見て周ると、ちょっと不安そうな顔して僕の方を見たんだ。
「ねぇ、ルディーン。オーブンってお菓子屋さんにあったやつだよね? こんなに小さくて、大丈夫なの?」
「うん! だって僕んちだとお菓子屋さんみたいに、いっぺんにいっぱい作る事なんてないもん。だからこんなので、大丈夫なんだ」
キャリーナ姉ちゃんはね、アマンダさんのお店で魔道オーブンを見せてもらってたんだって。
それでね、あそこはお菓子屋さんだからそこに置いてあった魔道オーブンはすっごくおっきかったらしいんだけど、僕が作ったのはそれに比べてすっごくちっちゃいでしょ?
だからキャリーナ姉ちゃんはこの魔道オーブンを見て、こんなのでもほんとに大丈夫なのかな? って思ったそうなんだ。
でもさ、僕んちの台所じゃあんなおっきなオーブンは入らないし、それにうちで使うだけなんだからそんなにおっきくなくてもいいよね?
だからそれを教えてあげるとキャリーナ姉ちゃんは安心したのか、こんなのでもいろんなのが焼けるんだねってニッコリ。
「ルディーン。それじゃあさ、こんなちっちゃくてもアマンダさんとこで売ってたクッキーとかの焼き菓子も作れるんだね?」
「うん! クッキーだけじゃなくって、パンとかケーキだって作れちゃうんだよ」
でね、クッキーも焼ける? って聞いてきたもんだから、僕は他にもいろんなのが焼けるんだよってお姉ちゃんに教えてあげたんだ。
「ケーキ? ねぇ、ルディーン、パンケーキってオーブンでも焼けるの?」
そしたらさ、僕が言った中にケーキがあったもんだから、キャリーナ姉ちゃんはちょっと勘違いしちゃってみたい。
そう言えば、僕んちでケーキって言ったらパンケーキの事だもんね。
だけど僕が言ったのは、当然別のケーキの事。
「えっとね、魔道オーブンはパンケーキも焼けるよ。けど僕が言ったケーキってのは、こないだアマンダさんのお店に行った時に最後に作った、あのふわふわのお菓子の事だよ」
「ああ、あのお菓子かぁ!」
パンケーキもおいしいけど、メレンゲで膨らませたスポンジケーキもすっごく柔らかくってとってもおいしいんだよね。
それにね、スポンジケーキが焼けるって事は生クリームのケーキも作れるって事だもん。
前の世界みたいに甘いイチゴはないからショートケーキは無理だけど、おいしい果物はいっぱいあるからフルーツケーキなら作れるんだよね。
それにさ、ドライフルーツが入ってるのとかだって作れちゃうんだ。
「ねぇ、ルディーン! この魔道オーブン、もう動くんでしょ? だったらさ、あのお菓子、作ってよ」
「え~、今から?」
僕が、どんなケーキを作ろっかなぁ? なんて考えてたら、なんとキャリーナ姉ちゃんが今すぐ作ってって言い出したんだよね。
そりゃあ僕んちには魔道泡だて器があるから、スポンジケーキを作ること自体はそんなに大変じゃないんだよ?
でもさ、キャリーナ姉ちゃんが帰ってきてるのを見ても解る通り、もうちょっとしたらお母さんがご飯を作り始めるはずなんだよね。
なのに今からスポンジケーキを焼いて食べたりしたら、きっと僕もキャリーナ姉ちゃんもご飯が食べられなくなっちゃうでしょ?
そしたらお母さんに怒られちゃうもん。
だから僕、今からはダメだよってキャリーナ姉ちゃんに言ったんだ。
「そっか。ご飯食べられないと怒られちゃうもんね」
「そうだよ。だからお菓子はまた今度ね」
キャリーナ姉ちゃんもね、それを聞いたら流石にお母さんに怒られるのは嫌だからってあきらめてくれたみたい。
でもね、
「だったらさ、あれ作ってよ。ふわふわのパン」
お菓子はダメかもしれないけど、パンだったらご飯の時に食べられるでしょ?
だからキャリーナ姉ちゃんは、パンだったら作っても怒られないんじゃないの? って言うんだ。
「ルディーンとアマンダさん、あの時は実験だからってふわふわのパンをちょこっとしか作んなかったでしょ? だからみんなで分けたらほんのちょっとしか食べられなかったもん。私、もっといっぱい食べてみたい!」
「パンかぁ。あれを作る小麦粉はイーノックカウで買って来たから、作れない事ないけど……」
多分お母さんは、村で焼いてるパンをごはんの時に出そうって思ってるよね。
それなのに、勝手に僕がパンを作っちゃってもいいのかなぁ?
そう思った僕は、キャリーナ姉ちゃんにどう思う? って聞いてみたんだよ。
「そっか! じゃあ、私が聞いてきてあげる。それで、お母さんがいいよって言ったら作ってよね」
「うん! お母さんがいいって言ったら、いいよ」
そしたらキャリーナ姉ちゃんが、お母さんに聞いて来てくれるって。
僕だって柔らかいパンは食べたいもん。
だからお母さんがいいよって言ってくれたらいいなぁって思いながら、キャリーナ姉ちゃんに行ってらっしゃいしたんだ。
「ルディーン。このあいだのパンを作るってホント?」
お母さんはいいって言ってくれるかなぁ? って考えながら待ってると、なんでかキャリーナ姉ちゃんと一緒にお母さんまで台所に来ちゃった。
でね、僕にふわふわのパンを焼けるの? って。
「うん。さっき魔道オーブンができたし、アマンダさんが言ってたふわふわのパンを焼く材料の小麦粉もイーノックカウで買って来たでしょ? だから作れるよ」
「まぁ! それじゃあ、早速作りましょう。私もあのパン、もう少し食べたかったのよね」
お母さんもね、キャリーナ姉ちゃんと一緒でアマンダさんのお店ではちょびっとしか食べられなかったもんだからもっと食べたいなぁって思ってたんだって。
でもお家にはオーブンが無いでしょ? だから諦めてたそうなんだ。
それにね、僕が魔道オーブンを作るって言ってたのは知ってたけど、作るのが大変そうな魔道具だからこんなに早く出来上がるなんて流石に思ってなかったみたいなんだよね。
だからもうできたよって聞いて、大喜び!
それじゃあさっそく、みんなでふわふわのパンを作ろうって事になったんだ。
読んで頂いてありがとうございます。
いやぁ、まさか最初に作るのがパンになるとは。
ホントはクッキーかケーキのつもりだったんですけど、書き始めたら何故かこんな結果になってしまった。
でもまぁふわふわのパンは一度作ってしまえば、食事のバリエーションが一気に増えるからなぁ。
乳酸菌発酵の硬いパンが主食のこの世界では、焼きそばパンなどの総菜系のパンはとても作れそうにありませんからね。




