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370 かまみってなに?


 イーノックカウから帰って数日後の事。


 今日はお母さんにご用事があるって事で、パンケーキを焼くお仕事もお休みなんだよね。


 だから僕、お家ん中で今日はなんか新しい魔道具でも作ろっかなぁなんて思ってたんだけど、そしたら急に玄関の方でとてとてとてって小さな足音がしたもんだからそっちを見てみると、


「あっ! ルディーンにいちゃ、いた!」


 そんな事言いながら、スティナちゃんが僕のいるお部屋に飛び込んできたんだ。


「わぁ、スティナちゃんだ。いらっしゃい。僕の事、探してたの?」


「うん! ねぇ、ルディーにいちゃ。かまみ! かまみつくって!」


 わざわざ走ってくるくらい一生懸命僕の事を探してたみたいだから、どうしたの? って聞いてみたんだけど、そしたらスティナちゃんはニコニコしながら両手を前に出して、僕にかまみってのを作ってって言うんだよ?


 でもね、それを聞いた僕は困っちゃったんだ。


 だってスティナちゃんにはいろんなお菓子を作ってあげたけど、そんな名前のお菓子、作った覚えがないんだもん。


 だから僕、かまみってなんだろう? って思いながら頭をこてんって倒したんだ。


「こら、スティナ。そんなに急いじゃ危ないでしょ? 転んだらどうするの?」


「あっ! おかあさん。ルディーンにいちゃ、いたよ」


 そしたらそこへ、ヒルダ姉ちゃんが入ってきたんだ。


 でね、その後ろにはレーア姉ちゃんまで居たもんだから、僕、びっくりしちゃった。


「いたよじゃないでしょ。いきなり走り出して! ごめんね、ルディーン。スティナが何か無理を言わなかった?」


「ううん。僕は大丈夫だよ。でも、スティナちゃんがなんか作って欲しいみたいなんだけど、それが何なのか解んないんだ」


「かまみだよ! にいちゃ、か・ま・みっ!」


 僕が解んないって言うと、スティナちゃんはもういっぺん僕に向かってかまみだよって教えてくれたんだよね。


 でも僕、やっぱりそのかまみってのが何なのか解んないんだもん。


 だから困って、ヒルダ姉ちゃんの方を見たんだけど、


「スティナ。かまみじゃなくて鏡よ」


 そしたらお姉ちゃんは笑いながら、かまみじゃなくて鏡だよって。


 そっか、スティナちゃんは僕に、鏡を作ってって言ってたんだね。


 でも、あれ? 何でスティナちゃんは急にそんな事を言い出したんだろう?


 鏡は腕のいい職人さんしか作れないから、欲しくっても買えないんだよってお母さんが言ってたよね?


 だから当然、イーノックカウから買って帰ってきたものの中に鏡なんてないし、この村の中だと他のお家にもないからスティナちゃんがどっかで見たなんて事もないと思うんだけどなぁ。


 そう思った僕はまた頭をこてんって倒したんだよ?


 けどね、そしたら今度はレーア姉ちゃんが、困ったような顔して僕にごめんなさいって。


「ごめんね、ルディーン。私がスティナちゃんに話しちゃったのよ。ルディーンなら鏡が作れるかもしれないって」


 レーア姉ちゃんは今日、イーノックカウで買って来たアクセサリーをヒルダ姉ちゃんとこに見せに行ってたそうなんだよ。


 でね、最初はヒルダ姉ちゃんもスティナちゃんも、そのアクセサリーを見てきれいだねって言ってたらしいんだけど、


「私がつい、鏡があったら自分に似合うかどうかがすぐに解るんだけどなぁなんて言ってしまって」


 どうやらヒルダ姉ちゃんがそのアクセサリーを見ながら、鏡があったらいいのにって言っちゃったんだって。


 そっか、だからスティナちゃんは鏡の事を知ったんだね。


 でも……あれ?


「ねぇ、ヒルダ姉ちゃんは鏡があればいいのにって言っただけなんだよね? なのになんで、スティナちゃんは僕に作ってって言ったの?」


「ああ、それはさっきレーアが言ってたでしょ? この子が、もしかしたらルディーンなら作れるかも? って言ったからよ」


 何でか知らないけど、レーア姉ちゃんは僕なら鏡を作れるって思ってたみたいなんだ。


 でも僕、アクセサリー屋さんで確か言ったよ! 僕の魔法じゃ鏡は作れないよって。


「レーア姉ちゃん。僕、キャリーナ姉ちゃんとお母さんに、魔法で鏡は作れないよって言ったよね?」


「うん。覚えてるわよ」


「だったらなんで、僕なら作れるかもって思ったの?」


 あの時、お母さんとキャリーナ姉ちゃんは僕のお話を聞いて、そっか作れないんだねって笑ってたんだよ。


 なのになんでそれを聞いてたはずのレーア姉ちゃんが、スティナちゃんに僕なら作れるかも? って言ったのか解んないでしょ?


 だからどうして? って聞いてみたんだけど、そしたらレーア姉ちゃんは僕にびっくりする事を言ったんだよね。


「だって、ルディーンはあの時、本当に作れないのかなぁ? って言ってたもん」


「えっ!? 僕、ちっちゃな声で言ったのに、レーア姉ちゃん、聞いてたの?」


「うん。あの時のルディーン、とっても難しい顔してたからね」


 レーア姉ちゃんが言うにはね、僕、何か考え事があるといっつもおんなじ顔するそうなんだよ?


 だからあの時も、僕の事見ながら何言ってるんだろうってしっかり聞いてたんだって。


「ルディーンは、絶対作れない時にはそんな事言わないでしょ? だってその前にこれ作ってって言ったチェーンの時ははっきりと無理って言ったもの。だから私、それを聞いて、ああルディーンはきっと鏡ならなんとか作れるんじゃないかって考えてるんだろうなぁって思ったのよ」


「なるほど。作れるからこそ、そんな顔になったって訳ね。そしてそうなった以上、レーアはルディーンが鏡を絶対に作れるって考えたのか」


「うん、そうよ。だってもしそうなら、ルディーンは絶対作っちゃうはずだもん」


 僕もね、クリエイト魔法で鉄の板をつるつるにはできるんだよ。


 でも、鏡みたいに人の顔が映るほどピカピカにはできないんだ。


 だから絶対に鏡が作れるなんて言えないんだけど……。


「レーア姉ちゃん。僕、鏡を作れると思う?」


「思うわよ。じゃないと、スティナちゃんにルディーンなら作れるかも? なんて言わないもの」


 まぁ、すぐにできるかどうかは解んないけどねって笑う、レーア姉ちゃん。


 でもそっか。


 お姉ちゃんは僕だったら作れるって思ってるんだ。


「解ったよ、レーア姉ちゃん。僕、鏡を作ってみるね」


 お姉ちゃんができるって言うんだったら、きっとできるよね。


 そう思った僕は、頑張るぞ! ってふんすと気合を入れたんだ。


「ルディーンにいちゃ、かまみつくるの? やったぁ!」


 でね、そんな僕を見たスティナちゃんは両手を上げて、もう鏡ができたんじゃないかってくらい喜んでくれたんだ。


 読んで頂いてありがとうございます。


 イーノックカウの雑貨屋では作れるかどうか半信半疑だったルディーン君。レーア姉ちゃんの後押しで作ってみる事にしました。


 でもまぁレーア姉ちゃんに言われなくっても、スティナちゃんが作ってって言った以上、何とかして作ったでしょうけどね。


 なにせ彼女は、この物語のメインヒロインなのですからw


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― 新着の感想 ―
[良い点] 食べ物関係が続くのかと思ったけど 鑑作成に取り掛かるんですね! 試行錯誤する過程もおもしろそうですね。
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