368 僕んち以外は使わない方がいいんだって
「ルディーン。こっちは終わったわよ」
お爺さん司祭様とのアマショウの実を甘くする方法のお話がちょうど終わったころ、レーア姉ちゃんがプリン液ができたよって言ってきた。
だから僕、しょぼんとしてるお爺さん司祭様をほっといてお姉ちゃんのとこに行ったんだよ。
「できたの? じゃあ今度はカラメル作るから、手伝って」
「カラメルって、お砂糖を焦がしてから水を入れるあれでしょ? それならもう作ってルディーンがさっき作ったカップに入れてあるわよ」
プリンはね、僕んちのみんなやスティナちゃんが大好きだから何度か作った事があるんだよね。
その時はいっつもお母さんが手伝ってくれてたんだけど、レーア姉ちゃんはそれを横で見てたからカラメルの作る方は知ってたんだって。
だからプリン液ができたらすぐに作れるようにって、最初に作ってカップに入れといてくれたそうなんだ。
「そっか、じゃあプリン液は?」
「そっちも、もう入れてあるわよ。後は蒸すだけね」
でね、レーア姉ちゃんはそう言うと、テーブルの上に並べてあるプリン液が入ったカップを僕に見せてくれた。
「ならお湯は?」
「当然、そっちもやってるわ。まだグツグツはいってないけど、鍋の下の方に小さな粒粒ができてきたから声を掛けたのよ」
その上お鍋の中にはお湯が入ってて、底上げ用の石や銅板で作った穴の開いた板まで沈めてあったもんだから、僕はびっくりしたんだ。
だってさ、ここまでやってたのなら後は本当に蒸すだけなんだもん。
「ありがとう、レーア姉ちゃん。じゃあ遠火にしてからお鍋にカップを入れて。どれくらいの時間蒸したらいいのかは、僕が見てるから」
「解ったわ」
僕がお願いすると、レーア姉ちゃんは鉄のカップを一個一個鍋に入れてって、それを全部入れ終わると鍋の上から布をかけたんだ。
だってこうしとかないと湯気がどんどん出てっちゃって、プリンがいつまでたっても蒸しあがらないもんね。
でね、そのまま待つこと大体10分ほど。
なんとなくこれくらいかなぁって思ったとこで、レーア姉ちゃんにもういいよって。
「お姉ちゃん。鍋を火からおろして台の上に置いて」
「ええ、いいわよ」
初めてスティナちゃんにプリンを作ってあげた時は、最初から最後まで火にかけっぱなしだったんだよね。
でも後でお母さんに作り方を教えてあげたら、卵料理なら最後は余熱で火を入れた方がいいんじゃないの? って教えてもらったんだよね。
だから僕、今は言われた通り、プリン液にある程度火が入ったら鍋を火からおろすことにしてるんだ。
と言う訳で、プリンの方はこのまんま置いといて次の作業へ。
「レーア姉ちゃん。エイラさんたちは生クリーム、探して来てくれた?」
「ええ。ちゃんと司祭様の所から貰って来てくれたわよ。でもルディーン、これってプリンに入れなかったわよね? どうしてなの?」
「そりゃそうだよ。だってこれ、泡だててプリンにのっけるんだもん」
今回作るのはプリンアラモードでしょ?
だったらプリンや果物だけじゃなくって、生クリームも一緒にのっけなきゃダメなんだよね。
「なるほど。パンケーキと同じって訳ね」
「うん、そうだよ。だからレーア姉ちゃんは、もらって来てくれた生クリームをボウルに入れといて。僕、泡だて器を持ってくるから」
って事でレーア姉ちゃんに生クリームの準備を頼むと、僕は棚から魔道泡だて器を持ってきて、それを浄化魔法のピュリファイできれいにしたんだ。
そしたらね、そんな僕を見てあれ? って顔した人がいるんだよ。
それはお爺さん司祭様と一緒に来た、シスターのおばさん。
「ルディーン君。それはなあに? 先についてる針金はかき混ぜる道具に似てるけど、それ、魔道具よね?」
「うん。これはね、僕が作った魔道泡だて器なんだよ」
僕はそう言うと、魔道具のスイッチを入れて泡だて器がくるくる回るとこを見せてあげたんだ。
そしたらね、それを見たシスターのおばさんはびっくりしたんだけど、それ以上にレーア姉ちゃんがびっくりした顔して僕の方を見たんだ。
「ルディーン。それ、見せちゃっていいの?」
「あっ!」
そう言えばこの魔道泡だて器って、これ一個しか作ってないから僕んち以外ではヒルダ姉ちゃんちの人しか知らないんだよね。
何でかって言うと、これを教えちゃうとみんなが作ってって言ってくるんじゃないかな? ってお母さんが言ったからなんだ。
「あら、これは内緒の魔道具だったの?」
「うん。お母さんがね、みんなが欲しがるから、ナイショねって」
でもね、それをシスターのおばさんに教えてあげたら、それを聞いてたエイラさんたちまで、なになに? って魔道泡だて器を見に来ちゃったんだよね。
「あわわっ、どうしよう、レーア姉ちゃん」
「どうしようって言われても……」
だからレーア姉ちゃんに助けてって言ったんだけど、無理って言われちゃったもんだから、結局みんなに魔道泡だて器を見せてあげる事になっちゃったんだ。
あっ、でも。
「泡だて器はいいけど、プリンの方は大丈夫?」
「そうだ! ちょっと待っててね」
レーア姉ちゃんの言う通り、みんなに魔道泡だて器を見せてるとプリンに火が入りすぎちゃうかもしれないでしょ?
だからその前に何度かお鍋にかかった布をぺらってめくってみて、なんとなくこんな感じかな? ってところまで余熱で火を入るのを待ってから、僕はお鍋の中からプリンの入ったカップを出してったんだ。
「熱いまんまだと冷やせないから、ちょっとの間このまんまね」
つべたくするために、最初から氷水とかに入れると外ばっかり冷たくなって中が温かいままになっちゃうでしょ?
でも、そうするとプリンの食感が悪くなっちゃうかもしれないんだよね。
だからスティナちゃんに早く早くって言われてた初めて作った時と違って、ちょっと冷めるまで今日はこのまんましばらく放置。
その間に、今度こそみんなに魔道泡だて器を見せてあげる事にしたんだ。
「へぇ、本当にあっと言う間に泡立っちゃうのね」
自分の手で生クリームをカチャカチャやってても、ホイップクリームになるのにはすっごく時間がかかっちゃうでしょ?
なのに魔道泡だて器でかき混ぜると、あっという間にホイップクリームになっちゃうもんだからエイラさんたちはびっくり。
「これを見ると、カールフェルトさんが内緒にしないといけないと言った理由が解るわね」
「うむ。だがな、この家ならばともかく、これは他の家には必要のない魔道具なのではないか?」
だからシスターのおばさんも、これはみんな欲しがるだろうから内緒にしなきゃダメだよねって言ったんだよ?
でもそれを聞いたお爺さん司祭様は、これ、他のお家にはいらない魔道具だよって言うんだ。
「あら、どうしてですか? これがあればとても便利だと思いますけど」
「では聞くが、シスターはこれで何を作るのだ? 何かを大量に泡立てるならばともかく、決して安くない魔道リキッドを使ってまで素早く泡立てたいものがあるとは、わしにはとても思えぬが」
「あっ!」
お爺さん司祭様にそう言われて、シスターのおばさんだけじゃなく、エイラさんたちもそれに初めて気が付いたって顔したんだ。
そう言えばうちだと僕が一角ウサギの魔石から魔道リキッドを作れるし、もし材料が無くて作れなくっても魔石に魔力を注げば使えるよね。
でも他のお家でこれを使おうと思ったら、イーノックカウで買って来た魔道リキッドを入れないとダメなんだ。
「それに対してこの家の場合、村の者たちがパンケーキを食べに来るからのぉ。この魔道具は、それにかける大量の生クリームを泡立てるのにはとても重宝する事だろう」
「確かにそうですね。村長からも使いすぎているから魔道リキッドの使用量を抑えるようにと言われていますもの。家庭で使う程度の少量の食材なら、わざわざこの魔道具を使う必要はないと私も思いますわ」
でね、お爺さん司祭様とシスターのおばさんのお話を聞いて、エイラさんたちもそう言えばいらないかも? って。
だからこの泡だて器の事は他の村の人たちには内緒にしてくれるって、みんな僕とレーア姉ちゃんに約束してくれたんだ。
読んで頂いてありがとうございます。
書き始める前は今回くらいで終わるかな? と思ってたプリンアラモード作りですが、魔道泡だて器の話で終わってしまいました。
でもまぁ文字数はノルマに達してるし、この他にもう一つ触れないといけない話があるので今日はここまでで。
さて、司祭様はシスターに魔道リキッドがいるのに何に使うんだ? と聞いていますが、実を言うとシスターも司祭様ほどではないですが一応治癒魔法が使えるので魔石に魔力を注ぐことができます。
なので実は最初、その話を本文に入れ込もうとしたのですが、これをセリフにすると話がうまくまとまらなかったので全文カット。結局このような終わり方になりました。
たとえシスターが魔法を使えても他の人たちには何の関係もないので、この魔道泡だて器の事が広まれば魔道リキッドの使用量が増えるのは変わりませんからね。




