３６５　おいしいものがあるって聞いたらガマンできないよね

「あっ、村が見えてきた！」

　イーノックカウを出てから数時間、お空の色が赤っぽくなってきたころ、僕たちが乗ってる馬車からグランリルの村の門が遠くに見えてきたんだ。

「数日間の外出だったのに、こうして遠くから村の門を見るとかなり久しぶりに思えるわね」

「本当だったら３日間だけの予定だったし、それに幻獣を退治したりルディーンが新しい技術を身につけたりといろいろあったからなぁ」

　ごとごと鳴ってるのに全然揺れない馬車に乗りながらこんな事話してると、その門がどんどんおっきくなっていく。

　そうして僕たちはそれからちょこっとの時間をかけて、やっと村に辿り着いたんだ。

「それじゃあ俺は村長の所に帰宅の連絡を入れてくるから」

「行ってらっしゃい」

　お家に帰ると、お父さんはお土産を持って村長さんの所へ。

　冒険者ギルドから連絡はしてもらってるけど、それでも予定より長く村を空けてたもんだから、その間のお仕事はどうしてたの？　って聞きに行かないとダメなんだって。

「レーア、夕飯の支度をするから手伝って」

「は～い」

　そしてお母さんとレーア姉ちゃんは晩御飯を作りに台所へ。

　その間にお兄ちゃんたちは、イーノックカウから持って帰ってきたものを馬車から降ろしてったんだ。

「ねぇ、お母さん。わたしとルディーンは？」

「二人はご近所さんに行って、私たちが帰ってきたことを伝えてきて」

「は～い。それじゃあルディーン、行こっか」

「うん」

　お母さんに頼まれた僕たちが近所のおばさんたちに帰ってきたよ！　って言って回ると、おばさんたちはみんなして僕んちへ。

　街に行くなら買って来てって頼んでたものをお兄ちゃんから受け取って、その後台所にいるお母さんにもおかえりなさいっておばさんたちは笑いながら挨拶してくれたんだよ。

　そしてそのおばさんたちが帰っていった頃、お父さんが帰ってきたからみんなで晩御飯。

　その後は疲れてるからって、いつもだったら明かりをつけていろいろやってるお母さんやお父さんも、今日は日が暮れるとすぐにベッドに向かってそのまま寝ちゃったんだよね。

　こうして僕たちは、いつも通りの村での生活に戻ったんだ。

　次の日。

　いつものように朝のお手伝いが終わると、僕は暇になっちゃったんだよね。

　だって村に帰ってきたばっかりだから、お兄ちゃんやお姉ちゃんたちはいっつもパーティーを組んでるお友達んとこに行っちゃったんだもん。

　僕、まだ一人じゃ森に行っちゃダメって言われてるでしょ？

　だから森へは狩りに行く事ができないし、草原の獲物は僕が魔法で探して獲っちゃうと他の子が狩りの練習をできなくなっちゃうからもう狩っちゃダメってお父さんが言うんだもん。

　それにね、お母さんも村にしばらくいなかったからって出かけちゃったから、パンケーキを焼くお仕事もお休みなんだよね。

「どうしよう？　お父さんもいないから、村の資材置き場に行って材料をもらってくることもできないしなぁ」

　イーノックカウでいろんなこと覚えてきたけど、何か作ろうと思ったら材料がいるでしょ？

　でも村の材料はみんなのだから、使っていいか聞いてこないとダメなんだよね。

　だから僕は特にやる事もなく、ただ椅子に座って足をぶらぶらさせてたんだけど、

「ルディーン、いる？」

　そしたらお家の入口の方からレーア姉ちゃんの声がしたんだ。

「うん、いるよ」

　だから僕はそう返事をして椅子から降りてレーア姉ちゃんの声がする方へ行こうとしたんだけど、その前にお部屋に入ってきた人が居たんだ。

「あっ、ルディーン君いた！」

「わぁ！」

「こら！　そんなに急に飛び込むもんだから、ルディーンがびっくりしちゃったじゃないの」

　誰かがいきなり部屋ん中に飛び込んで来たもんだから僕、すっごくびっくりしたんだよね。

　そしたら、それを見たレーア姉ちゃんがコラ！　って。

「ごめんごめん。でもレーアからあんな話を聞いたんだから仕方ないでしょ」

　でね、その怒られてた人の方を見ると、そこにいたのはレーア姉ちゃんの友達の一人であるミラさんだったんだ。

「どうしたの、ミラさん。僕になんかご用事？」

「ええ、そうよ。ルディーン君！　レーアがさっき自慢してた、甘くてぷるぷるしてるっていうやつ！　私にも作って！」

　ぷるぷるした甘いの？

　ミラさんはすっごくニコニコしながら両手を出してそう言ってるんだけど、僕には何の事か解んなかったんだよね。

　だから頭をこてんって倒したんだけど、そしたらそこでまた別の人がお部屋に入ってきたんだ。

「ミラ、それじゃ解んないでしょ。ごめんねルディーン君。ミラったらレーアからぷりんって言うお菓子の話を聞いたとたん、すごい勢いで飛び出して行っちゃったのよ」

「この子、本当に甘いものに目が無いのよね」

　誰が入ってきたのかと言うと、ミラさんとおんなじレーア姉ちゃんのお友達であるエイラさんとマリアさんの二人。

　レーア姉ちゃんはね、帰ってきた事をお友達に教えに行ってたんだけど、その時にイーノックカウで行ったお菓子屋さんの話になったんだって。

　その時にね、ミラさんがいいないいなってあんまり言うもんだから、僕もプリンていうイーノックカウにも売ってないおいしいお菓子が作れるんだよって、つい話しちゃったそうなんだ。

「ごめんね、ルディーン。私もまさか、ミラがこんなにすぐ飛び出していっちゃうなんて思わなくて」

「本当にすぐだったわよね。レーアはそれを見て慌てて追っかけたけど、私とマリアはしばらくの間ぽかんとしてしまったくらいだもの」

　でね、それを聞いたミラさんがすごい勢いで飛び出していっちゃったもんだからレーア姉ちゃんが追っかけてって、何とかお家の前で捕まえてから僕に声を掛けたんだってさ。

「そっか。だから最初にレーア姉ちゃんが僕に、いる？　って聞いたんだね」

「ええ、そうよ。でも、もし私が追い付かなかったら、きっとミラがいきなり部屋に入ってきてさっきの言葉を叫んでたと思うわ」

　それを聞いてうんうんと頷いてる、エイラさんとマリアさん。

　う～ん。もしそんな事になってたら僕、びっくりしてひっくり返ってたかも？

　でもね、そんな風に言われているミラさんは、あんまり気にしてないみたい。

「実際に飛び込まなかったんだから、別にいいじゃない。そんな事より、ルディーン君。そのぷりんとか言うお菓子はすぐに作れるの？」

「プリン？　うん。僕は一人じゃ火を使っちゃダメってって言われてるけど、レーア姉ちゃんが一緒だから材料さえあればすぐに作れるよ」

「やったぁ！　それじゃあ、お願い。私にも作って。必要な材料はすぐにそろえてくるから」

「えっと、僕はいいけど……」

　プリン自体は作るのがそんなに大変じゃないから別にいいんだけど、ほんとに作っていいのか解んなかったから僕はレーア姉ちゃんの方を見て頭をこてんって倒したんだ。

　そしたらお姉ちゃんはちょっと苦笑い。

「まぁ、仕方がないわね。ミラがこうなってしまった原因は私にもあるんだし」

「レーア姉ちゃんがいいんなら、僕はいいよ」

「ほんとに？　やったぁ！」

　僕がいいよって言うと、ミラさんは両手を上げて大喜び！

　すぐに材料をそろえてくるから、何がいるのかって僕に聞いてきたんだ。

「あ～、ミラの分を作るのなら、私たちの分もいいかな？」

「ええ。実は私もレーアの話を聞いて、ぷりんってのを食べてみたかったのよね」

　そしたらエイラさんとマリアさんまで、私たちのも作ってだって。

「なんだ。私の事を困ったやつみたいに言ってたけど、やっぱり二人も食べたかったんじゃない！」

　でもね、それを聞いたミラさんが怒って、ほっぺたをぷぅ～って膨らましちゃったんだ。

「仕方ないじゃない。だって今までにルディーン君が作ってくれたお菓子、みんなおいしかったもの」

「それに、レーアがイーノックカウのお菓子屋さんで食べたものと同じか、下手をするとそれより美味しいかもなんて言うんだよ？　食べたいに決まってるじゃない」

　そんなミラさんを、二人して一生懸命なだめるエイラさんとマリアさん。

　最初はぷんぷん怒ってたミラさんも結局最後には仲直りして、３人で僕が言った材料を集めてくるねって出かけて行ったんだ。