３６１　すごいお酒としょんぼりするお父さん

「ただいま！」

「あっ、ルディーン、おかえり！　お勉強、おわったの？」

「うん！　ちゃんと全部できるようになったよ」

　スキルのお勉強が終わってみんながいるお部屋に帰ると、キャリーナ姉ちゃんがおかえりって迎えてくれたんだ。

　でもね、そんなお姉ちゃんの手には見た事のないお菓子が。

「あ～、何か食べてる！　お姉ちゃんたちだけ、ずるい！」

「このお菓子、待ってる間に食べてってさっきオーナーさんが持ってきてくれたの。まだいっぱいあるけど、ルディーンも食べる？」

「うん、食べる！」

　僕がアマンダさんとお勉強してる間、お兄ちゃんやお姉ちゃんたち、それにお父さんはこのお部屋でずっと待ってたでしょ？

　だから暇なんじゃないかなって、このお店のオーナーさんが試作のお菓子やお店で出してるお菓子をいろいろ持ってきてくれたんだって。

　お姉ちゃんたちはね、オーナーさんとどのお菓子がおいしいかとかを話しながら、僕たちが帰ってくるのを待ってたそうなんだよ。

「ルディーン君からも、もしよかったら試作のお菓子を食べて意見をもらえると助かるよ」

「ぼくも？」

「ああ。特にこの間アマンダが教えてもらったスポンジケーキを使った新作のお菓子なんかは、君から感想をもらえると特に嬉しいかな」

　オーナーさんが言う通り、まだお店に出してないお菓子の中にはスポンジケーキを使ったものが結構あったんだよね。

　だから僕はそれを食べながら、お姉ちゃんたちとこっちがおいしいとか、これはこうした方がもっとおいしくなるんじゃないかなぁ？　なんて話し始めたんだ。

　そんな風に僕たちがお菓子の話で盛り上がってるとね、その間にオーナーさんがアマンダさんにスキルの説明は問題なく終わったの？　って聞いたんだよ。

　それに対してアマンダさんは、ちょっと困ったように笑いながら全部終わったよって。

「はい。問題どころか驚いたことにルディーン君は、この短時間で今日教えたすべての技術を身につけてしまいましたわ」

「なに？　すべてと言うと、実際に発酵と醸造、その２つを使って見せたと言うのか？」

「２つと言うか、熟成まで使えるようですから、正確には３つですね」

　これにはオーナーさんもびっくり。

　でもね、それ以上にその話を聞いてびっくりしたのはお父さんなんだ。

「身につけたって、もしかしてルディーンはもう酒を作れるようになったって事ですか？」

「ええ。技術を完全に身につけるにはまだまだ練習を積み重ねる必要はあるでしょうけど、それでもお酒に関して言うと今の段階でもかなりのものが作れるようになってます」

「ほんとなのか、ルディーン？」

　アマンダさんにもうお酒は造れるようになったよって教えてもらったお父さんは、お姉ちゃんたちとお菓子の話をしてた僕にホント？　って聞いてきたんだよね。

「うん！　僕ね、教えてもらいながらだけど、ちゃんとお酒が作れたよ。それでね、それを見たアマンダさんとルルモアさんが、すっごいのができたねって褒めてくれたんだ！」

　だから僕、みんながすごいすごいって言って褒めてくれたんだよって自慢したんだけど、でもそれを聞いたお父さんはよく解んなかったみたいで、お母さんに何があったの？　って。

「凄い酒ができた？　おい、シーラ。ルディーンは一体何をしたんだ？」

「何って、昨日おすそ分けしたベニオウの実を使って、アマンダさんに教えてもらいながらお酒を作っただけよ」

　そんなお父さんに、お母さんはベニオウの実を潰したのに醸造スキルをかけてお酒にしたり、熟成スキルをかけてそのお酒をおいしくしたりしたことを教えてあげたんだ。

「ん？　ベニオウの実でも、酒は造れるのか？」

「ああ、それに関しては、私が説明しますよ」

　お父さんの質問を聞いたアマンダさんは、そんなのお母さんには解んないだろうって代わりに教えてくれる事に。

「ベニオウの実は傷みやすい果物なので、ブドウなどとは違って普通はお酒にする事はできません」

「えっと……できないのに、ルディーンはそれで酒を造ったのか？」

「ええ、それがこの技術のすごい所なのです」

　アマンダさんはね、このスキルを使うとアルコールになるのに必要な菌だけが増えて他の菌が全然増えなくなるから、腐らせることなくお酒にする事ができるんだよってお父さんに教えてくれたんだ。

「なるほど。だからさっきルディーンは、すごいお酒が造れたって言ったのか」

「あ～、いえ、それはちょっと違うんですよ」

「違うと言うと？」

「実はですね、先ほど作ったベニオウの実で造ったのお酒なんですが、もう一つのスキルである熟成をかけた結果、かなり上質なお酒になりまして……」

　アマンダさんは、僕がさっきお父さんに自慢したお酒の事を話してくれたんだよ。

　そしたらね、それを聞いたお父さんはびっくり。

「凄いじゃないか、ルディーン」

「だからさっき言ったでしょ？　僕、すごいお酒を作ったんだよって」

　そうかそうか、よく頑張ったねって、ニコニコしながら僕の頭をなでるお父さん。

「ああ、そうだな。それじゃあルディーン。じゃあ早速、そのすごい酒ってのをお父さんにも呑ませてくれないか？」

「あら、ハンス。それは無理よ」

　それでね、じゃあそのお酒を早く飲ませてって言ったんだけど、そしたらお母さんにダメって言われちゃった。

「えっ？　何故だ、シーラ。ルディーンが作った酒なんだろ？」

「あら、さっきも言ったでしょ？　そのお酒は昨日、私たちがアマンダさんにおすそ分けしたものを使って造ったんですもの。アマンダさんのベニオウの実をアマンダさんに教えてもらいながら作ったのだから、あれはアマンダさんのものよ」

　これを聞いたお父さんは、口をあんぐりと開けて固まっちゃったんだ。

　でもね、すぐに立ち直って、今度は僕にこう言ったんだよ。

「そうだ、ルディーン。まだベニオウの実があっただろ？　あれで新しい酒を……」

「ハンス。ルディーンは今までずっとお勉強をして疲れてるのよ。それなのにまだ、お酒を造らせるつもり？」

　ところが、それを聞いたお母さんはもうカンカン。

　思いっきり叱ったもんだから、お父さんはしょぼんってなっちゃったんだ。

「少しだけでも、ダメか？」

　でもね、それでもあきらめきれなかったお父さんは、ほんのちょびっとでもいいからダメ？　って聞いたんだよ？

　そしたらお母さんはもっと怒っちゃったんだよね。

「ダメなものはダメです！　まだ幼い我が子がお勉強を頑張ってきたのだから、父親としてそれくらい我慢しなさい！」

「……はい、解りました」

　叱られて、さっき以上にしょんぼりしちゃったお父さん。

　その姿を見て可哀そうになったのか、アマンダさんがそんなお父さんに笑いながら声を掛けてくれたんだよね。

「まぁまぁ、お母さんもそこまで言わなくても。ルディーン君が作ったお酒、最初は少しだけで実験をしましたが、最終的にはすべてのものに熟成をかけてもらったでしょ？　さっきはできたものを確かめるために実や皮が入ったまま食べましたけど、せっかくなら私もちゃんとしたお酒になったものを早く呑んでみたいですもの。今から絞りますから、試飲程度でいいのならお出ししますよ」

「いいんですか？　ありがとうございます」

　さっきはあんなにしょんぼりしてたのに、それを聞いたお父さんはにっこり笑顔に。

　それを見たお母さんは、はぁ～ってため息をついてたけど、

「あの、アマンダさん。それなら私にも少し頂けませんか？」

「ふふふっ、いいですよ。どちらにしろ実験的に作ったのであまり量がありませんから、残しておいても菓子に使えるわけではないですからね」

　どうやら自分も飲みたかったみたいで、アマンダさんに頼んで飲ませてもらう事になったんだ。