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355 難しくっても説明を読んだら簡単になる事ってあるよね


「えっと、それじゃあ、そのMPってのが減ったって事は、成功したって事なのね?」


 僕がスキルの欄に発酵と醸造が増えてるのを見てびっくりしてたら、アマンダさんがこう聞いてきたんだよね。


「多分そうだと思うけど……ちょっと調べてみるね」


 と言う訳でさっきまでブドウのしぼり汁だったものを鑑定解析。


 そしたらちゃんと、アルコールがいっぱい入ってるブドウのしぼり汁になってたんだ。


「よかった、ちゃんとアルコールになってる! って事は成功だよね? でも何でかなぁ? ワインじゃなくって、アルコールがいっぱい入ってるブドウのしぼり汁ってなってるんだけど」


「そうなの? 変ね、ブドウに含まれている糖分をアルコールにしたのならワインになるはずなのに」


 アマンダさんはそう言うと、僕が作ったアルコールがいっぱい入ったブドウのしぼり汁を一口飲んでみたんだよね。


 けど、


「うっ! ケホケホッ。何これ、ワインなんかより、はるかにアルコール度数が高いわよ」


 そしたら急にせき込んで、びっくりした顔しながらそう言ったんだ。



 それからちょっとの間ケホケホ言ってたけど、それが落ち着いたらアマンダさんはもういっぺんブドウのしぼり汁をちょびっとだけ飲んでみたんだ。


「う~ん。呑んだ感じからして、ワインにならなかったのは多分、普通にワインを作ったのと違ってブドウに含まれている糖をすべてアルコールにしてしまったのが原因でしょうね」


「そうなの?」


「ええ。これからはワインを飲んだ時に感じる甘みをほとんど感じないもの」


 普通はさ、ワインを作るためにつぶしたブドウを発酵させたって、中に入ってる糖分が全部アルコールになっちゃうなんて事は無いでしょ?


 でも僕は醸造スキルを使ってアルコール発酵をさせたもんだから、中に入ってる糖分が全部アルコールになっちゃったみたいなんだ。


「ねぇ、アマンダさん。だったらこれ、失敗なの?」


「う~ん。失敗とは少し違うわね。どちらかと言うと、成功しすぎたって感じかしら?」


 この場合、アルコールにする事はできたけどワインにはならなかったよね?


 だから僕、失敗しちゃったのかなぁ? って不安になってアマンダさんに聞いてみたんだ。


 そしたら発酵をさせすぎちゃっただけで、別に失敗じゃないよって。


「えっと……あった、あった。この資料によるとね、初めての挑戦の時は普通、発酵の度合いが低すぎてほとんどの糖分がアルコールに変わらず残ってしまうらしいのよ。でもたまに、それとは真逆でアルコールが多くできすぎる人が居ることもあるって書いてあるわ」


「そっか。じゃあ僕のは、そのアルコールができすぎるってやつなんだね?」


 僕はアルコールになれー! って一生懸命考えながらスキルを使ったでしょ?


 でも普通の人は、ブドウ汁をアルコールにするんだからワインになれーって思いながらスキルを使うんだって。


 特に大人の人は、まだスキルの使い方がよく解ってないのに自分が呑んだことあるワインを頭に浮かべながらスキルを使ってみるもんだから、力の入れ方が解んなくってあんまりアルコールにならない事が多いそうなんだ。


「ルディーン君の場合はワインを、と言うかお酒を造ろうと思わずに、説明だけを聞いてアルコールになれって全力でやったものだから、アルコールに変換される率が高かったのでしょね」


「そう言えば僕、お酒がどんなのか知らないから、おいしくなれって思わなかったもんね」


 ブドウのしぼり汁がワインにならなかった理由が解って、ほっと一安心。


 でもね、そのおかげでもう一個、困った事が出ていたんだよね。


「どうしよう、アマンダさん。僕、お酒飲んだことないから、どんなのがおいしいのか解んないよ!」


 そう。僕はスキルを使ってアルコール発酵させる事はできるけど、どんなお酒がおいしいのか解んないからどれくらいの糖分をアルコールにすればいいのかが解んないんだ。


 でもね、そんな僕にアマンダさんは、大丈夫じゃないかなぁ? って。


「それについては、それほど気にする必要はないと思うわよ」


「なんで? だって、お酒って美味しくないとダメなんでしょ? アマンダさんだってさっき、僕の作ったのを飲んでもおいしそうな顔してなかったし」


「確かにあれはあまりおいしくなかったわ。でもね、ルディーン君。それはまだ、あなたがこの技術をものにしていないから。ちゃんとその特性を理解すれば、どれくらいの糖分をアルコールに変換すればいいのかも解っていくはずよ」


 僕が飲まなくったって、お父さんが代わりに飲めば美味しいかどうかわかるでしょ?


 それを聞きながら、どれくらいが一番いいのかを覚えていけばいいんだってさ。


「それにね、アルコールが強すぎるお酒も、熟成させればまた違った味わいが出ておいしくなるものなのよ」


「そうなの?」


「ええ。アルコール度数が高いお酒は、時間が経つにつれ香りはより芳醇に、味はまろやかになって呑みやすくなるの。そして料理人にはその熟成を促す技術もあるのだから、それも覚えれば今君が作ったお酒だって、すぐに美味しいものに変える事ができるのよ」


 そっか。だったらこのスキルをいっぱい練習して、どうやったらおいしいお酒になるのかを勉強しないとね。


 と、そこまで考えた僕は、ふとある事に気が付いたんだ。


 そう言えば、スキルの欄にある発酵と醸造の説明にはなんて書いてあるんだろう?


 アマンダさんはいっぱい練習してスキルの使い方を覚えないとねって言ってるけど、それを読んだらもしかして今でももうちょっと美味しいのが作れるようになるかも!


 と言う訳で、早速ステータス画面のスキルの欄を開いて、醸造の説明を読んでみたんだ。


「そっか。解析でワインを調べて、それとおんなじになるようにすればいいのか」


 そしたらすっごく当たり前のことが書いてあってびっくり。


 でも確かに目の前に見本があるんだから、それの真似をすれば美味しくなるのは当たり前だよね。


 それにさ、スキルの説明を読んでもう一個いい事が解ったんだよ。


 実は発酵と醸造のスキルって、一度覚えてしまえばスキルを使おうって思うだけで必要な菌を勝手に見つけて付与してくれる事が解ったんだ。


 それにね、どれくらい発酵させればいいのかも、それをあらかじめ知っているか出来上がったものを鑑定しておきさえすれば勝手にそこまでやってくれるみたいなんだよね。


 ただ、いっぱい作ろうと思うとMPを余分に使わないとダメだし、発酵による状態変化にすっごく時間がかかる物を作ろうと思ったら、それまでに何度もかけ直さないととダメみたいだけど。


 後ね、どうやらこのスキルを使うと毒を出す菌が増えるのも抑えてくれるみたい。


 だからただ発酵させるだけじゃなく、ヨーグルトとかの腐りやすい発酵食品を長持ちさせることもできるんだってさ。



 さて、スキルがどんなものか解ったって事で、早速もういっぺん挑戦だ!


「アマンダさん。ブドウを絞った汁って、まだある?」


「えっ? ええ、あるわよ。ふふふっ、早速もう一度やってみる気なのね」


 ブドウを絞った汁はお水を混ぜて果実水にする事もあるから、お店の厨房にはまだいっぱいあるんだって。


 だから僕はそれをもらうと、見本のワインと比べながらもういっぺん醸造スキルを使ってみる事に。


「そっか。これとおんなじにすればいいんだね」


 醸造スキルと一緒に使うんだって思いながらワインを解析してみると、初めてのお料理を作る時に必要な素材の量が解るのとおんなじような感覚って言うのかな? どれくらいの力を使えばいいのかがなんとなく解ってきたんだ。


 だからその感覚にしたがって、ブドウのしぼり汁に醸造スキルを発動!


「できた! アマンダさん、おいしくできたと思うから飲んでみて」


「あら、今度はすごく自信満々ね。そんなにすぐにうまく行くとは思えないけど……フフフっ、お手並み拝見ってやつね」


 アマンダさんはニコニコしながらそう言うと、僕から受け取った出来立てのワインを一口飲んでみたんだ。


「んっ!?」


 そしたらすっごくびっくりした顔になってすぐにカップから口を放すと、僕が作ったワインをじっと見つめだしたんだ。


「どうしたの、アマンダさん? もしかして僕、また失敗しちゃった?」


 さっきは飲んですぐにケホケホ言ってたけど、今回はしてないんだよ?


 でもそれは二回目に飲んだ時とおんなじで気を付けて飲んだからだろうし、それに今度はうまくできたよって教えてあげてから渡したから、ちゃんとワインになってるからってこんなびっくりするはずないよね?


 そう思った僕は、もしかしてこれもダメだった? って聞いたんだけど、


「ああ、ごめんなさい。作りたてだからまだ若い白ワインのような味だけど、呑んでみたら思った以上にちゃんとしたワインだったからびっくりしただけよ」


 僕はちゃんとできたよって教えてあげたんだけど、それでもアマンダさんはきっと、さっきよりちょこっとだけおいしくなってる程度なんだろうなぁって思ってたんだって。


 なのに飲んでみたらちゃんとワインだったからびっくりしたんだって。


「そうなの? じゃあ僕、ちゃんと作れた?」


「ええ。ほぼ完ぺきと言ってもいいくらいの出来よ。でも、どうして? そんなに急に上達する事なんて、あるはずがないのに」


 でもね、僕が急にうまく作れたのが不思議だったみたい。


 だからどうしてうまく作れたの? って聞いてきたもんだから、僕はその理由を教えてあげたんだ。


「あのね。ステータスに載ってた発酵と醸造のスキルの説明を見たら、使い方が載ってたんだ。だから僕、その通りやってみたんだよ」


「すてーたす?」


 アマンダさんはさ、それを聞いてもよく解んなかったのかポカンとしてたんだよ。


 でもね、さっきまでは邪魔しちゃ悪いと思ってたのかずっと僕たちがやってる事を黙って見てたルルモアさんが、


「ステータス? スキルの説明? ルディーン君! もしかしてあなた、自分のスキルを見る事ができるの!?」


 今のお話を聞いた途端、急に凄い顔して僕にそう聞いてきたんだ。


 読んで頂いてありがとうございます。


 発酵と醸造。思ったよりすごく使えるスキルでした。


 実はこれ、出来上がるものがちゃんと解っていれば、材料をそろえるだけで作れてしまうと言う壊れスキルなんですよね。


 おまけにその材料も、完成品が解っていれば料理人のパッシブスキルで何がどれくらいいるのかさえ簡単に解ってしまうと言う壊れ仕様w


 ただ、現実だとチート過ぎるように感じるこの設定ですが、これがゲームだと考えた場合、別にそれほどおかしくはないんですよね。


 だってゲームの本筋とは関係ない生産系のおまけ要素って、新しいものを作ろうと思ったらそのレシピを買わないとダメなものも多いですが、ゲームによってはレベルが上がった瞬間に製作可能欄に作れるものとそれに必要な材料が並ぶものもあるのですから。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 蒸留酒並みの度数を作ってしまったか! 酒好き大喜びの展開になりますねw 次の挑戦で美味しいワインも作れるし スキル性能で同じものを作れるようにもなった。 柔らかいパンに各種お菓子や薬と魔導…
感想一覧
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