349 お菓子屋さんってキラキラしてるよね
錬金術ギルドでロルフさんたちといろんなものを調べた、その次の日。
「ついてくるのはいいけど、今日はルディーンのお勉強のために行くのだから余計な質問をして邪魔をしてはダメよ」
「解ってるって」
お父さんが、朝から何度目かの注意をお母さんからされてた。
何でこんな事になってるかって言うと、今日はアマンダさんのとこに行く事になってるんだけど、それは僕が発酵と醸造の事を教えてもらう為でしょ?
だから最初は僕とお母さんだけで行くはずだったんだ。
なのに朝ごはんの時、お父さんが自分もついてくって言いだしたからなんだよね。
それを聞いたお母さんは、お父さんはきっと本当にお酒が作れるのようになるのかを聞きたいだけでしょ! って怒ったんだけど、そしたらお父さんが行くなら私たちも! ってお姉ちゃんたちまで一緒に行きたいって言いだしたもんだから、お父さんだけダメって言えなくなっちゃったんだ。
と言う訳でついて来てもいいけど、僕のお勉強の邪魔やアマンダさんに迷惑をかける事しちゃ絶対にダメだよって、何度もお母さんに言われてるんだよね。
「ねぇ、ルディーン。そのはっこう? ってのができるようになると、あたらしいお菓子が作れるようになるの?」
「どうかなぁ? でも、おいしいパンやピザって言うお料理は作れるようになると思うよ」
「ぴざ? それなあに?」
「あのね、柔らかいパン生地の上にチーズやいろんなお野菜をのっけて焼いたお料理だよ」
「へぇ~、そんなのがあるんだ」
街を歩きながらキャリーナ姉ちゃんに、発酵が使えるようになったら何ができるようになるの? って聞かれて、僕が真っ先に思い浮かべたのがピザ。
だってチーズもあるし、いろんなお野菜もあるでしょ?
それに魔道オーブンの作り方も教えてもらったから、後は生地さえあればピザが作れるはずなんだよね。
そりゃあトマトソースはまだ作った事ないけど、似たようなのを今泊まってる『若葉の風亭』で食べた事があるから、村の図書館でお料理の本を読めばきっと作れるようになると思うんだよね。
それにね、もしトマトソースができなくっても、マヨネーズを使ったお肉のピザだったら今でもすぐに作れるもん。
でも、もしお肉のピザを作るのならやっぱり醤油が欲しいんだよなぁ。
だってベーコンとかでも美味しいだろうけど、お肉のピザって言ったらやっぱり照り焼きチキンだもん!
そしてその醤油だって、醸造が使えるようになったら作れるかもしれないでしょ?
そう考えると僕、この発酵と醸造ができるようになるスキルは絶対覚えたいよねって思うんだ。
キャリーナ姉ちゃんとはその後もスキルを覚えたらどんなお料理が作れるかなぁって話をしてたんだけど、そしたらあっという間に目的の場所についちゃった。
「あれ? お菓子屋さんに行くんじゃないの?」
でもね、そこはお菓子屋さんじゃなく冒険者ギルドだったもんだから、キャリーナ姉ちゃんはびっくり。
だけどここに来たのには、ちゃんと理由があるんだ。
「ええ、アマンダさんに用事があるのだからお菓子屋さんに行くわよ。でも今日はルルモアさんも一緒に行くから、お宿から近い冒険者ギルドで先に合流して一緒に行きましょうって事になってるのよ」
「何だ、そっか。びっくりしちゃった」
こないだアマンダさんが呼んでるよって教えてもらった時に、行く時は私も行くからねってお母さんがルルモアさんから言われてたんだって。
だから先にここに来たらしいんだけど、それを教えてもらったキャリーナ姉ちゃんは冒険者ギルドの後にちゃんとお菓子屋さんにも行くんだねって一安心。
ニコニコしながら、僕と手をつないで一緒に冒険者ギルドに入っていたんだ。
そしたらいつもはカウンターのとこにいるはずのルルモアさんが、入ってすぐんとこに立って僕たちを待っててくれたんだよね。
「こんにちは、カールフェルトさん。あら、今日はご家族の皆さんも一緒に行かれるのですか?」
「ええ。初めは私とルディーンだけで行くはずだったのですが、ハンスがどうしても一緒に行きたいと言ったもので」
「ああ、なるほど。それじゃあ、お子さんたちも連れて行かない訳にはいきませんよね」
今日は僕のお勉強って話だったから、みんながいるのを見たルルモアさんはちょっとびっくりしたみたい。
でもお母さんが理由を教えてあげると、だからなのかって納得して、笑いながら、実はギルドマスターのお爺さんも仕事が無かったらホントは一緒に行きたいみたいなんだよって、僕たちにこっそり教えてくれたんだ。
と言う訳で、今度こそお菓子屋さんへ。
ギルドからお菓子屋さんまでは結構な距離があるはずなんだけど、今日は何を食べよっかなぁって話してたお姉ちゃんたちにルルモアさんがあの店にあるおすすめのお菓子を教えてくれてたもんだから、それを夢中で聞いてる内にあっという間にアマンダさんのいるお菓子屋さんについちゃった。
「へぇ、ここがそうなのか。結構大きな店なんだな」
そのお店を見たお父さんは、こんなにおっきな店だなんて思ってなかったみたいで、ちょっとびっくりしたみたい。
そう言えば、お父さんはここに来るの初めてだっけ。
「なんか、ちょっと入りにくそうな店だなぁ」
「うん。なんと言うかなぁ、高級そうっていうか、僕たちだとなんか場違いな気がする」
そしてそれはお兄ちゃんたちもおんなじだったみたいで、お菓子屋さんの前で困った顔になっちゃってる。
「何を言ってるのよ。レーアもキャリーナも、それにルディーンだってそんな事言わなかったわよ」
でもね、そんなお兄ちゃんたちに、お母さんは笑いながらそう言ったんだよね。
だってさ、確かにここはお菓子屋さんだから普通のご飯屋さんと違って見た目がキラキラした感じだし、売ってるものもお砂糖をいっぱい使ってるんだから当然ちょっと高いよ。
だけど、別にお貴族様しか食べられないようなものばっかり売ってるわけじゃないでしょ?
だからそんな風に身構える必要はないんだよってお母さんは言うんだ。
「確かにそうなんだけど、他のお客さんも女の人ばっかりだしなぁ」
「あら、この間来た時は男の人も結構いたわよ? それにこの街のご領主様も男性だけど、ここのお菓子が気に入ってるって話だし。でもまぁ、そんなに入りにくいなら無理して一緒に来なくてもいいのよ? 元々は別行動するつもりだったんだから」
「う~ん、そうだなぁ」
「せっかくここまで来たんだし、このまま帰るってのも……」
でもね、お父さんが一緒に行くって言い出さなかったらお兄ちゃんたちは一緒に来なかったはずでしょ?
だからお母さんは入るのが嫌なら別の所に遊びに行ってもいいよ? って言ったんだよね。
けど、せっかくここまで来たんだからって、結局最後はお兄ちゃんたちも一緒にお店に入る事になったんだ。
「いらっしゃいませ。ああ、これはこれはカールフェルト様にルルモア様。お待ちしておりました。どうぞこちらへ」
そんな訳でみんなしてお店に入ると、入口に立ってた男の店員さんが僕たちに気付いてにっこり。
お待ちしてましたって、奥にある個室に案内してくれたんだ。
「今、アマンダを呼んでまいりますので、しばらくお待ちください」
そして僕たちがそこにあった椅子に座るのを見てからそう言うと、ペコって頭を下げてからお部屋から出てっちゃった。
「なぁ、シーラ。ここで発酵とやらを教わるのか?」
「さあ? でもそれにしては広い部屋だし、家族みんなで来たのを見て、とりあえずここに通しただけなんじゃないかしら?」
お母さんの言う通り、見た感じここは普通のお客さんがお菓子を食べるためのお部屋みたいなんだよね。
でも今日は発酵や醸造のお勉強に来たんだから、こんなお部屋でするのはおかしいでしょ?
それにほんとだったら椅子の数もこんなに要らないはずだから、多分ここは違うんじゃないかな? ってお母さんは言うんだ。
そしてその予想はどうやらあってたみたい。
「こんにちは、カールフェルトさん。それにルディーン君もよく来てくれたわね。でも、ごめんなさい。こんなごちゃごちゃした内装の落ち着かない所で。でも、これだけの人数が入れる部屋が他になかったのよ」
だって入ってきたアマンダさんは、最初にそう言って僕にごめんなさいしてくれたんだもん。
読んで頂いてありがとうございます。
文章をまとめるのが下手でいつも長々と書いてしまっていますが、まさかただ街の中を移動するだけで一話終わってしまうとは思わなかった(汗
でもお父さんがついて行きたいと言ったり、お兄ちゃんたちはお菓子屋さんに入りにくそうにしてるシーンはどうしても入れたかったんですよね。
それにいざ発酵や醸造の話が始まってしまうと途中で切る訳にはいかないので、すみませんが今日はここで終わらせていただきます。




