347 ベニオウの木はね、いろいろ凄かったんだよ
「もう少し詳しく調べたいところじゃが……今日は時間もない事だし、そろそろ次に移るとするかのぉ」
「ええ、そうですわね。ルディーン君には今日しか手伝ってもらえませんもの」
ちょっとの間、地図を見ながら魔力の流れを調べたり僕の鑑定解析でベニオウの木の近くに生えてた薬草の成分を詳しく調べたりしてたんだけど、このままだと今日はこれだけで終わっちゃいそうでしょ?
でも僕がお手伝いできるのは今日だけだからって、時間さえあればロルフさんたちだけでも調べられそうなものは一旦これで終わりにするんだって。
それじゃあ次は何をするのかって言うと、それは採ってきたベニオウの木の葉っぱや枝、それに幹の皮とかの研究なんだよね。
「実を言うとな、ベニオウの木を調べるのはこれが初めてじゃから、わしらの手元には何の情報も無くてのぉ」
「調べる事が多くてちょっと面倒な事もあるかもしれないけど、お願いね」
「うん! 僕、頑張るよ」
僕が鑑定解析で調べるまで、ベニオウの木が魔木だって事、みんな知らなかったでしょ?
だから森の入口の近くにだっていっぱい生えてるのに、今まで誰も調べようとした事が無かったんだって。
「それではまずわしらが解析で調べてみるとしよう。そして詳しく知りたい事が出来てからが、ルディーン君の出番じゃ」
と言う訳で、まずはロルフさんたちが調べてみる事になったんだ。
何でかって言うと、僕の鑑定解析は一度にいろんな事が解るんだけど、その代わりこういう事が知りたいとか、どういう効果があるのか詳しく知りたいとかって時は、調べたい目的のものがちゃんと解ってないとダメなんだよね。
例えばお薬を作ろうと思ったとして、僕が何にも解んないまま、とりあえず全部調べなきゃっていきなり鑑定解析したら魔力は注げるけど薬草としては何の役に立たないものまで成分として出ちゃうかもしてないでしょ?
そしたらさ、もしかしたら髪の毛つるつるポーションの時みたいに、ベニオウの実の皮からできるのは僕しか作れない特殊なお薬になっちゃうかもしれないんだって。
でね、もし最初にそうなっちゃうと、僕は全部をお薬に変えられるって事になっちゃうから、後からもういっぺん鑑定解析しても、どれが本当にそのお薬になる成分なのかを調べる事ができなくなっちゃうそうなんだよね。
そうならない為にもロルフさんたちが先に調べて、それから何を調べたらいいのかを僕に教えてくれるって事になったんだ。
「ふむ。こうしてみると、素材としては面白いが枝や樹皮は薬草にはならぬようじゃな」
「ええ。どうやらこれらには、薬効が殆ど無いようですね。ですが魔力をよく通しますから、もしかすると離れた場所にある魔道具へと魔道リキッドから魔力を送る為の素材に加工できるかもしれませんよ」
ロルフさんたちが調べて解った事なんだけど、魔木って木の皮んとこを循環して葉っぱや実に魔力を運んでるみたいなんだって。
でね、その特徴から、もしかするとベニオウの木からは魔力を通しやすい素材が作れるかもしれないそうなんだ。
「じゃが、この研究にはちと時間がかかりそうじゃ」
「ええ、そうですわね。この性質は樹皮にあるのか、それともその中に流れる樹液にあるのかはもう少し詳しく調べないと解りませんもの。ですから今の所は保留にして、今日の所は葉と実の研究を中心にした方がよいでしょう」
でも、それは素材になるかも? ってだけだし、もしなるとしてもいっぱい調べないとダメだからって事で、今日は一旦取りやめ。
それよりも葉っぱやベニオウの実の方を調べた方がいいってバーリマンさんは言うんだよ。
何でかって言うとね、調べてみたらこの二つはいろんな薬効が含まれてて、もしかしたら新しいお薬の材料になるかもしれないからなんだって。
「うむ。葉や果実からは、かなり興味深い成分がいろいろと検出されておるからのぉ。じゃが、その中でも特筆すべきは、やはりベニオウの実の皮じゃろうな」
「ええ。これはしっかりと調べてみる価値がありそうですわ」
その中でもベニオウの実の、それも皮に含まれてる成分からは、もしかしたらすごいお薬が作れるかもしれないそうなんだよ。
「そうなの?」
「うむ。どうやらこの皮にはな、魔力を回復させたり、体力そのものを回復させたりすることができる成分が含まれているようなのじゃよ」
みんなが使ってるポーションって、飲んだりかけたりしたらおケガが治るでしょ?
でもそれはそこが修復されるだけだから、流れ出ちゃった血や体を治そうとして使っちゃった体力は元に戻らないんだよね。
ところがこの皮には、そんな体力を回復させる成分が含まれてたんだって。
その上、魔力を回復させる成分まで入ってるって言うんだもん! ほんと、びっくりだよね。
「じゃあさ、ベニオウの実の皮を使ったら、おケガを治すだけじゃなくって、一緒に体力や魔力も戻っちゃうお薬ができるの?」
「いや、流石にそれは無理そうじゃ」
「そうね。それだけの効果があるポーションなんて、普通の錬金術師ではとても作る事ができないもの」
ベニオウの実の皮には確かにいろんな成分は入ってたんだよ?
でもいろんな成分が入りすぎてるもんだから、それに全部魔力を注ぐのはロルフさんたちにも無理なんだって。
「じゃあ、体力を回復させたり、魔力を回復させたりするお薬は作れないの?」
「いやいや、そうではない。ただな、すべての効果が出るポーションを作る事はできそうにないと言うだけの話じゃ」
「ええ。体力を回復するポーション、それに魔力を回復するポーションはそれぞれすでに存在していて、その作成に必要な薬効が何かは解っているのよ。そしてこのベニオウの実の皮には、それらが含まれている事が解析の結果解ったから、これを使えばそのどちらかのポーションを作り出すのは可能だわ」
さっきロルフさんたちが言ったのは、調べたらいろんな成分が入ってるのが解ったけど、その全部に効くお薬は多分作れないよって意味なんだって。
でも、魔力や体力のどっちかだけを回復させるお薬はもう作り方や必要な薬効がちゃんと解ってるから、そのお薬だったらベニオウの実の皮からでも作る事ができるんだってさ。
「ただな、ベニオウの実の皮を使ってそれぞれのポーションを作るには、それぞれの成分だけを含んでおる今作成に使われている薬草と違って皮からそれぞれの薬効を抽出せねばならぬし、そしてそのどちらかを抽出してしまえばその皮はダメになってしまうのじゃよ。そう考えると、せっかく含まれておるもう片方の薬効が無駄になってしまうのが、ちともったいなくは感じるのぉ」
「そうですわね。それに、森の奥地から持ち帰った方のベニオウの実ならば一つだけでもポーションに必要なだけの薬効を取り出すことができますけれど、街で売られている実では成分が弱すぎて複数個使う必要があるようですもの。そう考えると、何とか両方の成分を使いたいと思ってしまいますわね」
ベニオウの実の皮に入ってる薬効成分の中にはね、体力のお薬と魔力のお薬、そのどっちにも使うものが含まれてるんだって。
だからそのどっちかを作ろうと思ったら、もう片方のお薬は作れなくなっちゃうそうなんだ。
でも今まではね、その二つのお薬を作ろうと思ったら森の奥の方に生えてるとっても貴重な薬草を使わないとダメだったんだって。
それを考えたら、ちょっともったいないかもしれないけど、ベニオウの実の皮からその薬効成分が取れる事が解っただけでも良かったんだよって、ロルフさんたちは笑うんだ。
「そっか。ベニオウの実だったら、すぐに採りに行けるもんね」
「いやいや、それはルディーン君やそのご家族だからじゃよ。普通の者たちでは、そうはいかぬ」
「ええ。でも、本来必要な薬草に比べたら、はるかに収穫しやすいですけどね」
商業ギルドの人も何とか採りにいけないかなぁ? って言ってたし、ルルモアさんだって採りに行ける冒険者さんを探してみるって言ってたもん。
ロルフさんたちは僕たちだから簡単に採れたんだよって言ってるけど、みんなが頑張ってるんだからきっとすぐに採りに行けるようになるんじゃないかなぁ?
僕はベニオウの実の皮を見ながらああでもない、こうでもないって言ってるロルフさんたちを見ながら、そんな風に思ってたんだ。
読んで頂いてありがとうございます。
今週はいろいろと忙しくてなかなか書く時間が取れず、ちょっと中途半端なところで終わってしまいました。(まぁ、文字数的にはいつも通りなんですが)
本当ならもうちょっと先まで書きたかったのですが、今回はここまでという事で。
と言うか、ここで切ってしまって次回はちゃんと一本の話になるのか? それがちょっと心配だったり(苦笑




