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344 アマンダさんはすごいお菓子職人さんなんだって


 カランカラン。


「いらっしゃ……ああ、おかえりなさい」


 森から帰ってそのまま錬金術ギルドに行くと、店番をしてたペソラさんがおかえりなさいって迎えてくれた。


「ただいま、ペソラ。あら、ルディーン君のご家族はまだお買い物?」


「いえ。一度帰っては来られたのですが、知り合いの菓子職人さんに渡したいからとベニオウの実をいくつか持って、また出かけられました」


 でね、そこにお母さんやお姉ちゃんたちが居なかったもんだから、バーリマンさんがまだ帰ってきてないの? って聞いたんだよ。


 そしたらベニオウの実を持ってまた出かけたんだってさ。


「知り合いのお菓子職人? この街に、そんな方が居るのですね」


「うん。多分、アマンダさんとこに行ったんだと思うよ」


 僕はね、こないだお母さんたちと一緒に行ったお菓子屋さんの事をバーリマンさんに教えてあげたんだ。


 そしたらさ、それを横で聞いてたペソラさんの方がびっくりした顔になっちゃったんだよね。


「アマンダさんって言ったら、イーノックカウでも1・2を争うほどの有名なお菓子職人じゃないですか!」


「そうなの? ペソラ」


「はい。魔道オーブンを使ったお菓子が有名で、特に上から砂糖やジャム、それに薄いナッツなどを載せて焼いた甘くて柔らかいパンのようなお菓子は、何種類かが数多く店頭に並べられるにもかかわらず夕方には売り切れてしまうほどの人気なんですよ」


 そう言えばあのフィナンシェみたいなの、アマンダさんが考えたあのお店にしかないお菓子なんだよってオーナーさんが言ってたっけ。


 そっか。あれってそんなに人気があったんだね。


「なるほど。ペソラがそれほどほめるって事は、かなり美味しいって事ね?」


「はい。美食家で知られる領主様のメイドが店までお菓子を買いに来ている姿をよく見かけるほど、アマンダさんのお菓子は絶品なんです」


「まぁ、フランセン伯爵家の者が? それを聞いただけで、その店が超一流なのが解るわね」


 そう言えばオーナーさんも領主様の家の人がよく買いに来るんだよって言ってたっけ。


 それを聞いたバーリマンさんがびっくりしてるくらいだから、あのお菓子屋さんは本当にすごいお店だったんだね。


「そのアマンダさんと知り合いになれるなんて、ルディーン君のお母さんはすごいですね」


 そんなお店のお菓子職人さんと知り合いになれるなんてすごいねって、興奮しながらお母さんをほめるペソラさん。


 でもね、それを聞いたお父さんが僕に聞いてきたんだ。


「なぁ、ルディーン。俺はシーラがそんな人と知り合いだなんて知らなかったんだが、何処で知り合ったのか、お前は知ってるか?」


「知ってるよ。前に僕、村で作ってる焼き菓子とパンケーキの作り方をロルフさんたちに教えてあげた事があるんだよ。そしたら何でか、それを商業ギルドが試作してってアマンダさんのお店に言ってきたんだって」


「ちょっと待って、ルディーン君。知り合った理由って、まさかあのパンケーキなの?」


「うん。僕たちがお店に行ったそこにルルモアさんが居てね、その時試食ってのをするからって、僕たちも一緒に食べたんだ。そしたらあんまりおいしくなかったから、作り方を教えてあげたんだよ」


 アマンダさん、パンケーキの事をパンと同じように考えて作ってたもんだから、生地をよく練ったりしてたんだよね。


 それにベーキングパウダーもどきの使い方も間違ってたもんだから、硬くてちょっと苦いパンケーキになっちゃってたんだ。


「へぇ、有名な菓子職人であるアマンダさんでも、そんな失敗をするんですね」


 アマンダさんがどんな失敗したのかを教えてあげると、それを聞いたペソラさんはびっくり。


 でもね、ロルフさんとバーリマンさんの考えはちょっと違うみたいなんだよね。


「あら、ペソラ。いくらすごく腕のいい職人だとしても、ルディーン君が考えるお菓子は今までにない作り方をするものが多いから、そのような失敗をしたとしても仕方ないわよ」


「うむ。この子は魔道具作り一つとっても、既存の技術に慣れておる者ほど気が付かぬ盲点を突くような工夫をしてくるからのぉ。プロの菓子職人ゆえに常識にとらわれての失敗をしたのであろう」


 そう言えばお菓子屋のオーナーさんも、僕が作った焼き菓子やパンケーキの事を画期的なお菓子だって言ってたっけ。


 ならアマンダさんがそんな失敗しても、しょうがないのかもね。



 カランカラン。


「あっ! お母さん。お父さんたち、帰ってきてるよ」


 僕たちはそんな話をしてると、キャリーナ姉ちゃんが錬金術ギルドの赤い扉を開けて入ってきたんだ。


「キャリーナ姉ちゃん、おかえり!」


「ただいま、ルディーン。ベニオウの実、いっぱい採れた?」


「うん! いっぱい採れたよ」


 僕が帰ってきたキャリーナ姉ちゃんにお帰りなさいしてると、その後にお母さんとレーア姉ちゃんも入ってきたんだ。


「おかえり。お菓子屋に行っていたんだって?」


「ええ。街を見て周っていたら、レーアたちがお菓子を食べたいと言いだしてね。だから寄ったのよ」


「そしたら、私たちを見た店員さんが、アマンダさんを呼んでくれたんだよ」


 こないだみんなしてお菓子屋さんに行った時、パンケーキやスポンジケーキの作り方を教えたでしょ?


 どうやらその時の事を店員さんが覚えてて、お母さんたちが来たからってアマンダさんに言いに行ってくれたそうなんだ。


 でね、アマンダさんはあの時にお礼だからって、お母さんたちに果物の乗った新作のお菓子を出してくれたんだってさ。


「この間ルディーンが教えた、すぽんじけーき? ってのがあったでしょ? それに溶かした砂糖をかけてから果物をのせたものだったんだけど」


「それを食べたキャリーナが、これって採ってきたベニオウの実で作ったら、もっとおいしくなるかなぁ? なんて言い出したのよね」


「えぇ~、レーア姉ちゃんだってわたしがそう言ったら、そうだねって言ってたじゃない!」


 こんな感じでお姉ちゃんたちが話してたらしいんだけど、それを横で聞いてたアマンダさんが何の話? って聞いてきたもんだから、それなら実際に見せてあげた方が早いよねってベニオウの実を何個か持って行ってあげる事になったんだって。


「出してもらったのは、まだ発売前のものだったらしいのよ。そんなものを貰ったら、こちらとしてもできる事があるならしてあげたいと思うじゃない」


「そうだよね。でもそのおかげでまた明日、新しいお菓子を作ってもらえる事になったんだよね」


 レーア姉ちゃんが言うにはね、持って行ったベニオウの実を食べたアマンダさんが、新しいお菓子を思いついたから、明日来るときに出してあげるって言ってくれたんだって。


 でもね、それを聞いたお父さんはびっくり。


「おいおい。明日は確か、ルディーンがお酒を造るスキルを教えてもらいに行く予定のはずだろ? まさか、ルディーン一人を残してそのお菓子屋に行くわけじゃないよな」


「何を言ってるの、ハンス。そのスキルを教えてくれるのは、そのアマンダさんよ」


 お父さんはね、お酒を造るスキルだって覚えてたもんだから、教えてくれる人がお菓子屋さんだなんて思ってなかったんだって。


 それにルルモアさんから話を聞いた時にアマンダさんの名前も出てたんだけど、自分が教えてもらう訳じゃないから覚えてなかったそうなんだ。


「でも、何でお菓子職人がそんなスキルを知ってるんだ?」


「あのねぇ、ルディーンが教えてもらうのは帝都で食べられているような柔らかいパンを作ったりできるようになるスキルよ。ただそのスキルでお酒も作れるって言うだけで、本来はそちらがメインなんだから、料理人であるお菓子職人さんが知っていてもおかしくないじゃないの」


「そうだったか?」


 お母さんにお酒を造るスキルじゃないよって怒られて、ちょっとしょんぼりしちゃうお父さん。


 そんなお母さんたちを見て、僕やお姉ちゃんたちは笑ってたんだけど、


「柔らかいパンを作るスキルじゃと?」


 今度は僕たちの話を離れたところで聞いてたロルフさんが、白くて長いあごのお髭をなでながら興味深そうに目を細めて声を掛けてきたんだ。


 読んで頂いてありがとうございます。


 ルディーン君たちが森に行っている間、お母さんたちはおいしいお菓子を食べていたようです。


 おまけにそれはルディーン君がアマンダさんに教えたスポンジケーキに果物を乗せたお菓子だったので、キャリーナ姉ちゃんは思わずベニオウの実で(ルディーン君が)作ったらもっとおいしくなるかなぁ? と口走ってしまったんですよね。


 まぁ実際問題、ルディーン君ならスポンジケーキにたっぷりと生クリームを塗って、その上にベニオウの実をデコレートするでしょうから確実に美味しいものができる事でしょう。


 と言うかルディーン君は村に帰ったら魔道オーブンを作る気満々なので、ベニオウの実だけじゃなく、いろいろなものを使ったケーキを生み出すでしょね。主にスティナちゃんのためにw


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― 新着の感想 ―
[良い点] かえって来て早々に柔らかいパンを作るスキルに反応するロルフさん! 気になってしまってスキル伝授に着いてくるかもしれないですねw [一言] 新作のお菓子もその改良型もルディーンバージョンも …
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