343 調べるのにはね、いろんな道具がいるんだって
「ルディーン。これから採れたやつを降ろすから、受け取ってよ」
「はぁ~い!」
テオドル兄ちゃんが上からひもの付いたかごをするすると降ろしてくれたから、僕はそれを下で受け取って中のベニオウの実を横にある干し草の上に並べていく。
そしてそれが全部終わると、
「テオドル兄ちゃん、全部取ったよ~」
「解った、じゃあ引き上げるよ」
そう声を掛けたら、かごがまたスルスルと木の上の方に登っていったんだ。
森に来る前、僕たちはベニオウの実を上から降ろすために使う袋とひもを探しに屋台街に寄ったんだよね。
そしたら雑貨が売ってる屋台を見てたディック兄ちゃんが、
「袋を使うより、こっちの方がいいんじゃないか? これなら一度にたくさん入れられるし」
そう言って、ひもの付いたかごを僕たちに見せてくれたんだ。
これはね、屋台とか露店が狭い場所にでもいっぱい物を並べられるようにって、屋台の屋根とかからぶら下げて使うものなんだって。
だから結構大きいし、それに底も深いから下に干し草を敷けば柔らかいベニオウの実を入れても大丈夫みたいだったから、僕たちは袋の代わりにこれを買って持ってく事にしたんだ。
「お~い。こっちもそろそろ降ろすぞ」
「は~い」
テオドル兄ちゃんが終わると、今度はすぐにディック兄ちゃんの番。
さっきと違って足場は無いけど、ディック兄ちゃんもテオドル兄ちゃんもあんな高い木の上なのに太い枝をひょいひょって渡っていろんなとこになってるベニオウの実を採ってくるから、下で受け取る僕も大忙しだ。
そんな大忙しの僕と一緒に下に残ったお父さんはと言うと、
「地形的に見て、あちらの方に薬草の群生地があると思いますわ」
「うむ。それではカールフェルトさん。すまないがお付き合い頂けるかな?」
「おう、解った」
お話し合いが終わったロルフさんたちの護衛とお手伝いのために、あっちやこっちへと一緒に行動してるんだよね。
何でこんな事になったのかと言うと、ロルフさんたちがお話しをやめてこっちを見た時に僕たちが一生懸命ベニオウの実を採ってたから、それならベニオウの木を調べるのはまた後にして、先に近くに生えてる薬草を調べようって事になったから。
でも、ここって魔物が出るでしょ?
だから二人だけでうろうろすると危ないからって、お父さんが一緒について行ってあげるよって言いだしたんだ。
でもね、僕知ってるんだよ。
あれはかごからベニオウの実を取り出す仕事が嫌になって、ロルフさんたちについてったんだって事。
だってお父さん、お兄ちゃんたちがかごを降ろすのを下でただ待ってるのがつまんなかったみたいなんだもん。
だからお兄ちゃんたちは、お話が終わったらきっと僕がロルフさんたちについてくんだろうなぁって思ってたのに、お父さんが代わりに行っちゃったんだよね。
と言う訳で、僕は一人でお兄ちゃんたちが降ろしてくるかごを受け取っては、ベニオウの実を干し草の上に並べて行ったんだ。
「お~い、ルディーン。かなり採れたし、もうこれくらいでいいだろ?」
「うん。あんまりいっぱいあっても持って帰れないから、これくらいでいいよ」
お兄ちゃんたちが枝から枝へ移動しながら採ってくれたおかげで、まだ硬いのも真っ赤になってるのも思った以上にいっぱい採れたんだよね。
だからベニオウの実を採るのはこれでお仕舞いにしよっかって事になったんだけど、そしたらそんな僕たちの声が聞こえたのか、ロルフさんたちがこっちに帰ってきたんだ。
「ルディーン君。ベニオウの実を採るのが終わったのなら、すまないがお兄さんたちに葉と枝を少々取ってもらえるよう、頼んでもらえないかな?」
「そうですわね。できたら枝は今年生えた新しいものと、少し古い物の両方を採ってもらえると嬉しいですわ」
ロルフさんたちはベニオウの木をいろいろと調べるつもりらしいんだけど、枝とか葉っぱはとっても高いとこにあるからこっからじゃ見えないでしょ?
だからお兄ちゃんたちが下りてくる前に、葉っぱと枝を採っていて欲しいんだって。
「うん、いいよ。お兄ちゃ~ん!」
「大丈夫だよ、こっちにも聞こえたから」
「新しい枝と言うとこの薄い緑の枝か。あとはそうだな、こっちの茶色いのがいいかな」
僕とロルフさんたちのお話は、木の上にいるお兄ちゃんたちにもちゃんと聞こえてたみたい。
だからテオドル兄ちゃんもディック兄ちゃんも、すぐ近くにある葉っぱが付いたまんまの枝を解体用のナイフで切って、ベニオウの実の時とおんなじようにかごに入れて僕がいるとこに降ろしてくれたんだよ。
「ロルフさん、はい」
「おお。ありがとう、ルディーン君。お兄さんたちも、ありがとうな」
それを渡してあげると、ロルフさんはニコニコしながら僕とお兄ちゃんたちにお礼を言ってくれて、その後早速バーリマンさんと二人してその葉っぱと枝を調べ始めたんだ。
「持ち帰って詳しく調べてみなければどのような効果があるのかまでは解らぬが、このベニオウの木はどうやら葉の方にも何やら薬効が含まれているようじゃな」
「ええ。それに若い枝の切り口から出ているこの樹液、葉と同じ物かどうかまでは解りませんが、調べた感じ、こちらにも薬効が含まれているようですわね」
ロルフさんたちが錬金術の解析を使って調べてみたら、ベニオウの木の葉っぱや枝にも薬草とおんなじように薬効が含まれてる事が解ったみたい。
でもね、それが何なのかまでは、ここじゃはっきりとは解んないんだってさ。
「ねぇ、ロルフさん。解んないなら、僕が鑑定解析で調べてあげよっか?」
「うむ、そうしてもらえるとありがたいのじゃが」
「それはどちらかと言うと、錬金術ギルドに帰ってからの方がうれしいわね」
だからね、僕が調べてあげようか? って聞いてみたんだけど、そしたらここでじゃなくって帰ってからの方がいいって言われちゃった。
何でかって言うと、ここだと折角詳しい事が解っても、それをメモしておくものが何にもないからなんだってさ。
「実はな、特殊なベニオウの木を調べに行けると解った時点で、それとの違いを比べるためにわしらが出発する前に森の入口付近に生えておるベニオウの木から葉と枝を取り寄せておくようにと、家のものに頼んでおいたのじゃよ」
「これほど時間をかけているのですからきっと私たちが帰るころにはそれが届いているでしょうし、それに先ほどカールフェルトさん。そう、ルディーン君のお父様に手伝ってもらっていろいろな植物も採取したでしょ? ギルドに帰ればペソラもいるからその仕分けを手伝ってもらえるし、実験のための道具や試薬もあるからそれらの効能も含めてギルドに帰ってから手伝ってもらえるととても助かるわ」
そっか。僕の鑑定解析は便利だけど、何が知りたいかが解んないと詳しい事は出てこないもん。
だから錬金術ギルドに帰って、そこで何を調べたいかをロルフさんたちに調べてもらってから鑑定解析をかけた方が、絶対いいに決まってるよね。
「と言う訳じゃから、ルディーン君。退屈かもしれぬが、ギルドに帰ってからも、もう少しだけわしらの実験に付き合ってもらえるとありがたいのじゃが」
「うん、いいよ! 僕もベニオウの木が、どんなお薬になるのか知りたいもん」
「ありがとう。そうと決まれば、より詳しい事が解るように万全を期さねばならぬな」
「ええ、そうですわね。少量でもいいですから、ベニオウの木が生えている周りの土も持ち帰りましょう」
「うむ。それに、幹の皮と根も少し持ち帰った方がよいじゃろうな。カールフェルトさん。すまぬが、少し手伝ってもらえるかな?」
「俺ですか? ええ、いいですけど……」
難しい話は解んないからって僕たちがしてたお話を離れたところで聞いてたお父さんは、急に声を掛けられてびっくり。
でもその後は、ちゃんとロルフさんたちの話を聞きながら二人のお手伝いをしたんだよ。
「ねぇ、お父さん。この柱もやっぱり壊しておいた方がいい?」
「ああ、そうだな。さっきテオドルも言ったけど、もし大人が登って折れたりしたら危ないからな」
「そっか! じゃあ、壊しとくね」
せっかく作った登り棒だけど、誰かがベニオウの実を採ろう登って、その時にもし重さに耐えられずに折れて怪我をしちゃったらこまるもん。
だからクリエイト魔法で、登り棒に使った石を元の小さな塊へ。
「次来た時もまた使うかもしれないら、ここに置いとこっと」
それをさっき登り棒を立てたとこに置いたままにして、僕たちはイーノックカウに帰る事にしたんだ。
読んで頂いてありがとうございます。
ベニオウの木にたどり着くまでにはいろいろあったにもかかわらず、ここではあっさりと用事がすんでしまいました。
まぁ調べると言っても、ベニオウの木が魔木だってのを知ったのはそこにたどり着いてからだし、そもそもロルフさんやバーリマンさんは木そのものよりその周辺を調べるだけのつもりで来ていたので、それをハンスお父さんに手伝ってもらって安全に済ますことができたのですから、この状況は当初の予定通りではあるんですけどね。




