340 森の中にはね、きれいな鳥もいるんだよ
ロルフさんたちがちゃんと座ったのを確認して、森の奥へと出発。
それからちょっとの間は冒険者さんたちがよく移動するとこだからまだ道があったんだけど、それも途中でなくなっちゃって僕たちは木と木の間に生えてる草をよけながら先に進んだんだ。
「変わった形の台座じゃと思っておったが、なるほど、これは草除けじゃったか」
「うん。こうしとけば草が当たんないでしょ」
でもそう言うとこを進んでくとなると、歩いてる僕たちはいいけど椅子に座ってるロルフさんたちは草や背の低い木の枝が当たったりして大変でしょ?
でも船の先っぽみたいなのが台座についてるおかげで草が左右によけて行ってくれるから、そう言うので怪我する心配が無いんだよね。
「ええ。おかげで安心して森の中を観察する事ができるわ」
台座がフロートボードに乗っかってるおかげでほとんど揺れないし、それに草や木の枝も当たる心配がないからってバーリマンさんは森の中をきょろきょろしながらにっこり。
でね、ロルフさんはと言うと、途中に生えてる木や草を見てうんうんと頷いたり、遠くにいる鳥を見つけてはびっくりした顔したりしてたんだ。
「森ん中、そんなに面白い?」
「ああ。わしも森の入口辺りまでは入る事があるが、このような場所までは分け入る事が無いからのう。見るものすべて興味深い」
「この辺りに生えている草木はこの森だけでなく、街の近くに生えているものとほとんど同じ品種のはずですわよね。でも森の奥へと進むにつれ、その形を微妙に変えているのが解るのが面白いですわね」
魔力を吸ってすっごくおっきくなってるベニオウの木ほどじゃないけど、こういうとこに生えてる木や草だって他のとこに生えてるのとはちょっとずつだけど違ってるんだって。
でもね、そんな事言われても僕はどこが違うの全然解んないんだよね。
だからそうなの? って聞いてみたんだけど、そしたらロルフさんは解んなくっても仕方無いよって笑うんだ。
「例えイーノックカウで生活し、日ごろからこれらの草木を目にしておる者たちでも、この程度ではよく観察せねばその違いに気付くまいて。じゃがな、その微妙な違いを見つけるのも、わしらのような者からすると楽しいのじゃよ」
「それに私たちも森で採取されたものを手に入れて観察しているからこそ、その違いをはっきりと認識できていると言う部分もありますものね。ですが、それを実際に森の中で確かめられるこの状況には心が躍りますわ」
例えばこの草は茎の色が濃くなってるんだよとか、この木の葉っぱは普通のよりギザギザしてるでしょってロルフさんたちは教えてくれたんだよ。
でもね、そう言う違いがあるのが解ったからって、それが何かの役に立つのかって言うとそうでもないらしいんだ。
何でかって言うと、こういう変化があってもこの木や草が薬草とかになったりしてるわけじゃないからなんだってさ。
「これらの植物が他と違うのはな、魔力溜まりそのものの影響と言うより、ここに住む動物たちの影響の方が強いのではないかと思うのじゃ」
「ええ。森に住む動物や魔物たちは魔力溜まりに近づくほど、その影響で強くなったり食欲が旺盛になったりしているでしょ? だからそのせいで絶滅しないように草木も変化して行っているのではないかと、私たちは考えているのよね」
例えばさ、薬草とかなら魔力が強い所に生えてるほどその薬効が強くなったりするよね?
でもここに生えてる木や草は動物とかに食べられちゃわないように硬くなったり、苦くなったりしてるだけでそれ以外は他のとこに生えてるのとあんまり変わらないらしいんだよね。
「じゃがな、染色などに使う場合は少しの色の違いで大きく変わってしまうじゃろ?」
「それに大きな葉や花は少し形が変わっただけでも、大きく趣を変えるでしょ? だから、その違いを見つけるだけでも面白いのよ」
でもちょっとしか違わないのに、もしかしたらそれが役に立つかもしれない。
そう考えると、そのほんのちょっとを見つけるのが楽しくなってくるんだってさ。
「この森、奥に行くほど危険と聞いていたのですけれど、まるでそんな感じがいたしませんわね」
「うむ。確かに魔物や亜人どころか、野生動物さえほとんど現れぬのぉ」
そんな感じで僕たちはのんびり森の中を歩いてたんだけど、そしたらロルフさんたちが奥の方まで来てるのに何にも出ないねって。
でもね、それにはちゃんと理由があるんだよ。
「ああそれはこの間ポイズンフロッグ退治でこの森を歩いた時に、この辺りの魔物の動きをある程度掴んでおいたからだよ」
「ほう。そんな事が可能なのか?」
「ええ。狩りのために魔物や動物を見つけるのは大変だけど、遭遇する確率を減らすと言うのならそれほど難しくは無いんでね」
魔物や動物ってね、その殆どが自分の縄張りから出ないんだ。
何でかって言うと、どっかよそに行ってるうちに別の魔物に自分たちの狩場を荒らされちゃったら困るからなんだよね。
「今みたいに森の中を歩く場合、肉食の魔物の縄張り内では襲われる可能性が高いよな? だから今回のように安全に先に進もうと思ったら、その縄張りはなるべく通らないルートを選んで進んでいくといいんだ」
「それにね、どうしてもそう言うとこを通んなきゃダメな時は、僕が探知魔法でどこに魔物がいるのかを調べてるんだよ」
「なるほど。魔物の位置が解っておれば、そこを避ければよいと言うわけじゃな」
草食の魔物とかだったらこっちが手を出さない限り襲ってくる事は無いし、何より群れで行動してるから気付かずに出会っちゃうなんて事、無いでしょ?
だからお父さんは、肉食の魔物だけを避けられるようにって道を選んで進んでるんだよね。
そのおかげで僕たちは無事、危険な魔物や動物に会うことなくこんな奥の方まで来れたって言うわけなんだ。
「まぁ肉食の魔物も、人を襲うより草食の魔物を襲った方が食いでがあるからなぁ。たとえこちらに気が付いたとしても、遠くまでわざわざ襲いに来る事が無いと言うのも安全に進める理由の一つかな」
「フフフッ。そのおかげで私たちはあのような綺麗な鳥を眺めながら、ゆっくりと森の中を進めると言うわけですね」
お父さんのお話を聞いて納得したのか、綺麗な鳥ってのを指さしながらにっこり笑うバーリマンさん。
それを見た僕たちも、つられてその綺麗な鳥って言うのの方を見たんだけど、
「あっ、あれは!」
そしたらお父さんがその鳥を見て、びっくりした声を上げたんだよね。
「どうされたのです? はっ! まさかあれは、危険な魔物なのでしょうか?」
そのせいでバーリマンさんはびっくりして、お父さんにもしかして危ない魔物なの? って聞いたんだよ?
でもね、お父さんがびっくりしたのは、全然違う理由だったんだ。
「いや、すまない。あれは確かに魔物ではあるけど、別に危険と言うわけではないかな」
「危険ではないじゃと? ならばどうして先ほど、あのような声を上げたのかな?」
「ああ、それはですね。気付いていなかったとは言えあの鳥の魔物に、これほど近づけた事に驚いたからなんですよ」
実はバーリマンさんが指さしていた綺麗な鳥ってのは、ブレードスワローの事だったんだよね。
「ブレードスワローと言うと、狩る事がとても難しいと言うあの?」
「ええ。あれはそれほど強い魔物ではないけど、臆病なうえにとても素早いから小さな弓の風切り音にさえ反応して逃げてしまうから狩るのがとても難しいんだ」
普通ならこんな風にその姿がはっきりと見えるくらいまで近づける事はあんまりないんだよって、笑うお父さん。
「多分、我々が狩りを目的として森に入って無いから、ブレードスワローもこちらを警戒してなかったんじゃないかな? 野生の動物や魔物は、そう言う気配に敏感だから」
「なるほど。そのおかげで私たちは、あの銀色に輝く美しい姿をこの目で見る事ができたと言うわけですね」
変わった植物だけでなく、冒険者や狩人でさえめったに見る事ができないブレードスワローとまで出会う事が出来るなんてとっても幸せですねって、バーリマンさんはにっこり。
そのまま僕たちはブレードスワローがどっかに飛んでっちゃうまでのちょっとの間、その綺麗な姿をみんなで眺めてたんだ。
読んで頂いてありがとうございます。
なんか、本当にピクニックみたいですねw
因みに危険だと言われた肉食の魔物ですが、実を言うとルディーン君たち一行を見かけたりしたら逆にあちらが逃げます。死にたくないですから。
狩りを行う動物は常に相手をよく観察するので、この一行を見れば自分が狩られる側だとすぐに理解するんですよ。なので実を言うとこんなに注意深く行動しなくても、初めからこの森の中で何かに襲われる心配なんてまったくなかったりw




