339 こんな凄いの、村にはないからびっくりしちゃうよね
「シーラ、お前はどうするんだ?」
「レーアたちがお店を周りたいって言ってるから、私はそっちと一緒に行動する事にするわ」
午後からはみんなでベニオウの実を採りに森へ行く事になったでしょ?
でもね、錬金術ギルドをお休みするわけにはいかないから、ペソラさんは残ってお留守番するんだって。
そしたらそれを聞いたお姉ちゃんたちが、だったら私たちも街に残ってペソラさんにお店を教えてもらうんだって言いだしたんだよね。
「まぁ確かに、娘たちだけで街を周らせるわけにもいかないからなぁ」
「ええ。だからハンス、ルディーンたちをお願いね」
前に森へポイズンフロッグや幻獣をやっつけに行った時は、ペソラさんがお姉ちゃんたちと一緒にお店を周ってくれたでしょ?
でも今回は店番をしないといけないから、その代わりにお母さんが残って一緒に行ってくるんだってさ。
と言うわけで森へは僕とお父さん、それにお兄ちゃんたちとロルフさんたちの6人だけで行く事になったんだ。
「俺たち、ほんとにこんな馬車に乗っていいのか?」
「はい。当家といたしましても、別の馬車を用意するよりはその方が助かりますから」
森の中までは入っていけないけど、その入り口までは馬車で行けるよね?
って事でロルフさんが馬車を用意してくれる事になったんだけど、そしたらその馬車を見たお兄ちゃんたちが大慌て。
こんな凄いのに乗っていいの? って、馬車に乗ってきたストールさんに聞いてるんだよね。
「大丈夫だよ。だって僕、ロルフさんのお家から錬金術ギルドに来るまで、いっつもストールさんにこの馬車で連れてきてもらってるもん」
「はい。ですからルディーン君の兄であるあなた方が乗ったとしても、何の問題もありませんよ」
ここはイーノックカウの中だから、きっと街の中にある方のお家から馬車を呼んだ方が早かったんだと思うんだよ。
それなのにストールさんに連絡してわざわざ街の外から馬車を呼んだのは、僕がいっつも乗せてもらってる馬車だからなんじゃないかなぁ?
だってさ、それだったらお父さんやお兄ちゃんたちが乗ってもおかしくないもんね。
「おい、ルディーン。お前、いつもこんなのに乗せてもらってるのか?」
「うん。だって僕が魔法で行けるロルフさんのお家は街の外にあるでしょ? だから馬車に乗っけてもらわないと、ここまで来るのにすっごく時間がかかっちゃうもん」
「お前、凄いな」
ロルフさんとこの馬車って、お金持ちが乗る馬車だから扉とかついてるんだよね。
そんな馬車に僕がいっつも乗っけてもらってるって聞いて、お兄ちゃんたちはびっくりしたみたい。
でもね、そんなお兄ちゃんたちに、お父さんはこう言ったんだよ。
「いやいや。俺も前にルディーンの言う街の外にある屋敷まで馬車に乗せていってもらった事があるが、その時の馬車はもっと凄かったんだぞ」
「もっとって、これより?」
「ああ、あの時は急に行く事が決まったからな。多分イーノックカウの内壁の中にあるって言う本宅から呼んだんじゃないか?」
「そう言えばあの時の馬車、もっとおっきかったね」
「はい。それは旦那様が街でご使用になられている馬車だと思います。ですが今回は森へ行くとの事でしたので、こちらをご用意させていただきました」
やっぱりあれはロルフさんが街の中を移動する時に乗ってる馬車なんだって。
だからあんなにおっきな馬車に乗ってたんだけど、今回は森に行くからちっちゃい馬車の方がいいんだよってストールさんが教えてくれたんだ。
「そっか。だから外のお家の馬車なんだね」
「いえ、この大きさの馬車は本宅にもございますし、別館にも旦那様がいつもお使いになられているクラスの馬車はございます。ですが今回はルディーン様がご一緒という事でしたので、旦那様がわたくしも一緒に乗っていくようにと別館の馬車を寄こしたのですわ」
そっか。じゃあやっぱり僕がこの馬車にいっつも乗っけてもらってるから、ロルフさんはストールさんを呼んでくれたんだね。
でね、僕がいっつも乗ってる馬車だって聞いて、お兄ちゃんたちも安心したみたい。
それなら乗っても大丈夫かって、二人して笑ったんだよ。
「それでは旦那さま。我々はこちらでお待ちしております。行ってらっしゃいませ」
「うむ」
イーノックカウを出て森の入口まで行くと、ロルフさんたちの馬車は商業ギルドの天幕の近くにある馬車置き場で停車。
ストールさんと御者さんとはここでお別れして、僕たちはそのまま森の方へ向かう事にしたんだ。
「それではちと悪い気もするが、わしらは箱に座らせてもらうとするかの」
「そうですわね。私たちが一緒に歩いていると、皆さんに迷惑をかけてしまいそうですし」
「あっ、ちょっと待って」
と言うわけで、ロルフさんたちは早速石の箱に腰掛けようとしたんだよ?
でもさ、ロルフさんたちが箱の上に座って、もし箱が崩れちゃったら危ないよね。
だから僕、石の箱を使って船の先っぽみたいな草除けの壁がついたおっきくて安定のいい台座と、ロルフさんたちが座るための二つの椅子をクリエイト魔法で作ろうと思ったんだ。
「なるほど。確かにこのままでは不安定で、ちと危ないかもしれぬのぉ」
「でしょ。すぐに作るから、ちょっと待っててね」
僕はロルフさんたちにそう言うと、早速石の箱にクリエイト魔法をかけよって思ったんだけど、
「いや、流石にここでそれはまずいじゃろう」
「そうですわね。魔道具で使う事ができるフロートボードならともかく、クリエイト魔法を使っているところを多くの人に見せるのはあまり良くないですもの」
ロルフさんたちにここじゃダメだよって止められちゃった。
そう言えば魔法が使える人って、あんまりいないって言ってたもん。
それなのに僕みたいなちっちゃい子がクリエイト魔法を使っちゃったりしたら、ここにいる人たちがみんなびっくりしちゃうかも。
と言うわけでちょっとの間だけロルフさんたちには蓋の付いた石の箱に座ってもらって、それを運びながら僕たちは森の中に入る事にしたんだ。
「もういい?」
「そうじゃな。ここであれば周りには誰もおらぬし、問題は無かろう」
森の奥へと続いてる道を少し進んでくと、道幅が広がってちっちゃな広場みたいになってるとこがあったんだよね。
だから僕、ここでならもう椅子を作ってもいい? って聞いてみたんだけど、そしたらロルフさんがいいよって。
「それじゃあ作るね」
と言うわけでロルフさんたちには一度そこで箱から降りてもらって、今度こそ僕は椅子や台座を作る事にしたんだ。
「ロルフさん、バーリマンさん。これで大丈夫?」
「うむ。これは思った以上に座りやすいものができたのぉ」
「石の椅子と聞いていたから少し心配していたのですけど、これなら確かに快適ですわね」
ペソラさんが石の箱に座ればいいじゃないかって言った時、それを聞いた僕はそれならその箱で椅子を作ればいいよね? って思ったんだよ。
でもね、ちょっとしたらそれだとお尻が痛くなるんじゃないかなぁ? って思ったんだ。
だって石は木より硬いでしょ? そんなのにずっと座ってたら、馬車みたいに揺れなくたってお尻が痛くなっちゃうんじゃないかなぁ?
それに石はつべたいから、やっぱりそのまんまだと大変だよね。
そう思った僕は、椅子を作った時に石の箱だけじゃなくって座るところと背もたれの真ん中だけ違う材料を使ったんだ。
「うむ。わしもギルマスの言う通り、石の椅子に座っての移動と聞いてもう少しつらいのかと思ったのじゃが……もしかするとうちの馬車での移動よりもこちらの方が楽やもしれぬ」
「ロルフさんもそう思われますか? それならば私が今、感じている快適感は思い込みではないという事なのでしょうね」
その使ったものって言うのは、前に冒険者ギルドでもらってきたブルーフロッグの背中のなめし皮。
今までは捨てちゃってた傷だらけのブルーフロッグの背中の皮を何とか使えないなぁって、こないだみんなで実験したよね?
僕、その時に円柱型に切り抜いた後の奴も何かに使えないかなぁ? って思って、貰っといたんだ。
今ロルフさんやバーリマンさんが座ってる椅子のお尻の所と背中が当たるとこは、実を言うとそのブルーフロッグの皮を細かく切ったものを使ってるんだよね。
イメージとしては石の上に布をくっつけて、その間にブルーフロッグの背中のなめし皮の切れ端を詰めるって感じかな?
そんな風にクリエイト魔法を使ってみたら、すっごくふわふわのクッションになっちゃった。
「先ほどまで石の箱に乗っておった時でも、フロートボードの上じゃとほとんど揺れはせなんだ。その上座面にこのような敷物まであると言うのなら、この先の移動はかなり快適なものになるじゃろうな」
「ええ。それにグランリルの方たちの護衛までついているのですもの。本来は危険なはずの森なのに、まるで避暑地の高原にでも出かけるような気分ですわね」
そのおかげでロルフさんもバーリマンさんも大満足。
ニコニコしながら僕にありがとうねって、お礼を言ってくれたんだ。
読んで頂いてありがとうございます。
今までは傷があったら使えなかったブルーフロッグの皮ですが、円筒形に切る事で椅子やベッドにする事ができるようになりました。
でも、当然そんな円筒形に切り出すこともできないほど傷だらけの所だってありますよね? 今回はそれをルディーン君が再利用したと言うわけです。
でもこれ、ある意味円筒形に切ったものより使い道が多いんじゃないだろうか? なにせ元がブルーフロッグの皮だから耐水性はとても高いので、これを使えば前に雨に濡れる場所には付けられないと言われたクッションだって作れるかもしれないですからね。




