338 そっか、バーリマンさんも行きたかったんだ
バーリマンさんに行っちゃダメって言われてしょんぼりしちゃったロルフさん。
でもね、ロルフさんはお爺さんだからバーリマンさんの言う通り、僕もベニオウの木までは歩いてけないだろうなぁって思うんだ。
「たっ、確かにわしでは歩いていく事はできないかもしれぬ。じゃがな、じゃが何か他に方法があるのではないか?」
「そうは言ってもベニオウの木があるのは森の奥地ですから、たとえ馬に乗ったとしても入っていく事はできませんよ」
道が無いから馬車じゃ行けないとこだって、馬に乗ってくんだったら行けるなんて事もあるんだよ?
でも森の中だと木の根っこがあったりして足元が不安定なとこもあるから、普通の馬だと多分途中で足を怪我しちゃうんだよね。
そりゃあ、これが英雄って呼ばれてるような高レベルの冒険者さんたちが乗ってる訓練された馬とかだったら、もしかしたら大丈夫かもしれないよ。
でもそんなの、いくらロルフさんがお金持ちでも持ってるはずないでしょ?
だからやっぱり行くのは無理なんじゃないかなって、バーリマンさんは言うんだ。
「往生際が悪いですよ。ここはすっぱりあきらめてください」
「ぐぬぬっ」
馬車も馬もダメって言われて、ロルフさんも流石に他にいい方法が浮かばなかったみたい。
そんな訳で、今度こそ無理なんじゃないかってなったんだけど、
「それなら、俺が背負っていきましょうか?」
そこでなんと、お父さんがこんな事を言い出したんだ。
「あれ? お父さん、お話聞いてたの?」
「いや同じ部屋にいるんだから、どちらかと言うと聞こえてしまったと言うのが正しいかな」
お父さんはちょっと離れたところでお母さんたちとお話ししてたんだけど、そしたらロルフさんたちが大騒ぎを始めちゃったもんだから、何してるのかなぁ? って思ったんだって。
そしたら、ロルフさんはお爺さんだから森にいけないよって言われてるのが聞こえたんだってさ。
「あそこまで何かの乗り物に乗っていこうと思ったら無理だろうが、俺が背負っていくと言うのなら何の問題もないだろ?」
「そっか、お父さんがおぶってくのなら大丈夫かも」
「誠か!? じゃがいかなカールフェルトさんでも、わしを背負っておる時にもし魔物に襲われでもしたら対処できぬのではないか?」
「いや、ただ背負っていくと言うのなら確かにそうだが、ひもか何かである程度固定してもらえれば問題ない。なにせ俺一人での移動ではなく、息子たちも一緒だからな」
お父さんがイーノックカウに持ってきてる武器は、ちょっと長めの片手剣なんだよね。
だからもし魔物が襲って来ても、ロルフさんがちゃんとつかまってくれてたら、その剣を使って防御くらいはできるって言うんだ。
それにイーノックカウの中にいる魔物はそんなに強くないから、例えどんなのが来たって最初の一撃さえ防いじゃえば僕やお兄ちゃんたちがすぐにやっつけちゃうもん。
だからロルフさんを背負ってても、何の問題も無いんだってさ。
「なるほど。それならば安心じゃな。もしよければ、頼めるかのぉ」
「ああ。ロルフさんにはルディーンがいつもお世話になっているからな。それくらいお安い御用だ」
こうして無事、ロルフさんも一緒に森の中に行けるようになってめでたしめでたし……。
「そんな! 伯爵だけ行くなんて、ずるいですわ!」
ってなりそうだったのに、そこでいきなりバーリマンさんがずるい! って言いだしたもんだから、これにはみんなすっごくびっくりしたんだよね。
だって、まさかバーリマンさんも一緒に行きたかったなんて、誰も思ってなかったんだもん。
「なんと! もしやギルマスも、一緒に行きたいと思っておったのか?」
「当り前じゃないですか。先ほどはく……ロルフさんが仰っていた通り、グランリルの方に護衛をしてもらって森の奥地に行ける機会など、まずありえないのですから」
バーリマンさんは錬金術ギルドのギルドマスターをしてるくらいだから、当然ロルフさんとおんなじくらい僕たちが見つけたベニオウの木の事が気になってたんだって。
でもロルフさんとおんなじで、バーリマンさんも自分でそんなとこまで歩いて行くなんてできっこないって思ってたから最初からあきらめてたんだってさ。
「それにその様な魔力が強い場所ならば、近くには魔力を多く蓄えた薬草もあるはずですもの。今回は採取したものではなく、その場に生えているものを直接観察できる機会でもあるのですから、錬金術ギルドのマスターである私の興味を引かない訳が無いでしょう」
「言われてみれば、確かにその通りじゃな」
それにね、ベニオウの木がいっぱい魔力を吸ってるんだったら、おんなじように魔力の影響を受ける薬草だって普通のと違ってるはずでしょ?
そんなのが生えてるところを見たくないはずないじゃないかって、バーリマンさんは言うんだよね。
「なるほど。しかし困ったな。流石にバーリマンさんを背負っていくなんて事はできないし」
そう言って、腕を組みながらう~んって唸るお父さん。
バーリマンさんも一緒に行きたがってるんだから、お父さんだって何とか連れて行ってあげたいって思ってるみたいなんだよね。
でもお爺さんのロルフさんと違って、バーリマンさんはお母さんとおんなじくらいの歳の女の人でしょ?
だからお父さんも、そんなバーリマンさんを背負って森の中まで行く事はできないんだってさ。
それにね、ディック兄ちゃんたちも嫌がるんじゃないかなぁって言うんだよね。
「シーラと同じくらいの歳とは言っても、流石に女性を背負っていくのは嫌がるだろうからな」
「そっか。じゃあさ、お母さんは?」
「う~ん、日頃剣を使ってる俺と違って、シーラの武器は弓だからなぁ」
「そっか。弓とか矢を持ってかないとダメだもんね」
剣や手斧とかと違って、弓で狩りをしようと思ったら矢がいるでしょ?
だからお母さんが森に入る時は、いっつも背中に矢筒を背負ってるんだよね。
そしてそれはレーア姉ちゃんやキャリーナ姉ちゃんもおんなじだから、誰もバーリマンさんを背負って森の中に行く事ができないんだ。
「ロルフさん。バーリマンさんを背負ってける女の冒険者さん、知らない?」
「女性の冒険者か? ふむ、女性であるだけでよいと言うのならば冒険者ギルドに行けば見つからぬ事はあるまい。じゃがな、流石に人一人を背負って森の奥地まで行けるほどの者となると、見つけるのはちと難しいじゃろうな」
「そっか。途中で魔物に見つかっちゃったら危ないもんね」
そう言えば僕たちが行こうと思ってるベニオウの木が生えてる場所は、行ける冒険者さんがイーノックカウにはあんまり居ないって言ってたっけ。
それなのに、今回はバーリマンさんを背負って行かないとダメでしょ?
だから安全にたどり着ける人って事になるともっと少なくなっちゃし、その上女の人じゃないとダメって言うのならロルフさんが言う通り見つけられるはずないんだよね。
「あっ、そうだ! ねぇ、お父さん。それじゃあ、僕がバーリマンさんをおぶってくよ」
「ちょっと待て、ルディーン。それは流石に無理があるだろう」
お父さんやお母さん、それにお兄ちゃんやお姉ちゃんもダメって事なら、後は僕が背負っていくしかないよね?
だからそう言ったんだけど、そしたらお父さんがそれは無理だよって。
「え~、何で?」
「体の大きさを考えろ。ルディーンが背負ったら、バーリマンさんの足を引きずってしまうだろうが」
バーリマンさんは女の人だから、そんなにおっきくないんだよね。
だからなんとか背負えないかなぁ? って思ったんだけど、僕がちっさすぎて足を引きずっちゃうんだって。
「それ以前に、私もルディーン君に背負われて行くのは恥ずかしいわ」
「うむ。はたから見れば、無理やり小さな子供に運ばせているようにも見えるからのぉ」
それにね、僕が背負ってたらみんなが変だよって言うから、それはダメってバーリマンさんたちにも言われちゃった。
そっか。賢者が12レベルになった今ならバーリマンさんを背負うのなんてへっちゃらだけど、普通は僕くらいの子に背負われてるのを見られたら恥ずかしいよね。
でもなぁ、僕も背負っちゃダメならどうしたらいいんだろう?
「ルディーン君にそこまで気を使わせてしまうなんて、ちょっとわがままが過ぎたかもしれないわね」
だから僕、腕を組みながら頭をこてんって倒してう~んって考えてたんだけど、そしたらそれを見たバーリマンさんがもういいからみんなで行って来てって言い出したんだ。
でもね、バーリマンさんは笑ってはいるんだけど、やっぱりちょっとしょんぼりしてるんだよね。
「でもでも、バーリマンさんも行きたいんでしょ?」
「こんな機会はめったに無いから、行きたいのは確かね。でもできない事をいつまでも言っていても仕方がないもの」
どうしようもないのなら諦めるしかないわって笑う、バーリマンさん。
そんなバーリマンさんを見て、みんなしょんぼりしちゃったんだけど、
「あのぉ、ちょっといいですか?」
そんな時、ペソラさんがそおっと手を上げたんだよね。
「どうしたの、ペソラ?」
「いえ、ちょっと思ったんですけど……このベニオウの実が入ってる箱、ここまで運んでこれたんですよね? ならこの箱に乗っていけば、同じ方法でベニオウの木まで行けるんじゃないですか?」
「あっ!」
そっか。そう言えばロルフさんとバーリマンさんを箱に乗っければ、フロートボードの魔法で運んでけるもんね。
ペソラさん、頭いい!
読んで頂いてありがとうございます。
はい、皆さんが考えていたであろう通りの結果ですw
流石に車輪のあるフロートボートを使ったお尻の痛くならない馬車は無理ですが、運んできた石の箱ならフロートボードで運べる事がすでに実験済みですから、それに乗っていけば万事解決。
まぁ、元領主のロルフさんと貴族であるバーリマンさんが箱に乗って移動するのですから、はたから見るとかなりおかしな光景にはなってしまうでしょうけどね。




