336 皮を一緒に食べた方がいいんだってさ
「あれって何?」
なんか知らないけど、ロルフさんとバーリマンさん、二人だけでそういう事だよねって言い合ってるんだ。
でも僕、それが何なのか全然解んなかったから聞いてみる事にしたんだよね。
「おお、すまぬ。今の話ではわしとギルマスしか解らぬな」
そしたらロルフさんは僕にごめんなさいして、何のお話をしてたのかを教えてくれたんだよ。
「ルディーン君。先ほど君から魔力量が多い場所にベニオウの木が生えるとその実が肥大化すると言う話を聞いて、わしとギルマスが話し合っておったじゃろ?」
「うん」
「その時にじゃな、もしかするとこの肥大化したベニオウの実には普通のものよりはるかに多くの魔力が含まれておるのではないかという仮説が立ったのじゃよ」
一角ウサギとかクラウンコッコのお肉って美味しいでしょ?
あれは普通の動物のお肉と違って、魔力がいっぱい入ってるからなんだって。
じゃあ何で魔力がいっぱい入ってると美味しいのかって言うと、それは魔力が入ってるものを食べると体にいいからなんだよってロルフさんは言うんだ。
「魔力を食事から摂取しようと考えた場合、一般的には魔物の肉を口にせねばならないと考えられておるのじゃよ」
「でもさっきルディーン君から教えてもらった通り、もし本当にベニオウの木が魔力によってその実を肥大化させるのだとしたら、その実を食べる事で魔物の肉を食べるのと同じ効果があるんじゃないかって私とロルフさんは考えたのよ」
僕が住んでるグランリルの村だと、みんな魔物を狩れるからお肉なんか簡単に手に入るでしょ?
でも他だと狩ろうと思っても逆にやられちゃうから、魔物のお肉はなかなか手に入らないんだって。
だからね、今まではお金持ちしか魔力がいっぱい入ってるご飯を食べる事ができなかったそうなんだ。
「じゃがこの仮説が正しかった場合、魔物を狩らずとも魔力を多く含んだ食材を手に入れる事ができるという事になるのじゃ」
「だから私とロルフさんは、先ほどまでこの話をずっとしていたと言うわけなのよ」
このベニオウの実は森の奥の方に生えてる木から採ってきたでしょ?
だからそれを採りに行くのも危ないのには違いないけど、それでも魔物をやっつけるよりは安全なんだって。
それにね、ベニオウの実が高いのは一本の木にちょびっとしかならないって思われてたかららしいんだ。
でも僕たちが採ってきたベニオウの木には実がいっぱいなってたし、探知魔法で調べた時はあそこの近くに生えてた別に木にも実がいっぱいなってるって反応が帰ってきてたんだよね。
それにもっと奥まで行ったら、周りにある魔力だってもっと濃くなるでしょ?
だからもしそんなとこに生えてるベニオウの木までみんなが実を採りに行けるようになったら、普通のよりも安くなるかもしれないんだよってロルフさんは僕に教えてくれたんだ。
「そっか。じゃあお金持ちじゃなくっても、魔力がいっぱい入ってるご飯を食べられるようになるかもしれないんだね」
「果物じゃからご飯とは言えぬかもしれぬが、体に取り入れる事は今よりずっとたやすくなるじゃろうな」
体にいいって言うなら、みんな食べたいはずだもん。
もしもっと簡単に食べられるようになったら、絶対みんな嬉しいよね。
僕はそう思いながらホントにそうなったらいいねって笑ってたんだけど、そしたら横でお話を聞いてたペソラさんが申し訳なさそうに、ロルフさんたちに声をかけたんだ。
「すみません。ロルフさん、ギルドマスター。話の途中ですが、ひとつ聞いてもいいですか?」
「はて。今までの話で、何か解らぬ事でもあったのかな?」
「いいえ、今までのお話の内容には何もありません。ですが一つだけ、すごく気になる事があるんですよ」
「気になる事?」
さっきまでずっと魔力の入ったご飯のお話をしてたでしょ?
なのにペソラさんがそれじゃない、別の事が気になってるから聞いていい? なんて言い出したもんだから、ロルフさんもバーリマンさんも何を聞かれるんだろうって不思議そうな顔したんだ。
でもね、その後のお話を聞いて、二人ともそっか! って納得したんだよね。
「はい。そもそもこの魔力を含んだ食材の話の始まりは、ベニオウの実とそれをルディーン君が考えた氷菓子にした時の味の違いからでしたよね?」
「そう言えばそうじゃったな」
「ですがその話が一向に出てこないので。先ほど、二つの味の違いはその魔力が含まれている量にあると言ってましたよね? でも使ったのは両方とも同じルディーン君たちが持ち込んだベニオウの実ですから、それはおかしいんじゃないかな? って思ったんです」
これがもし、お菓子の方だけ僕たちが持ってきたベニオウの実で作ったって言うのなら解るんだよ?
でも、後からロルフさんたちが食べたのも僕たちが持ってきたやつだもん。
だから魔力が入ってる量が違うのは変じゃないの? ってペソラさんは言うんだ。
「ふむ。確かにほぼ同じ環境で収穫されたベニオウの実を使ったのじゃから、この二つの魔力量が大きく違うと言われても納得できぬペソラ嬢の気持ちも解らぬではない」
「ああ、それは私も疑問に思っておりました。同じ実を使っているのに、何故このように違いが出たのでしょうか?」
「おお、そう言えばこの菓子を作っておった場にはまだギルマスはおらんかったのう。ならば解らぬのも仕方があるまいて。じゃが、ペソラ嬢にはこの二つの違いが解るのではないかな?」
ペソラさんはね、ロルフさんからそう言われて何が違うのかなぁ? ってちょっとだけ考えたんだ。
「あっ! そう言えば、後でお出ししたベニオウの実は皮をむきました」
「うむ、その通りじゃ。後から食べたベニオウの実と違い、この氷菓子の方は皮も一緒に使っておる」
「なるほど。と言う事は、皮の方が実よりも多くの魔力を含んでいるのではないかと考えておられるのですね」
「その通りじゃ、先ほど食べた実も普通のものよりはるかに甘みが強かったことから考えると、そちらにも多くの魔力が含まれている可能性は高い。じゃが皮を含んだ氷菓子とはあれ程の違いがあったのじゃから、実よりも皮の方により多くの魔力が含まれておると考えるのが正しいじゃろうな」
僕たちが採ってきたベニオウの実は普通のよりすっごく甘くて美味しいんだから、多分実の方にも魔力はいっぱい入ってるんだって。
でもね、皮も一緒に食べたらそれよりもずっと美味しく感じたから、実よりも皮の方が魔力がいっぱい入ってるはずなんだよってロルフさんは言うんだ。
「そしてそれが事実と仮定するとじゃな、森の入口近くで採れる普通のベニオウの実の皮にも、もしやそれ相応の魔力が含まれているのではないか? と、わしは考えるのじゃよ」
「そうですわね。もし本当に普通のベニオウの実の皮にも魔力が含まれていたら、より安価に魔力を取り込むことができるようになることでしょう。なにせ今までは捨てられていたのですから」
普通のベニオウの実は皮が厚いから、むいた後は食べないで捨てちゃうでしょ?
だけどロルフさんとバーリマンさんは、もしその皮にも魔力がいっぱい入ってたら、これからはみんな何とかして食べるようになると思うよって笑うんだ。
「あの、申し訳ありません。もう一ついいですか?」
そんなロルフさんたちに、ペソラさんはもう一個聞きたい事があるんだって。
「それは構わぬが。して、何が聞きたいのじゃ?」
「はい。お話を聞いて皮の方が魔力が多いのは解りました。ですが、それではなぜ私とルディーン君にはそれが解らないのでしょう? ロルフさんとギルドマスターには、その違いがはっきりと解るんですよね」
「おお、その事が。それは簡単じゃよ。ルディーン君は言わずもがな、ペソラ嬢もとても若いじゃろう? 魔力というものはな、歳をとるほど口にした時の効果が高いのじゃよ」
僕やペソラさんは魔力が入ってるご飯を食べても、その効果があんまり出ないそうなんだよね。
だからある程度魔力が入ってたら、もっといっぱい入ってたってあんまり感じなくなるんだって。
でも大人は年を取ってる人ほど魔力の効果が大きいから、食べた時にその違いがはっきり解るんじゃないかなぁ? ってロルフさんは言うんだよね。
「これは確かめようがないからはっきりとは言い切れぬが、多分ギルマスはわしほど強くその違いを感じてはおらぬと思う。じゃがその違いがはっきりと解る程度には、若いペソラ嬢よりも魔力を必要としておると言うわけじゃ」
「なるほど。だから私とルディーン君ではその違いが解らなかったのですね」
ロルフさんから教えてもらって、ペソラさんはそれじゃあ解んなくっても仕方ないよねって。
でもね、それを聞いたバーリマンさんがちょっと拗ねながら、こう言ったんだよ。
「あら、ペソラ。それは私が歳を取ってるって言いたいのかしら?」
「えっ!? あっ、いえ、そう言うわけでは……」
バーリマンさんにそう言われて、ペソラさんは大慌て。
そんな二人を見て、
「これこれギルマスよ。若い者をそういじめるでない」
ロルフさんは楽しそうに笑ったんだ。
読んで頂いてありがとうございます。
単純にルディーン君たちが持ってきたベニオウの実が魔力を多く含んでいると言うだけではなく、もしかすると普通のベニオウの実からも魔力が取れるかもしれないと言う話に。
もしそうだとしたら、確かに大発見ですよね。なにせ、普通のベニオウの実は一番下のランクであるGランクの冒険者でも採りに行く事ができるのですから。
でもまぁそれでも数が採れないので魔物の肉よりも効果になるかもしれないし、何より森の奥にあるベニオウの実を定期的に採りに行く方法が確立されてしまったら、あまり意味のない情報になるかもしれませんけどねw




